印刷図書館倶楽部ひろば

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「印刷白書2012」他を振り返る

2013-01-31 16:31:45 | 印刷業界ニュース
「page2013」展の開催もいよいよ一週間後に迫ってきた。
そこで、この数年に発行された印刷産業ビジョン・提言・分析資料の中から、次の3冊をもう一度ピックアップし振り返ってみたい。



まず一冊目、「page展」主催の日本印刷技術協会が2012年9月に発行した
「印刷白書2012」
 A4判151頁





印刷産業の今ある姿を1冊で鳥瞰できる書物。発行元である日本印刷技術協会では毎年、標題の「白書」シリーズを重ねてきているが、本書は通算19年版に当たる。産業動向や技術トレンド、取り組むべき経営課題など、この1年間における業界全般の動きをテーマごとに記述するとともに、図版類を多用しながら、トピックス情報や各種の統計資料を積極的に掲載している。関心をもたれた分野に関して、そのつど読んでいだだけるような“座右の本”となっている。


本書は、第1部「印刷メディアと公益性」(特集企画)、第2部「印刷産業の動向」「技術トレンド」「関連産業の動向」。第3部「印刷産業の経営課題」からなる3部5章で構成されている。


第1部では、印刷メディアが有する公共性や公益性、今後のメディアのあり方、使命について考察。知識産業としてのメディア全体がめざすべき方向の一つとして、集合知による「知の赤十字」構想を展開しているのが注目される。客観的で中立的な事実を結び付けて集合知によって可視化し、データベース化することが、大局観に立って社会を発展させるべきメディア事業の使命だする。そのためには、出版流通ネットワークのような、日常的な知的ワークフローの構築から始める必要があるとしている。


また第3部では、①印刷産業はどのような方向でビジネスを選択していくべきか、②印刷会社は立ち位置や事業領域をどのように定めて転換をはかるべきか――を取り上げて、産業および企業の今後の方向性を提唱。具体的には、地域活性化、CSR、クロスメディア、デジタルビジネス、人材育成などを中長期的な重要課題として挙げるとともに、印刷会社の進むべき方向は「コミュニケーション支援企業」にあると示唆している。
 
                     



つづいて、日本印刷産業連合会が2012年9月に10年ぶりに発表した印刷産業ビジョン
「SMATRIX2020 スマート社会に貢献する印刷産業」
 A4判179頁




次世代型の印刷産業は、来るべきスマート社会における知的なコミュニケーション基盤としての、新たな役割を担う責務を課せられている――印刷産業がスマート社会へパラダイムシフトするためには、従来とは異なる産業基盤の構築をはかる必要があるが、本書は、その展開方向を“指針”として提示した産業ビジョンである。発行元の日本印刷産業連合会が創立25周年を迎えたのを機に、印刷産業の活性化、いってみれば産業自身のスマート化の“起爆剤”にすることを目的に編纂された。


本書は、①印刷市場規模の予測、②印刷産業2020ビジョン構築に向けて、③経営課題の調査分析、④方向性と事例研究――の全4章からなっている。印刷産業の市場推移、取り巻く課題を分析するとともに、今後の方向性の例として、コラボレーションに向けた仕組みづくり、リスク対策、サステナブル社会に向けた印刷イノベーション、人財活用、グローバル化対応、業態の多核化、知的財産戦略などを提唱している。


印刷産業の再定義も試みており、これからの印刷産業では、それぞれ特徴をもった企業が独自の強みによって市場を棲み分けていくことこそが、成熟化した産業における本来的かつ最適な姿であると強調。印刷産業を一つのかたちでくるむ同質的競争から、このような異質的競争へシフトさせるためには、自社の特徴と事業のあり方を極めることからスタートさせなければならない――という趣旨を、本書は強く訴えかけている。


市場に対する量的適合(デ・マーケティング)や地域への業態(ビジネスシステム)適合をはかるとともに、「モノ」(プロダクトアウト)と「コト」(マーケットイン)の違いを根底に置きながら「ソリューション&アウトソ-シング」分野への参入、他業界を巻き込んだ革新的なビジネスモデルの構築をめざす必要があると提言する。
 
    
                   


最後は、全日本印刷工業組合連合会が2010年10月に発表した
「産業成長戦略提言2010 ソリューション・プロバイダーへの進化」
 A4判84頁




中小印刷業の「業態変革」を事業施策の柱としてきた全日本印刷工業組合連合会が、印刷産業の未来はこうあるべきだというビジョンを指し示した提言書である。


同連合会では、モノづくりを主体としてきた印刷業態から、ワンストップサービスを柱とするソフト的な業態へ転換する必要があるとして、2004年に「業態変革」に関する取り組みを開始。それ以降、ステップを踏むごとに推進プラン、実践プランについてのガイドブックを作成してきたが、事業を総括する段階を迎えた時点で、並行して産業戦略デザイン室を設立し、改めて本書による提言をおこなったもの。


「今後10年間、飛躍し発展できる印刷会社の条件は、ソリューション提案でき、マーケティングが解るスタッフを確保、育成すること」が、本書による提言の骨子である。印刷会社が進出可能なさまざまなソリューション(顧客が抱えているビジネス上、生活上の課題を解決する対応策)の事業領域と方法論が示されており、「めざすべき方向は、製造業としての強みを備えつつ、顧客へのソリューション提案ができるサービス業態である」と断言する。


そのうえで、これまで印刷業とは別の事業として認識されてきた、前後工程に関わる領域にも事業範囲を拡げると同時に、ソリューション・プロバイダーとして取り組むべき、経営、販売、感性価値、クロスメディア、クリエイティブ、プリント、フルフィルメント、海外ビジネス、地域活性化の9分野における戦略的な姿を説いている。


業態変革の実践プランでは、ワンストップサービス業を支える土台として、製造業とサービス業を融合させたソリューション・プロバイダーへのさらなる変身を提唱していたが、本書の基調もそこで掲げた考え方を強化するかたちとなっている。





ポーランドポスター展作品集「Polish poster 1950-1960」のご紹介

2013-01-30 16:21:11 | 蔵書より
「Polish Poster 1950-1960」
 ―ポーランドポスター展 作品集

・編集;松浦昇/田中あづさ/紫牟田伸子
・発行;ポーランドポスター展実行委員会
・体裁;B5判/196ページ


    


 本書は、2012年11月に横浜で開催されたポーランドポスター展で公開された、同国の国立ヴィラヌフポスター美術館所蔵のポスター150点を収録した作品集である。


 ポーラランドのポスターは、世界のグラフィックデザインの歴史のなかでも、比類のない存在として知られるが、本書には、黄金期であった1950年代、60年代の珠玉の作品が漏れなく収められている。今でも若手デザイナーの登竜門とされる公募展「ワルシャワ国際ポスタービエンナーレ」は、この頃に始まっているのだ。


 本書は、①1955年以前・ポーランド独立直後のポスターの力、②1955‐1965年・ポーランドポスター学校に集うデザイナーたち、③1965年以降・広がるデザインの力――の3章で構成され、これらの前段にはヴィラヌフポスター美術館のコレクション、ポーランドポスター学校についての詳細な解説文が載っている。


 ポーランドにおける当時のポスターは、社会主義体制のもとで殆んど映画や音楽、演劇を紹介するものであったが、それらは全て力強いイラストで描かれた個性的な作品であった。エネルギー溢れるポスターが市民を励まし、生きる希望と勇気を与え続けてきたに違いない。そんなポスターの数々を本書でみることができる。


 第1回コンクールで金賞を受賞した日本におけるグラフィックデザイナーの第一人者、永井一正氏も本書に「ポーランドポスターの魅力」と題して寄稿。そのなかで「ポスターを心から愛し、そのコミュニケーションとしての機能の他に、芸術性を鑑賞する市民の鑑賞眼に支えられて、ポーランドのポスターは世界でも独自の個性豊かな芸術性の開花を見たのであろう。その表現は力強く人間の生を魂の塊としてとらえ、見る者を引きつける魅力に満ちていた」と語っている。
 





「page2013」の開催迫る ―2月6日~8日まで― 

2013-01-18 14:15:58 | 印刷業界ニュース
「page2013」の開催迫る -2月6日から8日まで- 
テーマは「拡大! コミュニケーション支援ビジネス」



  

 「拡大! コミュニケーション支援ビジネス」をテーマに掲げた「page2013」が2月6日から8日までの3日間、㈳日本印刷技術協会の主催により東京・東池袋のサンシャインシティー「コンベンションセンターTOKYO」で盛大に開催される。


 印刷業とは、印刷メディアを活かすことによって、顧客とエンドユーザーとのコミュニケーションを円滑にするお手伝いをするビジネス、という主催者側のメッセージを伝えるべく、システム機器の展示会、カンファレンス・セミナー、マーケティング・ワークショップ、オープンイベントなど、盛り沢山の行事が展開される。


 印刷会社がマーケティング活動を通じて顧客支援していくためには、Webやデジタルサイネージ、デジタル印刷システムなどを積極的に活用したソリューションを提案していかなければならないが、今回の「page2013」では、サブシステムとして

1.企画・提案・デザイン
2.デジタル・印刷・印刷技術
3.トピック・特殊技術

を設け、新技術や問題点のポイント、ビジネス上のヒントとスキルを明確に把握してもらえるよう、さまざまな工夫を凝らしているのが特徴だ。


 展示会は、文化会館の3フロアーを使っておこなわれ、96社に及ぶシステムメーカー、ソフト・サービス企業、企画会社、印刷関連会社などが出展、それぞれ独自のソリューションを提唱する。
多彩な出展内容をわかりやすく解説してもらえる「見どころツアー」も実施される。目的別に、

1,最新ワークフロー探求コース
2.ユーザー事例、ビジネスの“タネ”探索コース
3.デジタルコンテンツとメディア展開にみるビジネス開拓コース

ほかが予定されている。

業界に精通したツアーコンダクターがWeb to Print、MIS、CIP4ワークフロー、デジタル印刷機との連携などについて、ビジネス構築に役立つ視点で深掘りしてくれるはず。

 カンファレン・セミナーはワールドインポートマート5階で会期中の3日間を通して実施され、3つの基調講演、延べ33のセミナーを聞くことができる。このうち基調講演のテーマは、

1.電子書籍2013-国内プレーヤー勢揃い-、
2.PPO!オンデマンドソリューションが拓く新しいビジネスモデル
3.未来を破壊する解決編

またセミナーでは、印刷業の経営ビジョン、営業モデル、印刷市場展望、IT動向、クロスメディア、デジタル印刷などが取り上げられる。事業領域を具体的に拡げる糸口を見出せる「顧客ビジネス支援マーケティング・ワークショップ」も聞き逃せない。ここでは、レスポンス広告、顧客ブランディング、販促プランニング、新事業・新サービス開
拓のノウハウを教えてくれるだろう。


主催:公益社団法人 日本印刷技術協会 JAGAT




初詣と“カミサマ”の因縁 

2013-01-17 15:21:02 | エッセー・コラム

『初詣と“カミサマ”の因縁』  2013年元旦 久保野和行



(初詣でにぎわう柴又帝釈天)


新年の事始は初詣で賑わう。明治神宮や成田山新勝寺が多くの人が参拝する。しかも日本人の寛容な心が表現されている。

明示神宮は神様を祭っているが、一方の成田山新勝寺は仏様を祭っている。日本語にも神社仏閣の熟語が存在する。日本古来の神様は八百万の神と言われ自然信仰の風習があった。
「日本書紀」によると仏教伝来が欽明天皇(552年)朝鮮半島の百済から伝わった。それから約60年程度で日本風土の融合し、聖徳太子の「十七条の憲法」(604年)に反映されている。


世界の歴史の見ればわかるが、血にぬられた宗教戦争の悲惨さが各地で起きており、安らぎを求めて平和のひとときを過ごしたい民衆に、自宗教の主張が、醜い争いごとにつながり究極の暴力支配を呈する。
地続きの国境では政治でも宗教を手段で使うし、それだけ犠牲も多かった。しかし日本は島国のガラバゴス現象で共存共栄の進化と遂げた。

一方で、我等の印刷業界での“カミサマ”いえば、自ずと知れず『紙さま』に尽きる。紙の歴史も、紀元前300年ごろエジプトでパピルス草という植物の茎を薄く切って絵や文字を記録した。




このパピルスは英語の“ペーパー”の語源になっている。中国の後漢時代に蔡倫が和帝へ紙を献上したと『後漢書巻106』に記載されている。歴史の長さからの知恵も多く知見が伺える。


私が最も興味があるのが、紙のサイズ設定である。紙にはAサイズ、とBサイズが存在する。それも究極の叡智でもある。例えば、A0(エイゼロ)サイズは、1メートル×1メートルの面積比であり、それが6:4の黄金比で割られていきA6サイズが世界共通のハガキサイズに収まっている。もう一方のB0(ビーゼロ)サイズは、1.5メートル×1.5メートルの面積比で構成され、同じく黄金比6:4で並んでいる。


日本の浮世絵はBタイプ主流のサイズで構成されている。ふっと不思議に思うことがある。太古の昔から使われた測定法が、フラン革命後の1790年3月国会議員であるタレーラン・ペリゴールの提案で、創設することが決議した。それを受けて1791年に、地球の北極点から赤道までの子牛線弧長の1000万分の1として定義される新たな長さの単位「メートル」が決定された。


その後、1867年のパリ万国博覧会で世界的に広がった。メートル法の設定のプロセスは良く分かるが、それと別の視点で見れば、太古で使用された測定法が、現代の論理的な根拠になっているが、そもそも、その昔の人々が北極点から赤道までの距離の1000万分の1が、イコール1メートルになるとは、これこそ神(紙)のみ知る神秘の世界といえる。


日ごろ印刷業界にいながら、こんな些細な現象に気づかないのが普通であるが、たまには“カミサマ”(紙さま)の霊験あらたかな教えにしだがうのも一興かもしれない。最近のニュースで王子製紙が10月1日をもって王子ホールデイングスになった。

実は今手元にある書籍は「紙の知識100」~知ればもっと楽しい~(編集:王子製紙 発行所:東京書籍)がある。




中味は平易に書かれているので発行当事者に聴いてみたら、対象が小中学生向けに編集したそうです。これは学校等で工場見学に来た生徒達が、多く興味を引いたことが中心になって書かれたそうです。分かりやすい説明文で十分に印刷人も参考になると思った。“紺屋の白袴”にならぬように。(終)