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印刷図書館倶楽部ひろば

“印刷”に対する深い見識と愛着をお持ちの方々による広場です。語らいの輪に、ぜひご参加くださいませ。

月例会 2016年6月度(2016.6.27開催)

2016-06-29 11:05:19 | 月例会
[印刷]の今とこれからを考える 

        「印刷図書館クラブ」月例会報告(平成28年6月度会合より)


●紙メディアの有効性はニューロマーケティングから

「ニューロマーケティング」という新しい学問領域から、紙メディアがもっている本来の特長と有効性を再評価してみようという試みがある。紙の上に印刷された「反射文字」が脳の前頭前野を活発化させることによって、記憶力の向上、知識の蓄積に有利に働くのではないか。これに対して液晶画面で「透過文字」を読む電子メディアの場合は、文字を追うというより全体を画像と捉えるので、前頭葉を刺激することに繋がらないのではないか。両者を比べれば、紙メディアの方がリテラシーを高めてくれるはず。そうであるなら、販売促進用のメディアとして印刷物(通販のダイレクトメールなど)を使った方が、マーケティング効果がより高まるのではないか。情報を確実に伝えなければならない自治体や金融機関からの通知状など、紙メディアの効能が高齢化社会のニーズから再認識されている。その一方、学校の教育現場で使われ出した電子教科書は、実証してみるとどうも適していないのではないかと疑問視する声さえ聞かれる。印刷産業から提
案すべき解決策は少なくない。


●文字情報への関心は紙メディアの利点を生かして

 年齢層の違いによって文字情報への注意・関心の反応=知覚が異なることが、ニューロマーケティング研究によって明らかになったとするニュースが流れた。それによると、縦書きの文字情報を記載したグラフィックデザインを見たとき、年配層(視力の衰えを自覚するとされる45歳以上)が「文字情報に高い関心をもつ」傾向があるのに対し、若年・中年層は「文字情報を注視せず、高い関心に結びつけない」傾向があるという。被験者の脳機能を解析すると、年配層は文字情報を読んでいるときに前頭葉の活動が活性化して、それだけ関心が向けられていることがわかる。視線は文字情報を注視していて、しっかりと読み込んでいるそうだ。若年・中年層では前頭前野の活動があまり見られず、しかも文字情報も注視することなく“読み飛ばして”いる状態だという。これらの実験結果から、少なくとも年配層に関しては、縦書きの文字情報は読みやすいと受け取られ「書かれた内容を理解しようという強い関心を引き出す」効果があるとしている。文字の読みやすさを、可読性、理解度、疲労度といった尺度で科学的に実証し、文字情報を載せるメディアの特性と関連づけながら社会に提示していく責任が印刷産業にはある。


●印刷製品には品質上のバラツキが存在する……

一定のバラツキがあることを前提に印刷物の品質管理に取り組むことの重要性を説く技術レポートが、アメリカの印刷産業団体PIAから発表された。「雪の結晶、一卵性の双生児、そして刷り本」と題するこのレポートは、印刷会社が保持すべき工程能力をどう捉えたらいいのかのヒントを与えてくれている。いかなる生産活動においても、その中心的な課題は顧客が求める必要条件を満たすことにある。この必要条件に高度に適合するためには、製品特性を決定づける仕様を基準に品質改善に努めなければならない。雪の結晶も一卵性双生児も厳密に点検、計測すれば、全く同じものはない。このような自然界の法則どおり「製品にはつねにバラツキが存在する」からには、統計的なバラツキの概念と仕様との関係を理解する必要があるという。


●バラツキの存在を認めて、許容範囲に制御する

 こうした概念は、印刷工程にも援用可能だ。印刷機から排出される何千もの刷り本は、見かけ上は全く同じに見えるが、印刷機だけでなく用紙、インキ、刷版など変動要素が多いこともあって、刷り本の品質には必ず相違がある。バラツキの度合いも同一ではない。それにもかかわらず、印刷会社はバラツキを取り除く不可能ともいえる課題に直面している。「こんな理不尽な状態を受け入れることができますか?」と、このレポートは問う。そして印刷会社がもつべき一つの答えは「バラツキの多くは取るに足らないものだ」という信念をもつことにあると、自らの意識変革を促している。「違いは無視し得るほど十分に小さい」と信じることが重要だとする。ただし、「不規則性の“真ん中”に規則性を見出す」必要がある。同じ試料、同じ計測項目でデータ数を十分に大きくとるシステマチックな観測方法と統計処理により、バラツキのパターンを把握し、それに基づいて品質管理を徹底させなければならない。工程能力を高めるには、まずは実際に発生しているバラツキの量、幅を測定することから始めるべきである。


●何を計測し何を許容するかの論理的な基準こそ

 第1段階では、計測によって実際に発生しているバラツキの性質を発見すること。重要な品質特性(ベタ濃度、ドットゲインなど)を抽出するとともに、計測法を決めて十分に多数の印刷物について計測し、発生しているバラツキの量を決定することである。第2段階としては、バラツキの許容範囲(目標値からの仕様上下限の幅)を決めること。印刷物に対する顧客の要求品質を仕様のかたちで表示して、その特性値を計測することになる。第3段階は、バラツキの出ている実際の印刷物と許容範囲内の基準サンプルと比較すること。これによって①バラツキは問題にならないほど小さく、ほとんどの製品は許容範囲に収まっているので、そのまま顧客に納品する、②バラツキが大きすぎ、かなりの不適合製品が含まれているので、刷り直しなど何らかの対応が必要――のいずれかを判断する。顧客満足に応えるには原点での品質設計が欠かせないが、印刷工程上の品質改善活動においては、何 (バラツキを引き起こす要因) を計測し何を許容するかという比較研究により「バラツキの幅を決める」ことが重要なのだと結論づけている。
 ※参考資料=Technology Report PIA; John Compton, Prof. Emeritus(Rochester Institute of Technology)


●ポールポジションを探せる高度なデザイン感覚を

デザインとは本来「設計」の意味であり、一元的に「図案」を指すものではない。ビジネスモデルのデザインといえば、顧客価値やマーケティング戦略、生産体制の仕組みづくりが先にあり、提供する製品の仕様はその後の問題となる。印刷メディアの機能提案=設計が先にあって、その後に印刷物のかたちが付いてくる。産業構造の再構築を意味する産業のリデザインが求められるなかで、各企業のポジショニングが必然的に、あるいは自動的に決まるわけではない。現代社会は、変動、不確実、複雑、曖昧という4つの要素に見舞われている激動の時代にある。企業はどこでどう対応していったらいいのか。自分の周りの細部を見る“虫の目”より、ビジネス環境全体を見渡す“鳥の目”の方がいかに重要か――自社なりのポールポジションを探して、そこで根を張ることを可能にする高度なデザイン感覚が欠かせない。


●後継者となったからには「時間」を味方にしよう

印刷業界に限らず、2世、3世の人に「オーナーとは何か」と尋ねると、さまざまな特権、資格、能力、役割を有する立場といった答えが返ってくる。企業を継承した瞬間からオーナーになったはずなのに、設備や社員、資金といった経営資源を引き継ぐだけに終わり、それ以上、前へ進めない後継者も少なくない。「自分の意思ではない」「止むを得ないこと」と思っている人さえいると聞く。ある識者は「オーナーとは時間のフリーパスをもっている人」と喝破している。そこには「好きなことに我儘に制限なく取り組める人」という意味合いが込められている。その代わり、全てにオールマイティーでなければならず、我慢強くなければならない。自分が一番やりたい得意なことを一つだけ示し、不得手なことは気に入った有力な部下に任せ切るといった度量をもっていなければならない。オーナーとなったからには、強い意識で先代からこのような「時間」だけを引き継いでほしい。経営資源をどう使いこなすかは、与えられた時間のなかで自分で考えるべき問題なのである。変動する時代にあってダイナミック(動態的)な経営をおこなっていくためにも、時間をきちんと管理できる「企業家」となってほしい。

デジタル写真時代に市場から消えた減力液と補力液、懐かしのファーマー減力液

2016-06-23 14:33:45 | 印刷人のフイルム・フイルムカメラ史探訪
印刷図書館クラブ
印刷人のフィルム・フィルムカメラ史探訪 VOL-21
印刷コンサルタント 尾崎 章


デジタルカメラ用及び印刷プリプレス向けの各種レタッチソフトが充実した今日、フィルム及び印画紙の銀画像濃度低減、そして減力液で印刷用フィルムの網点サイズを修正するハンドレタッチ作業は「半世紀前の語り草」になっている。
当然の事ながら、写真薬品として販売されていた減力液、補力液の市場から姿を消して久しい。「ファーマー減力液って何ですか?」と聴かれる事も皆無となった。


写真減力液の代名詞! ファーマー減力液

水質汚濁防止法及び下水道法の改正によって重金属、健康に有害な物質の排出が大きく規制された1973年以前に銀塩感光材料用として最もポピュラーな減力液がファーマー減力液(Farmer’s Reducer)であった。

 
ファーマー減力液の主剤:赤血塩


考案者の英国写真技術者E. Howard Farmer の名前からファーマー減力液(ファーマー氏減力液)と名付けられた減力液は、赤血塩(フェロシアン化カリウム)とチオ硫酸ナトリウム(ハイポ)の水溶液を混合して使用するもので減力液の代名詞として写真業界・写真製版業界で最も一般的に使用された経緯がある。
このファーマー減力液は、赤血塩水溶液とハイポ水溶液の混合比率によって減力効果を変化させる事が出来、一例として当時のイーストマン・コダックがハイライトからシャドウ部を均一に減力する等減減力液として発表していた「EK R-4A:等減減力液」の処方は下記の通りである。

[Kodak R-4A等減減力液]
A液  赤血塩 37.5g 水を加えて500ml
B液  チオ硫酸ナトリウム480g 水を加えて2000ml
使用液 A液30ml B液 120ml 水 1000ml


写真製版の必需品、ファーマー減力液


プリプレス工程が写真製版に依存していた1980年以前は、製版カメラでの版下台紙・線画撮影ネガフィルムのカブリ除去、コンタクトスクリーンを使用した網点撮影(網撮り)時に発生する網点フリンジ除去を目的とした水洗ライトテーブル上での減力作業は必須の日常作業であった。減力液を含んだ水洗水は、そのまま工場外に排出されるケースが圧倒的で水質汚濁防止法及び下水道法によって赤血塩(フェロシアン化カリウム)等のシアン化合物が規制対象となり、写真・印刷業界は非シアン系の減力液の開発・商品化に迫られる事態に至っている。


EDTA減力液に関する筆者論文、印刷雑誌1973年1月号   


赤血塩に替わってEDTA(エチレンジアミン四酢酸)鉄キレートや硫酸セリウムを使用する減力液が各社より商品化され印刷業界は短期間に非シアン系減力液に切り替わった経緯がある。


非シアン系減力液の主流は硫酸セリウム減力液

非シアン系減力液は、EDTA鉄キレート系減力液→硫酸セリウム系減力液の流れとなり印刷業界向けの代表的製品としては、富士フィルム「FR-1」、印刷薬品大手・光陽化学工業の「R-SUPER」を挙げる事が出来る。


印刷界で多用された非シアン系・硫酸セリウム減力液


写真用途向けとしては、ナニワ写真薬品「ナニワ減力剤」、中外写真薬品が輸入代理店となった英国・イルフォード社の「エルブラウン減力剤」等が発売されており、「ナニワ減力剤」は2012年頃迄の販売が行われ、写真現像所等で印画紙のカブリ除去に使用されていた模様である。
筆者も光陽化学工業の「RD減力液」(EDTA系)「R-SUPER」減力液の製品化にさいして技術サポートを行った経緯が有り「非シアン系減力液」は懐かしの想い出である。
商品としての減力液は市場から無くなったが赤血塩は単品写真薬品として大手カメラ店の写真薬品コーナー等で販売が継続されており、手軽にファーマー減力液を調合する事が出来る。


最後まで販売されたナニワ減力剤 1リットル用 750円   



エルブラウン減力剤 1983年・写真用品カタログNo15より 



写真製版レタッチ作業者は、高額所得者!

写真製版全盛の1960~70年代のカラー印刷は写真製版を前提としており、写真製版の色補正マスキング処理では色再現要求品質に十分対応出来ない状況にあった事は周知の通りである。この当時は人物の肌色やイメージカラー・記憶色等々のカラー原稿と差異が生じる色相に対して熟練作業者による「レタッチ作業」が不可欠で、網点ネガ・ポジの網点サイズを減力液で修正する「ドットエッチング」(略称ドットエッチ)は、経験を要する熟練作業領域であった。

例えば代表的な記憶色の「日本女性の肌色」は、シアン8% マゼンタ40% イエロー60%の網点で構成されており、写真製版では再現できない網点サイズを減力液で記憶色に近づけるドットエッチが不可欠で有った。
この為、製版品質をレタッチ作業者の技量が左右する事になり、当時は週刊誌の裏表紙に「印刷:○○印刷、製版:山田 太郎」とレタッチ作業者名が表記されていた事を記憶されている方も多いと思われる。当時の大卒新入社員・初任給7~8万円程度に対してベテランレタッチ作業者の月収が40万円を超える「写真製版全盛期」の語り草である。
このアナログ写真製版時代のレタッチ作業も、カラースキャナーによる電子製版の普及、ミニコン及びワークステーションを使用した画像処理システム及び画像処理ソフトの普及により2000年を待たずに標準化・省力化され、印刷製版の電子化に相反して減力液市場は一気に終息化を迎える展開に至っている。


レタッチ・イメージ写真 


露光不足、現像不足を救済した補力液

減力とは正反対に写真画像濃度を増加させる措置が補力作業で、水銀補力液、クロム補力液、鉛補力液等、種々の補力特性を持った補力液が発表・発売されていた経緯がある。
最も代表的な補力液としては水銀補力液(昇汞補力液)がある。
銀画像を毒性の強い塩化第二水銀(昇汞)で酸化漂白、亜硫酸ナトリウム水溶液等の黒化液で漂白された銀画像を再度黒化銀に還元するものでコダックが発表した水銀補力液処方は、下記の通りである。
[Kodak In-1水銀補力液]
水         1000ml
塩化第二水銀     22.5g
臭化カリウム     22.5g  
 
補力液の主用途は、露光不足及び現像不足によって銀画像濃度が不足状態にあるフィルムの救済措置である。フィルムカメラの自動露出機能が充実する以前は露光不足によるトラブル発生頻度が高く、当該問題の救済策として補力液の使用頻度は高い状況にあった。
筆者も「歌舞伎十八番」の舞台撮影時に増感現像に失敗、補力液で何とかプリント出来る濃度までの救済を行い撮影依頼者にプリントを納品した苦い経験がある。
TTL測光方式によって露光精度が飛躍的に高まったフィルム一眼レフ、カメラ背面モニターで撮影画像が確認出来るデジタルカメラでは到底あり得ない撮影ミスで、デジタル技術展開に伴って商品化されていた重クロム酸系補力液は減力液よりも早い1985年前に市場から姿を消している。
「補力」「減力」は当然の事ながら「死語」となり、塾年写真愛好家の「懐かし」の記憶となった。    
    
 

露光・現像不足ネガ(左)と補力液で濃度補力を行ったネガ(右)

   
以上