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印刷図書館倶楽部ひろば

“印刷”に対する深い見識と愛着をお持ちの方々による広場です。語らいの輪に、ぜひご参加くださいませ。

「AKB48と“印刷”」 -久保野和行―

2012-12-28 11:24:27 | エッセー・コラム

「AKB48と“印刷”」  -久保野 和行―


日本古来の芸能に落語があるが、その中でも「風が吹いたら桶屋が儲かる」。荒唐無稽のこじ付け話のストリー展開であるが、妙に納得する、だから落語と言えるのかもしれない。これと似た話をこれからするわけだが、その主人公はAKB48である。


つい最近、ギネス世界記録に認定された「最も多くのポップシンガーがフィーチャーされたビデオゲーム」がある。これで思い出されるのが2009年に出版された「もし高校野球の女子マネジャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」(作家:岩崎夏海 ダイヤモンド社)が大ブレイクしました。




私自身、これまで多くのドラッカー本は読んだことはあるが、書店に並んだものは、表紙がアニメタッチのマンガ本スタイルに腰が引けたが、購入し一気に読みきってしまった。著者の岩崎氏の、その後のインタビュー等での発言で、AKB48そのものにプロジェクトに関わってきた体験がベースになっている。登場人物が、現実のアイドルに結びつく面白さが共鳴してベストセラーになった背景が良く分かる。


ここでチョットしたエピソードをご紹介します。
お正月に孫(小学校6年生)が来た時に、「もしドラ」を間違えてマンガ本と勘違いして、私の本棚から取り出したが、表紙のアニメから想像していないほどの活字の羅列に驚いて止めるかと思っていたら、あにはからんや最後まで読破してしまった。

感想は面白かったの一言である。本当かなァーと、チョット疑問に思い尋ねると、ドラッカーもマネジメントは良く分からないが、ドラマのストリーは理解したようだ。


岩崎氏が最初に手にしたドラッカー本、「エッセンシャル版マネジメント基本と原則」(P・F・ドラッカー著 上田惇生訳 ダイヤモンド社)。ビジネス界に最も影響力がある思想家として知られる。東西冷戦の終結、高齢者社会の到来をいち早く知らせるとともに「分権化」「目標管理」「経営戦略」「民営化」「顧客第一」「情報化」「知識労働者」「ABC会計」「コアコピタンス」など、主なマネジメントの理念と手法を考案し、発展させた人です。そのような偉大な人物の書いた本からヒントを得て、分かりやすい内容に脚色して展開した物語が「もしドラ」本です。





幾つかの著作物の中で2002年5月に出版された「ネクスト・ソサエティー:歴史が見たことのない未来が始まる」(ダイヤモンド社)がある。





興味を引いたのが政治にコントロールが利かなくなる。国民がダイレクトに情報キャッチできる環境が現出されると表現している。そのドラッカーが自らの出時目を語る文章がある。


私の名前のドラッカーはオランダ語で印刷屋を意味する。先祖は1510年ころから1750年ころまで、アムステルダムで印産業をやっていた。印刷業では長い間何も変化がなかった。16世紀始め以降19世紀にいたるまで、印刷業ではイノベーションといえるものは何もなかった。


偉大な経済学者のロジックの原点が、もしかしたら印刷業の発想DNAの起点かも知れないと考えると、妙に印刷人としてワクワク感を抱いてしまう。同床同夢の勝手な感覚に陶酔して、流行のアイドルAKB48に私自身が親近感を感じた。(終)

日本人の知恵「豆腐」と「納豆 -久保野和行ー

2012-12-17 14:32:19 | エッセー・コラム

日本人の知恵「豆腐」と「納豆」 

久保野 和行 (2012年11月23日 記)

 降って沸いたような総選挙が始まった。息が詰まる、今。日本の社会情勢の背景には、政治の混迷か、経済の停滞か、原発の環境問題化か、あるいは国境のないインターネット社会のグローバル化と、どれをとってもそれなりのロジックは成り立つが。間違いなく日本人が、自らの国家に閉塞感に覆われていることに嫌気が差している。

 一方では東日本大震災で示した「絆」のキーワードが、まだ捨てたものではない人情の機敏に触れ、安らぎと同時に誇りに思えてきたことは多くの国民が感じた。海に囲まれた島国の独特の文化と伝統を築き上げてきた。別の見方をすれば頑固で閉鎖的で保守的な民族と誤解される面も無きにしに非ず。しかし日本発の言葉が世界共通語で評価されることも見逃せない。「MOTAINAI」がナイロビの女性が発信して環境フラッグになりノーベル賞を受賞することになった。

 しかし最もポピュラーなものが「SEIRI」「SEITON」「SEIKETU」「SEISOU」「SITUKE」の5Sのキーワードこそ、モノ作りが行われている世界のどんな場所には根付いた。

 これの生みの親がトヨタ自動車工業の大野耐一氏である。最初の著書「トヨタ生産方式」(ダイヤモンド社)に出てくる内容が一般化したことで知られる。驚いたことに今でも売り続けている。1978年5月25日第一刷発行から2012年11月12日第108刷発行の隠れたベストセラーになっている。

 しかしこの本の中で私の気に入っている部分は、最後の締めくくりの文章が、最も印象深く記憶に残っている。その一説を列記すれば・・・・・

○古人の柔軟な頭に学ぶ
 話は思わぬところに飛ぶが、「納豆」と「豆腐」とは本来の意味からすれば、お互いに逆なのだそうである。江戸中期の儒者である荻生徂徠がその使い方をまちがえたのだとか、わざと入れかえたのだとか、諸説がある。東北や水戸の名産の「なっとう」は、本来は「豆腐」と書くべきである。豆を腐らしてつくるからである。いま私どもがいっている「とうふ」というのは、「納豆」というのが本来である。豆からつくって四角に納めたものであるからだ。しかし、「豆が腐った」と書いたのでは、だれも「なっとう」を食べたがらないにちがいないが、「とうふ」ならば、白くてきれいだから、「豆腐」と書いても、だれもまさか豆が腐ったものだとは思わないだろう。ということで、両方を反対に用いることにしたといわれる。日本の命名法には、そのほかたくさん面白い例が見られる。これは古来からの日本人独自の発想法でもある。・・・・・・・


 今流に言えばマーケッティングそのものであり、同時にネーミングのセンスのよさが見える。本来日本人は慎み深く、しかしどこかに粋を感じる洒脱な遊び心がある。
大野耐一氏は故人となっても、本というエキスから得るエッセンスは心地良い時間を作り出してくれ、これからも多くの人に語りつがれていくでしょう。











図書 『妝匣(そうこう)の本質』のご紹介

2012-12-12 16:27:37 | 蔵書より

『妝匣(そうこう)の本質』 ―ひたむきに生きる、刷匠たちの念い―



聴き書き  井上英子
発行    笹氣出版/2012年5月31日
体裁    A5判 311頁

≪内 容≫
 本書は、東北大震災が発生した年に創立90周年を迎えた、地元・仙台市の印刷会社、笹氣出版印刷㈱が編纂した記念誌。会社の歴史を辿るべく、以前から収集してきた資料や聞き取り調査の内容を、物語感覚の社史として1冊に綴ったものである。地域に根差した印刷事業を営んでいる同社が「東北の職人の技が刻んだ念い(思い)に光を当て、後世に残す」ために刊行している『文化伝承叢書』の特別編としてまとめられた。

 本書によれば、「ありがとう文化創造企業」をめざしてきた同社の歩みは「いつも新しい活字で、美しい文字で、本を届けたい」との一心で、愚直なまでに一途に信念を貫き通した刷匠(すりたくみ)たちの歴史そのものだったという。そんな同社の姿が一読で理解できる書物となっている。

 タイトルの「妝匣」(そうこう)とは「化粧箱」の意味。人間は皆、裸で生まれるのに、長じて人目を気にしながら心身に何かを装うとする。しかし、問われるのは“飾り気のない生き様”だ。本書はそんな観点から、刷匠(活版印刷工)たちが人生をかけて積み重ねてきた「妝匣」の本道を見極めようとしたのである。

 発行人でもある同社の笹氣幸緒社長は、本書のなかで「笹氣出版印刷のコア(核)は本の印刷。言葉は心であり、真理は不変。人の幸せは人と人とのつながりにあることを、『本の力』で伝え続けたい」と語りかけている。美しい文字で(印刷した)紙の肌触りを感じてもらいながら、先人の心を伝えることにこだわってきた“活字命”の書物であるといってよい。

 巻頭には、社内に開設している『笹っぱ活字館』の紹介も兼ねた「活字と笹っぱのはなし」と題する口絵ページが挿入されていて、印刷人として大変懐かしい。

                     

図書『学術出版の技術変遷論考』のご紹介

2012-12-10 15:52:08 | 蔵書より

タイトル 『学術出版の技術変遷論考』-活版からDTPまで

著者 中西秀彦
発行 印刷学会出版部/2011年12月28日
体裁 21×16㎝ 450頁



≪内 容≫

 グーテンベルクの『42行聖書』を持ち出すまでもなく、印刷術が果たしてきた情報の伝搬拡散の力は、社会そのものを変えてしまったほど大きかった。とくに、人間が得てきた知見を記録し積み重ねていく必要がある学術の分野で、その重要性を再認識できるだろう。印刷術がなければ、近世以降の学術の爆発的発展はなかったに違いない。

 学術出版の印刷術は、グーテンベルク以来ずっと活版組版が主流であったが、1980年代に発達したコンピュータ技術によって俄かに様相を一変させ、今ではパソコンやDTPが活字に取って代わっている。しかし、文字組版に適していない初期のコンピュータシステムを使いこなさなければならなかった印刷関係者の努力は、半端なものではなかったのである。その事実は、歴史上あまり評価されていない。

 本書は、80年代から90年代にかけて体験した学術印刷の電子化の過程と、そこにおける実際の様相をつぶさに記録、考察した、文字通りの“学術”書である。たんに技術の歴史を解説するに止めず、技術変化とそれによって生じた会社組織の変容、さらに学術出版史上の意義について、より深く掘り下げて考察した労作といえる。

 本書で触れられているのは、学術印刷に関する変遷の概要とその特殊性、過去からの印刷術の発展と活版の電子化、電子組版の勃興と発展、DTPの登場、総括と未来への展望についてである。実際に印刷会社の経営者としての立場から、現場で起こった具体的な事例を余すことなく織り込んだ“生きた証言”ともなっている。

活版印刷のコンピュータ化に始まりDTPに至る印刷電子化の、もっとも深い技術史や文化史の流れを見出して、印刷業と学術出版の将来のあり方を問うている。それは、紙媒体を超えた情報の電子的流通、コンテンツ提供のための構造化組版にあるという。