印刷図書館倶楽部ひろば

“印刷”に対する深い見識と愛着をお持ちの方々による広場です。語らいの輪に、ぜひご参加くださいませ。

月例会報告(平成27年11月度会合より)

2015-11-24 11:39:46 | 月例会
[印刷]の今とこれからを考える 

        「印刷図書館クラブ」月例会報告(平成27年11月度会合より)


●人件費の「差」が収益性の「差」をもたらす

 <前号参照> アメリカの印刷業界団体PIAが実施した経営指標調査によると、収益性で上位25%に入る印刷会社(プロフィットリーダー)と、そこに含まれない残り75%の印刷会社(プロフィットチャレンジャー)との間に存在する売上利益率の格差は、過去十年以上にわたって平均して10ポイント(2015年次で9.7ポイント)もある。これは、年商1,000万ドルの企業で100万ドルにも達する非常に大きな利益差ということを意味する。一般的に売上高の40%以上は人件費が占めていることから、人件費の「差」が収益性を圧迫する重要な要因になると指摘している。2015年の時点で全企業平均の人件費比率が40.2%なのに対し、プロフィットリーダーに限ると35.1%に止まっている。その差は5.2%にも及ぶ。利益格差を招く要因の50%以上(2015年次では53%)は人件費の違いによるものだと判る。


●人件費の違いの6割は工場の人数に起因する

アメリカの印刷会社で働く社員の3分の2は通常、工場従業員とされる。そこで、工場現場に従事する社員の人件費に絞って売上高比をみてみると、プロフィットリーダーは22.4%、プロフィットチャレンジャーの場合は25.5%となっている。その差は3.1%になる。これに対し、営業部門に従事する社員の人件費で比べてみると、前者は6.6%、後者は8.3%、その差は1.7%しかない。ちなみに管理部門の人件費の差は0.4%に過ぎない。こうした数値から判るのは、両者の人件費格差の6割(同59%)は、製造現場に起因するという事実である。プロフィットリーダーは、労働力の代わりに資本、つまり生産設備を有効活用している。工場従事者一人当たりの純資産の金額に、両者の間で17%もの違いがみられる。


●資本集約型の企業になれば、収益性が高まる


全社員一人当たり売上高の両者の差は金額にして年額1万4,000ドルにも達するという。同じように一人当たり利益率からみても、少ない社員で多くの利益を得ていることがわかる。100万ドルの売上高をあげるのに要する社員数も5.9人対6.7人となっていて、ここでも著しい差がみられる。それだけ、プロフィットリーダーは競争上、優位に立っていることになる。「プリンター」としての印刷会社を対象とした調査だとはいえ、労働力を機械設備に置き換えることで資本集約型(高い労働装備率)の企業となることが、いかに重要であるかを示唆している。設備の稼働率に留意して投資効率を高め、高い生産性を保っている。より少ない社員で多額な売上高をあげ、しかも、より多くの利益を獲得している姿が浮かぶ。                    
※以上、参考資料=「FLASH REPORT」2015.9;PIA


●どっこい、生きているんです!「ガリ版印刷」

昭和20年代から30年代にかけて、印刷の歴史に確かな足跡を残した謄写版(孔版)印刷――PTO印刷やコピー機の登場とともに、その役目を終えたとされるが、芸術表現の優れた印刷技法として今でも残っている。山形、長野、岐阜には資料館、滋賀には伝承館があり、数多くの好事家や研究者が全国に存在する。そんな人たちが謄写版の裏表を随想した月刊雑誌が編纂され、印刷人の間で話題を呼んでいる。この雑誌には、「世から消えたと思っていたら、どっこい生きているんです」を前文にした特集「ガリ版旅行記―謄写版は不滅です!?」が50ページにもわたって掲載されている。そこでは、ガリ版文化史研究者、謄写版画家、ノンフィクション作家、ルポライター、NPO代表、ガリ版メーカーといったさまざまな肩書をもつ関係者が、ガリ版の意義や魅力について回顧談を交えながら縦横に筆を振るう。そのなかに、山形県下の印刷会社の経営者が資料館の館長でもある立場から書き下ろした文章がある。


●日本人の文化活動を支えた「ガリ版よ、永遠に」


その中から、興味深い箇所を拾い読みしてみると……謄写版技術を芸術的領域にまで高めたことで“孔聖”“神様”と讃えられた草間京平については、「一見すると、ガリ版とはわからないクオリテイの高さ。ガリ版刷りとしては最大級の世界地図も、手書きとは思えないほど精緻で、見るとびっくりする。謄写版を発明した堀井新治郎が設立した堀井謄写堂が昭和24年に出した『堀井謄写版印刷講義会 講義要項』も、草間が手掛けたもので、284度刷りをしたものを製本しているのだから、圧巻」と記している。また、印刷機に関しては「うちで一番古い印刷機は、明治30年に北上屋商店で作られた毛筆謄写版印刷機『眞筆版』。ガリ版用印刷機では滋賀県にあるものがいちばん古くて、これは二番目」と書いている。このように、ガリ版を実際に経験した人にとって非常に懐かしい逸話が、本誌の特集ページに散りばめられている。まさに「ガリ版はただの印刷機にあらず」「ガリ版よ、永遠に」なのである。
※以上、参考文献=「望星」2015.9;東海教育研究所、発売・東海大学出版部


●デジタル音痴、ITリテラシーの欠如……


 あるビジネス雑誌に「デジタル音痴社長が会社をつぶす」というショッキングな見出しが躍っていた。クラウドコンピューティングやビッグデータなど専門用語が次々と飛び交う時代に、ITリテラシーが欠如していたら企業経営に決定的な障害になるという趣旨で記事が編集されていた。「リテラシー」とは直訳すれば読み書き能力、つまり識字能力のことで、発展途上国の教育レベルを上げるためには、まず識字率を高めなければ、という意味で国際的に使われ出した単語である。これが転じてコンピュータリテラシー、情報リテラシーとなり、今や「IT」が冠詞として付け加えられるまでになった。とはいえ、本当の意味でITに精通している企業経営者は少ないのではないか。企業のなかにも、ITを導入したときのイニシャルコスト、ランニングコストがどのくらいかかるかを正確に把握できる社員はほとんどいない。リストラや効率化で浮いたコストの金額は気にかけるものの、ITの効果とコストについては、前向きに取り組もうとする気持とは裏腹に思いが至らないのだろう。


●ITに関する理解を深めないと、活かせない

 IT音痴には3つのレベルがあって、①全く知らない真性音痴、②専門業者の言うがままの操り人形、③変な方向に導いてしまう自称IT通――に分かれるらしい。ITリテラシーができていないと、当然、ITを使いこなせないし、ビジネス上の成果も得られない。クラウドを使って情報を集める-分析する-応用する、の軌道に乗せられない。サーバーがどこにあり、ビッグデータがどのようにセグメント化され、どの中から必要なデータを的確に収集するかの手だてがわからない。エンジンの動かし方、アプリケーションのつなげ方、データ加工の方法が理解できなければ、ITに多額の資金を注ぎ込んだけれど……という事態に陥りかねない。システムを導入したのはいいが、それに見合うメリットを享受できない。これが現実なのではないか。


●サーバーの所有意識から脱するのが事始め

 印刷会社としてはもっと身近なスモールデータを、という提言がある。このとき邪魔になるのが、印刷機を“家宝”扱いして以来、抱えてきた“所有意識”である。身近にサーバーがないと安心できない、リアルでないと信用できない、という傾向がある。核とすべきサーバーを端末的に置いて、アクセスしにくいゲートをつくったりする。情報加工の工程ごとにサーバーを継ぎ接ぎ状態で構築したあげく、いたずらに労力を消費したりする。日本の経営者は投資分を早く回収したがるが、ITには基本的に“納期”はない。ITの成果を本当に得たいのなら、デバイス主義を止めてプラットフォーム感覚で取り組む必要がある。安物買いの銭失いにならないよう、気持のうえで余裕をもち、長期的かつ戦略的な視野でITを使いこなしてほしい。

以上

市場から消えた新規格のフィルム(1) 126・インスタマチックフィルム

2015-11-09 11:46:51 | 印刷人のフイルム・フイルムカメラ史探訪
市場から消えた新規格のフィルム(1)
        126・インスタマチックフィルム
 
印刷図書館クラブ
印刷人のフィルム・フィルムカメラ史探訪 VOL-14
印刷コンサルタント 尾崎 章


1925年に発売されたライカは映画用35mmフィルムを短くカットして専用スプールに巻いて使用したが1934年にイーストマン・コダックがパトローネ入りの35mmフィルムを発売、これが現在の35mmパトローネ入りフィルムの標準規格となり今日に至っている。
しかしながら、35mmパトローネ入りフィルムは製品化以来「カメラへのフィルム装填の難しさ」が初心者需要層向けの問題点として指摘され、1970年頃までカメラ店・店頭でのフィルム装填「カメラ持参のフィルム購入」が女性層に定着していた。


コダック・126インスタマチックフィルムのコダパックカートリッジ  

この35mmフィルムのカメラ装填問題をカメラ側の機構改良と新規格フィルムによって解決する展開が活発化、1963年にイーストマン・コダックが「インスタマチック」と称したカートリッジ入り・126フィルムを発売、翌1964年にはアグファ・ゲバルトが「ラピットシステム」を発表、当時の世界写真市場の雄であったコダックとアグファによるフィルム簡易装填競走が繰り広げられる事となった。


コダック・126インスタマチックフィルムとインスタマチックカメラ   


126・インスタマチック方式 

126フィルムは、パトローネ入り35mmフィルムと同一幅の裏紙付きフィルムを使用、フィルム送出し部とフィルム巻取り部が一体となったカートリッジ(コダパックカートリッジ)にフィルムを収納する方式を採用、画面サイズは26×26mm(28×28mm)の正方形で撮影枚数は20枚撮り(後に24枚撮りに変更)であった。


コダパックカートリッジ

コダックでは社内ロールフィルム番号126の当該フィルムを「インスタマチック」とネーミングを行い世界規模の普及を図った。コダックのロールフィルム番号は、当時のコダック社が世界的な指導力を有していた関係よりそのまま国際規格名称として使用されており、パトローネ入り35mmフィルムの「135」、リーダーペーパー(裏紙)付きのブローニーフィルムの「120」、リーダーペーパー無の「220」等々を代表例として挙げる事が出来る。国内JIS規格もコダック・ロールフィルム番号をそのまま利用しており、当然の事ながらコダックが未参入の「ボルタ判フィルム」「ラピッドフィルム」等のロールフィルム製品には番号は無い、
126フィルムの特徴としては、下記5項目がありカメラ機構を省略化・簡易化出来る特徴がカメラ業界より注目を集めた。


1穴パーフォレーションの126インスタマチックフィルム 

①フィルム装填の簡易化、フィルムカートリッジをドロップインするだけの簡単セット。
②裏紙付きフィルムの為にカメラの枚数カウンターが不要となりカメラの簡易化が図れる。
③フィルム巻き戻し不要の為にカメラ巻き戻し機能を省略出来る。
④1穴パーフォレーションを採用、画面とパーフォレーションの位置が固定化される為に現像・プリントの自動化・標準化が容易である。
⑤ISO感度はフィルムカートリッジの切り欠きによるオートセットを採用。カメラ側のフィルム感度設定を省略化出来る。



初期・1966年当時のコダック「インスタマチック」フィルムのラインナップは、コダクロームX/126(20EX,1310円/現像代含),エクタクロームX/126(20EX,840円)、コダカラー64/126(12EX,400円)コダックベリクロームパン/126(12EX,165円)の4種類でカラーリバーサル2種、ネガカラー1種、モノクロフィルム1種で外式カラーフィルムのコダクロームを製品化する本格展開であった。
126フィルムの国内対応は、富士フィルム、小西六写真(コニカミノルタ)が自社ブランドの126フィルムを発売した。富士フィルム製品としては、フジカラーFⅡ126,フジカラースーパーHG100/126等があり、小西六写真はサクラカラー・N100/126、サクラパンSS/126(モノクロ)を発売している。


コニカ サクラパンSS 126フィルム


コダック史上最大のヒットになったインスタマチックカメラシリーズ


コダックは1963年の「インスタマチック」フィルム発売に併せて専用カメラ「コダックインスタマチック50」等 5機種の126フィルムカメラを初年度に発売して販売体制を整えている。
コダックが発売した「コダックインスタマチックカメラ」は1970年までに33機種に及び約5000万台の販売に成功、競合アグファ「ラピッドシステム」を数年で一蹴した。
更に、コダック社製・インスタマチックカメラの販売台数は1977年発売の「コダックインスタマチック76X」迄の14年間に7000万台を販売したとされており、コダックのカメラビジネス史上で最大のヒット製品として輝かしい歴史を残すことになった。


126フィルムカメラの国内対応

126フィルムカメラの国内メーカー対応は、小西六写真、オリンパス、キャノン、ミノルタ、リコー、ヤシカ、マミヤ 等が製品化を行い、初期製品は「フィルム装填の面倒さを嫌う」需要家層をターゲットとした事よりカメラ機能を簡略化した低価格製品となり、大部分がプラスチックボディ、単玉~トリプレットレンズ搭載に止まっていた。
一例として小西六写真が発売した「サクラパック100」(発売当時価格4.000円)はプラスチックボディ、単玉レンズ、固定焦点の簡易仕様であったがカメラデザインが秀逸で上位機種「サクラパック300」と共に1970年度・グッドデザイン賞を受賞している。
「サクラパック100.300」は、126フィルムカメラ、最初で最後のグッドデザイン賞受賞カメラとなった。


グッドデザイン賞受賞・サクラパック100 



サクラパック100X(1972年発売)


ミノルタ、オリンパス等は、インスタマチック市場が急拡大していた米国市場向けの製品に注力、ミノルタは「オートパック」と名付けた米国向け126フィルムカメラのシリーズ6機種の製品展開を実施した。オリンパスも「クイックマチックEES」カメラ3機種を米国市場向けに製品化、国内向けは「クイックマチック600」1機種のみと国内向けと米国向けが逆転する展開が行われた。
1964年に国産カメラ初として126フィルムカメラのEEカメラを製品化したマミヤ光機は、同社米国販売店向けの輸出専用機「アーガス インスタマチック260」1機種のみの対応を行っている。
本格仕様の126フィルムカメラとしては、1970年にキャノンが発売した「キャノマチックM70」(15.000円 1970年)がある。本機は40mm f2.8・3群4枚のレンズとプログラムEE機能、ゾーンフォーカス機能を搭載した35mmフィルム・コンパクトカメラ並みの仕様を搭載、「キャノンが造った126フィルムカメラ」として発売当初は注目を集めたがハイスペック仕様の126フィルムカメラに対する国内需要が無く本格展開には至らず国内向けは1機種のみの市場参入に終わっている。


ツアイス・イコン社 イコマチックF


国産唯一の126フィルム一眼レフ「リコー126Cフレックス」

126フィルム用一眼レフは、1968年にドイツ・コダックが「インスタマチック」カメラの最上位機種として「コダック インスタマチックレフレックス」を発売、ローライはコダックよりも早く「ローライSL-26」「ローライSL-36」をシリーズ展開、ツアイス・イコンは「CONTAFLEX 126」の発売を行っている。


リコー126Cフレックス 国産唯一の126フィルム一眼レフ

126フィルム用一眼レフの国内対応は、数機種の126フィルムカメラを発売したリコーがレンズ交換式の一眼レフ対応を行っている。リコーは1969年に国内初のインスタマチック一眼レフ「リコー126Cフレックス」(発売当時価格 26.800円 標準レンズ付)を発売して注目を集めた。
当該機は、ペンタミラーを使用したTTL一眼レフで35mm広角、100mm中焦点と55mm標準レンズをラインアップしていた。1969年当時の一眼レフは、ガラス製のペンタプリズム搭載が一般的であり1990年以降の普及型AF一眼レフで採用された樹脂成型ペンタミラーをいち早く採用した先進性が注目を集めた経緯があった。
しかしながら、カメラ本体にフィルム圧板が無く更にリーダーペーパー(裏紙)使用によるフィルム面の安定度不足、画面サイズの制約等の126フィルム固有の問題点より126フィルム一眼レフの市場創生は難しく「リコー126Cフレックス」は短命化を余儀なくされている。「CONTAFLEX126」は、本家パンケーキレンズとなったテッサー45mm f2.8の標準レンズを搭載していたが「リコー126Cフレックス」同様に本格展開には至らずに終わっている。


リコー126Cフレックスのコダパックカートリッジ装填状況


2000年前に生産が中止されたコダック126フィルム

126フィルムは、キャノンQLクイックローディング、富士フィルムDLドロップローディング等のカメラ各社による35mmフィルム自動ローディング機構の開発・搭載により需要が減衰、更にコダック自体が1971年に発売した新規格・110フィルム(ポケットインスタマチック)による当該需要交替が加速、コダックは1999年12月31日を以て126フィルムの販売を終了している。
最後まで126フィルムの生産を継続したフェッラーニア(伊)も2007年に同社「ソラリスFG200 126」フィルムの生産を終了している。1963年からコダックが37年間、フェッラーニアが更に7年間健闘したものの126フィルムは市場から消滅となった。


2007年に生産を終了したリラリスFG200 126フィルム


アグファも126フィルムカメラ市場に参入


コダック126インスタマチックフィルムと当該市場で競合したアグファ・ラピッドシステムは、イーストマン・コダックの世界的な販売力を打破出来ずラピットシステム発売8年後の1972年に126フィルムカメラ「アグファマチック50」とアグファブランドの126フィルムを発売、インスチマチック陣営に参加することとなった。


アグファが発売した126フィルムカメラ

アグファが発売した126フィルムには、「アグファカラーCNS/126」「アグファカラーXRG200/126」「アグファカラーHDC24/126」のネガカラーフィルムと「アグファイソパン/126」のモノクロフィルムがあり、126フィルムカメラは11機種の「アグファマチック」カメラを販売している。

コダック126フィルムカメラは、プラスチック製品が大多数を占めた事も有り、カメラ更新時に廃棄処分され現存する製品が少なく中古カメラ店のジャンク箱で見かける機会も少ない。また、フィルムカートリッジに現行フィルムを装填して再利用する方法も裏紙問題、プラスチックカートリッジ分解問題等々で難しい事から126フィルムカメラは飾り物化を余儀なくされている。
金属ボディの126フィルムカメラの市場価値も無く、僅かに「リコー126Cフレックス」等にフィルム、カメラ工業史のメモリアルとしての価値が残る程度である。