印刷図書館倶楽部ひろば

“印刷”に対する深い見識と愛着をお持ちの方々による広場です。語らいの輪に、ぜひご参加くださいませ。

「印刷の今とこれからを考える」 月例会2013年5月 

2013-05-22 16:01:48 | 月例会
毎月第3木曜日の午後、当印刷会館内にて、有志による「印刷の今とこれからを考える」会を開いています。今月も、5月16日に熱い談が繰り広げられました。その内容を、いつものようにK氏がまとめてくださいましたので、紹介いたします。



[印刷]の今とこれからを考える 
「印刷図書館クラブ」月例会報告(平成25年5月度会合より)


●紙に定められた規格寸法から何を感じる?

砕いた植物繊維を抄いてつくる「紙」が発明されたのは、中国・後漢時代のことだったが、1900年も前の英知は、長い年月をかけシルクロード沿いにヨーロッパに伝わっていった。そのような歴史をもつ紙のサイズが決まったのは、果していつ頃だったのだろうか? どこかで繋がったのだろうか、B系列、A系列というサイズは今、東洋と西洋の間にあった“カベ”を乗り越えて世界共通のものとなっている。A0判(A倍判)は1m×1m、B0判(B倍判)はその1.5倍の1m×1.5mを基本面積とし、それぞれ4:6(正確には1:ルート2)の黄金比でタテヨコの長さに割り振って、それを規格寸法としている。1mの長さは、メートル法によって赤道から北極までの子午線の1千万分の1と定められたが、それがなぜ紙のサイズを規定した寸法と一致するのか。まさに“紙の世界”だと感じる。


●印刷への高い関心を若い世代が示してくれた

印刷専門学校に入学してきた新入生向けのオリエンテーリングで、「印刷」をイメージして連想できるものをアンケート形式で聞いたところ、もっとも多かったのが「情報」、2番目は「紙」、3番目は「本」という順序だった。これまでは、紙や本、文字やカラーといった常識的な項目が挙げられていたことから考えると、若い人が「印刷」に寄せる関心は大きく様変わりしているようだ。「印刷」と結びつかないとみられてきた「情報」がトップにきた事実は、それなりに意味のあることと受け止めるべきである。


●日本人は自然と共生しながら生活してきた

地球上の陸地面積のうち、日本はたった0.25%でしかない。有史以来発生したマグニチュード6以上の地震の実に20%が、そんな狭い地域で起こっている。日本人は、自然災害に逆らわず融和させながら、小さな土地で根気よく暮らしてきた。自然崇拝を通して忍耐力を養ってきたといえる。人間は自然界をどんどん破壊しているが、破壊すればするほど、洪水や渇水などのしっぺ返しを受けるようになる。自然界と人間界の境に、里山をつくったのは日本人である。植林や森林保全によって、自然との共生をはかってきた。江戸がかつて世界最大の都市だったのは、上下水道の整備によって水の管理を徹底させたことが土台にある。現代につながるエコシステムを確立させたのである。環境保護を考えるときのヒントになるだろう。


●広い視野で見つめることの大切さを知ろう

現在、市場に出回っている紙の60%を占める「再生紙」が初めてつくられたのは、実は日本なのだが、この事実はあまり知られていない。間伐材を利用してきたヨーロッパでは、つい最近まで再生紙という発想自体がなく、環境にやさしくないという考え方がずっと続いてきた。再生紙というと、包装用のクラフト紙くらいしか想い起こされないのが実情で、印刷関係者でさえ、紙をたんなる印刷素材としか考えてこなかったところがある。印刷業界には“井の中の蛙”的な部分があり、周囲のことをあまり知ろうとしない。狭い世界だけで捉えようとせず、あらゆることに、もっと大きな関心を寄せる必要があるだろう。広い視野でビジネス環境や市場性などを見ていくことが重要である。


●印刷メディアは人間の手がかかってこそ

音声入力システムの開発が進み、欧米では翻訳までおこなわせようとしている。識字率、雑音処理、修正の手間など多くの問題があり、費用対効果を考えると、普及させるまでには相当の難題が伴うだろう。99%まで読みこなせるようになったOCRでさえ、残る1%の誤認をチェックする手間の方が大変なのが実情である。書籍のような高度な印刷メディアをつくるときは、結局のところ人間の手による文字入力と編集の方がメリットが大きい。スーパーコンピュータはビッグデータを作成できたとしても、書物用の生きた日本文を書けるわけではない。


●印刷は“ローテク”で生きていく道を探れ

このことは、印刷はどうやって“ローテク”で生きていくのかという命題に結びついてくる。デジタル化によって大量処理、ネットワーク化で大量移動が可能にはなったが、印刷ビジネスに不可欠な付加価値は、正確な文字入力、原稿修正、編集、情報加工などからもたらされる。たんなるデータ変換では得られない。文字は永遠に残るし、したがって文字処理の仕事は最後まで残るはずである。文字に関しては、音楽のようにハイテク処理しようとしないで、ローテクでこなしていった方がよい。有能な次世代型「エディター」が出現してほしい。印刷会社にも、そうした新しい雇用を生み出せるビジネスモデルをつくってほしい。


●サービス機能の充実が顧客創造につながる

印刷工程は本来、文字組版から製版、印刷まで、逆戻りすることのできない垂直分業で成り立ってきたが、デジタル化に伴って水平分業が可能になった。データさえあれば、70点~80点の印刷物が誰でもどこででもつくれるようになった。それを90点、100点に高めるのがサービス機能であり、各企業が発揮すべき差別化要素だ。品質保証できなかったから他社に任せようとせず、自社内にあらゆる生産設備を設置してきたという経緯がある。それらを満たし切れない稼働率の低下が問題視されているが、それを安易にネット受注で埋めたとしても、安値なら付加価値を確保したということにはならない。営業力や市場開拓力が落ち、顧客密着もできなくなりかねない。印刷ビジネスの将来に大きな不安を感じる。


●成熟産業としてのテーマを根本的に考え直そう

印刷技術は、さまざまな基礎技術を寄せ集めて確立した“雑学”の典型みたいなものだ。グーテンベルク以降、本当の意味でのイノベーションは起こっていない。高品質な印刷物を大量に速くつくれるように技術は進歩したが、原理原則は少しも変わっていない。心理的な側面である「工芸」をからめながら、文化的に優れた印刷物をつくってきたのだが、デジタル化の進展でそれさえすっ飛ばされてしまった。すでに成熟産業になっていることを真正面から見据え、「印刷とは何か」という根本的なテーマについて、もっと真剣に考え直してもいいと思う。


●強烈な覇気でもっと斬新に!もっと果敢に!

 印刷産業が成熟化したなかで、個々の印刷企業はどうしたら自社を成長させられるかをよく考えなければいけない。残念ながら、後追いのビジネスが目立つようだ。斬新性がなく、覇気とか男気が感じられない。過去の統計データを将来に向かって延長させた予測に従うのではなく、自ら業態を変えて新しい経営環境、市場環境を創造すべく、もっと果敢になれといいたい。印刷という故郷の“山河”は、いつまでも美しくあってほしい。



「富士山と浮世絵・瓦版」

2013-05-14 14:36:48 | エッセー・コラム
「富士山と浮世絵・瓦版」  久保野和行





日本人のアイデンティーにおいて霊峰富士は欠かせない風景である。それがユネスコの世界遺産の登録が実現する。初めは自然遺産を検討されたが、環境管理(特にゴミ問題)で困難になり、日本人の信仰対象として、日本最高峰富士山(3756m)の文化遺産13箇所目で認められた。


つい最近の出来事の中で、私たちの忘れられないことは東日本大震災であった。その中で陸前高田市の津波被害で、7万本の松林が流失したが、奇跡的に樹齢270年の松の大木が、毅然として残った。自然の猛威に耐え生き残った姿は感動的であり、どこかに日本人の自然に対する謙虚な受容の精神が、山岳信仰の象徴である富士山に代表される。


その富士山を題材として、多くの文化人が参加して絢爛豪華に花を咲かせた。最も有名なのが富嶽三十六景を描いた葛飾北斎に尽きる。多様な絵画技法で大胆な構図や遠近法に加え舶来顔料を活かして藍摺りや点描を駆使して、世界的に注目される、夏の赤富士を描いた「凱風快晴」や、荒れ狂う大波と富士を描いた「神奈川沖浪裏」などがある。同時代の安藤広重も「東海道五十三次」で富士山を多く題材にしている。


「凱風快晴」 葛飾北斎画


「神奈川沖浪裏」 葛飾北斎画


この当時の江戸時代の構成は、膨大な都市国家を形成していた。当時の人別帳(現在の戸籍謄本)によると、最盛期の人口は128万人以上が生活していた。比較できる都市ではロンドンが約90万人程度であり、“花の都”と謳われたパリが60万人であり、同じ花でも“花のお江戸”の半分程度しか生活ができなかった。多くの人々が暮らすには働く市場がなければいけない一方で、環境面での安心・安全な社会仕組みが出来上がっていなければ、膨大な需要と供給のバランスを維持していくことが困難であった。


当然ながら情報機能も併せ持っていなければ都市構成を維持運営できない。時代がどう変わろうとも情報の根幹であるコミュニケーションは欠かせない。今の時代の新聞やテレビやインターネットであるように、当時の情報手段が瓦版(紙の大きさが瓦サイズから)であり、それが庶民のニュースソース源であった。


浮世絵が高価な代物で、なかなか庶民の手には届かなかったそうです。しかし、ここに労働市場という面では、雇用が生まれている。版元は現在流にいえば出版社であり、浮世絵師は作家であり、それを大量生産する刷り師集団は、現代流に言えば印刷企業になる。


一方の瓦版は、現代流に言えば新聞や週刊誌の類いのもので安価なので多くの江戸庶民が手の届くところにあったわけです。


世界の陸地面積のわずか2.5%しかない日本の国土でありながら、自然災害である地震は6M以上の規模の20%近くが、日本列島を襲っている。
それでいながら他の国と違うのは、壊滅的な崩壊が起きていない。有史以来都市国家を滅亡に襲ったのは、ベストとかコレラなどの病原菌で衰退する場合がある。それは農村地帯でも言える。バッタやイナゴの多量発生で痛めつけられる現象である。


日本民族は自然崇拝の根底には、自然の猛威に耐えて、健気に根気良く自然と対話する習慣が、里山を作った。自然界と人間界の境目に、人手で加えた人工林をメンテランスする風習ができあがった。最初は燃料として山から樹木を切り出したが、いつか禿げ山になり、土砂が崩れ風水害のしっぺ返しに会い、気づいた村人達が作り出したのが里山であり、そこに植林をして、成長に合わせ下草を刈り、間伐をして風と光を入れる環境にした。虫や鳥、あるいは小動物が集まり、快適な空間にバランスよく成り立つようになった。


江戸といえる都市国家も神田川用水、多摩川用水などの水道施設が整備されて生活基盤ができ、その一方では排泄物類は汚わいやさんという職業人が、江戸の周辺部へ堆肥として流通する職業が生まれ、そこで農産物の生産があり、需要と供給の絶妙の境地に達した。  今回の世界遺産になった富士山が日本の象徴であると同時に、日本人の奥ゆかしさも同時に評価されたのではないかと、勝手に思っているが、嬉しくなるニュースであった。




蔵書紹介 「未来を破壊する」

2013-05-10 14:59:51 | 蔵書より
「未来を破壊する」-厳しい印刷市場の進路を示す「新しい常識」-

・著者;ジョー・ウェブ博士/リチャード・ロマノ
・発行;㈲エー・エム・コンサルタント
・体裁;A5判/140ページ


米国で出版された書籍『Disrupting the Future』の日本語版(部分訳)。原著のなかで著者のウエブ博士(コンサルタント)とロマノ氏(著作者・記者)が記述した印刷市場の現状分析結果とそれに基づく提言が、現在の日本市場においても印刷会社が業態変革を実践するのに非常に有益だと考え、日本での刊行となった。


「われわれは、技術や革新を通じて未来を破壊することを学ばなければならない」で始まる本書は、前書きに続く①印刷産業の失われた年月、②宇宙の法則が変化した日、③変化するメディアミックス、④新しい印刷ビジネスをつくるために必要なブロック、⑤我々が言うように、やってみよう――の5章で構成され、最後に「大量破壊のための武器」というタイトルでまとめられている。姿勢を正してページをめくっていただかないといけない、読み応えのある重厚な、かつ刺激的な内容となっている。右から左へと読み流したままだと、本書から未来へ向かう進路を得ることはできないだろう。


ここでは「まとめ」のなかから要点を紹介し、印刷サービスのあり方、顧客支援の重要性、課題解決の方法を戦略的に思考する“コツ”を説く本書の趣旨をお伝えしたい。


「自社のマーケティングやコミュニケーションの目的のために、新しいメディアやソーシャルメディアをどのように使うことができるのかについて考え始めること。あなたの顧客について、印刷物以外のマーケティングやコミュニケーションの計画に対して、どのような支援が可能か考え始めること。現在の顧客から1社か2社を選び、彼らの印刷物をより大きなマルチチャンネルのキャンペーンに広げる方法について考えること。印刷以外のグラフィックコミュニケーションの専門家と、あなた自身の新しいメディアの取り組みをアウトソーシングするためのネットワークを開拓すること……」


        

蔵書紹介 「印刷現場における個人情報保護ワンポイントレッスン」

2013-05-09 15:06:04 | 蔵書より
「印幸現場における個人情報保護ワンポイントレッスン」


・編者;㈳日本印刷産業連合会
    経営労働委員会・個人情報保護研究会
・発行;㈳日本印刷産業連合会
・体裁;A4判/101ページ


本書はずばり、印刷会社の職場で個人情報保護に関して教育・訓練を日常的におこなってもらうための指導書である。個人情報に関する教育計画を立案し、教育を施し、理解度を高め、かつ成果を把握するのに最適のガイドブックであり、毎日の始業時のミーティングなどの際に時間とコストをかけずに、安全管理措置を1テーマずつ効果的に教えることのできる格好の教材となっている。


編集制作に当たった日本印刷産業連合会では「個人情報の保護に関する法律」が平成17年に施行されて以来、ガイドブック、手引書、Q&A集と相次いで関連資料を発行してきていたが、プライバシーマークの普及、認定企業の審査を進めるうえで、個人情報保護を一層確実なものにすることが重要だと判断して、本書をまとめたもの。


経済産業分野のガイドラインに沿い、①組織的②人的③物理的④技術的の4項目にわたり、それぞれの安全管理措置について、社員教育すべき54の事例を挙げながら解りやすく解説している。これらの措置例はJIS規格3.4.5の要求事項に合致させてあり、個人情報保護マネジメントシステムに①適合することの重要性と利点、②役割と責任、③違反した際に予想される結果――という3つの課題のいずれに該当するのかがひと目でわかるのが特徴だ。印刷現場において個人情報の漏えい、滅失、棄損を防止するために、全社員に周知徹底しなければならないリスク対策項目はすべて網羅されていて、なおかつ理解度をテストで確認することもできる。


教育を受けたことを自覚してもらう仕組みとして、テーマに沿った重要ポイントや職場にありがちな状況を視覚で訴えるイラスト集も収録(ポスターとして印刷可能なCDを添付)、教育後に職場に掲載できるようにしてある工夫も心憎い。