「page2013」展の開催もいよいよ一週間後に迫ってきた。
そこで、この数年に発行された印刷産業ビジョン・提言・分析資料の中から、次の3冊をもう一度ピックアップし振り返ってみたい。
まず一冊目、「page展」主催の日本印刷技術協会が2012年9月に発行した
「印刷白書2012」
A4判151頁
印刷産業の今ある姿を1冊で鳥瞰できる書物。発行元である日本印刷技術協会では毎年、標題の「白書」シリーズを重ねてきているが、本書は通算19年版に当たる。産業動向や技術トレンド、取り組むべき経営課題など、この1年間における業界全般の動きをテーマごとに記述するとともに、図版類を多用しながら、トピックス情報や各種の統計資料を積極的に掲載している。関心をもたれた分野に関して、そのつど読んでいだだけるような“座右の本”となっている。
本書は、第1部「印刷メディアと公益性」(特集企画)、第2部「印刷産業の動向」「技術トレンド」「関連産業の動向」。第3部「印刷産業の経営課題」からなる3部5章で構成されている。
第1部では、印刷メディアが有する公共性や公益性、今後のメディアのあり方、使命について考察。知識産業としてのメディア全体がめざすべき方向の一つとして、集合知による「知の赤十字」構想を展開しているのが注目される。客観的で中立的な事実を結び付けて集合知によって可視化し、データベース化することが、大局観に立って社会を発展させるべきメディア事業の使命だする。そのためには、出版流通ネットワークのような、日常的な知的ワークフローの構築から始める必要があるとしている。
また第3部では、①印刷産業はどのような方向でビジネスを選択していくべきか、②印刷会社は立ち位置や事業領域をどのように定めて転換をはかるべきか――を取り上げて、産業および企業の今後の方向性を提唱。具体的には、地域活性化、CSR、クロスメディア、デジタルビジネス、人材育成などを中長期的な重要課題として挙げるとともに、印刷会社の進むべき方向は「コミュニケーション支援企業」にあると示唆している。
つづいて、日本印刷産業連合会が2012年9月に10年ぶりに発表した印刷産業ビジョン
「SMATRIX2020 スマート社会に貢献する印刷産業」
A4判179頁
次世代型の印刷産業は、来るべきスマート社会における知的なコミュニケーション基盤としての、新たな役割を担う責務を課せられている――印刷産業がスマート社会へパラダイムシフトするためには、従来とは異なる産業基盤の構築をはかる必要があるが、本書は、その展開方向を“指針”として提示した産業ビジョンである。発行元の日本印刷産業連合会が創立25周年を迎えたのを機に、印刷産業の活性化、いってみれば産業自身のスマート化の“起爆剤”にすることを目的に編纂された。
本書は、①印刷市場規模の予測、②印刷産業2020ビジョン構築に向けて、③経営課題の調査分析、④方向性と事例研究――の全4章からなっている。印刷産業の市場推移、取り巻く課題を分析するとともに、今後の方向性の例として、コラボレーションに向けた仕組みづくり、リスク対策、サステナブル社会に向けた印刷イノベーション、人財活用、グローバル化対応、業態の多核化、知的財産戦略などを提唱している。
印刷産業の再定義も試みており、これからの印刷産業では、それぞれ特徴をもった企業が独自の強みによって市場を棲み分けていくことこそが、成熟化した産業における本来的かつ最適な姿であると強調。印刷産業を一つのかたちでくるむ同質的競争から、このような異質的競争へシフトさせるためには、自社の特徴と事業のあり方を極めることからスタートさせなければならない――という趣旨を、本書は強く訴えかけている。
市場に対する量的適合(デ・マーケティング)や地域への業態(ビジネスシステム)適合をはかるとともに、「モノ」(プロダクトアウト)と「コト」(マーケットイン)の違いを根底に置きながら「ソリューション&アウトソ-シング」分野への参入、他業界を巻き込んだ革新的なビジネスモデルの構築をめざす必要があると提言する。
最後は、全日本印刷工業組合連合会が2010年10月に発表した
「産業成長戦略提言2010 ソリューション・プロバイダーへの進化」
A4判84頁
中小印刷業の「業態変革」を事業施策の柱としてきた全日本印刷工業組合連合会が、印刷産業の未来はこうあるべきだというビジョンを指し示した提言書である。
同連合会では、モノづくりを主体としてきた印刷業態から、ワンストップサービスを柱とするソフト的な業態へ転換する必要があるとして、2004年に「業態変革」に関する取り組みを開始。それ以降、ステップを踏むごとに推進プラン、実践プランについてのガイドブックを作成してきたが、事業を総括する段階を迎えた時点で、並行して産業戦略デザイン室を設立し、改めて本書による提言をおこなったもの。
「今後10年間、飛躍し発展できる印刷会社の条件は、ソリューション提案でき、マーケティングが解るスタッフを確保、育成すること」が、本書による提言の骨子である。印刷会社が進出可能なさまざまなソリューション(顧客が抱えているビジネス上、生活上の課題を解決する対応策)の事業領域と方法論が示されており、「めざすべき方向は、製造業としての強みを備えつつ、顧客へのソリューション提案ができるサービス業態である」と断言する。
そのうえで、これまで印刷業とは別の事業として認識されてきた、前後工程に関わる領域にも事業範囲を拡げると同時に、ソリューション・プロバイダーとして取り組むべき、経営、販売、感性価値、クロスメディア、クリエイティブ、プリント、フルフィルメント、海外ビジネス、地域活性化の9分野における戦略的な姿を説いている。
業態変革の実践プランでは、ワンストップサービス業を支える土台として、製造業とサービス業を融合させたソリューション・プロバイダーへのさらなる変身を提唱していたが、本書の基調もそこで掲げた考え方を強化するかたちとなっている。
そこで、この数年に発行された印刷産業ビジョン・提言・分析資料の中から、次の3冊をもう一度ピックアップし振り返ってみたい。
まず一冊目、「page展」主催の日本印刷技術協会が2012年9月に発行した
「印刷白書2012」
A4判151頁
印刷産業の今ある姿を1冊で鳥瞰できる書物。発行元である日本印刷技術協会では毎年、標題の「白書」シリーズを重ねてきているが、本書は通算19年版に当たる。産業動向や技術トレンド、取り組むべき経営課題など、この1年間における業界全般の動きをテーマごとに記述するとともに、図版類を多用しながら、トピックス情報や各種の統計資料を積極的に掲載している。関心をもたれた分野に関して、そのつど読んでいだだけるような“座右の本”となっている。
本書は、第1部「印刷メディアと公益性」(特集企画)、第2部「印刷産業の動向」「技術トレンド」「関連産業の動向」。第3部「印刷産業の経営課題」からなる3部5章で構成されている。
第1部では、印刷メディアが有する公共性や公益性、今後のメディアのあり方、使命について考察。知識産業としてのメディア全体がめざすべき方向の一つとして、集合知による「知の赤十字」構想を展開しているのが注目される。客観的で中立的な事実を結び付けて集合知によって可視化し、データベース化することが、大局観に立って社会を発展させるべきメディア事業の使命だする。そのためには、出版流通ネットワークのような、日常的な知的ワークフローの構築から始める必要があるとしている。
また第3部では、①印刷産業はどのような方向でビジネスを選択していくべきか、②印刷会社は立ち位置や事業領域をどのように定めて転換をはかるべきか――を取り上げて、産業および企業の今後の方向性を提唱。具体的には、地域活性化、CSR、クロスメディア、デジタルビジネス、人材育成などを中長期的な重要課題として挙げるとともに、印刷会社の進むべき方向は「コミュニケーション支援企業」にあると示唆している。
つづいて、日本印刷産業連合会が2012年9月に10年ぶりに発表した印刷産業ビジョン
「SMATRIX2020 スマート社会に貢献する印刷産業」
A4判179頁
次世代型の印刷産業は、来るべきスマート社会における知的なコミュニケーション基盤としての、新たな役割を担う責務を課せられている――印刷産業がスマート社会へパラダイムシフトするためには、従来とは異なる産業基盤の構築をはかる必要があるが、本書は、その展開方向を“指針”として提示した産業ビジョンである。発行元の日本印刷産業連合会が創立25周年を迎えたのを機に、印刷産業の活性化、いってみれば産業自身のスマート化の“起爆剤”にすることを目的に編纂された。
本書は、①印刷市場規模の予測、②印刷産業2020ビジョン構築に向けて、③経営課題の調査分析、④方向性と事例研究――の全4章からなっている。印刷産業の市場推移、取り巻く課題を分析するとともに、今後の方向性の例として、コラボレーションに向けた仕組みづくり、リスク対策、サステナブル社会に向けた印刷イノベーション、人財活用、グローバル化対応、業態の多核化、知的財産戦略などを提唱している。
印刷産業の再定義も試みており、これからの印刷産業では、それぞれ特徴をもった企業が独自の強みによって市場を棲み分けていくことこそが、成熟化した産業における本来的かつ最適な姿であると強調。印刷産業を一つのかたちでくるむ同質的競争から、このような異質的競争へシフトさせるためには、自社の特徴と事業のあり方を極めることからスタートさせなければならない――という趣旨を、本書は強く訴えかけている。
市場に対する量的適合(デ・マーケティング)や地域への業態(ビジネスシステム)適合をはかるとともに、「モノ」(プロダクトアウト)と「コト」(マーケットイン)の違いを根底に置きながら「ソリューション&アウトソ-シング」分野への参入、他業界を巻き込んだ革新的なビジネスモデルの構築をめざす必要があると提言する。
最後は、全日本印刷工業組合連合会が2010年10月に発表した
「産業成長戦略提言2010 ソリューション・プロバイダーへの進化」
A4判84頁
中小印刷業の「業態変革」を事業施策の柱としてきた全日本印刷工業組合連合会が、印刷産業の未来はこうあるべきだというビジョンを指し示した提言書である。
同連合会では、モノづくりを主体としてきた印刷業態から、ワンストップサービスを柱とするソフト的な業態へ転換する必要があるとして、2004年に「業態変革」に関する取り組みを開始。それ以降、ステップを踏むごとに推進プラン、実践プランについてのガイドブックを作成してきたが、事業を総括する段階を迎えた時点で、並行して産業戦略デザイン室を設立し、改めて本書による提言をおこなったもの。
「今後10年間、飛躍し発展できる印刷会社の条件は、ソリューション提案でき、マーケティングが解るスタッフを確保、育成すること」が、本書による提言の骨子である。印刷会社が進出可能なさまざまなソリューション(顧客が抱えているビジネス上、生活上の課題を解決する対応策)の事業領域と方法論が示されており、「めざすべき方向は、製造業としての強みを備えつつ、顧客へのソリューション提案ができるサービス業態である」と断言する。
そのうえで、これまで印刷業とは別の事業として認識されてきた、前後工程に関わる領域にも事業範囲を拡げると同時に、ソリューション・プロバイダーとして取り組むべき、経営、販売、感性価値、クロスメディア、クリエイティブ、プリント、フルフィルメント、海外ビジネス、地域活性化の9分野における戦略的な姿を説いている。
業態変革の実践プランでは、ワンストップサービス業を支える土台として、製造業とサービス業を融合させたソリューション・プロバイダーへのさらなる変身を提唱していたが、本書の基調もそこで掲げた考え方を強化するかたちとなっている。