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印刷図書館倶楽部ひろば

“印刷”に対する深い見識と愛着をお持ちの方々による広場です。語らいの輪に、ぜひご参加くださいませ。

市場創生に至らず短期間に消えた音声ガイドカメラと音声感知シャッターカメラ

2016-10-05 16:00:14 | 印刷人のフイルム・フイルムカメラ史探訪

印刷図書館クラブ
印刷人のフィルム・フィルムカメラ史探訪 VOL-24
印刷コンサルタント 尾崎 章


オートフォーカス、ストロボ内蔵、ズームレンズ搭載等々、各社の35mmフィルム・コンパクトカメラの新機能搭載が一巡すると「毛色を変えたカメラで少しでも多く販売したい」としてユニークな機能を搭載したカメラがミノルタカメラ㈱(当時)及びコニカ㈱(当時)から発売されている。ミノルタカメラが1984年に発売したユニーク機能搭載コンパクトカメラが音声ガイド付き「ミノルタAF-Sトークマン」、そしてコニカが1989年に発売した音声感知シャッターレリーズカメラ「コニカ・KANPAI」(カンパイ)である。

2機種ともカメラ業界及びカメラファンの間では話題にはなったものの後続機種も無く、他社参入による市場創生も図れずに短命商品で終わっている。
ユニークなカメラを発売したコニカ㈱と㈱ミノルタ㈱は2003年8月に経営統合を行い新会社:コニカミノルタホールディングス㈱を設立しており、ユニークなカメラを発売出来るフレキシビリティに富んだ2社の統合がデジタル印刷機等で業界をリードする等、大きく飛躍する一因になっていると推察する事が出来る。


松田聖子さんの声?と「聖子ファン」がブレークしたミノルタ AF-Sトークマン

ミノルタカメラは、1884年9月に「音声による御知らせ機能」付きの全自動コンパクトカメラ:ミノルタAF-Sトークマン(51.800円)を発売した。カメラ本体仕様は、35mm f2.8の広角レンズを搭載した単焦点カメラで、音声を使用した「お知らせ機能」がセールスポイントで有った。



ミノルタ・AF-S トークマン  


ミノルタカメラが当該カメラのTVコマーシャル及びカタログに松田聖子さんを採用したことからカメラ音声も「聖子ちゃんの声?」として松田聖子さんファンがブレークした経緯がある。
音声は「フィルムを入れて下さい」「フラッシュを御使い下さい」「撮影距離を変えて下さい」の3フレーズだけの寂しい内容であったが松田聖子広告効果は抜群であった。



ミノルタ・トークマン 音声ガイドスイッチ 


他の音声カメラとしては、1999年2月にPolaroid社が発売した「Polaroid 636 AF Polatalk」(16.800円)がある。
シャッターを半押しするとプリセットされた3パターンの音声が再生され、更に撮影者の音声も録音できる楽しいカメラであった。



Polaroid 636AF Polatalk


プリセット音声は、①「笑って、笑って」(女性の声)②「撮りますよ、はいポーズ」(男性の声)③「スリー、ツー、ワン」の男性声とドカーン(効果音)の3種類で更に、④撮影者の音声録音(何回でも録り直し可)の4パターンである。
撮影ガイドでは無く、シャッターチャンスのガイド機能付きのカメラで有った。いずれにしろ、音声カメラの後続機種は無く「最初で最後」のカメラとなった。

スマートフォンのカメラ撮影を音声でサポートする視覚障害者サポートスマートフォンは、2014年にサムスンより「Galaxy Core Advance」が発売されている。テキストを音声読み上げする機能の他にカメラ撮影を音声サポートする機能が付加されていた。


世界初、音声感知シャッターレリーズ機能搭載のコニカ・乾杯「KANPAI」

変わり種のカメラを得意?とするコニカ㈱が1989年11月に発売した世界初の音声に感知してシャッターが切れる音声感知式シャッターシリーズ機能を搭載したカメラが、コニカ「KANPAI」である。



コニカ・KANPAI


カメラ前面スイッチによって音声マイクが作動、音量が設定値を超えるとシャッターが切れる方式で、宴会時の「かんぱ~い!」等の大声に反応して撮影できる楽しいカメラである。
カメラ本体は、34mm f5.6 トリプレット(3群3枚)の広角レンズを搭載、固定焦点、シャッター速度も1~1/200秒の低価格仕様(28.000円)であった。
音声感知は3段階切換え、専用小型三脚がセットされておりカメラのフレーミングフリー機能を使用すると撮影毎に40度の角度でカメラが首をふり、最大100度迄の範囲を撮影できる宴会・パーティ向けカメラであった。



専用三脚にセットしたコニカ・KANPAI マイクスイッチはレンズ脇)   
 


専用小型三脚は石突き部にスニーカーを履かせる遊び心が満載の仕様で、「設計者の顔が見たくなる」様なスペックで有った。
筆者は、コニカ「KANPAI」を2005年に東京駅八重洲地下街の大手写真チェーン店の中古カメラコーナーで未使用に近い新品同様品を3.000円で購入したが、残念ながらスニーカーはロスト状態であった。
「KANPAI」購入後、テストも兼ねて何回か宴会に持参したがカメラセット適した棚等がある宴会場が少なく「乾杯!撮影」は未実現のままである。以前の保有者が「東京駅周辺企業の宴会仕切り屋社員で、女性社員の注目を集める目的で購入?」等 勝手な想像も出来るカメラである。


以上






印刷図書館倶楽部 ≪月例会報告/2016年9月度≫

2016-09-23 11:19:21 | 月例会
[印刷]の今とこれからを考える 

        「印刷図書館クラブ」月例会報告(平成28年9月度会合より)

●店頭でのマーケティング活動に参画していこう

消費財関連のマーケティング分野において、生活用品を商品として消費者に販売する「店頭」は、もっとも効果的かつ強力な顧客接点とされている。セールスプロモーションの手段として、昔からPOP広告が多用されていて、印刷業界にとっても馴染み深い場所でもある。商品の特長や利点をいかに訴求するか、いかに購買につなげるか――店頭での働きかけ(インストアマーケティング)は、小売業の盛衰に関わるほど重要な要件となっている。スーパーストアやショッピングセンターなどにいくと、いま流行りのデジタルサイネージ、プロジェクションマッピングによくお目にかかる。凹凸のある商品に絵柄を投影するような本格的な映像システムでなくても、例えば、白いスクリーン上にプロジェクターで映像を映し出して、宣伝にこれ努める店舗も少なくない。印刷会社として、このようなマーケティング動向に強い関心を寄せて、積極的に参画していくことの意義は決して小さくない。


●コンテンツの取り扱いに支援サービスの余地あり

大手の印刷会社が商品棚に直接、はめ込むことのできる特殊な形状のスクリーンを開発したことが関心を集めている。棚にある個々の商品の宣伝文句、とくに訴求したい内容、時々刻々と変化する価格を、まさに売りたい商品のすぐ傍で次々に表示して、消費者の目を引こうという作戦である。これらの情報は、棚の奥にプロジェクターを組み込んでおいて、そこから投影する仕組みとなっている。商品棚に設置されている電子媒体としては、すでに価格を表示する液晶パネル(電子棚札)が浸透してきたが、何分、画面が小さく価格だけしか表すことができない。この新製品は、こうした欠点を根本から払拭する画期的な試みといえる。宣伝文句や価格をコンテンツ情報としていかに効果的に制作し管理するか。印刷会社が新しい支援サービスとして取り組める余地、可能性が大いにある。その意味からも、インストアマーケティングにみられる最近の動きは注目に値するだろう。


●経営分析をしなければ、有効な改善策は見出せない

優れた企業経営をおこなうには計測値、とくに主要な経営指標(KPMs)に基づいて自社の経営実態を自己診断し、さらに収益性の違いなどを他社と差異分析したうえで、有効な改善策(アクションプラン)を講じる必要がある――こんな観点から、すぐ実行できるようわかりやすく説いた道筋を、例によりアメリカの印刷産業団体PIAが提示している。それによると、印刷会社(ただし、製造業としてのプリンター)にとって重要と思われる8つの経営指標を選んで、①自社はどのように実施すべきかの問題点を見出し→②なぜ自社の収益性レベルはこの程度なのか→③改善するために自社は何をするべきか、と3つのステップを踏んで取り組んでいくべきだとする。②を確認する際には、印刷業界内のプロフィットリーダーとされる企業群、業態や企業規模の類似した同業者からなる企業群と比較する必要があり、また、③を模索するときには、工場現場の現状にまで分析項目を掘り下げて、特定の改善内容を探らなければならないとしている。


●自社の経営効率のレベルはどの程度かを知ろう 

プロフィットリーダーおよび類似同業者と比較したとき、自社の売上総利益率、売上利益率が悪いとしたら、工場従業員一人当たり総利益額、社員一人当たりの利益額、工場従業員一人当たり売上額、社員一人当たり売上額、さらには工場従業員一人当たり付加価値額、社員一人当たり付加価値額のいずれが低いのか、その差はどのくらいなのか……。そうした差異分析を徹底的に進めていくことで、自社の経営効率のレベルがどの程度なのか、どこに問題があるのかを理解できる。なぜ、自社はプロフィットリーダーではないのか? KPMsに焦点を当てて、収益性を高めるための切り口を探ることができたとしても、それでは、次にどのような手を打ったらよいのだろうか。


●分析を掘り下げると戦略的な手立てが見えてくる

問題点をどうすれば解決できるのかを正確に判断するために必要なのが、より詳細な差異指標(VMs)である。企業規模、生産プロセス、製品分野が似通った企業(とくにプロフィットリーダー群)と比較することによって、具体的な改善課題=戦略的な手立てを発掘することが可能になる。自社の売上高付加価値率が低いうえに、外注加工費、材料費、製造原価、販売管理費、人件費の何かの比率が高いとなれば、これらの分析結果から、どんな対応策を打ったらよいのかは自ずと判ってくる。PIAのこのレポートでは、コスト低減、省資源化、値上げなどを実現するために、実際のアクションプランとして「ロスをなくし、売上げと利益を増やす行動」、例えば「ヤレ紙の低減」「管理部門/製造部門の人員削減」「印刷価格の再設定」などを推奨する。そして、これらのアックションプランが確実に実行されるなら、印刷会社の収益性は売上高比率で1~3%、あるいはそれ以上改善されるはずだと強調している。
※参考資料=PIA「FLASH REPORT」Apr./May 2016; Dr. Ronnie H. Davis, Senior Vice President


●情報の取捨選択の勇気をもって顧客に提案を

製品のマニュアル書が厚くなると、それをつくっている企業の営業マンでさえ読みたくなくなる。そんな障害を乗り越えてもらおうと、逆転の発想による解決策を提案して、マニュアル書の受注に成功した印刷会社がある。あらゆる内容を一冊に盛り込むではなく、製品もしくは担当部署に本当に必要な内容だけを切り取り、しかも複雑な加工を止めて、得意とするごく基本的な工程に絞って、シンプルに仕上げたマニュアルづくりを提案したことが奏功したのだ。対象によって収録する内容を少しずつ変えたものを何種類も請け負うことで、全体の受注金額を確保している。発注する側の企業も使いやすくなって営業成果が高まり、そこにWin-Winの関係が成り立った。紙面に載せる優先すべき情報をきっちり選べるかがポイントなるが、このような印刷物のつくり方、受発注のあり方は、教育界を始めとしてさまざまな分野で広がってきている。


●「印刷×付帯サービス」の発想が支えてくれる

限られた紙面のなかに何を入れるか。ネットに対抗してあらゆる情報を何でもかんでも入れようとするのでは、どだい無理が生じる。顧客が本当に必要としていること、困っていることは何かをよく考えれば、どのような情報が求められているかが判ってくる。それを印刷物としてかたちにできる力が印刷会社にはあるはずである。そのような得意技に、印刷会社はこれまで気づかなかったのではないか。そこに付帯サービスの本質を見出せば、市場を拡げる力にもなる。コンテンツ加工の技術、マスカスタマイズ化のノウハウ、情報編集力、提案型営業力などが欠かせないが、「印刷+サービス」ではなく「印刷×サービス」という相乗効果を狙う考え方が重要となる。そうすれば、メディア製作を基盤に付帯サービスを展開していく道が開ける。本来得意とするモノづくりの効果が発揮されるに違いない。 


●草の根の精神で地域活性化の大役を果たそう

駅前の商店街が衰退している。その理由としては、車社会になって郊外にショッピングセンターが生まれたことや、多様化した生活様式の身近にコンビニエンスストアが根付いたことなどが挙げられる。生活者のストーリーを成り立たせることができなくなったことが最大の要因とされる。それでも、人の交流が盛んになれば経済が落ち込むことはない。さまざまな付加価値でストーリーを育ててあげられるなら、ビジネスは立派に成り立つ。それこそ印刷業が得意とする仕事ではないか。これまで長年、地方の印刷会社が営んできたように、印刷業は地域活性化のために、草の根の精神で一生懸命に支援すべきなのである。街づくりにもっと参加しよう。

以上

新市場を創生した懐かしの全天候型コンパクトカメラ

2016-08-18 16:00:44 | 印刷人のフイルム・フイルムカメラ史探訪
新市場を創生した懐かしの全天候型コンパクトカメラ

印刷図書館クラブ
印刷人のフィルム・フィルムカメラ史探訪 VOL-23
印刷コンサルタント 尾崎 章

1979年に富士写真フィルム(当時)が発売したコンパクトカメラ「HD-1フジカ」は、世界初の全天候型EEカメラで「汚れたら水で洗ってください!」のキャッチコピーが注目を集めた。

HD-1フジカのシリーズ展開

富士写真フィルムが1979年6月に発売した「HD-1フジカ」(33.800円)は、ブログラムEE機能を搭載したコンパクトカメラでカメラボディにポリカーボネート樹脂を採用して強度を高め、レンズ前面には4mm厚の保護ガラスを装着、特殊ゴムパッキンにより耐水性強化を図った世界初の全天候型カメラである。更に手袋をしたままで操作できる様に操作ダイヤルを大型化する等のハンドリング面の配慮により機能性を高めていた。
 

フジフィルム HD-Rフジカのカタログ  

カタログ表紙に「カメラを水洗いする」シーンの写真を採用した「HD-1フジカ」は、ヘビーデューティ需要を的確に捉えて短期間でヒット製品になり、富士写真フィルムは半年後の1979年12月にストロボ搭載の「HD-Sフジカ」、水深2mの水中撮影対応モデル「フジタフガイHD-M」(44.800円)、1984年11月にはHD-Mの普及型「フジHD-R」(36.800円)を発売してバリエーション強化を図っている。
更に35mmカメラによるパノラマ写真ブーム対応して1990年に最終モデルとなるパノラマ仕様モデル「HD-Pパノラマ」(34.800円)の追加発売を行っている。
当時、カメラの大敵とされていた「雨・水」「砂塵・埃」「高熱」「振動」等への配慮・保護問題を一掃した「HD-1フジカ」の功績は業界内でも高く評価されている。


フジフィルム HD-R 


フジフィルム HD-R のレンズ鏡胴部

水中撮影を可能としたミノルタ「ウェザーマチック」シリーズカメラ

ミノルタカメラ(当時)は、110フィルムを使用するポケットカメラがブームとなった1980年に全天候型110フィルムカメラ「ウェザーマチックA」(28.800円)を発売、デザイン性に優れた鮮やかなイエローボディの「ウェザーマチックA」はマリンスポーツ必携カメラとして人気を博した経緯がある。


ミノルタ ウェザーマチックA 

「ウェザーマチックA」の防水機能は、JIS日本工業規格・8級の防水性を有し水深5m迄の撮影を可能とした事よりマリンスポーツ需要を創生、イエローボディの可愛らしさは若い女性から支持も受け110フィルムカメラのヒット製品となっている。
「ウェザーマチックA」のヒットに気をよくしたミノルタカメラは、1987年に得意とするオートフォーカス・2焦点レンズ搭載の35mmフィルムカメラ「ウェザーマチック デュアル35」(39.800円)を発売、更にAPSフィルムの発売に合わせて1997年に「ベクティス・ウェザーマチック」を発売している。


ミノルタ ウェザーマチックデュアル35



ミノルタ ベクティス・ウェザーマチック

35~50mmのズームレンズを搭載したストロボ内蔵、オートフォーカス仕様の「ベクティス・ウェザーマチック」は、防水機能を更に高め水深10m迄の撮影を可能として水中写真マニアのサブカメラとしての支持を得る事にも成功している。

110フィルム、35mmフィルム、APSフィルムに対応した「ミノルタ ウェザーマチックシリーズ」は一貫したイエローボディのカメラデザインも高く評価され、APSフィルム仕様の「ベクティス・ウェザーマチック」は1998年のグッドデザイン賞を受賞、更に110フィルム仕様の「ウェザーマチックA」は、工業デザインの傑作製品例としてニューヨーク近代美術館に常設展示された輝かしい経緯を有する等、国内外で高い評価を受けたスタイル自慢のカメラでも有った。



業務用カメラとしての地位を確立したコニカ・現場監督

富士写真フィルム、ミノルタカメラ(当時)が全天候型カメラによるアウトドアスポーツ市場でのビジネス展開を図ったのに対して、コニカ(当時)は業務用カメラとしての市場創生を図っている。
建築・土木工事等の工事現場で工事記録用として撮影されるフィルム量が多いことに注目したコニカは、1988年に工事用カメラ「現場監督」(36.800円)の発売を行っている。
「現場監督」は、40mmの準広角レンズを搭載した単焦点コンパクトカメラで防水・防塵・耐衝撃性を備え、軍手をしたままで取り扱いが出来るハンドリング性にも優れていた。
工事写真を撮影する現場監督向けのカメラとして「現場監督」のネーミングも絶妙で短期間に産業用カメラとしての地位を確立している。



コニカ現場監督

「現場監督」は個人需要とは異なり会社経費で工事事務所単位に大量購入される事より収益性が高く、コニカのカメラ事業収益に大きく貢献したことが報じられている。
一部のマニアがアウトドア用として購入した経緯があるが、主要需要が建築関連企業に集中したユニークな全天候型コンパクトカメラであった。


北米・ナイアガラ瀑布観光船・霧の乙女号

筆者は、ミノルタ「ウェザーマチック」で小笠原及び沖縄のサンゴ撮影に挑戦した経緯があるが水深10m迄の水泳対応力が伴わず断念、当該カメラの防水機能を活用事例としては、残念ながら北米・ナイアガラ瀑布の観光船「霧の乙女号」での船上撮影程度であった。



     
 以上
 



 
 

印刷図書館倶楽部 ≪月例会≫2016年7月度

2016-07-26 10:34:32 | 月例会
[印刷]の今とこれからを考える 

        「印刷図書館クラブ」月例会報告(平成28年7月度会合より)


●文化財をデジタル化してビジネスに結びつける

 デジタル技術によって絵画や古文書などの文化財をビジネスに結びつけようという動きが高まっているそうだ。印刷用のコンテンツを使えるうえに、ビジネスとしても印刷産業に近いこともあって、にわかに注目されている。印刷関連の各企業が「ビジネスチャンスあり」とみて、積極的に乗り出す姿勢をみせる。そうした動きを紹介する記事が、産業分野の専門紙に大々的に報じられていた。紹介された事例の一つは――中世から近世にかけてつくられた古い時代の地球儀や天球儀を、高解像度のデジタルカメラで四方八方から撮影し、拡大したり回転したりできる3次元のデジタルデータに合成して、それを高精細のディスプレイ画面に表示する。このようなシステムを博物館や美術館で使ってもらえれば、文化財で集客につなげることができるのはもちろん、文化財そのものの修復/保護に対する理解を深められる。絶版となった書物をさまざまな印刷技術を駆使して復刻してきた印刷業界。独自のノウハウをもつ強みを活かして取り組みたい分野は事欠かないに違いない。


●コンテンツを扱える印刷業界の出番がやってきた

少しばかりアタマを巡らせば、①貴重な古文書、古地図などをデジタル印刷システムで複製し、地域の図書館や資料館で誰にでも見てもらえるようにする、②世界の美術絵画をデジタルカメラで撮影し、インクジェットプリンタで出力(ついでにエンボス加工も)して美術館などに展示してもらう、あるいは、③仏像や彫刻作品を3Dプリンタで複製してレプリカを作成し、損傷や盗難を防ぐことに役立ててもらう――などなど。文化財に限らなくていいのなら、例えば新開発した製品、デザインした建築物、衣類のファッションなどの、立派なプレゼンテーション用資料が作成できる。マーケティング効果を狙う企業からの需要も多いことだろう。積極的に探れば、こうしたビジネス分野は無数にあるだろう。コンテンツを扱える印刷業界の出番が到来している。印刷産業が「大量生産/大量配布こそ」という固定観念から脱して、「新しい時代の新しいニーズに沿った新たなビジネスを見出す」一つのきっかけとなれば幸いだ。


●プリプレス工程は本当に“ボトルネック”なのか?

「プリプレス部門はまるでブラックホールだ」と、冗談めかしによくいわれることがある。その意味は――仕事がどんどん入ってくる割に決して出ていかない、吸い取るはかりだ、ということ。だから、プリプレスは印刷工程上の最大のボトルネックだとする指摘が聞かれるのだが、これは“当て擦り”に等しい。下記の論文は、プリプレス部門で仕事が行き詰まるのは工程上の欠陥があるためではなく、前工程の営業部門や顧客サービス担当からの「不正確あるいは誤った情報」にこそ根本原因がある。作業が行き詰まる重要なボトルネックは、往々にして顧客との接点となっている工程、つまり見積り、顧客サービスに起因し、その影響を直接受けるプリプレスで実際に発生しがちなのだ――と言及。そのうえで、課題として滅多に取り上げられることのない、仕上げ工程における外注とボトルネックについて考えてみる必要があると主張している。


●仕上げ工程ではボトルネックは即外注で対応

 北米の印刷会社を対象とした実態調査(2014年)によると、各種仕上げ工程のうち①無線綴じ(24.6%)②小冊子製作(22.8%)③バインダー製本(17.0%)④上製本(16.6%)⑤中綴じ(14.1%)⑥はがき挿入(11.0%)⑦メール宛名印字(9.5%)――の順でボトルネック現象が発生しているという。デジタルデータを扱うプリプレス工程と違って、いずれもオフラインでの加工プロセスなのだが、注視すべきは、見間違いでないかと驚かれるほど、ほとんど同じような順で外注に出されている点である。①無線綴じ(32.5%)②小冊子製作(30.4%)③上製本(27.9%) ④バインダー製本(21.0%)⑤はがき挿入(19.8%)⑥メール宛名印字(18.9%)…⑧中綴じ(18.3%)――の順となっているのだ。仕上げ工程におけるボトルネックは納期にも関わる重要な事柄と捉えて、即外注で対応するという動機を印刷会社に与えていることが判る。


●4分の1の印刷会社が内製化を考えているが……

 外注に出すのは負荷の分散という観点から間違いではないとしても、発注に伴う問題 (外注先の設備確保、機械取りのタイミング、内製との進捗調整など)をこなさなければならない。外注/内製を見通した全体的な収益性をも考慮する必要がある。外注依存による弊害(コスト高リスク、自社ノウハウの放棄など)もあり得る。同調査で「ボトルネックを克服し売上げを伸ばし収益性を改善するための具体的対策」を尋ねた質問に対し、25.4%の企業が「新しい仕上げ設備の購入を検討中」との回答を寄せており、悩みが深いことを伺わせる。全体の4分の1の企業が、設備負担が増すにも関わらず、内製化によってボトルネック解消の実効性を高めたいと考えている現状について、「外注による明らかな欠陥を考えさせられる、興味深いこと」とみている。
※参考資料=「Outsourcing and Bottlenecks」; Howie Fenton, Vice President, Consulting Services, IMG


●全体最適化のためには、工程間の流れをスムーズに

 自社内に、顧客の要求に応えられる生産体制やノウハウが全くないなら、必然的に外注に頼るしかないが、能力不足(まさにボトルネックと自認する所以)の場合には、明確な内外作基準を設けて対処する必要がある。一般的には、生産量、納期、技術的困難などが挙げられる。2000年代に入って登場した新しいビジネス理論(TOC)は、制約条件となっているボトルネックを解消すれば、全体的な成果が自ずと引き上げられると強調する。生産能力を高めるには、ボトルネックを徹底的に改善するのが有効とされ、外注も現実的な対応策の一つとなっている。上記の論文はこのような切り口で問題提起したものと思われるが、非常に興味深いのはわざわざ「オフライン」と付記していることで、デジタル印刷方式を頭に置いてまとめたとも読み取れる。全ての印刷品目に当てはまるわけではないが、デジタル印刷システムにはインライン加工で製本まで一貫処理できるものがある。印刷方式を問わず、また内外作に関わらず、印刷工程から後工程への流れをスムーズにして、全体最適化をはかることが何より重要だと主張しているのかも知れない。外注か内製化かと考える際に、欠いてはならない視点といってよい。


●古文書のユネスコ世界記憶遺産登録に関心を寄せよう

 京都の東寺に伝えられた中世の寺院文書「百合文書」(京都府立総合資料館所蔵)が、昨年秋にユネスコ世界記憶遺産に登録された。世界の人びとの記憶に留め置くべき重要なドキュメントとして認められたもので、フランスの人権宣言、世界最古のコーラン、ゲーテの直筆文学作品、日本の慶長遣欧使節関係資料などと並び称されることとなった。この東寺百合文書とは、8世紀から18世紀までの約1千年にわたる膨大な量(およそ2万5千通)の古文群で、加賀藩寄贈の百個の桐箱に保管されてきた。東寺が鎮護国家を目的に建立された関係から、当時の政治組織、荘園管理、寺院経営、訴訟法令、朝廷/幕府の命令、出納など、幅広い分野にわたる決まり事が記述されていて、日々の事務処理、会議運営のための資料として利用されていた。荘園制度がなくなった江戸時代には、学問奨励、歴史書・地誌の編纂のための参考資料として役立てられた。
この文書は偶然に“保存されていた”のではなく、僧侶の手で意識的に“保管してきた”のである。今では、日本の仏教史、寺院史の研究に資するために、全点をデジタルアーカイブ化してWeb上に公開、多くの人びとがアクセスできるようしている。ユネスコ記憶遺産事業が目的とする、ドキュメント遺産の保護の精神や趣旨に沿う取り組みといえる。原形保存を原則としており、当時の和紙、墨書について研究するうえでも貴重な資料となっている。紙メディアの意義と有効性を高く評価されたことに、印刷関係者はもっと関心を寄せてほしいと思う。

以上



フジフィルム、コニカ、アグファ  フィルム3社のフィルム一眼レフ・ビジネス展開

2016-07-20 16:08:13 | 印刷人のフイルム・フイルムカメラ史探訪
印刷図書館クラブ
印刷人のフィルム・フィルムカメラ史探訪 VOL-22
印刷コンサルタント 尾崎 章


フィルムカメラが全盛期を迎える1950年から1985年にかけてコダック、アグファ、富士フィルム、コニカの写真フィルム4社は、写真フィルム市場拡大もターゲットとしたカメラビジネスを積極に展開、コダックを除く3社はフォーカルプレーンシャッター一眼レフ市場に自社ブランド製品の投入を行っている。
しかしながら、各種交換レンズはもとより、種々のアクセサリーを揃えたシステム構築が要求される一眼レフ市場はカメラ各社との競合が激しく製品群維持の採算性問題も加わりフィルム各社の一眼レフ・ビジネスは低迷を余儀なくされた。この問題に終止符を打った画期的新製品が1985年に発売されたオートフォーカス一眼レフ「ミノルタα7000」で、競合各社に与えた影響は「αショック」と称されて今日まで語り継がれている。


 
「αショック」で業界に激震を与えた「ミノルタα7000」



カメラ各社の一眼レフは迅速なオートフォーカス対応を余儀なくされたが、市場シェアの低いフィルム各社の一眼レフはオートフォーカス対応を見送り、前後して当該市場からの撤退を行っている。



コニカの一眼レフ最終製品は、「プラスチック最中構造」の安価製品

1985年4月にコニカ㈱(当時)はフィルム一眼レフ最終製品となる「TC-X」を発売した。機械式シャッター(1/8~1/1000秒)前後2枚のプラスチック成型板を張り合わせた「最中(もなか)構造ボディ」の普及型カメラで、AF・オートフォーカス一眼レフ市場参入予定無を意思表示する製品であった。



「コニカ最終製品「TCX」

 

カメラ本体価格30.000円の「TC-X」は、1989年7月に最終製品を出荷、1960年の「コニカF」以来30年に及ぶフィルム一眼レフ・ビジネスに幕を下ろしている。
「コニカF」は、プリズムファインター交換式、セレン露出計内臓、1/2000秒の最速シャッター搭載 等々、当時の一眼レフ・標準スペックを大きく凌駕する性能で注目を集め、世界初・自動露出制御一眼レフ「コニカオートレックス」(1963年)、世界初のフィルムワインダー搭載一眼レフ「コニカFS-1」(1978年)「コニカFT-1」(1983年)等々、市場をリードする製品を発売した経緯がある。しかしながら、ニコン、キャノン、旭光学ミノルタカメラのカメラ4社との競合は厳しく好調なコンパクトカメラへの軸足シフトを余儀なくされている。



ワインダー搭載・コニカ「FT-1」



コニカの最終製品「TC-X」は、マニアルフォーカス、手動フィルム巻き上げ、機械式シャッター等々 時代を逆戻りしたスペックの製品で、新規機能としてコニカ一眼レフ初の「フィルムDXコード」に対応した製品で有る事が特記される状況であった。
コニカ「TC-X」は、TTL露出計以外に電池を使用しない為に電池供給不安問題のある後進国向けの輸出用としての需要が有った事が記されている。


フジフィルムの国内向けフィルム一眼レフ・最終製品は1980年発売の「フジカAX-3」

1970年7月に富士写真フィルム㈱(当時)は、TTL測光のコンパクト一眼レフ「フジカST701」を発売してフィルム一眼レフ市場参入を開始している。
「1970年発売」「一眼レフ1号機」から「ST701」とネーミングされた同機は、カメラ愛好家をターゲットに商品化され、カメラ本体のダウンサイズ化により当時「世界最小・35mmフィルム一眼レフ」であった。



「フジカST701」



「ST701」のカメラ横幅は133mmで1972年にオリンパス光学が発売した小型一眼レフ「オリンパスOM-1」の横幅136mmを下回っていた。「ST701」はダウンサイズ志向が見られない当時の一眼レフ市場に大きなインパクトを与える事に成功している。
また「フジカST701」は、低照度感度・対応力が低いcds(硫化カドミウム)に替えてシリコン・フォトダイオードをTTL露出計受光素子に業界初採用する等、スペック面でも注目を集めている。
富士写真フィルムは、「ST701」以降、「レンズマウントの変更」「絞り優先AE対応」「絞り/シャッター速度・両優先AE対応」等、改良製品の市場投入を実施したが、カメラ専業各社による市場シェア拡大に劣勢を余儀なくされている。
同社は、1980年3月に国内向けの最終製品「フジカAX-3」を発売、輸出仕様の「フジカSTX-2」は1985年11月まで販売を行っているが、オートフォーカス一眼レフ・ミノルタα7000による「αショック」に前後してフィルム一眼レフ・ビジネスの幕を閉じている。




フジフイルム最終製品「FUJI STX-2]



フォトキナ展に突然登場したアグファのフィルム一眼レフ


1980年秋に開催された世界最大の写真機材展「フォトキナ」(開催:ドイツ・ケルン市)にアグファが予告無で「アグファ初の近代型35mmフィルム一眼レフ」を出展して来場者及び業界関係者を驚かせた。
アグファは、1960年代に当時ヨーロッパで流行していたレンズシャッター一眼レフ製品を数機種発売しているがフォーカルプレーンシャッター搭載の一眼レフ市場には未参入で有った事より「予告無の突然発表」のインパクトは大であった。
アグファ製一眼レフの商品名は、「セレクトロニック・SELECTRONIC」で下記3機種のバリエーションが有った。

①SERECTRONIC 1  TTLマニアル測光
②SERECTRONIC 2  絞り優先AE専用 
③SERECTRONIC 3  マニアル・絞り優先AE兼用


    
オレンジシャッターが印象的なアグファ「SERECTRONIC 1」 



3機種はいずれも㈱チノンによるOEM製品であったが、アグファのヒットカメラである1977年発売の「オプチマ1035」と同様にアグファのトレンドになっていた「オレンジカラーのセンサーシャッター」と「艶消しブラックボディ」を採用、1980年代の国産一眼レフとは異なる魅力的な「ヨーロピアン・デザインカメラ」に仕上がっていた。
しかしながら、後続機種が無く前述の「ミノルタα7000」を契機とするオートフォーカス一眼レフ時代の到来前に市場から姿を消し「最初で最後のアグファ一眼レフ製品」となっている。
筆者は、海外製カメラを得意とする銀座の中古カメラ店でTTLマニアル測光仕様の「SERECTRONIC 1」を偶然見つけてその場で購入、製造元㈱チノン製のパンケーキレンズ・AUTO CHINON45mm f2.8を付けて楽しんでいる。