[印刷]の今とこれからを考える
「印刷図書館クラブ」月例会報告(平成25年3月度会合より)
●改行・1字下げから気づくことは何か
文章表現に関して、組版ルール上ぜひ確認してほしいのは、例えば小学校の作文の授業で行を替えるとき、文章のアタマを1字下げることを誰が教え始めたのかということである。手紙の場合でも、美的感覚で無意識に「拝啓」を1字下げて書いてしまうが、本当のところは誰も教えてくれない。行替えして段落を分けたとき、文章が表している場面や状況が変わるのが一般的だ。表音文字を使う欧文では、ひと目で理解しやすいように1行あけて書くことが多い。表意文字からなる日本文でも、アタマを1字下げずに、1行あけた方が尚更わかりやすい。書き手の意思を表現したいときにきわめて有効なのだから、もう一度考え直してみたらいかがだろうか?
●句読法を勉強し直して、正しい組版を
「?」や「!」を使ったときに、その後の文字との間をあけることを教えられたが、どちらも「。」や「、」とは異なる変形であり、字間を詰めて組版するのは基本的に間違いなのだ。その昔、英文タイプライターを使っていた頃、誰もが自然にスペーシングをしていたのに、いつの間にか忘れ去られてしまった。句読法について、きちんと教えていかないといけないと思う。和文における1字送りなど、英文と同化させて採り入れる能力、しかも、明治初期の数年で印刷物に採用してしまえる“瞬発力”を、日本人はもっている。原点に戻って再考したいものだ。
●「大福帳」から学べる一覧性の強み
印刷は空気や水と同じように当たり前の存在になった。なくなったら大変だという意識が希薄になっている。人類史上、最大の発明は印刷といわれているにも関わらず、その点は残念に思う。コンピュータ関係者は、かつて日本の商店で使われていた「大福帳」に注目しているという。取引の結果を時系列的に書いていくのが特徴なのだが、ひと目で経過を想い起こすことのできる効果が再認識されている。そこには生活の知恵がある。聖書や仏典などの印刷物は布教に欠かせないツールとなってきたが、2段組でわかりやすく読ませるグーテンベルクの「42行聖書」をはじめ、印刷物がもっている一覧性という特徴は、デジタルメディアにはない強みだろう。
●デジタル技術で工芸を表現してみたい
昔からの伝統技術と今の最新技術を、高いレベルで組み合せることを考えてほしい。例えば、インクジェットプリンタを捺染分野に用いて製作した、安価な柄ものの繊維が市場にたくさん出回っている。当初は、高級品をつくるために導入したはずなのに、技術的に簡単につくれるという便利さが優先されてしまった。手工業でつくったものと遜色のない最高品質の製品を、少数でもいいから丁寧に複製できたらと思う。伝統的な捺染の工芸をインクジェットプリンタで表現できないものだろうか? どこまで肉薄できるか、ぜひ見てみたい。
●固定観念を打破しデジタル印刷機を使う
印刷会社が既存のオフセット印刷機と併用するかたちでデジタル印刷機を導入すると、どうしてもデジタル印刷機の方を下にみてしまいがちだ。伝統的な印刷会社の場合、デジタル印刷部門をつくっても、なかなか成功しにくい傾向がある。従来のオフセット印刷部門をボリュームゾーンとしているからで、デジタル印刷と使い分けるときも、たんに刷り部数が基準になってしまう。その点、新規に印刷業界に参入してきた企業は、顧客ニーズに合わせてデジタル印刷機を活かそうと懸命に工夫している。デジタル印刷機を活かして成功を収めたいと考えるなら、どうしても顧客志向のマーケティング戦略を採り入れた取り組みが必要になるだろう。
●プリントマネジメントにしっかりと対応しよう
顧客企業の側に立って、印刷発注管理のすべてを引き受けるプリントマネージャー。欧米では成り立っているが、日本では難しい状況にある。欧米のように日本でもコンテンツの一元的活用が重視される時代が来て、印刷物の発注についても専門的なマネジメントが必要になるはずといわれてきたが、実態はなかなかそうなっていない。ワンストップでサービスが可能な統一したプラットフォームがないからだろう。印刷会社サイドでも不思議なことに、例えばインキの仕入れは工場長が権限をもち、紙については営業部が“勝手に”手配したりしている。しかし、この仕組みがいったん確立されると、品質や納期、料金を守ることを要求され、印刷会社が生産の下請け化を余儀なくされる。中小印刷会社の場合は営業力を阻害されてしまう恐れがある。
●気概をもった社員を人材に育てよう
日本人は部分最適を得意としているが、残念ながら全体最適をプロデュースする力に欠けている。どういう理念のもとでどんな製品をつくりたいのかという目的をもった人が少ない。奇想天外な考え方をもった人が必要なのだが、そういう人材はなぜか社内から“蹴飛ばされて”しまう。日本の企業は平均値的にみれば上位にあるのだろうが、気概をもった社員の足を引っ張ってしまうところがあり、もう一歩上に行けない。いい意味での“変人”を使いこなせる経営トップがいるかどうかで、企業の事業能力は決まってしまう。心したいところである。
●経営トップにはビジョンを示す責任がある
蟻や蜂などのコロニーをみると、働いて群れを引っ張る層、中心で群れを形成している層、群れに寄り掛かっている層が3:4:3の割合で構成されている。人間がつくる企業もほとんど変わりはない。当然、リーダーシップを執る層が重要で、欧米ではこの層を重視しているが、日本では真ん中の組織維持層を大切にする。しかし、中心の多数派が企業にイノベーションをもたらすことはない。日本ではどうしても中庸を重んじるので、企業が思いどおり伸びない状況になってしまう。経営ミッションが社内に行き渡っていれば成長できるのだが、トップが最初から諦めて打ち出そうとしない。未来を破壊するくらいの発想が必要になる。よく言われる2:6:2は衰退、そして1:8:1は消滅の道を辿るとされる。これを3:4:3以上に引き上げることを組織改革という。
●新しい協業のあり方を探っていくべきだ
産業界には、提案営業に始まる入口から製造工程、さらにデリバリーする出口まで、一気通貫に統合させた受発注の仕組みをつくろうという動きがある。資材の調達先はもちろん、発注サイドである顧客まで巻き込んで、従来の業界の枠組みを超えた広域なバリューチェーンを構築しようとしている。印刷でいうなら、広告、出版といったこれまで顧客とみてきた業界とも対等な関係で連携し、顧客価値創造のビジネスネットワークを築いていくという方向である。デジタル情報が自在に行き交うIT時代に相応しい新しい協業のあり方、ITを活用しながら付加価値を生み出していける仕組み、印刷会社として生き延びられる方法を考え直す必要があるだろう。
●これからはマーケティングが欠かせない
現状を何とかしたかったら、ビジネスのかたちを変えるしかない。日本の印刷会社にはマーケティングがないといわれる。御用聞きに終始し、モノとしての印刷物を製造することに拘っている。広告やデザインなどマーケティング提案できる川上業界に、有利な立場に立たれてしまっている。伝統的な技能はこれまで強力な財産だったが、デジタル情報、ソフト・サービスの時代ではむしろマイナスに作用してしまう。強みである工業と工芸を上手に融和させたうえで、顧客のビジネス課題を解決できる有益な印刷メディアを的確に提供していくことが求められる。
「印刷図書館クラブ」月例会報告(平成25年3月度会合より)
●改行・1字下げから気づくことは何か
文章表現に関して、組版ルール上ぜひ確認してほしいのは、例えば小学校の作文の授業で行を替えるとき、文章のアタマを1字下げることを誰が教え始めたのかということである。手紙の場合でも、美的感覚で無意識に「拝啓」を1字下げて書いてしまうが、本当のところは誰も教えてくれない。行替えして段落を分けたとき、文章が表している場面や状況が変わるのが一般的だ。表音文字を使う欧文では、ひと目で理解しやすいように1行あけて書くことが多い。表意文字からなる日本文でも、アタマを1字下げずに、1行あけた方が尚更わかりやすい。書き手の意思を表現したいときにきわめて有効なのだから、もう一度考え直してみたらいかがだろうか?
●句読法を勉強し直して、正しい組版を
「?」や「!」を使ったときに、その後の文字との間をあけることを教えられたが、どちらも「。」や「、」とは異なる変形であり、字間を詰めて組版するのは基本的に間違いなのだ。その昔、英文タイプライターを使っていた頃、誰もが自然にスペーシングをしていたのに、いつの間にか忘れ去られてしまった。句読法について、きちんと教えていかないといけないと思う。和文における1字送りなど、英文と同化させて採り入れる能力、しかも、明治初期の数年で印刷物に採用してしまえる“瞬発力”を、日本人はもっている。原点に戻って再考したいものだ。
●「大福帳」から学べる一覧性の強み
印刷は空気や水と同じように当たり前の存在になった。なくなったら大変だという意識が希薄になっている。人類史上、最大の発明は印刷といわれているにも関わらず、その点は残念に思う。コンピュータ関係者は、かつて日本の商店で使われていた「大福帳」に注目しているという。取引の結果を時系列的に書いていくのが特徴なのだが、ひと目で経過を想い起こすことのできる効果が再認識されている。そこには生活の知恵がある。聖書や仏典などの印刷物は布教に欠かせないツールとなってきたが、2段組でわかりやすく読ませるグーテンベルクの「42行聖書」をはじめ、印刷物がもっている一覧性という特徴は、デジタルメディアにはない強みだろう。
●デジタル技術で工芸を表現してみたい
昔からの伝統技術と今の最新技術を、高いレベルで組み合せることを考えてほしい。例えば、インクジェットプリンタを捺染分野に用いて製作した、安価な柄ものの繊維が市場にたくさん出回っている。当初は、高級品をつくるために導入したはずなのに、技術的に簡単につくれるという便利さが優先されてしまった。手工業でつくったものと遜色のない最高品質の製品を、少数でもいいから丁寧に複製できたらと思う。伝統的な捺染の工芸をインクジェットプリンタで表現できないものだろうか? どこまで肉薄できるか、ぜひ見てみたい。
●固定観念を打破しデジタル印刷機を使う
印刷会社が既存のオフセット印刷機と併用するかたちでデジタル印刷機を導入すると、どうしてもデジタル印刷機の方を下にみてしまいがちだ。伝統的な印刷会社の場合、デジタル印刷部門をつくっても、なかなか成功しにくい傾向がある。従来のオフセット印刷部門をボリュームゾーンとしているからで、デジタル印刷と使い分けるときも、たんに刷り部数が基準になってしまう。その点、新規に印刷業界に参入してきた企業は、顧客ニーズに合わせてデジタル印刷機を活かそうと懸命に工夫している。デジタル印刷機を活かして成功を収めたいと考えるなら、どうしても顧客志向のマーケティング戦略を採り入れた取り組みが必要になるだろう。
●プリントマネジメントにしっかりと対応しよう
顧客企業の側に立って、印刷発注管理のすべてを引き受けるプリントマネージャー。欧米では成り立っているが、日本では難しい状況にある。欧米のように日本でもコンテンツの一元的活用が重視される時代が来て、印刷物の発注についても専門的なマネジメントが必要になるはずといわれてきたが、実態はなかなかそうなっていない。ワンストップでサービスが可能な統一したプラットフォームがないからだろう。印刷会社サイドでも不思議なことに、例えばインキの仕入れは工場長が権限をもち、紙については営業部が“勝手に”手配したりしている。しかし、この仕組みがいったん確立されると、品質や納期、料金を守ることを要求され、印刷会社が生産の下請け化を余儀なくされる。中小印刷会社の場合は営業力を阻害されてしまう恐れがある。
●気概をもった社員を人材に育てよう
日本人は部分最適を得意としているが、残念ながら全体最適をプロデュースする力に欠けている。どういう理念のもとでどんな製品をつくりたいのかという目的をもった人が少ない。奇想天外な考え方をもった人が必要なのだが、そういう人材はなぜか社内から“蹴飛ばされて”しまう。日本の企業は平均値的にみれば上位にあるのだろうが、気概をもった社員の足を引っ張ってしまうところがあり、もう一歩上に行けない。いい意味での“変人”を使いこなせる経営トップがいるかどうかで、企業の事業能力は決まってしまう。心したいところである。
●経営トップにはビジョンを示す責任がある
蟻や蜂などのコロニーをみると、働いて群れを引っ張る層、中心で群れを形成している層、群れに寄り掛かっている層が3:4:3の割合で構成されている。人間がつくる企業もほとんど変わりはない。当然、リーダーシップを執る層が重要で、欧米ではこの層を重視しているが、日本では真ん中の組織維持層を大切にする。しかし、中心の多数派が企業にイノベーションをもたらすことはない。日本ではどうしても中庸を重んじるので、企業が思いどおり伸びない状況になってしまう。経営ミッションが社内に行き渡っていれば成長できるのだが、トップが最初から諦めて打ち出そうとしない。未来を破壊するくらいの発想が必要になる。よく言われる2:6:2は衰退、そして1:8:1は消滅の道を辿るとされる。これを3:4:3以上に引き上げることを組織改革という。
●新しい協業のあり方を探っていくべきだ
産業界には、提案営業に始まる入口から製造工程、さらにデリバリーする出口まで、一気通貫に統合させた受発注の仕組みをつくろうという動きがある。資材の調達先はもちろん、発注サイドである顧客まで巻き込んで、従来の業界の枠組みを超えた広域なバリューチェーンを構築しようとしている。印刷でいうなら、広告、出版といったこれまで顧客とみてきた業界とも対等な関係で連携し、顧客価値創造のビジネスネットワークを築いていくという方向である。デジタル情報が自在に行き交うIT時代に相応しい新しい協業のあり方、ITを活用しながら付加価値を生み出していける仕組み、印刷会社として生き延びられる方法を考え直す必要があるだろう。
●これからはマーケティングが欠かせない
現状を何とかしたかったら、ビジネスのかたちを変えるしかない。日本の印刷会社にはマーケティングがないといわれる。御用聞きに終始し、モノとしての印刷物を製造することに拘っている。広告やデザインなどマーケティング提案できる川上業界に、有利な立場に立たれてしまっている。伝統的な技能はこれまで強力な財産だったが、デジタル情報、ソフト・サービスの時代ではむしろマイナスに作用してしまう。強みである工業と工芸を上手に融和させたうえで、顧客のビジネス課題を解決できる有益な印刷メディアを的確に提供していくことが求められる。