印刷図書館倶楽部ひろば

“印刷”に対する深い見識と愛着をお持ちの方々による広場です。語らいの輪に、ぜひご参加くださいませ。

月例木曜会 ≪2013年10月≫会合より

2013-10-21 14:38:46 | 月例会
毎月、第三木曜日に開催している≪月例木曜会≫が、先日、10月17日(木)に行われました。参加者よりレジメが届きましたので、ご紹介いたします。



[印刷]の今とこれからを考える 

 
「印刷図書館クラブ」月例会報告(平成25年10月度会合より)


●産業に立脚する「学会」のあり方を考えてみた
画像関係の学会には「印刷」「写真」「画像」「画像電子」の4つの学会がある。画像電送について研究してきた「画像電子」を除き、前3者は、基本的に画像を扱う材料をベースとする技術応用学会であることが共通点となっている。いずれも一般社団法人化され、それぞれの将来像を描きながら独立したかたちで運営されているが、その共通点を活かして、3学会の合同で新しい学会をつくったらどうかと提唱されたこともあるようだ。どの学会も関連する産業に対して知的なバックアップをおこなうことで、その発展に尽くしてきた。しかし、情報のデジタル化によって、産業自体のパラダイムシフトが起こり、次なる産業創造に結びつく魅力ある研究テーマが模索されているのが現状だ。欧米では、写真関係の学会が領域を拡げて、画像科学、画像技術を扱うよう変身しているという。


●印刷産業の学会は今後も主導的役割を担える
印刷産業の学会では、印刷物の作成に必要な技術全般を知的サポートしており、あらゆるインキング技術を具体的な対象としている。それは、成長期であろうと成熟期であろうと変わらない。印刷工程がデジタル化されても、CTP化に伴う新たな使われ方をしたり、プリンタ技術とのハイブリット化がなされたりと、インキング技術は姿を変えながら存続している。印刷機上でのインキの挙動やローラ類との相互作用など解明すべき問題は多い。プリンテッド・エレクトロニクス分野でも、基本的に版を用いたインキングの問題があり、学会が主導的役割を担う範囲は広く残されている。実用情報を印刷業界に効率よく伝える学会が、今後も果たすべき役割は重い。自ら学会誌を発行しているのは日本だけであり、活力に富んだ独自の活動を見出しながら、貴重な存在として永続してほしい。


●再構築する産業、変われない学会の挟間で……
 一般的に、産業界は再構築されているのに、個々の産業を基盤としてきた学会の方は変わっていない。産業界の知的レベルを高めるという大きな役割を果たし、それぞれに存在価値があった。しかし、足元の産業が成熟、衰退したあとでは、その必要性が問われてくる。産業をバックに学会を維持するのには、どこか無理がある。本籍(過去)から現住所(現在)へ、さらに未来空間(将来)へという発想で議論すべき時に来ている。その点、印刷産業の場合は、開発後30年経って飽和した技術であっても、高度な応用技術、高品質を実現する生産技術として使うことができる。印刷産業の学会は、印刷技術そのものに新規性がなくなったとしても、例えば画像という領域で対応していける。「印刷」「材料」という固有の狭い領域ではなく、画像という要素を加えた従来とは異なる新たな分野を手がけていくことが可能だ。そうした強みをこれからもずっと発揮していってほしい。


●印刷メディアは脳の反応を強める力をもっている
 人間がある特定の行動をしたとき、脳のどの部位が活動するかが判る「近赤外分光法」という新技術を使って、印刷物(ダイレクトメール)をみたときの脳の反応を測定する実験がおこなわれた。その結果、ダイレクトメールという印刷メディアと他の電子メディアとを比べた場合、全く異なる脳の生体反応が示された。同じ内容の情報であっても、反射光をみる紙メディアと、透過光をみるディスプレイとでは、脳は全く異なった反応を示したという。興味深いのは、紙メディアをみたときの方が、物事を思考し記憶としてコントロールしようとする前頭前野が強く反応したことである。紙メディアは情報を理解させるのに優れていること、ダイレクトメールの場合は同じテーマの情報を連続的に送った方が深く理解してもらえることが判明した。脳の生理からすれば、電子メディアより紙メディアの方が優れているということになる。


●脳科学の成果は販促用の印刷企画に使えるはず
CRT画面を使って調査したひと昔前の実験でも同様の結果が出たことがあるし、現在の携帯端末の画面で読んでも同じような傾向が感じられる。電子メディアの場合、速く文章を読めても内容や意味を的確に掴めていない、読み過ごしたまま思考回路をうまく働かせられないのかも知れない。いわゆる「頭に入らない」現象が起きている。その点、印刷メディアは否応でも考えることになり、血流が上がる。その結果、生体反応が強く出てくるのだろう。今回の脳科学実験は、あくまで静止画像をみた場合の結果であり、単純には比較できないが、印刷メディアの特性や優位性を明確に導き出すデータの集積、分析をさらに進めて、より詳細な知見が得られることを期待したい。そうなれば、印刷メディアを使ったマーケティング戦略の策定に活用できるだろう。


●汎用化した技術の先を読んでマーケティング体質に
印刷技術は、固有技術から汎用技術になった。カラーものでさえ、データ統合によって誰でも簡単に出力できるようになり、無料でみられるテレビ画面の映像、パソコンから印字される文字と比べて品質はどうかというように、評価基準そのものが変わってしまった。印刷のプロとしてこれまで拘ってきた絶対値で、品質をみてはいけないのでないか。印刷工程をつなぐ個々の要素が完成の域に達してきて、印刷会社相互の技術の差もなくなった。評価の違いが出るとしたら、それは印刷物がもつ機能によってでしかない。技術の“先”をみる必要があるのだが、コスト如何に陥らないようにするには、マーケティング力を磨くことである。仕掛けて仕事を刈り取ることをマーケティングという。紙メディアが通用している間に、つまり今のうちに、顧客に提供できる付加価値を載せたサービス領域(印刷付帯サービス)を探さなければならない。


●消費者と密着することで、中小印刷業は強くなれる

印刷は個人消費と深く関連している。消費者との密着度をどう高めるか、これからも関心事となっていくだろう。結び付きを求めれば求めるほど、地域々々の中小印刷会社の存在感が増してくる。それには、データ加工と印刷出力の組み合わせ、ワークフローを的確に確立しなければならないが、実現できれば中小企業の方が圧倒的に有利になる。データ管理やWeb活用などのインフラ構築をどうするか、まだ見えない部分がある。それも数年先には落ち着くとみられ、そうなれば、顧客対応のサービス業、創造業、ソリューション業がますます重視されてくる。その点、大規模な印刷会社より中小企業の方が機動力を発揮できるはずである。提案営業を通して地域市場に密着することで、中小印刷業は一層強くなれるに違いない。


●新しい印刷営業でコミュニケーションを形成しよう
そうした段階では、営業のあり方が変化しているだろう。顧客の個々のニーズ、抱えている問題点を、ビジネス上あるいは生活上の情報とか課題として収集し、企画提案、マーケティング提案、ソリューション提案に活かしているだろう。サービスが伴う印刷メディアを中心に多様なメディアに展開(マスカスタマイゼーション)していることだろう。顧客と営業マンとの関係はもちろん、それ以上に、顧客と消費者(エンドユーザー)との間にヒューマンネットワークをつくり出す必要がある。情報とメディアを駆使することによって、そのようなコミュニケーション形成を支援できるのは、他ならぬ印刷会社特有の機能のはずである。

以上






蔵書より 『光沢加工のすべて』

2013-10-16 16:02:57 | 蔵書より


タイトル:「光沢加工のすべて―印刷企画にお役立ていただくために―」
発行:東京都光沢加工紙協同組合 平成25年3月
体裁:A4判/24ページ



「高級化、多様化を要求される印刷物に、最新技術による光沢加工の特性を活用されてはいかがでしょうか」(「あとがき」より)。
副題にあるとおり、印刷会社や出版社など光沢加工業界の顧客向けに制作した、印刷物の高付加価値化についての提案書。この一冊に光沢加工がもつ“決め手”を集大成したガイドブックである。合わせて、光沢加工会社自身の社員教育用としても使えるようにと、「光沢加工とは何ぞや」がやさしく解説されている。


本書は、
①印刷物の仕上げ工程を担っています
②光沢加工はこんな技法を提供しています
③環境保全には万全を期しています

の3章で構成されているが、はじめ書きでは、光沢加工を施して訴求効果・使用効果のある印刷物を製作することを勧め、あと書きでは、加工技術の開発や新素材の導入などに取り組む専門技術集団の一員として、光沢加工会社が印刷企画の実現をお手伝いできることを謳っている。


ここに本書の目的があるのだが、姉妹書である既刊の『光沢加工―光沢加工のご案内と加工サンプルBook』で、各種の加工方法を一目で解るよう図案化しやさしく解説したのを受け、本書では、光沢加工に伴う「?」に関するページを割くなど、実務に適する内容に仕立ててあるのが特徴だ。


そこでは色調、印刷インキ、パウダー、用紙カール、紙折などの影響、対応、適性の問題に触れている。これは、企画担当者の素朴な疑問に答えるのが趣旨なのだが、と同時に、最近の技術開発によって可能になった新素材に対する画期的な加工方法もそつなく紹介している。これらの製品サンプルは付録として巻末に収められていて、技術資料としての体裁も整っている。受発注双方が手元に置きたいと思うだろう。




蔵書紹介 『Power Print 2013―印刷メディアの源流』

2013-10-11 16:05:44 | 蔵書より


タイトル:「Power Print 2013―印刷メディアn源流」
発行:一般社団法人 日本印刷産業連合会/2013年9月月
体裁:B5判/196ページ


多様なメディアが鎬を削っている時代にあって、印刷メディアの価値、強みとする「力」とはどんなものなのか? 新メディアの出現を向かい風と捉えるか追い風と受け止めるか? 「印刷産業にとって、ここ数年が勝負となる」(「はじめに」より)。


そこで本書は、「印刷」の姿を可能なかぎり分析データに基づいて正確に把握することで、印刷産業の将来像を描き出していくという趣旨で編纂された。


全7章からなる本書の構成はこうだ。

①Global Scope 海外の印刷プロモーション活動
②印刷メデイアのサステナビリティー
③印刷メディアの価値提言
④印刷の力-印刷メディアの効果測定から-
⑤クロスメディア時代における印刷
⑥Best Printing
⑦SMATRIX2020再考 RE=PRINTING:再発見・再構築・再構成


これらの序文として、学識者にインタビューを試みた「パワープリントとは? 脳科学者が印刷を考える」という興味を引くページが先導してくれている。


日本印刷産業連合会では2年前に印刷産業ビジョン「SMATRIX2020」を発表し、産業としてのあるべき形を提唱したが、本書では、欧米におけるさまざまな論点を読み取るとともに、日本における印刷メディアの多彩な試みを加味して、印刷がもつ「力」を再発見することに努めた。そして、多様なメディアのなかでの印刷の特性と役割、位置づけを確認することが、産業として成長するうえでの第一歩となるとした。


第7章「印刷産業の再定義・再構成」の項では、今後に向けて成すべき戦略として、
①差別化・差異化への挑戦
②課題解決力の強化
③継続的な新商品・新事業の開発
④ネットビジネスの取り込み
⑤コラボレーション、⑥立ち位置の明確化
を挙げている。

印刷産業人として、もう一度掴み直したい経営課題である。




「東京オリンピック “今昔物語”

2013-10-08 14:40:48 | エッセー・コラム
「東京オリンピック “今昔物語”」 久保野 和行  


日本国中が沸いたのは9月8日早朝のニュースであった。地球の裏側アルゼンチンの首都ヴェノアイレスから伝わる。2020年東京オリンピック開催が決定した瞬間であった 1964年に続き、二度目のアジアでの開催は初めてのことである。




振り返ってみると私自身も最初のオリンピックの記憶は、競技種目においては鮮明でなかった。華やいだ大会だったが、その中での印象で一番あるものが、開催日当日の出来事であった。印刷会社の製版部門に従事していた当時、朝から夜までに及ぶ仕事で、あまりオリンピックに関しては興味がなかった。




しかし10月10日のその日は良く覚えている。作業に従事していた仲間が一斉に窓際に寄った。秋空一杯に自衛隊のブルーインパレスが五輪マークの彩り鮮やかに空中に輪を描いていたのです。国民全体が高揚感に包まれていて日本経済の復活の象徴として目に焼き付いている。



確かに、その後の私自身の生活は飛躍的に向上した記憶がある。3K(暗い・汚い・きつい)の見本みたいな印刷業であったが、賃金ベースは6年後の大阪万博までのピークに向って10%以上の上昇があったいい時代であった。高卒の初任給が日給月給制で、時給32円で、月稼働基準200時間ベースで月給6400円であった。それでも先輩社員から、叱咤激励の声が飛んだ。「お前達はニコヨン(日雇い肉体労働者)さんよりも高給取り、もっと身体を動かせ」。ニコヨンの由来は時給30円の、1日労働報酬が240円からきたものです。


こんな東京オリンピックが、実は3回目であったことです。幻の1940年に日中戦争が勃発して中止になった。1936年の決定にはオリンピックの創設者であるクーベルタン男爵が存命中で日本へメッセージを寄せている。“古代欧州が生み出した文明をアジアの文化芸術が結びつく”と期待していたが、その翌年に亡くなり東京は幻となった。
このとき同時開催の行事に、東京の月島4号の埋立地(晴海)で初代天皇神武即位2600年記念として万国博覧会もあったが、これも中止になった。それから24年後アジアで最初の大会が、また戦後復興のターニングポイントになった大阪万博が、その6年後に開かれた。


ここから私自身の独断と偏見で東京オリンピックを俯瞰してみると、1940年の幻東京オリンピックから80年後の2020年開催には、妙な数字のつながりを見っけた無理押し承知で語れば1940年の「4」と、その後80年後の「8」をつなげれば「フォティーエイト=48」になる。何と今や旬の「AKB48」に繋がるではないか。彼女らの活躍の下地には、日本固有の伝統的な動きがある。例えば集団での主役(センターマイク)の決め方では、ジャンケン方式と人気投票方式がある。これはとてもシンプルで、なおかつ透明性があり、同時に公平性が存在する。日本人好みの、別の見方をすれば農耕民族のコミュニティーがベースにあると思う。


「もったいない」で発信された日本語のキーワードが「お・も・て・な・し」で世界中の人々を迎える東京オリンピックは、その晴れ舞台である。当然ながら東日本大震災での復興がバックグランドで構築された日本に姿のお披露目の舞台になる。
印刷産業は全ての産業とは密接な関係にあり、この有効は状態を飛躍的に発展させる、絶好の機会が訪れたと考えたら、衰退産業とか、不況産業とかの輩に向って、挑みかかろうではないかと勝手に、東京オリンピックに思いを寄せている次第です。