印刷図書館倶楽部ひろば

“印刷”に対する深い見識と愛着をお持ちの方々による広場です。語らいの輪に、ぜひご参加くださいませ。

月例木曜会(2014年5月)

2014-05-20 15:39:08 | 月例会
[印刷]の今とこれからを考える 

      「印刷図書館クラブ」月例会報告(平成26年5月度会合より)


●コンテンツから印刷メディアの機能を捉え直す

 メディアには印刷、放送、インターネットがあり、次第にインターネットの方にシフトしている。メディア全体では拡大しているのに、印刷分野だけはなかなか増やしていけない。メディア論を若い人たちに話すと、印刷についても興味をもってもらえるのに、非常に残念な気がする。情報が爆発している現在、印刷業の定義をもう一度見つめ直してみるべきではないか。メディアに載せる中味(コンテンツ)で生きることの重要性に思いを馳せなければいけない。情報の流れは今やインターラクティブになっていて、発信側である企業と受信する生活者との間を行き交っているのだ。それも生活者を基点にしてである。双方を取り持つコンテンツをどうメディアに載せるかを真剣に考える必要がある。生活産業の典型といわれる割に、なぜか印刷会社ほど生活者に関心が向かない。要望や課題を聞きに行かず、顧客支援の役割を果たせていないのだ。印刷営業は相変わらず、担当営業マンが固定客となった得意先に行って、定期的に注文を取ってくるのが優秀とされている。営業体制や仕事内容が少しも変わっていないように思われる。メディアとしての印刷物の機能や効用を、顧客に提案できるように脱皮しなければならない。


●女性社員を増やせば印刷会社も変われる

 印刷業界はもともと女性向きの世界なのではないか。カラーを見るのが得意だし、デザインにしても非常に繊細な側面がある。社員の構成を男女半々にしたら、業態も自然に変わるのではないだろうか。女性をどう採り入れたらいいかを考えれば、印刷業界の将来は大きく開ける。各地の雇用を増やす責任が地域に生きる印刷会社にはある。そのためには、女性の感性に適した職能を用意しなければならない。例えば営業についていえば、従来のような品質、価格、納期を武器に売上げを競わせるのではなく、ホテルのコンセルジュのような要素をもって働いてもらうとか、さまざまなやり方がある。女性の専門職となったブライダルプランナーの仕事は参考になる。時間給(歩合給でないということ)で親切丁寧にかつ余裕をもって働く女性のタクシードライバーが増えている時代。各地の印刷会社で、近隣の商店街だけを受け持ち商店と親しくなりながら、いつの間にか印刷物を受注してくる女性営業マンが増えてきても不思議でない。印刷の仕事と女性との結び付きをもっと社会に見せることに、印刷業界として取り組むべきである。


●印刷業界もまだまだ捨てたものではないぞ……

 印刷専門学校の新入生向けオリエンテーションで、興味深い話が聞かれた。印刷から感じるイメージは何かと尋ねたところ、紙、インキ、カラー、本、新聞など一般的な回答があったなかで、「父親」という答えが返ってきた。同席していた別の学生からは「自分は答えられず悔しい。ショックを感じた」との発言があった。このような場所で答えた勇気に感動したからだが、根底には、父親からいずれ会社を譲られることに対する感謝の念があるからだと思われる。印刷の業界も捨てたものではないと感じた。印刷関係者はもっと自信をもつべきである。


●教育、記憶の側面からみたアナログの効用とは

 アメリカでは、子供たちが生まれたときからタブレット端末に親しんでいて、「ネイティンブ・タブレット」という言葉があるくらい社会問題になってきた。学校教育では紙の教科書が不要になっている。しかし、人間は反射光の世界に生きていて、反射光による情報の方が前頭葉に記憶として残せるとされている。透過光では頭のなかを素通りしてしまう。情報を圧縮し反射光で見せる印刷メディアの効用が、ここにある。夜になり眠くなるのは、紫外線が目に入ってこなくなるからだ。タブレット端末や携帯端末のモニターを見続けていると、バックライトのLED光がいつまでも目に入ることになり、生体そのものばかりか人間の生活も変えてしまいかねない。悪影響は積分で累積されるので、気がついたときには遅すぎるほど恐ろしい事態を招く。デジタルデータの利点が強調されているが、情報を採り入れる最終段階(読む時点)で人間がアナログ化しているに過ぎない。表示装置が紙の領域に少しでも近づくよう、透過光による電子ディスプレイから反射光を使った電子ペーパーに移行していくことが望ましい。


●LED光の普及が「テクノストレス現象」を高めている

 液晶ディスプレイを見過ぎることによる「テクノストレス現象」は、アメリカだけでなく日本においても指摘されるようになってきた。なかでも、パソコン画面を見続ける長時間作業に伴う「VDT症候群」は、心身に生じる現象の総称として社会問題化している。眼精疲労はもちろん、肩こり、不眠、腰痛といった健康障害を引き起こす原因とされている。パソコン作業をしていて真っ先に感じるのは目の疲れだが、これは人間の眼と液晶画面の発光体との関係から起こる。青色LEDが実用化され、バックライトのLED化が一段と進んだことで、ブルーライトやフリッカーの問題が表面化してきた。LEDを使った液晶画面でも、カラーフィルターとの組み合わせでバックライトの白色光がつくられるのが、ブルー域については青色LEDからの光そのもので、画面の明るさ(輝度)を上げても下げてもブルー成分の光の相対的大きさは変わらない。それにも関わらず、バックライトの光を長時間、しかも直接、目で見続けてしまうところに問題がある。人間の目と発光体と間に生じる相性、相互作用について、再考すべきときがきているのだ。


●人間生活への影響に科学的な検証と早期の警鐘を

 人類は誕生この方、光源(太陽など)からの反射光、散乱光で物体をみてきた。刺激の強い紫外線や青色光はもともと散乱作用が大きく、目にする白色光のなかにはそれほど多く含まれていない。しかし、青色LEDを使った液晶ディスプレイからは、エネルギーの強いブルー光が大量に出ている。それを、ブルー域に対して視感度の鈍い人間の眼が懸命に見てしまう。しかも、明るさに対する反応も弱いので、強力なブルー光をそのまま受け入れてしまっている。睡眠などの生体リズムをコントロールする光受容体(明るさに反応する桿体、色に反応する錐体以外の第三の受容体)に対する悪影響も懸念される。LED画面の視覚的な明るさは、バックライト光源を点滅させる間隔を調整することで表現される。点灯と消灯を繰り返すスピードを速めれば、それだけ明るくなる仕組みだ。明滅の残光がほとんどないため、低輝度ほど消灯時間が長くなって、フリッカー(ちらつき)現象が起きやすい。普段はこの明滅をはっきり感じなくても、知らぬ間に目に負担をかけることになる。輝度を上げればブルー光問題、下げればフリッカー問題が発生する。人間生活に大きく関わる以上、科学的なデータに基づいた検証に着手すべきだろう。


●朝鮮の印刷文化を学び日本の印刷文化を知ろう

 印刷の博物館で、朝鮮における金属活字の誕生を紹介する企画展が開催される。朝鮮の印刷文化に触れることで、日本の印刷文化をも深く考えるまたとない機会になるだろう。注目されるのは、現存する世界最古の金属活字本『直指』(白雲和尚抄録仏祖直指心体要節)。これは1377年に清州の興徳寺で銅活字を使って印刷・出版された書物で、グーテンベルグの「42行聖書」より3四半期も前、中国で金属活字印刷が始まったときより2世紀以上も前という画期的な事業だった。その製造法とは、まず黄楊を使って種字を彫り、その木製父型で砂の鋳型をつくってから、銅活字を鋳込むというやり方だった。作成された活字は稙字盤に組版され、蜜蠟で固定されていった。動かなくした点がグーテンベルグ方式とは決定的に異なっている。朝鮮は世界に先駆けて金属活字の実用化に成功した国となったのである。とはいっても、高麗時代の活字(鋳字)印刷の起源ははっきりせず、ずっと以前の文宗朝(1047~1083年)説、貨幣鋳造と同じ1102年説などがある。高麗時代の前期に仏教と儒教の二大文化が発展し、鋳字印刷も中央官庁から始まって、後期には『直指』のように地方の有力寺院でおこなわれるようになったという背景がある。


以上