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印刷図書館倶楽部ひろば

“印刷”に対する深い見識と愛着をお持ちの方々による広場です。語らいの輪に、ぜひご参加くださいませ。

月例会報告 2015年10月度会合

2015-10-21 16:08:07 | 月例会
[印刷]の今とこれからを考える 

        「印刷図書館クラブ」月例会報告(平成27年10月度会合より)



●アメリカの印刷産業は再び上昇に転じている

 アメリカの印刷業界団体PIAから出されている定期レポートの最新号で「印刷会社の収益性は向上している」とする2015年の調査概要が発表された。PIAが“プリンター”としての印刷会社を対象に調査した「2015年の経営指標」によると、印刷業の収益性は2011年以降、穏当な改善をみせ、対象企業全社の平均の売上利益率は2015年に3.0%にまで回復した。リーマンショック後の大幅な景気低迷で2010年にはマイナス1.4%に落ち込んだが、その後は、11年1.4%、12年1.8%、13年2.7%、14年2.6%と、上昇傾向を辿ってきた。2004年以降の売上利益率の平均値は2.1%となっており、これと比べても今年の収益性は1%近く上回る好調さである。この間、3%を超えた収益率は07年3.4%、翌08年3.1%の2回しかない。今年はこれらに次ぐ第3位の好成績ということになる。


●業界を引っ張るのは文字どおりプロフィットリーダー

 収益性で上位25%以内に入るプロフィットリーダーに絞ると、2015年の売上利益率は10.3%に達する。04年からの12年間の平均値は9.5%で、もっとも悪かった10年時点でさえ7.0%を確保していた。今年の数字は06年、14年と並んでもっとも高い水準である。これに対し、下位75%に相当するチャレンジャー企業の2015年次の売上利益率はわずか0.6%に止まる。過去12年間で6回もマイナス (最悪の10年次でマイナス4.2%) を記録していて、平均すればマイナス0.5%で推移してきた。こうした過去と比較すれば、低いとはいえ今年の数字は最高値となる。プロフィットリーダーもチャレンジャーも、2010年には売上高、利益率とも大きな影響を受けたが、その後「劇的に回復し成熟した景況が印刷業に最善をもたらし、景気後退に伴う谷底が最悪だったことを実証した」と、このレポートは記している。 


●景気の悪いときこそリーダー企業の戦略が生きる

問題は、プロフィットリーダーとチャレンジャーの間にみられる収益性の格差にある。12年間における両者の格差は平均10%であり、とてつもなく大きな差となっている。留意すべきは、リーマンショックの影響下でお互いの差が拡がり、2010年に11.2%まで拡大していたことである。興味深いことに、経済が拡大期にあった07年にはこの差は最小であった。「景況がよい時期には、上げ潮がすべての船(企業)を持ち上げるので差が小さくなる。逆に差が拡がる時期は、(厳しい経営環境のもとで)プロフィットリーダーが戦略と戦術の優位性を発揮して、ビジネスに挑戦しているときであるのかも知れない」と分析する。対象企業全社をみた場合、企業規模が大きくなるほど収益性がよくなる傾向があるのに対し、プロフィットリーダーでは、収益性と企業規模の間に強い相関性がみられない。しかし、よくみると規模の比較的小さな企業と大きな企業の収益性がよく、中規模企業で悪いという違いがある。


●プリンターである以上は高い生産性をめざして

こうした傾向は何年も前から存在して、PIAではその現象を「スタック・イン・ザ・ミドル」(虻蜂取らず)だとしている。つまり、コストリーダーシップ戦略か差別化戦略かの方向が定まらず、中途半端な対応で動けなくなっているというのである。それでもプロフィットリーダーは、全企業平均よりコンスタントに高い生産性を保っている。従業員 (もしくは工場従業員) 1人当たりの売上高、同付加価値額とも、10%から18%も高い数値を示している。年商が同じようなレベルの企業同士で比較してみると、プロフィットリーダーはより少ない従業員で売上高、付加価値額をあげている。その分、資本集約的なのだ。労働力を資本に置き替えることで労働装備率を高め、さらに、設備の稼働率に配慮して設備投資効率を高めていることがわかる。
  ※以上、参考資料=「FLASH REPORT」2015.9;PIA


●印刷機は高性能化けれど、同質化は変わっていない

 市場が飽和状態にあるときは、ビジネスを差別化すればよいとされる。差別化には技術的、品質的、サービス的など幾つもの切り口があるが、前二者はコストや時間がかかるうえに当たり外れもある。その点、サービス的な差別化はコストをかけずにすぐ取り組めるというメリットがある。やり方次第で無限に市場開拓できる。印刷業界はかつての1色機の時代から、今や8色機を駆使するまでになった。品質競争はしていたのだが、実は、全社同質化の実態は全く変わっていない。市場シェアを価格で取り合う土俵にデジタル印刷が市場参入してきた結果、同質化の弱点が一気に表面に出てきた感がある。高性能化、高速化により、印刷機としての生産力は高まったものの、市場が拡大していかないなかで、逆に稼働率が落ちるという問題が生じている。印刷機の稼働率を上げないと固定費をカバーできず、利益も稼げない。それにも関わらず、6~7割の時間帯で止まっているという声すら聞かれる。


●サービス面での差別化が抜け出せる道……

 昨今注目を集めている「印刷通販」は、一種の刺激剤となっている。印刷料金を抑えられたとしても受注すれば、その分、印刷機の稼働時間を自然に埋められる。最初は1割程度の範囲だったとしても、営業努力をせずにすぐに4割、5割と拡げることができる。しかし、長い眼でみると「営業力がなくなってしまう」という危惧がある。極度に依存してはいけないという警告だ。企業である以上、絶対に利益を上げる必要があり、高価な印刷機を何としても稼働させなければならない。しかし、どうやって埋め合わせるか。そこには知恵が求められる。設備投資の目的、程度と市場ニーズ、需要規模との間にギャップがあり、印刷業界が苦境に陥る要因となっている。同質化した状態から抜け出せるのはサービス的差別化しかない。社会が流動化し市場が多様化している以上、印刷業界も情報加工やメディアを強みとするコーディネータ的なビジネスに取り組むべきである。自らスキ間産業を生み出す気概がほしい。


●ITやマーケティングを駆使したフロントヤードを

 印刷の機能は2つに分けられるのではないか? 一つは生産設備を柱とするバックヤード、もう一つはITやマーケティングを駆使したフロントヤードである。とくに後者の場合、稼働率に囚われずに時間を有効活用できるし、変動費的な感覚で取り組めるというメリットがある。ITを駆使できれば、受注から印刷までの時間を圧倒的に短縮でき、生産効率も向上できる。設備の稼働率をコントロールしやすい。経営の機動力も高まり、「とにかく印刷機を回そう」という呪縛から脱出できる。バック、フロントの両ヤードの連携も円滑になるだろう。それにはフロントヤードの「5S」が重要になる。取り扱う情報、手掛けるメディアの“整理・整頓”である。これがうまくできれば、マーケティング戦略やコストダウンが可能になる。知恵の出せるフロントヤードを確立し、顧客を巻き込んだビジネスのプラットフォームを握らなければいけない。印刷産業全体で二つのヤードを築き、各社で棲み分けする必要がある。


●「メディア」の世界で、どのような役割を担っていくか?

 印刷会社の機能、印刷産業の構造を変えるべきときである。印刷業界が中小企業の集まりというなら、顧客業界も同じように中小企業が圧倒的に多い。ビッグデータ云々という話ではない。もっと身近なスモールデータの活用とそれに基づく情報の加工を重視した方がよい。印刷機に頼って大量生産をおこなってきた旧来型のビジネスモデルでは通用しない。ITと融合させて業態を変革させる必要がある。モノとしての印刷製品ではコスト負担が大きすぎる。広義の「メディア」の世界で、情報伝達の効能を提供しながら生きる道を探したい。「メディア」は存在し続ける。このとき、自社特有の役割をどう担っていくか、である。

(終)

世界標準のフィルム現像液・コダックD76

2015-10-01 11:37:16 | 印刷人のフイルム・フイルムカメラ史探訪
世界標準のフィルム現像液・コダックD76
 
印刷図書館クラブ
印刷人のフィルム・フィルムカメラ史探訪 VOL-13
印刷コンサルタント 尾崎 章


デジタルカメラがカメラの代名詞的存在となり、フィルム及びフィルムカメラはフジフィルムのインスタント写真:チェキを除きプロビジネスの一部領域とマニアックな写真愛好家向け存在となって久しい。
モノクロフィルムを自宅で現像・プリントする写真愛好家も僅かとなり日本写真映像用品工業会のデータによると2014年度の写真引伸機の年間生産総数が200台レベル迄に減少した事が報じられている。
こうした状況よりモノクロフィルム現像液の商品構成に至っては「知る人ぞ知る」的な状況に至っている。先日、コダックの代表的なモノクロフィルム現像液・D76の話題に触れた時、居合わせた若手編集者に「D51」蒸気機関車の同類と間違えられて大笑いした事がある。



コダック D76モノクロフィルム現像液 


コダックD76は、1927年にイーストマン・コダックが発表したモノクロフィルム用現像液で急性現像主薬・メトールと緩性現像主薬・ハイドロキノンを組み合わせたMQ現像液の代表的存在として世界で最も多く使用された現像液とされている。
「2.100.5.2」はD76現像液の薬品組成で、750ccの水にメトール2g,無水亜硫酸ナトリウム100g,ハイドロキノン5g,臭化カリウム2gを順次溶解して水を加えて1000ccとする処方である。筆者が研究所勤務当時はモノクロフィルムを現像する機会が多くメーカー既製品をあえて使用せずに上皿天秤で前述薬品を秤って調合、微妙にメトール、ハイドロキノンのバランスを変えたオリジナル「マイブレンド現像液」を楽しんだ経験が有る。



現像は還元反応、現像主薬は還元剤 

デジタルカメラが業界標準となった今日、「現像とは?」の質問に「RAW現像の事ですか?」と聞き返されるケースが当たり前となり銀塩感光材料の現像反応について的確に答えられる人は激減している。
写真現像について簡単に記述すると「写真感光材料の感光材・ハロゲン化銀塩(塩化銀、臭化銀、ヨウ化銀)は感光すると光のエネルギーによって結晶核の一部が銀に還元されて潜像を形成する。現像液は潜像が形成されたハロゲン化銀に選択的に作用して金属銀に還元する還元剤で現像液は現像反応後に酸化して酸化物を形成する」となる。中学校の化学授業で習う「酸化還元反応」の好事例である。



メトールは商標、正式薬品名はモノメチル・パラ-アミノフェノール硫酸塩

最古の写真現像主薬としてピロガロール(焦性没食子酸)が湿板時代に使用されていたが、1880年に英国 William Abneyによってハイドロキノンの利用が提案され、1891年にはメトールが登場して写真現像プロセスが大きな進歩を遂げている。


写真用品店で市販されているメトール、ハイドロキノン 

ドイツ南部・シュトットガルド市近郊にある化学会社HAUF化学のエンジニァ・Bogishが現像主薬としてモノメチル・パラ-アミノフェノール硫酸塩を開発、同社はメトール名で商標登録を実施した。
HAUF化学は、ドイツ・アグファ及びイギリス・ジョンソン社の2社のみに対してメトール名称の使用許諾を行った為にフィルム・写真関連各社は其々別の名称を付ける必要に迫られる事になった。
商標抵触を回避した関連各社のモノメチル・パラ-アミノフェノール硫酸塩のネーミングの一例としては下記の通りで有るが、20を超える各社商品名が存在した経緯が有る。


[モノメチル・パラ-アミノフェノール硫酸塩の名称例]

 ●イーストマン・コダック      「エロン」
 ●富士写真フィルム(フジフィルム) 「モノール」
 ●小西六写真工業(コニカミノルタ) 「モノパトール」
 ●メルク社(ドイツ)        「フォトレップ」
 ●中外写真薬品           「メトールミン」
 ●ナニワ薬品            「メトールサン」 


アグファは、HAUF社よりメトール商標の許諾権を得ていた事より「アグファ・メトール」として積極的な展開を行った経緯があるが、結果的にはコダック、富士フィルムの呼称も定着せず「メトール」が業界標準・代名詞として認知・使用され今日に至っている。


 
コダックD76は世界標準、国内標準を目指した日本写真学会・NSG現像液

標準的な汎用微粒子現像液として世界的に認知されたコダックD76は、競合各社からも互換製品が発売されD76の優秀性が改めて実証される事になった。
D76完全互換品としてはイルフォード「ID-11」、富士フィルム「フジドール」(2007年販売終了)等があり、イルフォード製品は現在も販売が継続されている。


イルフォード ID-11現像液 


コダックD76は、現在も1リットル用及び1ガロン用の製品が2013年9月にイーストマン・コダックより分離独立したコダック・アラリス社(Kodak Alaris)より供給・販売継続が行われ、1927年以来「モノクロ現像液・世界標準/業界標準」の座を保っている。
業界標準と云えば、日本写真学会(NSG)が以前に業界標準を目指してNSG-Developer処方を発表していた時期がある。当時の日本写真学会はNSG感度を定める等の展開も行っており、懐かしい写真工業史の一コマである。フジFD-3,さくらSD-1と併せてのNSG現像液の処方を参考までに記載する。


             フジFD3      さくらSD-1   NSGDeveloper
(富士写真フィルム)   (小西六写真)  (日本写真学会)
___________________________________________
  水          750cc     750cc      750cc
メトール           2g        2g         3g
無水亜硫酸ナトリウム    40g       30g        50g
ハイドロキノン        4g        5g         6g
臭化カリウム         1g        1g         1g
炭酸ナトリウム       24g       20g        25g
水を加えて       1000cc    1000cc     1000cc  



印刷業界に懐かしのコダックDK50

コダックの現像液にシートフィルムの皿現像(バット現像)を主用途とするDK50と云う現像液があった。コダックDK50はメトールとハイドロキノンを1:1の等量配合したMQ現像液で階調再現性と保存安定性を特長としていた。
印刷業界で写真製版が全盛期を迎えた1960年代にDK50は色分解ネガフィルム(Separation Negative Film)の現像液として、また1:1の希釈液はマスキングフィルムの現像液として多用された経緯が有る。


コダック セパレーションネガフィルム 

カラースキャナーが普及する前の写真製版の「2工程色分解」では、Kodak Pan Masking Filmを使用してカラー原稿の色補正とコントラストを修正する複数のマスクを作成。


コダック パンマスキングフィルムを使用したコントラスト修正マスク 


これらのマスクとカラー原稿を重ねた状態でR,G,BのKodak Wratten Filterを使用して色分解ネカを作成する製版手法が当時の業界標準で、これらのフィルム用指定現像液がコダックDK50であった。塾年の写真製版経験者には懐かしの製版手法であり、懐かしの現像液である。DK50は、既に販売を終了しているが処方が公開されており、簡単に調合する事が出来る。


[コダックDK-50]
          水          750cc
         メトール         2.5g
         無水亜硫酸ナトリウム   30g 
         ハイドロキノン      2.5g
         メタホウ酸ナトリウム   10g
         臭化カリウム       0,5g
         水を加えて       1000cc


D76を現在も供給するコダック・アラリス社では、デジタル環境の発達により「撮影→現像→プリント」の基本構造は崩れ去ったが「人生の想い出、瞬間のシェア、可視化の簡便化」を企業理念とする主旨のコメントを行っている。
フジフィルムでは更に「デジタル映像の時代になっても、19世紀に誕生した銀塩写真の表現力が放つ魅力に変化は無く、これからもフジフィルムはかけがえの無い文化として銀塩写真の魅力を伝え続ける」とのアピールを日本写真学会誌等々で実施しており銀塩写真愛好家にとっては心強い限りである。
フジフィルムは、1952年4月に代表的国産モノクロフィルムとなった「ネオパンSS」を発売、その発売二カ月後に製品化した微粒子現像液「ミクロファイン」は発売60年を超えるロングセラー製品になっており同社の基本方針が現像処理薬品まで反映されている事を実証している。



フジフィルム ミクロファイン現像液



フジフィルムの企業コンセプト広告(日本写真学会誌 表4 2015 Vol-78) 


以上