毎月、第三木曜日に開催している≪月例木曜会≫が、先日、10月17日(木)に行われました。参加者よりレジメが届きましたので、ご紹介いたします。
[印刷]の今とこれからを考える
「印刷図書館クラブ」月例会報告(平成25年10月度会合より)
●産業に立脚する「学会」のあり方を考えてみた
画像関係の学会には「印刷」「写真」「画像」「画像電子」の4つの学会がある。画像電送について研究してきた「画像電子」を除き、前3者は、基本的に画像を扱う材料をベースとする技術応用学会であることが共通点となっている。いずれも一般社団法人化され、それぞれの将来像を描きながら独立したかたちで運営されているが、その共通点を活かして、3学会の合同で新しい学会をつくったらどうかと提唱されたこともあるようだ。どの学会も関連する産業に対して知的なバックアップをおこなうことで、その発展に尽くしてきた。しかし、情報のデジタル化によって、産業自体のパラダイムシフトが起こり、次なる産業創造に結びつく魅力ある研究テーマが模索されているのが現状だ。欧米では、写真関係の学会が領域を拡げて、画像科学、画像技術を扱うよう変身しているという。
●印刷産業の学会は今後も主導的役割を担える
印刷産業の学会では、印刷物の作成に必要な技術全般を知的サポートしており、あらゆるインキング技術を具体的な対象としている。それは、成長期であろうと成熟期であろうと変わらない。印刷工程がデジタル化されても、CTP化に伴う新たな使われ方をしたり、プリンタ技術とのハイブリット化がなされたりと、インキング技術は姿を変えながら存続している。印刷機上でのインキの挙動やローラ類との相互作用など解明すべき問題は多い。プリンテッド・エレクトロニクス分野でも、基本的に版を用いたインキングの問題があり、学会が主導的役割を担う範囲は広く残されている。実用情報を印刷業界に効率よく伝える学会が、今後も果たすべき役割は重い。自ら学会誌を発行しているのは日本だけであり、活力に富んだ独自の活動を見出しながら、貴重な存在として永続してほしい。
●再構築する産業、変われない学会の挟間で……
一般的に、産業界は再構築されているのに、個々の産業を基盤としてきた学会の方は変わっていない。産業界の知的レベルを高めるという大きな役割を果たし、それぞれに存在価値があった。しかし、足元の産業が成熟、衰退したあとでは、その必要性が問われてくる。産業をバックに学会を維持するのには、どこか無理がある。本籍(過去)から現住所(現在)へ、さらに未来空間(将来)へという発想で議論すべき時に来ている。その点、印刷産業の場合は、開発後30年経って飽和した技術であっても、高度な応用技術、高品質を実現する生産技術として使うことができる。印刷産業の学会は、印刷技術そのものに新規性がなくなったとしても、例えば画像という領域で対応していける。「印刷」「材料」という固有の狭い領域ではなく、画像という要素を加えた従来とは異なる新たな分野を手がけていくことが可能だ。そうした強みをこれからもずっと発揮していってほしい。
●印刷メディアは脳の反応を強める力をもっている
人間がある特定の行動をしたとき、脳のどの部位が活動するかが判る「近赤外分光法」という新技術を使って、印刷物(ダイレクトメール)をみたときの脳の反応を測定する実験がおこなわれた。その結果、ダイレクトメールという印刷メディアと他の電子メディアとを比べた場合、全く異なる脳の生体反応が示された。同じ内容の情報であっても、反射光をみる紙メディアと、透過光をみるディスプレイとでは、脳は全く異なった反応を示したという。興味深いのは、紙メディアをみたときの方が、物事を思考し記憶としてコントロールしようとする前頭前野が強く反応したことである。紙メディアは情報を理解させるのに優れていること、ダイレクトメールの場合は同じテーマの情報を連続的に送った方が深く理解してもらえることが判明した。脳の生理からすれば、電子メディアより紙メディアの方が優れているということになる。
●脳科学の成果は販促用の印刷企画に使えるはず
CRT画面を使って調査したひと昔前の実験でも同様の結果が出たことがあるし、現在の携帯端末の画面で読んでも同じような傾向が感じられる。電子メディアの場合、速く文章を読めても内容や意味を的確に掴めていない、読み過ごしたまま思考回路をうまく働かせられないのかも知れない。いわゆる「頭に入らない」現象が起きている。その点、印刷メディアは否応でも考えることになり、血流が上がる。その結果、生体反応が強く出てくるのだろう。今回の脳科学実験は、あくまで静止画像をみた場合の結果であり、単純には比較できないが、印刷メディアの特性や優位性を明確に導き出すデータの集積、分析をさらに進めて、より詳細な知見が得られることを期待したい。そうなれば、印刷メディアを使ったマーケティング戦略の策定に活用できるだろう。
●汎用化した技術の先を読んでマーケティング体質に
印刷技術は、固有技術から汎用技術になった。カラーものでさえ、データ統合によって誰でも簡単に出力できるようになり、無料でみられるテレビ画面の映像、パソコンから印字される文字と比べて品質はどうかというように、評価基準そのものが変わってしまった。印刷のプロとしてこれまで拘ってきた絶対値で、品質をみてはいけないのでないか。印刷工程をつなぐ個々の要素が完成の域に達してきて、印刷会社相互の技術の差もなくなった。評価の違いが出るとしたら、それは印刷物がもつ機能によってでしかない。技術の“先”をみる必要があるのだが、コスト如何に陥らないようにするには、マーケティング力を磨くことである。仕掛けて仕事を刈り取ることをマーケティングという。紙メディアが通用している間に、つまり今のうちに、顧客に提供できる付加価値を載せたサービス領域(印刷付帯サービス)を探さなければならない。
●消費者と密着することで、中小印刷業は強くなれる
印刷は個人消費と深く関連している。消費者との密着度をどう高めるか、これからも関心事となっていくだろう。結び付きを求めれば求めるほど、地域々々の中小印刷会社の存在感が増してくる。それには、データ加工と印刷出力の組み合わせ、ワークフローを的確に確立しなければならないが、実現できれば中小企業の方が圧倒的に有利になる。データ管理やWeb活用などのインフラ構築をどうするか、まだ見えない部分がある。それも数年先には落ち着くとみられ、そうなれば、顧客対応のサービス業、創造業、ソリューション業がますます重視されてくる。その点、大規模な印刷会社より中小企業の方が機動力を発揮できるはずである。提案営業を通して地域市場に密着することで、中小印刷業は一層強くなれるに違いない。
●新しい印刷営業でコミュニケーションを形成しよう
そうした段階では、営業のあり方が変化しているだろう。顧客の個々のニーズ、抱えている問題点を、ビジネス上あるいは生活上の情報とか課題として収集し、企画提案、マーケティング提案、ソリューション提案に活かしているだろう。サービスが伴う印刷メディアを中心に多様なメディアに展開(マスカスタマイゼーション)していることだろう。顧客と営業マンとの関係はもちろん、それ以上に、顧客と消費者(エンドユーザー)との間にヒューマンネットワークをつくり出す必要がある。情報とメディアを駆使することによって、そのようなコミュニケーション形成を支援できるのは、他ならぬ印刷会社特有の機能のはずである。
以上
[印刷]の今とこれからを考える
「印刷図書館クラブ」月例会報告(平成25年10月度会合より)
●産業に立脚する「学会」のあり方を考えてみた
画像関係の学会には「印刷」「写真」「画像」「画像電子」の4つの学会がある。画像電送について研究してきた「画像電子」を除き、前3者は、基本的に画像を扱う材料をベースとする技術応用学会であることが共通点となっている。いずれも一般社団法人化され、それぞれの将来像を描きながら独立したかたちで運営されているが、その共通点を活かして、3学会の合同で新しい学会をつくったらどうかと提唱されたこともあるようだ。どの学会も関連する産業に対して知的なバックアップをおこなうことで、その発展に尽くしてきた。しかし、情報のデジタル化によって、産業自体のパラダイムシフトが起こり、次なる産業創造に結びつく魅力ある研究テーマが模索されているのが現状だ。欧米では、写真関係の学会が領域を拡げて、画像科学、画像技術を扱うよう変身しているという。
●印刷産業の学会は今後も主導的役割を担える
印刷産業の学会では、印刷物の作成に必要な技術全般を知的サポートしており、あらゆるインキング技術を具体的な対象としている。それは、成長期であろうと成熟期であろうと変わらない。印刷工程がデジタル化されても、CTP化に伴う新たな使われ方をしたり、プリンタ技術とのハイブリット化がなされたりと、インキング技術は姿を変えながら存続している。印刷機上でのインキの挙動やローラ類との相互作用など解明すべき問題は多い。プリンテッド・エレクトロニクス分野でも、基本的に版を用いたインキングの問題があり、学会が主導的役割を担う範囲は広く残されている。実用情報を印刷業界に効率よく伝える学会が、今後も果たすべき役割は重い。自ら学会誌を発行しているのは日本だけであり、活力に富んだ独自の活動を見出しながら、貴重な存在として永続してほしい。
●再構築する産業、変われない学会の挟間で……
一般的に、産業界は再構築されているのに、個々の産業を基盤としてきた学会の方は変わっていない。産業界の知的レベルを高めるという大きな役割を果たし、それぞれに存在価値があった。しかし、足元の産業が成熟、衰退したあとでは、その必要性が問われてくる。産業をバックに学会を維持するのには、どこか無理がある。本籍(過去)から現住所(現在)へ、さらに未来空間(将来)へという発想で議論すべき時に来ている。その点、印刷産業の場合は、開発後30年経って飽和した技術であっても、高度な応用技術、高品質を実現する生産技術として使うことができる。印刷産業の学会は、印刷技術そのものに新規性がなくなったとしても、例えば画像という領域で対応していける。「印刷」「材料」という固有の狭い領域ではなく、画像という要素を加えた従来とは異なる新たな分野を手がけていくことが可能だ。そうした強みをこれからもずっと発揮していってほしい。
●印刷メディアは脳の反応を強める力をもっている
人間がある特定の行動をしたとき、脳のどの部位が活動するかが判る「近赤外分光法」という新技術を使って、印刷物(ダイレクトメール)をみたときの脳の反応を測定する実験がおこなわれた。その結果、ダイレクトメールという印刷メディアと他の電子メディアとを比べた場合、全く異なる脳の生体反応が示された。同じ内容の情報であっても、反射光をみる紙メディアと、透過光をみるディスプレイとでは、脳は全く異なった反応を示したという。興味深いのは、紙メディアをみたときの方が、物事を思考し記憶としてコントロールしようとする前頭前野が強く反応したことである。紙メディアは情報を理解させるのに優れていること、ダイレクトメールの場合は同じテーマの情報を連続的に送った方が深く理解してもらえることが判明した。脳の生理からすれば、電子メディアより紙メディアの方が優れているということになる。
●脳科学の成果は販促用の印刷企画に使えるはず
CRT画面を使って調査したひと昔前の実験でも同様の結果が出たことがあるし、現在の携帯端末の画面で読んでも同じような傾向が感じられる。電子メディアの場合、速く文章を読めても内容や意味を的確に掴めていない、読み過ごしたまま思考回路をうまく働かせられないのかも知れない。いわゆる「頭に入らない」現象が起きている。その点、印刷メディアは否応でも考えることになり、血流が上がる。その結果、生体反応が強く出てくるのだろう。今回の脳科学実験は、あくまで静止画像をみた場合の結果であり、単純には比較できないが、印刷メディアの特性や優位性を明確に導き出すデータの集積、分析をさらに進めて、より詳細な知見が得られることを期待したい。そうなれば、印刷メディアを使ったマーケティング戦略の策定に活用できるだろう。
●汎用化した技術の先を読んでマーケティング体質に
印刷技術は、固有技術から汎用技術になった。カラーものでさえ、データ統合によって誰でも簡単に出力できるようになり、無料でみられるテレビ画面の映像、パソコンから印字される文字と比べて品質はどうかというように、評価基準そのものが変わってしまった。印刷のプロとしてこれまで拘ってきた絶対値で、品質をみてはいけないのでないか。印刷工程をつなぐ個々の要素が完成の域に達してきて、印刷会社相互の技術の差もなくなった。評価の違いが出るとしたら、それは印刷物がもつ機能によってでしかない。技術の“先”をみる必要があるのだが、コスト如何に陥らないようにするには、マーケティング力を磨くことである。仕掛けて仕事を刈り取ることをマーケティングという。紙メディアが通用している間に、つまり今のうちに、顧客に提供できる付加価値を載せたサービス領域(印刷付帯サービス)を探さなければならない。
●消費者と密着することで、中小印刷業は強くなれる
印刷は個人消費と深く関連している。消費者との密着度をどう高めるか、これからも関心事となっていくだろう。結び付きを求めれば求めるほど、地域々々の中小印刷会社の存在感が増してくる。それには、データ加工と印刷出力の組み合わせ、ワークフローを的確に確立しなければならないが、実現できれば中小企業の方が圧倒的に有利になる。データ管理やWeb活用などのインフラ構築をどうするか、まだ見えない部分がある。それも数年先には落ち着くとみられ、そうなれば、顧客対応のサービス業、創造業、ソリューション業がますます重視されてくる。その点、大規模な印刷会社より中小企業の方が機動力を発揮できるはずである。提案営業を通して地域市場に密着することで、中小印刷業は一層強くなれるに違いない。
●新しい印刷営業でコミュニケーションを形成しよう
そうした段階では、営業のあり方が変化しているだろう。顧客の個々のニーズ、抱えている問題点を、ビジネス上あるいは生活上の情報とか課題として収集し、企画提案、マーケティング提案、ソリューション提案に活かしているだろう。サービスが伴う印刷メディアを中心に多様なメディアに展開(マスカスタマイゼーション)していることだろう。顧客と営業マンとの関係はもちろん、それ以上に、顧客と消費者(エンドユーザー)との間にヒューマンネットワークをつくり出す必要がある。情報とメディアを駆使することによって、そのようなコミュニケーション形成を支援できるのは、他ならぬ印刷会社特有の機能のはずである。
以上