印刷図書館倶楽部ひろば

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TTL測光のパイオニア・トプコンREスーパーと、TTL語源論争、印刷材料・CTPは?

2017-04-12 13:11:31 | 印刷人のフイルム・フイルムカメラ史探訪

印刷図書館クラブ
印刷人のフィルム・フィルムカメラ史探訪 VOL-29
印刷コンサルタント 尾崎 章

1963年5月に東京光学機械㈱(現:㈱トプコン)が世界初のTTL測光方式の一眼レフ「トプコンREスーパー」を発売して世界の注目を集めた。
「トプコンREスーパー」は、装着レンズの開放絞りで測光出来る開放測光方式にも対応、1964年に発売されたTTL測光の二番手・旭光学「ペンタックスSP」が絞り込み測光にとどまり、更にキャノンのTTL開放測光対応が1971年であった事、等々より東京光学の先進技術が世界に実証された「歴史的名機」となっている。


東京光学 トプコンREスーパー




トプコンREスーパーのミラー測光技術

東京光学は、当時の親会社である㈱東芝の技術協力を得て世界初のミラーメーターを開発、「トプコンREスーパー」に搭載している。
ミラーメーターは、一眼レフのミラーをスリット状のハーフミラーとする高度の真空蒸着技術加工を施してファインダー視野を妨げずにミラーを透過した透過光を測光して適性露光を求める方式である。


トプコンREスーパーのミラーメーター


 

更に東京光学は、装着レンズの開放絞りでの測光及びフォーカシングを可能とする開放測光技術を世界に先駆けて開発、開放測光に不可欠な装着交換レンズの開放絞り情報を連動ピンでカメラボディに伝える連動ピン方式も同時に新開発している。
このレンズ情報をボディに伝える連動ピン方式は、業界標準として定着した事は周知の事項である。
東京光学は、当該TTL測光方式を1960年に「撮影レンズの透過光を測定する方式の露出計を組み込んだ自動プリセット式一眼レフ」として特許出願(1967年・特許公告)、キャノン、ニコン、ミノルタ等のカメラ各社がパテント料を支払ってTTL一眼レフの製品化を行っている。
東京光学は、ドイツ・ケルン市で開催される世界最大の写真機材展「フォトキナ1963展」
に「トプコンREスーパー」を出展、世界のフォトジャーナリストから「カメラ史の1ページを記す偉大な発明」として絶賛を博している。


トプコンREスーパーの開放測光・連動ピン




システムカメラとしても高い完成度を有したトプコンREスーパー

「トプコンREスーパー」が競合他社に与えたインパクトはTTL測光にとどまらず、システムカメラとしての充実度も挙げることが出来る。
当時は、日本光学「ニコンF」がシステムカメラとしての頂点にあったが、システムカメラとしての高い充実度を伴った「トプコンREスーパー」が一気に形勢逆転を図っている。
システムカメラとして注目された特長は次の通りである。

①調整無でカメラに装着できるモータードライブ機能(世界初、3コマ/秒)

②250枚撮り長尺フィルムマガジン

③ミラーアップ無で装着可能な25mmレトロフォーカス型広角レンズ(世界初)

④ペンタブリズム交換式、各種ファインダー対応

⑤眼底カメラ、手術用顕微鏡等のメディカル対応。

アメリカ海軍は、「トプコンREスーパー」の性能及び豊富な多用途対応性を評価して従前の「ニコンF」から「トプコンREスーパー」へ海軍正式規格カメラの変更を実施している。この海軍正式規格カメラの変更に伴い空母、空母艦載機、潜水艦、各種艦艇に「トプコンREスーパー」が搭載される展開に至っている。



TTL測光のコンセプト発表は、旭光学が先行

1960年開催の「フォトキナ」展で旭光学工業㈱(当時)は「ペンタックス・スポットマチック」の試作機を展示して注目を集めている。「ペンタックス・スポットマチック」は直径3mmのcds受光部を取り付けた腕木バーをフォーカシングスクリーンの中央部に繰り出して測光する方式で、標準レンズの約1/15の狭角度で受光することより「スポットマチック」のネーミングでスポット測光をアピールしている。
しかしながら、当該機能の実用化が難しく、ファインダー接眼窓の両側に小型cds受光部を配した平均測光の「ペッタックスSP」を「トプコンREスーパー」の一年遅れで発売する展開に至っている。


旭光学 ペンタックスSP



当該機は絞り込み測光等の仕様面で「トプコンREスーパー」よりも劣ったものの「ペンタックスSV」等で普及型一眼レフ市場をリードしていたことより「ペンタックスSP」も普及型TTL一眼レフとして11年のロングセラーを記録するヒット商品になっている。



TTLの語源論争


1963年に東京光学が「トプコンREスーパー」を発売して際には、「TTL測光」の用語は無く、東京光学では「ミラーメーター方式」という表現を行っていた。
東京光学の社史「東京光学50年史」には、海外向け説明書作成時に翻訳を担当した速川賢一氏が考案した造語で「Through The Lens」の頭文字を採った造語であることが記載されている。
この「Through The Lens」に対して国内外より異論が唱えられ「TTL論争」が生じた懐かしい経緯がある。
その論点は次の通りである。

①露出計の受光部には集光レンズが一般的に取付けられており、外付け露出計でも「Through The Lens」になる。

②撮影レンズの透過光を測定することより「Through the Taking Lens」の頭文字が正論である。

③撮影レンズの後面で測光する為に「Behind Taking Lens」、BTL測光の表記が正論である。

「Through the Taking Lens」論は、東京写真大学・加藤春男助教授(当時)等の学識経験者が正当性を主張、「BTL」は米国・ベルハウエル社等が主張したが、TTL測光のパイオニアである東京光学が「Through The Lens」説を採用したこともあり、略語論争は自然に消滅する展開に至っている。
1964年に旭光学が発売した「アサヒペンタックスSP」を「アサヒカメラ」(1964年10月号)がニューフェイス診断で取り上げた際には、「TTL・スルーザレンズ」の記述が各所に見られ、これ以降「TTL=スルーザレンズ」表現・記述が固定化することになった。


トプコンREスーパー発売当初のカメラ雑誌広告、TTL表記は無い




世界初のTTLレンズシャッター一眼レフ・トプコンユニを発売



 
印刷材料・CTPは

1993年9月に米国・シカゴで開催された印刷展示会・Graph Expo展でイーストマン・コダック社が「KODAK Direct Image Thermal Plate830」のプロトタイプを展示、注目を集めた。
続いてコダックは、1995年開催のDRUPA1995展で当該プレートのライブデモを実施、サーマルCTP時代の先駆けとなるプレートメイキングシステムの商品化に成功している。
一方、富士写真フィルム(当時)もDRUPA1995展で高感度フォトポリマープレートLPAを発表してコダックに対抗している。
「CTP」は周知の如く「Computer To Plate」の頭文字を採ったもので、黎明期には製版フィルム無で直接プレートメーキングが可能となる事より、「ダイレクトプレート」の名称・呼称が使用された時期もある。
しかしながら、1970年代に電子写真方式及び銀塩写真方式による版下から直接プレートを作成するダイレクトプレート、カメラプレートと称される軽印刷向けの高感度プレートが商品化されており、830nmの赤外レーザー光源を使用するサーマルプレート、フォトポリマープレートは「CTP」「Computer To Plate」の呼称が一般化する展開に至っている。


サーマルCTPプレート「プレートの二重表記」



「CTP」の呼称は、2000年代初頭には完全に定着したが、デジタル印刷機による「Computer To Press」との混同も生じやすく、「CTPプレート」の重複表示がカタログ等々で使用されるケースが一般化している。Computer To Plateシステム用プレートと解釈すれば不自然な「プレート重複表示」問題も解決できる。

以上




[印刷]の今とこれからを考える 

2017-04-04 14:22:00 | 月例会


        「印刷図書館クラブ」月例会報告(平成29年3月度会合より)

●技術という手段に振り回されないようにしたい

今は「技術という手段」に振り回され、手段を利用すれば目的が叶うという「手段の目的化」があまりに多過ぎるように思われる。産業の情報化から情報の産業化に進んでいくと、その情報産業は、つぎつぎと“新しい手段”を提供することで事業を維持しようする。とくにデジタル化は、想像を絶するほどの有効な価値を内に秘めている半面、利用しているはずの情報量に翻弄され、資源の浪費につながりかねない。ハイテクなデジタル化の進展は、アナログの特徴であるハイタッチの領域(人と人との温もり)を狭め、思考と記憶と判断という脳機能をも衰弱させるマイナス面も抱えている。フェイス・トゥ・フェイスの認識とそれ以外の文章その他による情報の認識とでは、大きな違い(信用と疑心)があるが、この点をもっと熟考する必要がある。デジタル化はコミュニケーションの劣化も起こすと考えられので、ITをコミュニケーション手段として上手に使いこなし、その差を埋めてこそ、デジタル技術を利活用した知恵化が可能となる。


●自社を客観的に観て進むべき方向を見出そう

「受け身で成長できて、やって来られた、受け身の方がロスなく、クライアントにとっても都合がよかった」というのが、大方の印刷業に共通した来し方ではなかっただろうか。その来し方を顧みて初めて、〇〇プロバイダーのどこを狙うべきか? 自社にとって有利で妥当なのかが見えやすくなるのではないかと思われる。自社を教科書どおりに企業分析して、一番手っ取り早く、しかも堅実におこなえる個々の道を峻別して、そこに意識を集中するべきではないか。まずは基本に回帰して、自社を客観的に観る必要がある。そう心がけると、いろいろと見えるようになる。その結果、自らの進むべき方向もわかるようになる。じっくり検討することで“博打”にならない堅実な戦略・施策が定められるようになる。ただし、他人(激変する経営環境)の責任に転嫁しないようにしたい。さもなければ金太郎飴の印刷業者ばかりになって、厳しいレッドオーシャンの世界から抜け出ることはできない。


●“三方良し”のマーケティングを成り立たせたい

しかし、そこには大きな課題がある。「マーケティング」である。現在のメディア業界が進めているマーケティングは、拡販・販促、買わせる企て、売り込む施策に偏っている。共生や共創を提唱する現代のマーケティング論との間には、大きなキャズム(溝)があるように思われる。パブリックリレーション、セールスプロモーション、さらにはコーポレートコミュニケーションのいずれも、印刷会社から顧客企業への一方通行(支援と自称する伝達)の息を脱していない。顧客企業と消費者の間をつなぐ双方向のコミュニケーションを支援するという共創が、これからのマーケティングの基軸になるのではないか。印刷会社を交えた3方向のコミュニケーションは、マーケティングプロセスでも、またビジネスプロセスでも未発達な段階にある。その点、中小の印刷会社は顧客の現場と密着して、個客との個別対応を機敏に、かつ柔軟におこなえる強みを生かせるに違いない。


●「〇〇プロバイダー産業」への再定義は自ずと……

持続可能な印刷企業となる前提は、派手さやトンガリ化とは逆の、地道だが真摯な印刷業の神髄を追求することにある。マーケティングの最終目的は、広告や宣伝を不要にすることといわれている。そんなマーケティングの本質を再認識し、印刷業の位置づけと方向性について印刷産業人が意識共有できたら、これからの印刷を幾つかの「〇〇プロバイダー産業」へと再定義していけるのではないか。身近な例でいえば、街の商店は商品を販売して売上げを増やしたいという課題(ニーズ)をもっている。印刷会社は、地元の消費者に買いたいと思わせるチラシやパンフレットの製作を提案すればよい。それがマーケティング支援、ソリューション(解決策)提供の意味である。そこに投入する手段が販促に役立つ企画、品質に優れた印刷メディアであり、いま風にいえばITや電子メディアとなる。分化されたかのような印刷産業のあり様が今後より一層深耕されていくと、いずれは再び統合へ向かい、その過程で産業内部から創発が生まれ、印刷業の再定義が自然と打ち立てられるような気がする。それは、これまでとは違うマーケティングのかたちであり、ソリューションプロバイダーであり、コミュニケーション・プロバイダーの位置づけとなるのではないか。印刷業を取り巻くステークホルダー、とりわけ一般の消費者、生活者との共生、共創を可能とするコミュニケーション・サービスが実現できるのではないだろうか。


●景気後退の影響をひとまず免れた米国印刷産業

 米国印刷産業(プリンターとしての製造業)の2016年における経営動向はどうだったのだろうか?  景気後退が懸念されていたものの、大統領選挙などの要因もあって2016年の米国経済と印刷市場は比較的堅調を維持し、印刷業全体の売上利益率はそれほど落ち込まずに済んだ。2012年以降、5年間の推移は1.8%-2.7%-2.6%-3.0%-2.7%で来ている。しかし、トップ四分の一に属するプロフィットリーダーのそれは9.5%(前年10.3%)だったのに対し、それ以外の印刷企業の平均は0.4%(同0.6%)に過ぎなかった。両者の差は景気好況期に入った2011年以降、縮小の傾向にあるとはいえ、景気低迷期には両者の間隔がどんどん開いてきた過去があり、今後、差が縮まっていくという予測は立てにくい。


●生産性の違いで利益率にこれだけ大きな差が…

 なぜ、このような差が出るのか。企業規模の違いでみてみると、プロフィットリーダーの場合は、“規模の経済”を享受できる大企業が利益率が極端に高く、全印刷業対象でも規模が大きくなるほど利益率が高まる傾向にある。また、従業員一人当たり利益額でもプロフィットリーダーは、全印刷業平均の3.6倍もの水準となっている。プロフィットリーダーは、より少ない人数でより多くの生産量を上げていることがわかる。そこで生産指標をみてみると、従業員一人当たりの売上高/付加価値額、工場従業員一人当たりの売上高/付加価値額のいずれも、プロフィットリーダーの方が全印刷業平均より際立って高い数字を示している。両者の大きな差から、工場現場における生産効率(とくに設備生産性)をいかに高めているか、外注費や材料費、営業費や管理費の抑制をいかに実現しているかが読み取れる。将来の設備投資を念頭に減価償却枠もきちんと確保していくというキャッシュフロー指標においても、プロフィットリーダーの方がはるかに優れており、長期戦略の面でも余裕があることが伺われる。
 ※参考資料=FLASH REPORT, 2017.1 / Dr. Ronnie Davis (Senior Vice President); PIA


●印刷文化を大切する気持で経営の基盤づくりを

 印刷業界の出荷高はGDP弾性値1.3で推移してきた。日本経済の成長に伴って印刷業界も発展することができた。しかし最近は、その整合性が成り立たなくなった。将来を予測できる何らかの指標が欲しいところだが、分子となるべき印刷産業の枠組み自体が変わったために、GDP対比では読み切れない状況が続く。産業の土俵をたんなく印刷ではなく、情報とかメディアなどの切り口から設定し直す必要がある。印刷産業の再定義が叫ばれている所以だ。製造業としての業態を離れて「コンテンツ・ファーストで」といわれるが、そのコンテンツをどう磨き活用するか。鋭いマーケティング感覚で取り組んでいかなければならない。産業としての方向性が見出せないなかで、それでも、印刷各社はポートフォリオに基づいて自社の事業領域を選択する必要がある。得意技を磨き上げて強みとし、それを持続できる経営基盤と仕組みを確立しなければならない。何をもって企業のビジョンとするか。印刷文化を大切にする気概をもって熟考してほしい。

 ※長期にわたって連載してきました本稿も、今回をもって終了とさせていただきます。