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印刷図書館倶楽部ひろば

“印刷”に対する深い見識と愛着をお持ちの方々による広場です。語らいの輪に、ぜひご参加くださいませ。

月例会 ≪2014年11月度≫

2014-11-26 16:00:40 | 月例会
[印刷]の今とこれからを考える 

印刷図書館クラブ」月例会報告(平成26年11月度会合より)



●印刷媒体の効用を見直す機運が……


 福島原発の事故を機に「製造物責任法」(PL法)の見直しが検討されているそうだ。事故対策のマニュアルを改訂し、しかも印刷物として残そうという話になっている。リスクに対処できる確かな裏付けが求められているのだ。日本では今、地震や津波に対する潜在的な怖れがある。防災マップがなければならないのだが、東京都などでは、小さく畳んで持ち運びできるような印刷物を用意しておこうという方向になっていると聞く。その背景には「印刷物の防災マップをつくって、きちっと体制づくりしてくれ」との声が強まっている事実がある。こうした災害への対策はそのつど部分改正されてきた。それが続くうちに、印刷物のマニュアルが置き去りにされてきた感がある。そもそも、この種の情報を電子媒体ですべて賄おうという考え方にムリがある。PL関連では、製品に貼り付けるシールや表示するパッケージなど、印刷物の利点を役立ててもらえる部分も多い。印刷媒体こそ、しっかりと機能できる領域だと思う。


●立ち位置はどこにあるのかを再考しよう

 このような話は、どんなかたちであろうと、印刷媒体の強みを発揮できる分野が存在することを示してくれる。電子媒体をベースに時代の波は進んでいるが、原点に戻って「印刷媒体は大事だ」と見直してくれている分野がある。印刷業界はこれまで「電子媒体にどう対応すべきか」ばかりを考えてきたが、本来的な重みをもっていることに気づかなければいけない。残しておくべきストック情報、一時的に使うフロー情報を峻別して、印刷媒体の強みを提唱していくことこそ、印刷業界が取り組むべき課題である。普段、何気なく使っている「用語」を正確に定義し直してから、これから歩む道を議論してほしい。新しい用語が次々と出てきて、発言する人もいなくなった。印刷業の存在感がだんだんなくなり“埋没感”も否めない。統一感もなく業界関係者を納得させられなくなっている。どの位置、どの角度から問題提起していくのか、どのポールポジションから再出発したらいいのかを、印刷人はもう一度、見つめ直してほしい。


●印刷業界は今こそ印刷を高く評価すべきだ

 東京オリンピックと大阪万博のとき印刷の技術が一気に発展し、業界はブレークスルーできた。次にオリンピックを迎えるときはどうだろう? その頃には「印刷」という言葉がなくなっている?かも知れないのに、印刷媒体、電子媒体がもつ機能、役割、用途についての明確な分析と定義づけが出て来ない。印刷のコア技術、DNAは何か。原点を考えると、出版関係では経典(聖書)や辞書、商印関係ではカレンダー、さらに業務用では名刺などが思いつく。それぞれカテゴリーは異なるが、これらを以て印刷媒体の基盤を再確認できないだろうか? 工夫することにより、新しく、かつ揺るぎないビジネスモデルをつくれないものか? 和紙に毛筆で書いた文書が世界で一番保存できる媒体といわれる。デジタル情報の場合は、媒体自体と表示装置の方がもたない。信号は変わらないのに、装置のコンバージョンに対応していけない。電子媒体は非常に危ないのだ。マニュアルや規定集の類は永く残しておく必要があるからには、千年は保てるという印刷媒体をもっと高く評価したいものだ。


●印刷の強みを生かすかぎり業界は存続する


 印刷のプロセスの将来は明るく、なくなることはない。しかし、コミュニケーションメディアとしての印刷物の役割は低下している。加工業であった過去から脱却し、需要を掘り起こせるような新たなビジネスモデルを「志」をもって発掘していかなければならない――何よりも意識変革を促すこんな内容の論文がWebサイトに載っている。発信元はアメリカの経営コンサルタントだ。印刷の威力を高める生産方式は多種多様にあり、用途も広範にわたっている。だから、印刷プロセスが生き残ることは間違いないと、この論文は冒頭で強調する。だが問題は、印刷物がもっていたコミュニケーションメディアとしての役割が明らかに低下していることにある。そこで考えなくてはいけないのは、印刷の「強み」である。印刷メディアとデジタルメディアを比較して議論するとき、見落としがちなのがこの観点だという。物流(配送・配布)に弱みはあるものの、読み手にやさしい使い勝手やアーカイブとしての保存機能などの強みがある。そう考えれば、印刷物が完全になくなる運命にあるという指摘は当たらない。費用が多少高くても、特定の用途で一定の効果が期待できるかぎり、印刷物は使い続けられるだろうと予言する。


●業態変革に取り組む「意識」「志」はあるか?

 印刷産業は長い間、加工業としてやってきたが、この固有のビジネスモデルそのものがトラウマとなって、印刷会社を苦しめてきたと分析する。加工業としてのビジネスモデルは、受注-製造-出荷-請求という単純な仕事で構成されていて、既存顧客の要求どおりに受注することが使命になっていた。このことがあまりにも強力な“足枷”になり、新たな需要を掘り起こそうという意識、あえて言えば「志」に欠けていたという。このモデルでは次第に社会から乖離していき、陳腐化を免れない。印刷会社自身の存在意義すら脅威に晒されてしまう。自社を印刷会社とみなすことなく、旧来のビジネスモデルを変えながら持続可能な未来を切り開く必要がある。脅威に気づいて、積極的に業態変革を進めている企業は、もはや自社を印刷会社とみてはいない。


●多種多様な業態がある印刷業界をつくろう

 では、印刷のビジネスモデルはどう構築していったらいいのか。印刷会社が経営戦略で成功するには、差別化をはかるしかない。競合他社と異なった事業、模倣されない仕事をすればするほど、持続的な競争優位性が構築できるのだ。その結果、加工業としての従来型の印刷会社は“消滅”するかも知れないが、多種多様な事業形態を備えた新しい印刷会社が生まれることを意味する。その早道は、自社のビジネスモデルを直視し、顧客にどのような価値を提供できているかを把握すること。自ら変化を起こして他の姿に変貌することである。そうすれば、印刷産業に生きる印刷人の数は減ることなく、将来も発展していける産業基盤が維持できる。この論文は「こんな素晴らしいことはないであろう」と結論づけ、そのうえで、仮に印刷業界が、加工業して印刷物を提供するだけの同じような業態の印刷会社だけで構成されたままなら、深刻な未来が待っているだろうと“警告”するのである。
=上記2項の参考資料;Wayne Peterson 「What is the Future of Print?」 (What They Think?)=


●オムニチャンネルの世界で主導権を握る努力を

 アメリカで屈指の大手印刷会社では、自社の使命を「マルチコンテンツのインテグレーター」と呼んでいるそうだ。コンテンツはきわめて重要で、顧客に代わってコンテンツを何らかのかたちに仕上げ、それを消費者に届けることが印刷会社の仕事だと考えている。実際、印刷会社はそのような役割を担うよう顧客から期待されており、印刷会社自身がその中核にあることを意識しなければならないと強調する。印刷会社はフルカラーのデジタルコンテンツを取り扱える専門家になるべきである。同じコンテンツを使って印刷メディアはもちろん、Webなど他のメディアへ展開できることを意味する。例えば、QRコードをパッケージに刷り込んで、製品のPRを動画でWebサイトに流すといった方法が考えられるという。印刷メディアに双方向性をもたせ、顧客を支援していくことが重要である。顧客が消費者について十分に理解し、両者が密接につながるようにお手伝いするのが印刷会社のビジネスだというのだ。印刷メディアの使われ方にもっとインパクトを与え、オムニチャンネルの世界で印刷メディアの威力を高めていく努力が、印刷会社が提供する個々の製品力を強くすると主張している。
=参考資料;Patrick Henry 「Redefining Printing」 (What They Think?)=


以上

「74年間、世界を魅了したコダクロームフィルム」

2014-11-13 14:44:18 | 印刷人のフイルム・フイルムカメラ史探訪

「74年間、世界を魅了したコダクロームフィルム」
印刷人のフィルム・フィルムカメラ史探訪 VOL-3

印刷コンサルタント 尾崎 章

小型印刷原稿はコダクローム

1960~70年代、「印刷原稿用小型フィルムはコダクローム」という指定条件がついていた事を懐かしむ方も多いと思われる。コダクロームは「写真フィルム世界の巨人」であった米国イーストマン・コダックが1935年に発売したスチール写真用・外式カラーフィルムで、コダックの象徴的なフィルムで有った。外式カラーフィルムは現像液中に発色剤・カラードカップラーを添加するタイプでシアン、マゼンタ、イェローのカップラーを添加した現像液で3回の発色現像を行う方式で有った。


コダクロームフィルム


現像済みコダクローム


一方、フィルム乳剤にシアン、マゼンタ、イェローのカラードカップラーを含有させる内式カラーフィルムは発色現像が1回で済む利便性も有り、1936年にアグファ、1942年にアンスコが内式カラーフィルムの商品化を行い世界の主流は内式カラーフィルムへと移行している。内式カラーフィルムは、フィルム乳剤中にカラードカップラーを添加する関係より色の滲みが生じやすい傾向が有り、当時はシャープネス面で外式カラーフィルムと比較して若干劣っていた。

写真製版への依存度が高かった1975年頃までは、印刷原稿として使用されるカラーリバーサルフィルムのサイズは6×6、6×9等のブローニーフィルムが下限とされ、35mmリバーサルフィルムは当該シャープネスの問題も有り不適当とされていた。
この概念は、1960年代後半より普及が加速したダイレクトスクリーニングとカラースキャナーによって解消される事になるが、コダクロームのシャープネスを評価する傾向が高く
「小型印刷原稿は、コダクローム」という指定が一般的となり、更にコダクローム特有の「深みのある色彩再現」を支持する写真家も多く2009年6月の販売終了まで一世を風靡することとなった。



富士フィルム 古森会長さんが営業担当した写真製版フィルム

前述の写真製版技法・ダイレクトスクリーニングは、5~10Kwの高出力キセノンランプ及び業務用ストロボを光源に高感度パンクロマチック・リスフィルムを組み合わせて製版カメラや引伸し機を利用して色分解と網点撮影(網撮り)を同時に行うもので直接網撮り色分解(直網分解)とも呼ばれていた。

ダイレクトスクリーニングは、連続諧調の色分解フィルムの作製工程を省略出来る為にシャープネス面に優れ、35mmリバーサルフィルムの印刷原稿としての用途拡大を実現した。
この新技術に注目した一眼レフ各社は競って自社一眼レフで撮影したコダクロームを使用したカレンダーを作成する等、一眼レフの販促手段としても活用された経緯が有る。
ダイレクトスクリーニングに使用するパンクロマチックのリスフィルム(パンリス)は、当初イーストマン・コダックのKodalith Panが市場を席巻したが、直ぐに富士フィルムが
FujiLith HP-100を製品化して市場シェアを逆転している。
この当時、富士フィルムの製版用フィルム営業担当が現在の富士フィルム・古森会長さんで都内の印刷会社、製版会社への販促訪問を御一緒した懐かしい想い出がある。


ポールサイモンが歌って全米ヒットチャート2位になった「コダクローム」

サイモン&ガーファンクルを解散したポールサイモンが1973年に新曲「コダクローム」
(邦題:僕のコダクローム)を発表、全米ヒットチャートの第二位にランクされる大ヒットになっている。


国内発売レコード「僕のコダクローム」


ポールサイモンCDアルバム


曲の中で「コダクローム、あの綺麗で鮮やかな色合い、夏の緑の鮮やかさ、まるで世界中に太陽があふれているようだ....」と見事にコダクロームの特徴を歌い上げている。
特に「So mama don’t take my Kodachrome a way」(だからママ、僕のコダクロームを取り上げないで)のフレーズが素晴らしい。
2009年のコダクローム販売終了時にポールサイモン「コダクローム」のフレーズを思い出したコダクロームファンは筆者一人では無いと思っている。

一方、富士フィルムは1972年から展開した市場開拓キャンペーン「Have a Nice Day」の一環として吉田拓郎さん作詞作曲のCMソング「Have a Nice Day」が話題になりコダックと富士フィルムが歌の分野でも対決する展開となった経緯が有る。
カラーリバーサルフィルムから撤退したコダックと、写真フィルム文化が有る限りフィルムを供給すると古森会長がコメントする富士フィルム、写真フィルム支持者には心強い限りである。


富士フィルム・リバーサルフィルム Velvia100、Provia400X


以上