印刷図書館倶楽部ひろば

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印刷業界における「女子力」活用の必要性

2012-10-17 10:51:09 | 印刷業界を語る
倶楽部メンバー尾崎章様(グラフィックアーツ テクニカルコンサルタント)による寄稿です。
尾崎様は、「Ozaki techninal Report」を編集・発行されており、このたび、最新号vol.95より下記部分を抜粋・寄稿いただきました。


印刷業界に於ける「女子力」活用の必要性

日本女子の活躍が目立ったロンドンオリンピック、銀メダルを獲得して実力を世界に示した女子サッカー「なでしこ」の出発便がエコノミークラスで男子サッカーのビジネスクラスと差別がつけられていた事に海外メディアが注目、日本サッカー協会に「男女格差」として批判が集中した事は意外に知られていない。
帰国便はビジネスクラスになったものの日本の男女格差が如実に表れた好事例となった。

先進国で最下位の男女平等格差ランキング
毎年秋に世界経済フォーラムが発表する男女平等格差ランキング「ジェンダーランキング」の2011年度データによると日本は98位、先進国のなかで最下位となり前年2010年の94位より更に順位を落とした。ランキングのベスト5は、①アイスランド ②ノルウェー ③フィンランド ④スウェーデン ⑤アイルランドと北欧圏諸国が独占している。ちなみに米国は17位、ドイツ11位、イギリス16位 カナダ18位 スイス10位等が続いている。
同レポートで女性管理職の比率を見ると0.5以上に米国、フランス、ドイツ、イギリスが並び、米国は0.7を超える水準にある。日本は韓国と同じ0.1レベルとなり先進国で最低水準である。ゴールドマン・サックスでは、日本がジェンダギャップを解消、先進国の平均レベルに上昇した場合、国内総生産GDPが16%伸長するとの試算を発表している。

女性雇用者比は、43%
1986年に男女雇用均等法が施行され、その年の女性雇用者総数1534万人に対して2010年度で2329万人と大きく女性雇用者数が拡大、雇用者全体の43%を女性雇用者が占める状況に至っている。
しかしながら、47%以上のフランス、スウェーデン、デンマーク、ノルウェー、カナダ、米国とは4%以上の差があり、日本より下位の国は韓国、イタリア程度である。
女性管理職比率に関しては、「2011年度・雇用均等基本調査」(厚生労働省)のデータによれば、係長相当職以上の管理職に於ける女性比率8.7%が報じられている。
前回調査(2009年度)の8.0%からは増加しているものの、まだまだ低レベルにある。

[2011年度 雇用均等基本調査](厚生労働省)
女性管理職比率    係長相当職   11.9%
課長相当職    5.5%
部長相当職    4.5% 
海外では種々の男女格差補正措置が導入され、政治に関しては議員の一定比を割り当てる等の措置が既に87か国で導入されている。一方、経済面に関してはフランスが2017年迄の時限立法で上場企業の取締役・監査役の40%を女性に割り当ている措置を行い、未対応企業は社名公表等の制裁措置も設けている。オランダ、スペイン等も同等の制度を設けており国策レベルでの男女格差補正が展開されている。
当前の事として出産・育児への配慮も産休対応は元より保育施設、企業内託児施設の整備・充実等々が図られ保育所待機が当たり前の日本とは比較にならない状況にある。
こうした状況に応じて一部の日本企業も漸く前向き展開を開始しており、化粧品大手の資生堂では女性管理職比の目標値を定めて積極的な補正を開始する等のケースが見られる様になっている。

印刷関連業界の女性雇用比の状況
では印刷関連業界の女性雇用比の状況はどうであろうか。日本印刷技術協会では印刷業界の女性雇用比率(推定値)を約25%とコメントしている。
新聞・通信業界では、日本新聞協会より加盟99社を対象とした「2011年従業員数・労動構成調査」データが公開されており、同データによれば全就業者数44.962名の内、女性就業者は6.902名、女性雇用者比は15.3%と国内平均43%よりもかなり低いレベルにある。
業態別では、民間放送22.0%  新聞15.4% 出版34.5% NHK日本放送協会11.8%と出版分野のみが30%を超えたものの依然として男性優位の状況にある。
印刷業界は、デジタル化等により作業環境は大きく改善されたにも関わらず日本印刷技術協会、日本新聞協会の女性雇用比データは、国内平均43%と余りに乖離しており、基本的に前述の日本サッカー連盟と基本姿勢が同レベルに有るのかも知れない。

購買決定権の8割は女性が掌握、印刷企画は女性層を意識しているのか
世界人口の半分は女性、ビジネス拡大、需要創生を図る上で女性雇用比を男女ほぼ同等に高める事が重要で、女性雇用対策遅れ、女性活用度の低い企業が遅れを採るとの指摘が多い。
女性需要層をターゲットとしたビジネス成功例にパナソニック及びオリンパスが市場創生したデジタルカメラ・ミラーレス一眼レフがある。2社に続いてペンタックス、ソニー、リコー、ライカ、富士フィルム、キャノンが当該市場に参入、レンズ交換式デジタルカメラの1/2,700万台を超える生産が2011年に行われている。「男の一眼レフ」市場から女性需要がリードして創生した新需要である。
日産自動車がスズキよりOEM調達を行っている軽自動車「モコ」は、日産の女性商品企画グループが女性需要に適合する内外装のブラニングを行い、販売直後より女性需要層に圧倒的な支持を受けて軽乗用車シェア4位を確保、本家のスズキ製品を上回る販売実績を上げている。
印刷各社が重要テーマとして採り上げているフォトブック、米国では18~32才代女性の28%がフォトブックサービスを利用、一般世代の13%に大差をつけている事が報告されている。

更に、都内調査会社が実施した「購買決定権調査」では、物品購買時に於ける女性の決定権が圧倒的に高い事を実証している。

●女性が90%以上 購買決定権を保有する品目 
 1.女性用個人消費財
 2.食糧等の基本食品
 3.日用雑貨
 4.生活関連品目
 5.育児関連品目
 6.健康食品 

●女性が80%以上 購買決定権を保有する品目
 1.飲料等の嗜好食品
 2.インテリア関連品
 3.子供の教育関連品
 4.生活家電
 5.子供の日用品

●女性が65%以上 購買決定権を保有する品目
 1.家具
 2.パック旅行関連
 3.家電


●男性の決定権が女性を上回る品目
 1.自動車
 2.男の個人消費財
 3.AV家電
 4・デジタル家電 
 5.住宅関連    

すなわち、男性が購買決定権を保有する自動車等5項目以外は全て女性が高い購買決定権を保有する事になり、当該商品のカタログ、チラシ、雑誌広告、ダイレクトメール等の広告媒体は当然の事として「女性が見る」事を意識した印刷企画が必要になる。
しかしながら、印刷デザイン・企画分野の女性雇用比は30%程度と印刷全般の25%よりは高いレベルに有るものの印刷物が「読まれる・見られる環境」とは大きなギャップが生じている事になる。
印刷業界の業態変革手段としてエンドユーザー(消費者)の実態に応じた印刷企画、広告企画対応が取り上げられて久しいが、対応策として「女子力活用」が採り上げられた事は残念ながら無い。
前述の購買決定権調査結果から見ても「デザイン・企画部門」の女性雇用比率が70%以上、「営業企画部門」の女性雇用比が50%以上の印刷企業が存在しても何ら不思議では無い。

当該分野の印刷需要創生を消費者市場と乖離した男性社員がブラニングしても「的外れ」となる可能性は高く、印刷業態変革の一環として女性雇用比の拡大を優先とする必要性が高いと思われる。

(グラフィックアーツ テクニカルコンサルタント 尾崎 章)
 ≪Ozaki Technical Report Vol.95より≫