[印刷]の今とこれからを考える
「印刷図書館クラブ」月例会報告(平成28年6月度会合より)
●紙メディアの有効性はニューロマーケティングから
「ニューロマーケティング」という新しい学問領域から、紙メディアがもっている本来の特長と有効性を再評価してみようという試みがある。紙の上に印刷された「反射文字」が脳の前頭前野を活発化させることによって、記憶力の向上、知識の蓄積に有利に働くのではないか。これに対して液晶画面で「透過文字」を読む電子メディアの場合は、文字を追うというより全体を画像と捉えるので、前頭葉を刺激することに繋がらないのではないか。両者を比べれば、紙メディアの方がリテラシーを高めてくれるはず。そうであるなら、販売促進用のメディアとして印刷物(通販のダイレクトメールなど)を使った方が、マーケティング効果がより高まるのではないか。情報を確実に伝えなければならない自治体や金融機関からの通知状など、紙メディアの効能が高齢化社会のニーズから再認識されている。その一方、学校の教育現場で使われ出した電子教科書は、実証してみるとどうも適していないのではないかと疑問視する声さえ聞かれる。印刷産業から提
案すべき解決策は少なくない。
●文字情報への関心は紙メディアの利点を生かして
年齢層の違いによって文字情報への注意・関心の反応=知覚が異なることが、ニューロマーケティング研究によって明らかになったとするニュースが流れた。それによると、縦書きの文字情報を記載したグラフィックデザインを見たとき、年配層(視力の衰えを自覚するとされる45歳以上)が「文字情報に高い関心をもつ」傾向があるのに対し、若年・中年層は「文字情報を注視せず、高い関心に結びつけない」傾向があるという。被験者の脳機能を解析すると、年配層は文字情報を読んでいるときに前頭葉の活動が活性化して、それだけ関心が向けられていることがわかる。視線は文字情報を注視していて、しっかりと読み込んでいるそうだ。若年・中年層では前頭前野の活動があまり見られず、しかも文字情報も注視することなく“読み飛ばして”いる状態だという。これらの実験結果から、少なくとも年配層に関しては、縦書きの文字情報は読みやすいと受け取られ「書かれた内容を理解しようという強い関心を引き出す」効果があるとしている。文字の読みやすさを、可読性、理解度、疲労度といった尺度で科学的に実証し、文字情報を載せるメディアの特性と関連づけながら社会に提示していく責任が印刷産業にはある。
●印刷製品には品質上のバラツキが存在する……
一定のバラツキがあることを前提に印刷物の品質管理に取り組むことの重要性を説く技術レポートが、アメリカの印刷産業団体PIAから発表された。「雪の結晶、一卵性の双生児、そして刷り本」と題するこのレポートは、印刷会社が保持すべき工程能力をどう捉えたらいいのかのヒントを与えてくれている。いかなる生産活動においても、その中心的な課題は顧客が求める必要条件を満たすことにある。この必要条件に高度に適合するためには、製品特性を決定づける仕様を基準に品質改善に努めなければならない。雪の結晶も一卵性双生児も厳密に点検、計測すれば、全く同じものはない。このような自然界の法則どおり「製品にはつねにバラツキが存在する」からには、統計的なバラツキの概念と仕様との関係を理解する必要があるという。
●バラツキの存在を認めて、許容範囲に制御する
こうした概念は、印刷工程にも援用可能だ。印刷機から排出される何千もの刷り本は、見かけ上は全く同じに見えるが、印刷機だけでなく用紙、インキ、刷版など変動要素が多いこともあって、刷り本の品質には必ず相違がある。バラツキの度合いも同一ではない。それにもかかわらず、印刷会社はバラツキを取り除く不可能ともいえる課題に直面している。「こんな理不尽な状態を受け入れることができますか?」と、このレポートは問う。そして印刷会社がもつべき一つの答えは「バラツキの多くは取るに足らないものだ」という信念をもつことにあると、自らの意識変革を促している。「違いは無視し得るほど十分に小さい」と信じることが重要だとする。ただし、「不規則性の“真ん中”に規則性を見出す」必要がある。同じ試料、同じ計測項目でデータ数を十分に大きくとるシステマチックな観測方法と統計処理により、バラツキのパターンを把握し、それに基づいて品質管理を徹底させなければならない。工程能力を高めるには、まずは実際に発生しているバラツキの量、幅を測定することから始めるべきである。
●何を計測し何を許容するかの論理的な基準こそ
第1段階では、計測によって実際に発生しているバラツキの性質を発見すること。重要な品質特性(ベタ濃度、ドットゲインなど)を抽出するとともに、計測法を決めて十分に多数の印刷物について計測し、発生しているバラツキの量を決定することである。第2段階としては、バラツキの許容範囲(目標値からの仕様上下限の幅)を決めること。印刷物に対する顧客の要求品質を仕様のかたちで表示して、その特性値を計測することになる。第3段階は、バラツキの出ている実際の印刷物と許容範囲内の基準サンプルと比較すること。これによって①バラツキは問題にならないほど小さく、ほとんどの製品は許容範囲に収まっているので、そのまま顧客に納品する、②バラツキが大きすぎ、かなりの不適合製品が含まれているので、刷り直しなど何らかの対応が必要――のいずれかを判断する。顧客満足に応えるには原点での品質設計が欠かせないが、印刷工程上の品質改善活動においては、何 (バラツキを引き起こす要因) を計測し何を許容するかという比較研究により「バラツキの幅を決める」ことが重要なのだと結論づけている。
※参考資料=Technology Report PIA; John Compton, Prof. Emeritus(Rochester Institute of Technology)
●ポールポジションを探せる高度なデザイン感覚を
デザインとは本来「設計」の意味であり、一元的に「図案」を指すものではない。ビジネスモデルのデザインといえば、顧客価値やマーケティング戦略、生産体制の仕組みづくりが先にあり、提供する製品の仕様はその後の問題となる。印刷メディアの機能提案=設計が先にあって、その後に印刷物のかたちが付いてくる。産業構造の再構築を意味する産業のリデザインが求められるなかで、各企業のポジショニングが必然的に、あるいは自動的に決まるわけではない。現代社会は、変動、不確実、複雑、曖昧という4つの要素に見舞われている激動の時代にある。企業はどこでどう対応していったらいいのか。自分の周りの細部を見る“虫の目”より、ビジネス環境全体を見渡す“鳥の目”の方がいかに重要か――自社なりのポールポジションを探して、そこで根を張ることを可能にする高度なデザイン感覚が欠かせない。
●後継者となったからには「時間」を味方にしよう
印刷業界に限らず、2世、3世の人に「オーナーとは何か」と尋ねると、さまざまな特権、資格、能力、役割を有する立場といった答えが返ってくる。企業を継承した瞬間からオーナーになったはずなのに、設備や社員、資金といった経営資源を引き継ぐだけに終わり、それ以上、前へ進めない後継者も少なくない。「自分の意思ではない」「止むを得ないこと」と思っている人さえいると聞く。ある識者は「オーナーとは時間のフリーパスをもっている人」と喝破している。そこには「好きなことに我儘に制限なく取り組める人」という意味合いが込められている。その代わり、全てにオールマイティーでなければならず、我慢強くなければならない。自分が一番やりたい得意なことを一つだけ示し、不得手なことは気に入った有力な部下に任せ切るといった度量をもっていなければならない。オーナーとなったからには、強い意識で先代からこのような「時間」だけを引き継いでほしい。経営資源をどう使いこなすかは、与えられた時間のなかで自分で考えるべき問題なのである。変動する時代にあってダイナミック(動態的)な経営をおこなっていくためにも、時間をきちんと管理できる「企業家」となってほしい。
「印刷図書館クラブ」月例会報告(平成28年6月度会合より)
●紙メディアの有効性はニューロマーケティングから
「ニューロマーケティング」という新しい学問領域から、紙メディアがもっている本来の特長と有効性を再評価してみようという試みがある。紙の上に印刷された「反射文字」が脳の前頭前野を活発化させることによって、記憶力の向上、知識の蓄積に有利に働くのではないか。これに対して液晶画面で「透過文字」を読む電子メディアの場合は、文字を追うというより全体を画像と捉えるので、前頭葉を刺激することに繋がらないのではないか。両者を比べれば、紙メディアの方がリテラシーを高めてくれるはず。そうであるなら、販売促進用のメディアとして印刷物(通販のダイレクトメールなど)を使った方が、マーケティング効果がより高まるのではないか。情報を確実に伝えなければならない自治体や金融機関からの通知状など、紙メディアの効能が高齢化社会のニーズから再認識されている。その一方、学校の教育現場で使われ出した電子教科書は、実証してみるとどうも適していないのではないかと疑問視する声さえ聞かれる。印刷産業から提
案すべき解決策は少なくない。
●文字情報への関心は紙メディアの利点を生かして
年齢層の違いによって文字情報への注意・関心の反応=知覚が異なることが、ニューロマーケティング研究によって明らかになったとするニュースが流れた。それによると、縦書きの文字情報を記載したグラフィックデザインを見たとき、年配層(視力の衰えを自覚するとされる45歳以上)が「文字情報に高い関心をもつ」傾向があるのに対し、若年・中年層は「文字情報を注視せず、高い関心に結びつけない」傾向があるという。被験者の脳機能を解析すると、年配層は文字情報を読んでいるときに前頭葉の活動が活性化して、それだけ関心が向けられていることがわかる。視線は文字情報を注視していて、しっかりと読み込んでいるそうだ。若年・中年層では前頭前野の活動があまり見られず、しかも文字情報も注視することなく“読み飛ばして”いる状態だという。これらの実験結果から、少なくとも年配層に関しては、縦書きの文字情報は読みやすいと受け取られ「書かれた内容を理解しようという強い関心を引き出す」効果があるとしている。文字の読みやすさを、可読性、理解度、疲労度といった尺度で科学的に実証し、文字情報を載せるメディアの特性と関連づけながら社会に提示していく責任が印刷産業にはある。
●印刷製品には品質上のバラツキが存在する……
一定のバラツキがあることを前提に印刷物の品質管理に取り組むことの重要性を説く技術レポートが、アメリカの印刷産業団体PIAから発表された。「雪の結晶、一卵性の双生児、そして刷り本」と題するこのレポートは、印刷会社が保持すべき工程能力をどう捉えたらいいのかのヒントを与えてくれている。いかなる生産活動においても、その中心的な課題は顧客が求める必要条件を満たすことにある。この必要条件に高度に適合するためには、製品特性を決定づける仕様を基準に品質改善に努めなければならない。雪の結晶も一卵性双生児も厳密に点検、計測すれば、全く同じものはない。このような自然界の法則どおり「製品にはつねにバラツキが存在する」からには、統計的なバラツキの概念と仕様との関係を理解する必要があるという。
●バラツキの存在を認めて、許容範囲に制御する
こうした概念は、印刷工程にも援用可能だ。印刷機から排出される何千もの刷り本は、見かけ上は全く同じに見えるが、印刷機だけでなく用紙、インキ、刷版など変動要素が多いこともあって、刷り本の品質には必ず相違がある。バラツキの度合いも同一ではない。それにもかかわらず、印刷会社はバラツキを取り除く不可能ともいえる課題に直面している。「こんな理不尽な状態を受け入れることができますか?」と、このレポートは問う。そして印刷会社がもつべき一つの答えは「バラツキの多くは取るに足らないものだ」という信念をもつことにあると、自らの意識変革を促している。「違いは無視し得るほど十分に小さい」と信じることが重要だとする。ただし、「不規則性の“真ん中”に規則性を見出す」必要がある。同じ試料、同じ計測項目でデータ数を十分に大きくとるシステマチックな観測方法と統計処理により、バラツキのパターンを把握し、それに基づいて品質管理を徹底させなければならない。工程能力を高めるには、まずは実際に発生しているバラツキの量、幅を測定することから始めるべきである。
●何を計測し何を許容するかの論理的な基準こそ
第1段階では、計測によって実際に発生しているバラツキの性質を発見すること。重要な品質特性(ベタ濃度、ドットゲインなど)を抽出するとともに、計測法を決めて十分に多数の印刷物について計測し、発生しているバラツキの量を決定することである。第2段階としては、バラツキの許容範囲(目標値からの仕様上下限の幅)を決めること。印刷物に対する顧客の要求品質を仕様のかたちで表示して、その特性値を計測することになる。第3段階は、バラツキの出ている実際の印刷物と許容範囲内の基準サンプルと比較すること。これによって①バラツキは問題にならないほど小さく、ほとんどの製品は許容範囲に収まっているので、そのまま顧客に納品する、②バラツキが大きすぎ、かなりの不適合製品が含まれているので、刷り直しなど何らかの対応が必要――のいずれかを判断する。顧客満足に応えるには原点での品質設計が欠かせないが、印刷工程上の品質改善活動においては、何 (バラツキを引き起こす要因) を計測し何を許容するかという比較研究により「バラツキの幅を決める」ことが重要なのだと結論づけている。
※参考資料=Technology Report PIA; John Compton, Prof. Emeritus(Rochester Institute of Technology)
●ポールポジションを探せる高度なデザイン感覚を
デザインとは本来「設計」の意味であり、一元的に「図案」を指すものではない。ビジネスモデルのデザインといえば、顧客価値やマーケティング戦略、生産体制の仕組みづくりが先にあり、提供する製品の仕様はその後の問題となる。印刷メディアの機能提案=設計が先にあって、その後に印刷物のかたちが付いてくる。産業構造の再構築を意味する産業のリデザインが求められるなかで、各企業のポジショニングが必然的に、あるいは自動的に決まるわけではない。現代社会は、変動、不確実、複雑、曖昧という4つの要素に見舞われている激動の時代にある。企業はどこでどう対応していったらいいのか。自分の周りの細部を見る“虫の目”より、ビジネス環境全体を見渡す“鳥の目”の方がいかに重要か――自社なりのポールポジションを探して、そこで根を張ることを可能にする高度なデザイン感覚が欠かせない。
●後継者となったからには「時間」を味方にしよう
印刷業界に限らず、2世、3世の人に「オーナーとは何か」と尋ねると、さまざまな特権、資格、能力、役割を有する立場といった答えが返ってくる。企業を継承した瞬間からオーナーになったはずなのに、設備や社員、資金といった経営資源を引き継ぐだけに終わり、それ以上、前へ進めない後継者も少なくない。「自分の意思ではない」「止むを得ないこと」と思っている人さえいると聞く。ある識者は「オーナーとは時間のフリーパスをもっている人」と喝破している。そこには「好きなことに我儘に制限なく取り組める人」という意味合いが込められている。その代わり、全てにオールマイティーでなければならず、我慢強くなければならない。自分が一番やりたい得意なことを一つだけ示し、不得手なことは気に入った有力な部下に任せ切るといった度量をもっていなければならない。オーナーとなったからには、強い意識で先代からこのような「時間」だけを引き継いでほしい。経営資源をどう使いこなすかは、与えられた時間のなかで自分で考えるべき問題なのである。変動する時代にあってダイナミック(動態的)な経営をおこなっていくためにも、時間をきちんと管理できる「企業家」となってほしい。
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