印刷図書館倶楽部ひろば

“印刷”に対する深い見識と愛着をお持ちの方々による広場です。語らいの輪に、ぜひご参加くださいませ。

月例木曜会≪2013年11月 会合≫ まとめ

2013-11-27 13:52:09 | 月例会
毎月、第三木曜日の午後開催の≪月例木曜会≫が、今月21日に集われました。編集人より早速レジメが届きましたので、ご報告させていただきます。



[印刷]の今とこれからを考える 

      「印刷図書館クラブ」月例会報告(平成25年11月度会合より)



●極厚の板紙を使った『紙箱』が開発された……

 段ボールの空間をなくしたような厚紙でつくった紙箱が開発され、注目されている。強度が段ボールと比べて数倍に高まるため、100回程度は繰り返し使えるのが特長となっている。コスト削減や環境負荷の軽減に寄与することもあって、専門的な運送業務にはもちろん一般企業の配送サービスにも広く効果を発揮しそうだ。何回も使用可能なところは興味深く、例えば組み立て式の使い捨て家具にしたら面白いのではないか。再利用を推進できるというマーケティング視点からいっても、非常に今風だ。環境貢献も含めて、社会的に提言する価値がありそうだ。従来、段ボールについてはモノの運搬、あるいは倉庫保管のためにだけに使われていて、その先のビジネスがあまり考えられてこなかった。せっかく開発したのだから、新しい用途、活用の仕方を考えなければならない。この新製品についても関連業界とのアライアンスが重要になる。


●物流と情報伝達、おもてなし、広告機能の融合こそ


 リサイクルを推進するときは、サプライチェーン(企業の枠を超えたバリューチェーン)の整備・構築が欠かせない。箱には企業や製品のブランドを伝える役割があるが、と同時に出荷・物流・リサイクル・リユースを見通したトータルな機能が備わっていて然るべきだ。物流(ロジスティックス)に伴う情報処理サービスを提供することで、販売・受注・決算の商流系をどうカバーするかである。製造を請け負う印刷業界は、こうしたサプライチェーンの中核となる資格があるが、どうも苦手意識がある。印刷会社が中心となってサプライチェーンを繋げることができたら、関連業界ともWin-Winの関係を築けるだろう。顧客離れを防ぐ障壁にもなるだろうし、有力な付帯サービスにもなり得るので、印刷営業の“武器”になるに違いない。箱による物流と情報流通、箱と広告宣伝、箱とカスタマイズ化など、発展させていけばよいと思う。


●情感に訴えることで顧客価値が獲得できる


 印刷業界には、ビジネス展開の発想力を高めてほしい。アイデアの発想は優れていても、その後の用途開発、市場開拓、顧客価値獲得までの新しいビジネスモデルを確立する段階にはなかなか至らない。業界自身の未体験ゾーンに“脱皮”するのは非常に難しいが、やってみなければ判らない部分は多い。仮説-検証を何回も繰り返して、魅力に富んだ価値を付け加えることが何よりも大切である。箱の例でいえば、物流には必ず情報が伴う。そこにさまざまなビジネスチャンスが横たわっている。また、箱や包装には、化粧箱のような名入れ高級品による“おもてなし”機能、商品を告知するブランディング機能、受け取る側に気持ちを伝えるコミュニケーション機能もある。発想を豊かにすれば、それこそ印刷文化の向上にも寄与できる。日本人は情感人種といわれる。商品を段ボール箱ごと購入するアメリカ人とはどこか違う。特有の情感に訴えて購入してもらえるように仕向ければ、印刷会社にとって有利に運べるだろう。


●日本人も印刷業界も自らは変わりたくない?


 日本人はどうしても不可能な理由を探しがちである。人間は本来、変わりたくないもので、どうしたら打開できるかを考えない。現状を打破しようという意識に欠ける。経営戦略や新製品開発などで、つねに他社の動向が気になり、現実に関わっていないとわかると妙に“安心”してしまう癖がある。どこの産業、企業においても似たような傾向だろうが、印刷産業の場合は、歴史が長すぎるせいだろうか、ある種、そうした“文化”ができてしまっている。活字は専門性が高かく社会的に浸透しなかったが故に、人々は印刷業界に頼まざるを得なかった。他を寄せ付けない特異性が身についてしまった。今ではパソコンとプリンタで誰でもそこそこの印刷ができるようになったにも関わらず、である。印刷を利用していたかつての自費出版は自分のパソコンで制作する自己出版に、そして、Webを活用した電子書籍が今や個人出版される時代になった。印刷業界が自覚すべきは、「Webで見通しが立ったら、印刷で紙の媒体にしよう」と考える昨今の価値観である。


●印刷業をいかに精錬し再定義したらよいのか

 インターネットは国境を取り払い、産業間の壁をなくした。印刷産業は幸いにすべての産業とつながっているが、流動の時代にあってまさに多様化する変換産業とならなければいけない。印刷産業は成長から成熟の時期を迎えた。業界として、また個々の企業としてドメイン(事業領域)をどう考えるかが問われている。印刷業をどのように“精錬”するのか、そのうえでどう定義するのかである。話題となっている市場分野はどこかを探ってきたか? 企業を継続させるという観点で、自社の得意分野は何かを考えてきたか? マルチメディアの一員として印刷メディアの役割を引き続き見出していけるか?――問われている課題は多い。身近な例として、受注した印刷データをそのまま電子メディアにもっていくことを、最初の段階で提案営業できているか? 顧客の反応を探していけば、自ずと自社の方向性も見つかっていくはず。紙の上に表現するハイタッチと、メディアに展開するハイテクとのバランスをとることが重要だろう。


●米国の中堅印刷会社は付帯サービスで稼ぐ


 《9月度記事参照》 アメリカの印刷産業(印刷・同関連業+印刷関連メディア業)のなかで、中堅~大規模(従業員数50人以上/100人以上)の印刷会社が置かれている“場所”および経営の実情はどのようなものか。例によってPIAの最新レポートによると、印刷産業全体に占める企業数は8%に過ぎないが、中小印刷会社(従業員数49人以下)と比べて、プリプレスと印刷工程に依存する度合を小さくしている傾向があるという。その分、付帯サービスから得られる付加価値で売上高を増大させている。これまでの数年間の推移をみても、プリプレスと印刷工程の構成比は減少傾向、付帯サービスおよび製本・仕上げ加工が増加傾向にあり、事業領域を着実に拡大していることがわかる。


●中小印刷会社は価格設定力に優れている


 アメリカの印刷産業においても、企業規模が大きいほど売上利益率が大きくなる傾向があり、当然、税引き前の経常利益率や投資利益率など財務指標も優れている。ただし、プロフィットリーダー(利益率で上位25%に入る優良企業)同士では、企業規模と利益率の相関関係はみられない。中小企業の大多数は経営効率が悪いということになる。適正な経営をおこなっているなら、企業規模は関係ないというのがPIAの見立てである。注目すべきは価格設定力で、中小印刷会社が価格引き上げに成功しているのとは対照的に、規模の比較的大きな印刷会社では逆に引き下げられているという。これは、マーケット・セグメント、印刷品目や印刷サービスの違い、コスト構造などが要因となっているとしながらも、それ以上に、中小印刷会社の方が顧客とより密接な関係を築いていて、優れた“市場感度”を備えていることの証左だと分析する。


●ニッチ市場にユニークな製品・サービスを


 PIAは結論として、規模の大きな印刷会社ほど、強力な需要を創出し得るユニークな製品・サービスにとくに力を注ぐ必要があると強調する。市場分野における競争優位性は、企業規模には関係なくさまざまな経営戦略と戦術から生まれる。印刷産業における重要な必須戦略は「製品ニッチに特化すること、あるいは顧客の製造工程のバーチカル・ニッチに着目することによって、代替品がなく競合企業も出現しない製品・サービスを提供し、価格設定力を強化しなければならない」ことだと主張している。

(終)


「東北の空に鷺(イーグルス)が舞う」 久保野和行

2013-11-11 16:20:46 | エッセー・コラム
「東北の空に鷲(イーグルス)が舞う」  久保野 和行





久し振りにテレビ桟敷席にかぶりつきした。プロ野球の一大イベントでもあるが、今年こそ、こんなに盛り上がった試合はなかった。球団創設9年での偉業であり、日本一になった東北楽天ゴールデンイーグルスに、仙台から東北全体に熱気が広がっていった。
セ・リーグの覇者であり、同時に名門老舗の伝統ある読売ジャイアンツを破っての達成であるから、楽天ファンにとっては感無量の思いでしょう。

闘将と呼ばれた星野監督が就任した。その年の3月11日に東日本大震災に被災にあった。その年の開幕試合での、楽天、嶋選手のメッセージは感動的でした。キーワードは「見せましょう□□底力!!」に力強い声に、多くの人々の気持をひとつにしてくれた。それはいつか「絆」という輪を作り、本来、日本人が持っている人間の琴線に触れたことで、楽天ゴールデンイーグルスも夢物語が現実のものとなった。



もつ1つの話題は、地味であるが海外のコレクターによってもたらせた。3月から9月末までの期間に、仙台を振り出しに、岩手県、福島県を巡回する江戸絵画の傑作100点が公開された。仕掛け人は、世界屈指のコレクター、アメリカ人のジョー・プライスさん(83歳)が、“伊藤若冲”をもって、「被災した人々に少しでも幸せを取り戻してほしい」との思いが、復興支援の画期的なプロジェクトを実現させた。この試みはNHK番組でも取り上げられ話題なった。

狩野派の絵師からスタートした伊藤若冲は、その後独自の境地を開き、ジョー・プライスさんと同じ年齢に近い84歳まで活動している。伊藤若冲は実物写生の境地を開き、特に鶏の絵を得意として、美しい色彩と綿密な描写が特徴で、若冲独特の感覚で捉えられた色彩・形態が「写生された物」を通じて展開される。


≪白像群獣図≫18世紀 伊藤若冲

その中でも代表作の「白像群獣図」は、正対する白象を中央に配し、周囲に様々な種類の獣を描く、製作過程は極めて手が込んでいる。画面に薄墨で9mm間隔で方眼を作り、その上から全体に薄く胡粉を塗る。そうして出来上がった碁盤目を淡い灰色で彩り、さらに灰色の正方形すべてに4分の1よりやや大きな正方形を、先程より濃い墨で、必ず方眼の上辺と左辺に接するように塗り分かる。

ここまでが下地作りで、その上に動物達を淡彩を用いて、隈取を施しながらグラデーションで描くという、得異な技法からなる。この描き方は「桝目描き」と呼ばれる。京都生まれの若冲が、西陣織の下絵から着想を得て、織物の質感を絵画に表現しようとしたと考えられる。ここに至ると、なんと印刷の網点の考え方と同じ志向になるから面白い。


印刷の歴史も600年以上が経過している。色々な場面で人々を助け、助けられたきたもかもしれない、そう思うと絵と文字のコミュニケーションは、永遠に人類がある限りのツールともいえる。と言えることは、年寄りの頑固さでいえば、間違いなく印刷業界は衰退産業というカテゴリーには入らず。印刷が持っている本来の底力を発揮するためにも、イノベーションを興す転換期かもしれない。(終)