印刷図書館倶楽部ひろば

“印刷”に対する深い見識と愛着をお持ちの方々による広場です。語らいの輪に、ぜひご参加くださいませ。

月例会報告 平成29年2月度

2017-02-22 13:17:58 | 月例会
[印刷]の今とこれからを考える 

        「印刷図書館クラブ」月例会報告(平成29年2月度会合より)

●コミュニケーション・サービス・プロバイダーへの道

 印刷業がコミュニケーション・サービス・プロバイダーをめざすには、どのように対応しなければならないのだろうか。まずは、個々の印刷会社が進むべき事業領域をはっきりと自覚すべきである。誰しも包括的な総合サービス業をめざそうとするが、たんなる“何でも屋”に陥りやすいので要注意だ。そして、対象とする業界の事情や提供する商材の最終顧客(消費者)の特性を知り、その対象のどんな領域で事業展開していくつもりなのか、その領域でどのような価値を創造し提供していこうとしているのか、そこには、いかなる競合が存在し、どのような競争条件、差別化戦略、ポジショニングでやっていこうというのか。これらを明確に意識する必要がある。顧客に向けて独自の価値を提供できる自社の強みをしっかりと把握したうえで、競争のないブルーオーシャン市場で仕事をやっていけるようになれば、それに越したことはないのだ。


●コミュニケーションの基本方針を明確に決めよう

 次に、印刷業としてのコミュニケーションの基本方針を決めなければならない。コミュニケーションというと、ともすると直接の顧客企業との関係をスムーズにするために取り組むものと受け取られがちだが、そうではない。顧客と“顧客の顧客”である消費者とのつながりを密接にしてあげることを目的としたものでなければならない。顧客企業のマーケティング戦略を協創し支援するものである必要がある。重点とすべき基本方針として考えられるのは、①コミュニケーションを円滑にする市場情報の取得と分析、②コミュニケーションを促進するコンテンツ制作、③同じく印刷物はじめとする各種メディアの製作――などである。これらを上手に組み合わせて、マーケティング支援をベースとした価値あるサービスを提供していけばよい。その際には、販売促進に役立つマーケティング情報をしっかりと収集してほしい。そうでないと、たんなるデータ収集、たんなる印刷物製作に終わってしまう。


●マーケティング・サービス・プロバイダーへの道

 それでは、マーケティング・サービス・プロバイダーという視点で考えたらどうなるか? 最初にすべきは、もう一度、商売の本質を顧みてみることではないだろうか。自社の今月の売上げ、今期の利益、三カ年計画の達成などについ関心が行きがちだが、それよりも消費者や顧客がよく生きるための支援、さらには社会全体への貢献に目を向ける必要がある。いってみれば「どうやって買わせるか」より「どうしたら買っていただけるか」である。顧客視点といいながら、真の顧客起点にはなっていないのが現状なのだ。古来、日本には「顧客第一/社会貢献」という商道文化があり、功利と倫理をバランスよく昇華させてきた。価値創造を主眼とするマーケティング3.0の思想も、顧客にスタンスを置くべきことを指摘している。昨今、経営の世界で唱えられている①カスタマーエクスペリエンス(情と理に基づく顧客の購買経験や消費者の生活体験)②カスタマージャーニー(情報収集に始まり意思決定、購入、使用、廃棄に至る消費行動の満足・感動・感謝の道程)③エンゲージメント(顧客が抱いた商材に対する信頼感、共感・共鳴と次への期待)――マーケティングの着眼点はここにある。


●印刷会社はカスタマージャーニーを意識しよう

 その一つ、カスタマージャーニーの目的は、①顧客企業や消費者の購買・消費行動の各段階のなかに対話の機会を探ること、②顧客・消費者との対話から購買・消費活動を助けるマーケティング手段を見つけること、③顧客企業の商材開発・販売活動と消費者の購買・消費活動を結びつけること――にある。ここでいう対話こそが上記で考えたコミュニケーションそのもの。手段を通して顧客企業と消費者が双方ともお得と感じてもらうことになる。この対話からは、顧客を理解→必要とされる情報の提供→適切な案内→快い取引→満足な消費→信頼の獲得→関与・絆の強化→供給と需要の適正化→市場の創発→知識化→知恵化・文化の育成→企業と消費者に共生、といった望ましい流れが生まれてくる。この間には、多くの顧客接点が存在し、そのつど「4C」(顧客にとってのコスト、価値、利便性、対話)を最適化する情報活動が必要とされる。どんな手段でどの部分にサービスを提供するか。情報提供をお手伝いできる印刷会社がマーケティング・サービス・プロバイダーとなって、両者を取りもつことの意味は非常に大きいのである。 


●自社が得意とする身近なところからスタートしたい

 そうはいっても、最初から専門用語を並べて理想のかたちを論理的に組み立てたいと思っても、実際にはなかなか難しいものがある。全体を考えすぎると前には進めない。抽象的な理論倒れになりかねない。まずは、自分の足場を冷静にみる“虫の眼”を大切にし、そこから全体を見渡す“鳥の眼”で組み立てていくようにすると、ずっと取り組みやすくなる。自分の足場とは自社が得意とする事業領域であり、強みを発揮できる市場分野である。そこを出発点とすれば、めざしたい方向も明確になり、顧客への提案内容にも具体性が伴ってくるはずである。コンピュータシステムでマクロな市場情報を収集するといっても、中小企業には不可能に近い。それより、顧客を訪ねて直接、個別のニーズを聞き出しシステムに蓄えていくというやり方の方が手っ取り早い。日々のビジネスを展開していくうえで効果的でもある。印刷会社が得意とするところだ。身近なところに拠りどころがあることがよくわかる。


●自社の立ち位置をしっかり固めることが大切だ

マーケティング活動をおこなっていくとき、セグメンテーション(市場細分化)→ターゲティング(顧客の絞り込み)→ポジショニング(差別化した地位の確立)が教科書的な基本となっているが、ポジショニングの対象は自社の製品・サービスについてであることが多い。これを自社の事業領域・得意技と読み替え、セグメンテーションの前にもってくるべきだとする学説もある。特化した市場で事業をおこなう中小企業にとって、学ぶ価値のある考え方となっている。自社の立ち位置がしっかりしていないと、激変する経営環境の雪崩に根こそぎ流されてしまう。デジタル技術云々の前に、精神的な部分の強化が必要だろう。経営理念や長期的な経営方針が確立できていないと、環境変化に対応できない。危うい立地だと自覚したら、ポジショニング替えを急ぐ必要がある。経営ビジョンと経営戦略が明確であれば、経営資源やノウハウは自ずと強化される。市場のニーズをきっちり掴んでいる企業だけが素早く変身でき生き残れる。技術や品質のレベルを押し付けがましく“自己主張”する企業は、非常に脆いという事実を再認識したい。


●自ら現状を把握し将来あるべき姿を見通して……

印刷業に携わる一人ひとりがよりよい仕事を続けるために、気重にならずに気楽に、上からでなく横からの目線で、さらに自分たちを外からみて、進みたい領域がはっきりするようなダイアローグ(発展的・問題解決型・創発型対話)が業界内で起きたらよいと思う。印刷業者と認識している個々の企業が、いま一度、自分たちを自分の目と意思で過去から現在(As is)、これからのあるべき姿(To be)をよく見つめ直し、できること、頑張ればできそうなこと(Can be)をまとめ、業界全体で共有し実行することではないか。個々の印刷会社は、外からの周りの風に追いまくられることなく、まずはじっくりと、自社の現状と将来像に思いを巡らし、経営ビジョンを明瞭にすることが先決ではないか。自社の部門や商材の実績集計については皆熱心でも、外から横から診ることが疎かではないか。コンサルタントなどによる“上から目線”の提唱や業界組織の発信だけに頼らず、方向性や力点、留意点は十分参考にしつつも、それは、個別企業の戦略や施策を策定してくれるものではないことを認識し、個々の印刷会社は自ら自社をよくみて、自らの戦略や施策、具体策を文字どおり自ら判断すべきなのである。

以上 


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