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印刷図書館倶楽部ひろば

“印刷”に対する深い見識と愛着をお持ちの方々による広場です。語らいの輪に、ぜひご参加くださいませ。

印刷図書館倶楽部 ≪月例会≫2016年7月度

2016-07-26 10:34:32 | 月例会
[印刷]の今とこれからを考える 

        「印刷図書館クラブ」月例会報告(平成28年7月度会合より)


●文化財をデジタル化してビジネスに結びつける

 デジタル技術によって絵画や古文書などの文化財をビジネスに結びつけようという動きが高まっているそうだ。印刷用のコンテンツを使えるうえに、ビジネスとしても印刷産業に近いこともあって、にわかに注目されている。印刷関連の各企業が「ビジネスチャンスあり」とみて、積極的に乗り出す姿勢をみせる。そうした動きを紹介する記事が、産業分野の専門紙に大々的に報じられていた。紹介された事例の一つは――中世から近世にかけてつくられた古い時代の地球儀や天球儀を、高解像度のデジタルカメラで四方八方から撮影し、拡大したり回転したりできる3次元のデジタルデータに合成して、それを高精細のディスプレイ画面に表示する。このようなシステムを博物館や美術館で使ってもらえれば、文化財で集客につなげることができるのはもちろん、文化財そのものの修復/保護に対する理解を深められる。絶版となった書物をさまざまな印刷技術を駆使して復刻してきた印刷業界。独自のノウハウをもつ強みを活かして取り組みたい分野は事欠かないに違いない。


●コンテンツを扱える印刷業界の出番がやってきた

少しばかりアタマを巡らせば、①貴重な古文書、古地図などをデジタル印刷システムで複製し、地域の図書館や資料館で誰にでも見てもらえるようにする、②世界の美術絵画をデジタルカメラで撮影し、インクジェットプリンタで出力(ついでにエンボス加工も)して美術館などに展示してもらう、あるいは、③仏像や彫刻作品を3Dプリンタで複製してレプリカを作成し、損傷や盗難を防ぐことに役立ててもらう――などなど。文化財に限らなくていいのなら、例えば新開発した製品、デザインした建築物、衣類のファッションなどの、立派なプレゼンテーション用資料が作成できる。マーケティング効果を狙う企業からの需要も多いことだろう。積極的に探れば、こうしたビジネス分野は無数にあるだろう。コンテンツを扱える印刷業界の出番が到来している。印刷産業が「大量生産/大量配布こそ」という固定観念から脱して、「新しい時代の新しいニーズに沿った新たなビジネスを見出す」一つのきっかけとなれば幸いだ。


●プリプレス工程は本当に“ボトルネック”なのか?

「プリプレス部門はまるでブラックホールだ」と、冗談めかしによくいわれることがある。その意味は――仕事がどんどん入ってくる割に決して出ていかない、吸い取るはかりだ、ということ。だから、プリプレスは印刷工程上の最大のボトルネックだとする指摘が聞かれるのだが、これは“当て擦り”に等しい。下記の論文は、プリプレス部門で仕事が行き詰まるのは工程上の欠陥があるためではなく、前工程の営業部門や顧客サービス担当からの「不正確あるいは誤った情報」にこそ根本原因がある。作業が行き詰まる重要なボトルネックは、往々にして顧客との接点となっている工程、つまり見積り、顧客サービスに起因し、その影響を直接受けるプリプレスで実際に発生しがちなのだ――と言及。そのうえで、課題として滅多に取り上げられることのない、仕上げ工程における外注とボトルネックについて考えてみる必要があると主張している。


●仕上げ工程ではボトルネックは即外注で対応

 北米の印刷会社を対象とした実態調査(2014年)によると、各種仕上げ工程のうち①無線綴じ(24.6%)②小冊子製作(22.8%)③バインダー製本(17.0%)④上製本(16.6%)⑤中綴じ(14.1%)⑥はがき挿入(11.0%)⑦メール宛名印字(9.5%)――の順でボトルネック現象が発生しているという。デジタルデータを扱うプリプレス工程と違って、いずれもオフラインでの加工プロセスなのだが、注視すべきは、見間違いでないかと驚かれるほど、ほとんど同じような順で外注に出されている点である。①無線綴じ(32.5%)②小冊子製作(30.4%)③上製本(27.9%) ④バインダー製本(21.0%)⑤はがき挿入(19.8%)⑥メール宛名印字(18.9%)…⑧中綴じ(18.3%)――の順となっているのだ。仕上げ工程におけるボトルネックは納期にも関わる重要な事柄と捉えて、即外注で対応するという動機を印刷会社に与えていることが判る。


●4分の1の印刷会社が内製化を考えているが……

 外注に出すのは負荷の分散という観点から間違いではないとしても、発注に伴う問題 (外注先の設備確保、機械取りのタイミング、内製との進捗調整など)をこなさなければならない。外注/内製を見通した全体的な収益性をも考慮する必要がある。外注依存による弊害(コスト高リスク、自社ノウハウの放棄など)もあり得る。同調査で「ボトルネックを克服し売上げを伸ばし収益性を改善するための具体的対策」を尋ねた質問に対し、25.4%の企業が「新しい仕上げ設備の購入を検討中」との回答を寄せており、悩みが深いことを伺わせる。全体の4分の1の企業が、設備負担が増すにも関わらず、内製化によってボトルネック解消の実効性を高めたいと考えている現状について、「外注による明らかな欠陥を考えさせられる、興味深いこと」とみている。
※参考資料=「Outsourcing and Bottlenecks」; Howie Fenton, Vice President, Consulting Services, IMG


●全体最適化のためには、工程間の流れをスムーズに

 自社内に、顧客の要求に応えられる生産体制やノウハウが全くないなら、必然的に外注に頼るしかないが、能力不足(まさにボトルネックと自認する所以)の場合には、明確な内外作基準を設けて対処する必要がある。一般的には、生産量、納期、技術的困難などが挙げられる。2000年代に入って登場した新しいビジネス理論(TOC)は、制約条件となっているボトルネックを解消すれば、全体的な成果が自ずと引き上げられると強調する。生産能力を高めるには、ボトルネックを徹底的に改善するのが有効とされ、外注も現実的な対応策の一つとなっている。上記の論文はこのような切り口で問題提起したものと思われるが、非常に興味深いのはわざわざ「オフライン」と付記していることで、デジタル印刷方式を頭に置いてまとめたとも読み取れる。全ての印刷品目に当てはまるわけではないが、デジタル印刷システムにはインライン加工で製本まで一貫処理できるものがある。印刷方式を問わず、また内外作に関わらず、印刷工程から後工程への流れをスムーズにして、全体最適化をはかることが何より重要だと主張しているのかも知れない。外注か内製化かと考える際に、欠いてはならない視点といってよい。


●古文書のユネスコ世界記憶遺産登録に関心を寄せよう

 京都の東寺に伝えられた中世の寺院文書「百合文書」(京都府立総合資料館所蔵)が、昨年秋にユネスコ世界記憶遺産に登録された。世界の人びとの記憶に留め置くべき重要なドキュメントとして認められたもので、フランスの人権宣言、世界最古のコーラン、ゲーテの直筆文学作品、日本の慶長遣欧使節関係資料などと並び称されることとなった。この東寺百合文書とは、8世紀から18世紀までの約1千年にわたる膨大な量(およそ2万5千通)の古文群で、加賀藩寄贈の百個の桐箱に保管されてきた。東寺が鎮護国家を目的に建立された関係から、当時の政治組織、荘園管理、寺院経営、訴訟法令、朝廷/幕府の命令、出納など、幅広い分野にわたる決まり事が記述されていて、日々の事務処理、会議運営のための資料として利用されていた。荘園制度がなくなった江戸時代には、学問奨励、歴史書・地誌の編纂のための参考資料として役立てられた。
この文書は偶然に“保存されていた”のではなく、僧侶の手で意識的に“保管してきた”のである。今では、日本の仏教史、寺院史の研究に資するために、全点をデジタルアーカイブ化してWeb上に公開、多くの人びとがアクセスできるようしている。ユネスコ記憶遺産事業が目的とする、ドキュメント遺産の保護の精神や趣旨に沿う取り組みといえる。原形保存を原則としており、当時の和紙、墨書について研究するうえでも貴重な資料となっている。紙メディアの意義と有効性を高く評価されたことに、印刷関係者はもっと関心を寄せてほしいと思う。

以上



フジフィルム、コニカ、アグファ  フィルム3社のフィルム一眼レフ・ビジネス展開

2016-07-20 16:08:13 | 印刷人のフイルム・フイルムカメラ史探訪
印刷図書館クラブ
印刷人のフィルム・フィルムカメラ史探訪 VOL-22
印刷コンサルタント 尾崎 章


フィルムカメラが全盛期を迎える1950年から1985年にかけてコダック、アグファ、富士フィルム、コニカの写真フィルム4社は、写真フィルム市場拡大もターゲットとしたカメラビジネスを積極に展開、コダックを除く3社はフォーカルプレーンシャッター一眼レフ市場に自社ブランド製品の投入を行っている。
しかしながら、各種交換レンズはもとより、種々のアクセサリーを揃えたシステム構築が要求される一眼レフ市場はカメラ各社との競合が激しく製品群維持の採算性問題も加わりフィルム各社の一眼レフ・ビジネスは低迷を余儀なくされた。この問題に終止符を打った画期的新製品が1985年に発売されたオートフォーカス一眼レフ「ミノルタα7000」で、競合各社に与えた影響は「αショック」と称されて今日まで語り継がれている。


 
「αショック」で業界に激震を与えた「ミノルタα7000」



カメラ各社の一眼レフは迅速なオートフォーカス対応を余儀なくされたが、市場シェアの低いフィルム各社の一眼レフはオートフォーカス対応を見送り、前後して当該市場からの撤退を行っている。



コニカの一眼レフ最終製品は、「プラスチック最中構造」の安価製品

1985年4月にコニカ㈱(当時)はフィルム一眼レフ最終製品となる「TC-X」を発売した。機械式シャッター(1/8~1/1000秒)前後2枚のプラスチック成型板を張り合わせた「最中(もなか)構造ボディ」の普及型カメラで、AF・オートフォーカス一眼レフ市場参入予定無を意思表示する製品であった。



「コニカ最終製品「TCX」

 

カメラ本体価格30.000円の「TC-X」は、1989年7月に最終製品を出荷、1960年の「コニカF」以来30年に及ぶフィルム一眼レフ・ビジネスに幕を下ろしている。
「コニカF」は、プリズムファインター交換式、セレン露出計内臓、1/2000秒の最速シャッター搭載 等々、当時の一眼レフ・標準スペックを大きく凌駕する性能で注目を集め、世界初・自動露出制御一眼レフ「コニカオートレックス」(1963年)、世界初のフィルムワインダー搭載一眼レフ「コニカFS-1」(1978年)「コニカFT-1」(1983年)等々、市場をリードする製品を発売した経緯がある。しかしながら、ニコン、キャノン、旭光学ミノルタカメラのカメラ4社との競合は厳しく好調なコンパクトカメラへの軸足シフトを余儀なくされている。



ワインダー搭載・コニカ「FT-1」



コニカの最終製品「TC-X」は、マニアルフォーカス、手動フィルム巻き上げ、機械式シャッター等々 時代を逆戻りしたスペックの製品で、新規機能としてコニカ一眼レフ初の「フィルムDXコード」に対応した製品で有る事が特記される状況であった。
コニカ「TC-X」は、TTL露出計以外に電池を使用しない為に電池供給不安問題のある後進国向けの輸出用としての需要が有った事が記されている。


フジフィルムの国内向けフィルム一眼レフ・最終製品は1980年発売の「フジカAX-3」

1970年7月に富士写真フィルム㈱(当時)は、TTL測光のコンパクト一眼レフ「フジカST701」を発売してフィルム一眼レフ市場参入を開始している。
「1970年発売」「一眼レフ1号機」から「ST701」とネーミングされた同機は、カメラ愛好家をターゲットに商品化され、カメラ本体のダウンサイズ化により当時「世界最小・35mmフィルム一眼レフ」であった。



「フジカST701」



「ST701」のカメラ横幅は133mmで1972年にオリンパス光学が発売した小型一眼レフ「オリンパスOM-1」の横幅136mmを下回っていた。「ST701」はダウンサイズ志向が見られない当時の一眼レフ市場に大きなインパクトを与える事に成功している。
また「フジカST701」は、低照度感度・対応力が低いcds(硫化カドミウム)に替えてシリコン・フォトダイオードをTTL露出計受光素子に業界初採用する等、スペック面でも注目を集めている。
富士写真フィルムは、「ST701」以降、「レンズマウントの変更」「絞り優先AE対応」「絞り/シャッター速度・両優先AE対応」等、改良製品の市場投入を実施したが、カメラ専業各社による市場シェア拡大に劣勢を余儀なくされている。
同社は、1980年3月に国内向けの最終製品「フジカAX-3」を発売、輸出仕様の「フジカSTX-2」は1985年11月まで販売を行っているが、オートフォーカス一眼レフ・ミノルタα7000による「αショック」に前後してフィルム一眼レフ・ビジネスの幕を閉じている。




フジフイルム最終製品「FUJI STX-2]



フォトキナ展に突然登場したアグファのフィルム一眼レフ


1980年秋に開催された世界最大の写真機材展「フォトキナ」(開催:ドイツ・ケルン市)にアグファが予告無で「アグファ初の近代型35mmフィルム一眼レフ」を出展して来場者及び業界関係者を驚かせた。
アグファは、1960年代に当時ヨーロッパで流行していたレンズシャッター一眼レフ製品を数機種発売しているがフォーカルプレーンシャッター搭載の一眼レフ市場には未参入で有った事より「予告無の突然発表」のインパクトは大であった。
アグファ製一眼レフの商品名は、「セレクトロニック・SELECTRONIC」で下記3機種のバリエーションが有った。

①SERECTRONIC 1  TTLマニアル測光
②SERECTRONIC 2  絞り優先AE専用 
③SERECTRONIC 3  マニアル・絞り優先AE兼用


    
オレンジシャッターが印象的なアグファ「SERECTRONIC 1」 



3機種はいずれも㈱チノンによるOEM製品であったが、アグファのヒットカメラである1977年発売の「オプチマ1035」と同様にアグファのトレンドになっていた「オレンジカラーのセンサーシャッター」と「艶消しブラックボディ」を採用、1980年代の国産一眼レフとは異なる魅力的な「ヨーロピアン・デザインカメラ」に仕上がっていた。
しかしながら、後続機種が無く前述の「ミノルタα7000」を契機とするオートフォーカス一眼レフ時代の到来前に市場から姿を消し「最初で最後のアグファ一眼レフ製品」となっている。
筆者は、海外製カメラを得意とする銀座の中古カメラ店でTTLマニアル測光仕様の「SERECTRONIC 1」を偶然見つけてその場で購入、製造元㈱チノン製のパンケーキレンズ・AUTO CHINON45mm f2.8を付けて楽しんでいる。