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印刷図書館倶楽部ひろば

“印刷”に対する深い見識と愛着をお持ちの方々による広場です。語らいの輪に、ぜひご参加くださいませ。

月例会報告 2016年5月度

2016-05-31 14:50:27 | 月例会
[印刷]の今とこれからを考える 

        「印刷図書館クラブ」月例会報告(平成28年5月度会合より)


●特殊印刷業は紙メディアの“牙城”を守れるか

パッケージ類と並んで、電子メディアとは一番縁の遠いところにある特殊印刷物は、紙メディアの“牙城”を守れる力強い印刷分野として注目されている。その担い手である特殊印刷業界が、これからどのようなポジショングをとっていくのか、誰しも関心を抱くところである。そんな折、アメリカの業界団体が格好の実態調査をおこなってくれているので、参考までに紹介すると……。それによると、もっとも一般的な取引業界は食品サービス業で、以下、企業のブランディング部門、非営利団体/協会/組織と続いている。小売店はかつての最大の得意先であったが、厳しい競争のなかで4位に後退してしまった。この食品サービスとインテリア・デザイン関連は、もっとも成長性の高い市場とされ、これに対し、製造業や行政機関からは特殊印刷の必要性が小さいとみられているのが実情だ。


●顧客市場と対象品目をどう選ぶかが重要に

印刷品目という角度からみてみると、製品展示会のディスプレイ、旗(幟)、デカルコマニア(転写印刷物)/ラベル/ステッカー、室内壁面のグラフィックス、窓のディスプレイの順でトップ5を形成している。もっとも成長著しいのは壁紙などの化粧紙印刷で、インテリア・デザインあるいは建築デザイン分野が伸びていることと軌を一にしている。一方、大きく減少したのはビルの外壁などに掲げる広告板、最少の品目は記念楯/メダル・記章/トロフィーとなっている。ちなみに、ほとんどの企業でデジタル印刷方式が採用されていて、伝統的なスクリーン印刷は半分以下にまで減少している(オフセット印刷は4分の1にもならない)。また、かなり多くの企業が付帯サービスとして、ラミネート加工、鳩目穴加工、空間デザインなどの「仕上げ加工/ポスト・プロダクション・サービス」を顧客に提供している。


●的確な顧客サービスの提供が今後を左右する

 これらの調査結果は、垂直な取引関係のなかで、特殊印刷業がどの領域を対象にビジネスをしていったらいいのかの示唆を与えてくれている。特殊印刷業界全体の売上高は年々、好調に推移し、前向きの生産、営業、雇用によって顧客からの信頼性も増しているが、それでも、上記の市場分野、手掛ける製品の選択如何で、個々の企業の明暗が分かれるようだ。この報告書は「年間売上げで最低クラスの企業が、翌年には最上位となることがしばしばある」としている。特殊印刷業界においても「デジタル・アナログのハイブリッド技術の確立とサービスの提供」が不可欠なことに繋がる。価格引き下げの圧力があるなかで競争優位性を確保するためには、顧客サービスの改善、営業スタッフの強化、生産ラインの増強などを通して、適切なマーケティング戦略を展開すること、ワンストップショップになることが、何より重要だと結論づけている。
※参考資料=SGIA Report; Specialty Graphic Imaging & Association; Dan Marx (Vice President)


●「マーケティング・オートメーション」の効用は?

最近、ビジネスの新しい世界を拓く強力な“エンジン”になり得ると、にわかに脚光を浴びているのが「マーケティング・オートメーション」という概念である。例によりアメリカの印刷業界団体PIAから、顧客を惹きつけるためのツールとして、この「マーケティング・オートメーション」の効用を説く論文が発表されているので、意味するところを紹介しておきたい。多くの異なるメディアから情報を受け取るマルチ・チャンネルの時代が到来し、メッセージを届ける方法や伝達効率に優れた効果をもたらしている。可変データに基づくパーソナライズ化が可能になるなど、顧客との交渉、製品・サービスの販売で究極的な相互作用を発揮できる。顧客管理用のデータベースはソリューションの中核とみなされ、そこから出力された個別の情報はマーケティング・キャンペーンの基盤として使われる。新たに得た顧客情報はCRM(顧客維持管理)のためにデータベースに追加され、次のキャンペーンに活かされる。そうはいいながらも、「マーケティング・オートメーションは、こんな方法で(止まっていて)よいのだろうか? マーケティング・キャンペーン(そのもの)を立ち上げ、そのライフサイクル全体を管理することを支援すべきではないか」というのが、この論文の言い分なのである。


●印刷メディアとシームレスにつなぐ統合化技術で

 「マーケティング・オートメーション」を通して顧客にソリューションを提供するとき、印刷メディアがその中核技術として使われることはあまり想定されていない。しかし印刷会社には、印刷メディアを製作するためのワークフローと顧客のパーソナルデータとがお互いに補足し合えるよう、両者をシームレスに結びつけることのできる技術がある。その技術的なハードルこそ、他産業からの参入障壁となる。印刷会社が「マーケティング・オートメーション・ソリューション」用に完全に統合化された印刷システムをもつことの重要性がわかる。そうすることで、印刷会社と顧客との間の“クローズド・ループ”のコラボレーションが確立でき、デジタル印刷による効果的なワントゥワン・マーケティングが可能になる。キャンペーン効果を最大限にするためのプログラムの作成コストも、ワークフロー工程間の処理時間の標準化で削減できる。雑多な多くの繰り返し作業が自動化され、スピードアップを実現してくれるのだ。


●顧客ニーズに対応できる中核機能となるだろう

「マーケティング・オートメーション・システム」は印刷産業にビジネスの合理化の機会を与えることだろう。印刷会社が手掛けるべきキャンペーンを自動化することで、増収をもたらすだろう。マーケティングの創造力、キャンペーンの効率的な設計、購買行動への呼び掛けは、マーケティング・オートメーションがもつ可能性への理解を深め、顧客にソリューションを提供するうえで不可欠な要素となる。「このシステムは情報伝達の手段を変え、顧客ニーズに的確に対応する(印刷会社がもつべき)ワークフローの中核機能となるだろう」と、論文は結論づける。
※参考資料=The Magazine Feb. 2015, PIA; Dr. Mark Bohan (Vie President)


●印刷関係から「QRコード」の活用を考えてみたら

顧客情報のデータベース化、メディア(印刷物やEメール)の作成、顧客への販売促進をクローズ・ループで結ぶ、マーケティング・オートメーションのワークフローを構築する場合、PURL(個人用アクセス手段)が浸透し始めたアメリカでは、顧客に買い物など生活上の出来事、ニーズやウオンツを自らネット上に書き込んでもらえるよう、個人々々の書き込みページを用意(自動的に設定)して、それをワークフローの起点とすることが可能だ。日本では、このPURLが普及していないため、顧客情報が把握しにくい。そこで印刷関係からワークフローを動かす何かがないかを考えたとき、思い浮かぶのが印刷物にQRコードを掲載することである。取り扱うのがビッグデータでない以上、QRコードを活用することから始めると効果的だろう。クローズド・ループを比較的容易に回すことができる。


●印刷産業が音頭を取るためにも積極的な対応を

 日本では「マーケティング・オートメーション」という“単語”だけが一人歩きしていて、ビジネスとして使いこなせる考え方、具体的な方法を示す“用語”にはまだ育っていないようだ。QRコードは、情報を集め紙メディアと電子メディアをつなぐツールとなる。積極的に提案することで、ネットの世界で印刷産業がリーダーシップを発揮していける強みにできる。音頭を取れる仕掛けとなり得る。溢れかえっている電子情報も、さすがに“天井”にきたという見方さえある。印刷メディアの効用を主張して再び打って出るためにも、QRコードを切り口に「マーケティング・オートメーション」の意義を正確に捉えていきたい。

以上






懐かしきフィルムカメラのエプロンデザイン

2016-05-19 10:15:25 | 印刷人のフイルム・フイルムカメラ史探訪
「懐かしきフィルムカメラのエプロンデザイン」

印刷図書館クラブ
印刷人のフィルム・フィルムカメラ史探訪 VOL-20
印刷コンサルタント 尾崎 章



フィルムカメラの基本構造は、①レンズを取付けるレンズボード部 ②フィルム感光材料の保持部 ③レンズ、ミラーの光学系部 ④遮光性のボディ本体の4部分より成り、35ミリフィルムカメラ等の登場によってレンズボード部とボディ本体が一体化されている。
国内カメラ市場で35mmフィルムカメラが大きく台頭する1947年以降にカメラボディのレンズ取付部に「エプロン」と称する金属板を取り付けるデザインが流行した時期がある。
「エプロン」に関する正式定義は無いが、「エプロン」形状がカメラデザインに大きな影響を与える事より国内では1947年から1960年代にかけて数多くの「エプロン」付きカメラが見られた。


コンタックスⅠ型がカメラデザインに及ぼした影響

1932年にドイツ・ツアイス イコン社は、「ライカ」を凌駕する35mmフィルムカメラ「コンタックスⅠ型」を発売して世界の注目を集めた。「コンタックスⅠ型」は、基本長103mmの連動距離計、1/1000秒対応の金属シャッターを搭載して先行ライカを性能面で圧倒している。
また、「コンタックスⅠ型」はファインダー及び距離計窓、エプロン形状等々のカメラデザインの秀逸性でも注目を集め、国内カメラ各社が「コンタックスⅠ型」を意識したデザインのカメラを次々と販売する展開が開始されている。



ヤシカ35  


1947年発売のライカ型カメラ「ミノルタ35-Ⅰ」、1948年発売の「ニコンⅠ型」が「コンタックスⅠ型」デザインを踏装、1958年に㈱ヤシカが発売したレンズシャッターカメラ「ヤシカ35」は「コンタックスⅠ型」「ニコンⅠ型」に類似のデザインを採用、外観デザイン、レンズ性能そして価格のコストパフォーマンスで人気を集めた経緯がある。


ミノルタ35-Ⅰ 


「コンタックスⅠ型」のエプロンは、矩形型の基本形で、1947年以降に発売されたオリンパス、東京光学、理研光学、マミヤ光機等々の国産カメラデザインに大きな影響を与える事になった。



カメラ・エプロンの基本形は矩形の金属版

1947年発売の「ミノルタ35-1」,1948年発売の「ニコンⅠ型」(日本光学)「オリンパス35 Ⅰ型」(オリンパス光学)「ミニヨンB」(東京光学)1953年発売の「リコレット」(理研光学 現:リコーイメージング)「トプコン35」(東京光学)等の35mmレンズシャッターカメラは「矩形型エプロン」を装着してメカニカル性を重視・強調したデザインを採用している。
フィルム一眼レフでは、1952年の国産初の一眼レフ「アサヒフレックスⅠ」(旭光学)がレンズマウント部の左右に「矩形型エプロン」を配している。また1955年にオリオン光学が発売した国産初のペンタプリズム搭載一眼レフ「ミランダT」もエプロン風のレンズマウント部デザインを採用している。
旭光学では、エプロン付きデザインを「アサヒフレックスⅡB」(1954年)「アサヒペンタックスK」(1958年)「アサヒペンタックスS3」(1961年)「アサヒペンタックスSV」(1962年)等の製品に採用、特にベストセラーモデルの「アサヒペンタックスSV」によってエプロン仕様のペンタックスデザインが広く定着することになった。


アサヒペンタックスK  


旭光学は1964年発売のTTL測光一眼レフ「ペンタックスSP」でエプロン無ヘのデザイン変更を行っている。
旭光学とは逆に東京光学は1963年に発売した世界初のTTL測光一眼レフ「トプコンREスーパー」に大型エプロンを装着、TTL測光はもとより当時最新鋭のシステムカメラとしてメカニカルなデザインが一世を風靡している。


トプコンREスーパー  

「トプコンREスーパー」は当時の親会社:東芝が「ミラーメーター」開発以外に工業デザイン面での協力を行い、「優れた性能をアピールする直線的メカニカルデザイン」を採用した事が報じられている。東京光学では、姉妹機「トプコンRE2」、世界初のレンズシャッターTTL一眼レフ「トプコンUNI」も同一デザイン展開を実施、エプロン付きデザインの「トプコン・TTLトリオ」として注目を集めた経緯がある。

矩形型エプロンの最終製品には、ツアイス・イコン社との提携により㈱コシナが2005年に発売を開始した「ツアイス・イコン」がある。デジタルカメラ時代にフィルムファンに支えられて健闘したが2013年に惜しまれつつ販売を終了している。




ミノルタAシリーズの半円形エプロンデザイン


千代田光学(現:コニカミノルタ)は1955年発売の「ミノルタA」に半円形型のエプロンを採用、続いて「ミノルタA2」「ミノルタA2L」,1957年発売のレンズ交換式「ミノルタ スーパーA」のAシリーズカメラに同一エプロンデザインを採用している。


ミノルタA2 


ミノルタAシリーズは米国市場での評価も高く、1958年発売の国産初のセレン光電池露出計連動カメラ「ミノルタオートワイド」まで半円形エプロンデザインを継承している。
余談ではあるが、当時の千代田光学はレンズに「CHIYOKO」と刻印しており、「エプロンをした千代子さん」として密かな人気があった事が報告されている。


ミノルタA2「CHIYOKO」 


ミノルタカメラは、高級コンパクトカメラブームの1990年にセゾングループ・デザインハウスのデザインによる特別仕様モデル「Minolta Prod 20’s」(48.000円)を全世界2万台限定で発売している。この「Minolta Prods 20’S」は丸型デザインのエプロンが注目を集め、「クラシックデザインカメラは、エプロンが不可欠」という基本が再認識されている。


ミノルタプロッド20‘S 



フジカ35M,コダック・レチネッテの逆三角形エプロン

富士フィルム初の35mmレンズシャッターカメラ「フジカ35M」は、レンズ性能を始めとするカメラの優秀性はもとより、東京芸術大学・田中芳郎教授によるデザインも注目を集めた。田中デザインの富士フィルムカメラは、「フジペット」「フジペット35」「フジペットEE」「フジカラピッドS」から女性向け「フジカミニ」迄、多岐に及んでおり、中でも「フジカ35M」は海外でも高い評価を受けている。1957年発売の「フジカ35M」は直線を基調としたデザインで、特に逆三角形のエプロンが印象的であった。


フジカ35M


ドイツ・コダックが大衆機・レチナシリーズとして1959年に発売した「Retinette 1A」は、丸みを帯びた逆三角形エプロンのスタイリングで人気を博したカメラである。クロムメッキの緻密性が高く発売後50年を経過したにも関わらず美しい外観が魅力的で現在でも中古カメラ市場で人気がある。
一方、米国コダックが1951年に発売した「Signet 35」は、前述「Retinette 1A」とは好対照にダイカスト仕様の重厚なカメラである。


コダック レチネッテ1A


もともと「Signet 35」はアメリカ陸軍の通信部隊がコダックに発注した軍用カメラで「Signet」の名前はSignalを語源としている。
民生用としても発売された当機は、カメラ正面及びカメラ上部・軍艦部が完全左右対称のデザイン、ファインダーと一体化したエプロンデザインが好評を博し「御洒落カメラ」として人気を集めた。本機のエクター44mm f3.5・テッサータイプレンズは、描写性能に優れており今日でも若い女性に人気のある「往年のMade in USA」製品である。


コダック シグネット



異形エプロンデザインの頂点、大成光機ウェルミー35M


小西六写真工業が1956年に発売した「コニカⅡA」は不規則な曲線形のエプロンを装着して注目を集めた。同社の記録によると「両手でカメラを保持した時に指が触れる部分は貼り皮」として「撮影者が指に違和感を持たない」ホールド感の追求結果によるエプロン形状と記されている。確かにカメラを両手で保持した際に指がエプロンに触れる事は無く、この自由曲線がカメラ外観に「優しい」イメージを与える効果も生じている。
この優美なエプロン形状は、残念ながらマイナーチェンジ機「コニカⅢ」では矩形型エプロンに戻されている。


コニカⅡA


「コニカⅡA」のエプロン形状コンセプトを更に発展させた究極のエプロンデザイン製品がある。小西六写真工業と協力関係にあった大成光機(山梨コニカを経て現:コニカミノルタオプトプロダクト㈱)が1957年に発売した「ウェルミー35M2」である。距離計無・目測式焦点調節のビギナー向けカメラでは有るが14角の「異形」多角形エプロンによる存在感が際立ったカメラで「エプロン・ユニークデザイン賞」に値するカメラであった。


ウェルミー35



以上