印刷図書館倶楽部ひろば

“印刷”に対する深い見識と愛着をお持ちの方々による広場です。語らいの輪に、ぜひご参加くださいませ。

図書『図解 印刷文化の原点』ご紹介

2012-11-28 11:37:28 | 蔵書より


今週は、下記の蔵書をご紹介いたします。

『図解 印刷文化の原点』 ―The Starting Point of Printing Culture―


著者 松浦 広/発行 印刷朝陽会/2012年3月21日/21×15cm 137頁



≪内 容≫

 最初に、本書の初め書きより質問。①日本にある世界最古の印刷物の名称と時代、②活字発祥の碑に記されている印刷会社の名称と創設者の名前、③字体と書体、④印刷に関わる国宝と重要文化財の件数――だんだん難しくなるこれらの設問に、印刷人、編集者、グラフィックデザイナーの何人が答えられるだろうか。印刷関係者なら一見常識と思われる事柄だが、昨今のデジタル技術に長け専門用語を駆使できたとしても、このような“教養”を試されと途端に返事に窮するのが一般的だ。


 印刷関連団体や印刷会社に勤務した経験のある著者(フリーの印刷研究家)に、ずばり“盲点”を突かれたのが本書である。著者はさらに投げ掛けてくる。⑤この千年で歴史上トップに立つ大きな出来事、⑥日本で初めて発行された日本語による新聞の名称と時代区分、⑦印刷という用語の翻訳者と時代区分――いかがだろうか。「印刷という言葉は、一部の人達の間では、すでに幕末に使われており、それが明治の初期に広まり、次第に定着して使用されるようになった」そうである。


 印刷をビジネスとして遂行するうえでは、こうした基本的な教養を身につける必要はないかも知れないが、文化と関わりのあるものと捉えるなら、「印刷」の“本籍”をぜひ知っておく必要があるのではないか。著者が本書をまとめた理由である。


 本書は上記の質問事項をフォローするかたちで、①過去千年間で最も大きな出来事、②日本語による新聞の始まりとその時代、③印刷という用語の始まり、④百万塔陀羅尼・国宝の印刷物・その他、⑤日本における印刷教育の源流――の全5章で構成。各章とも、印刷関係者なら知っておいて損のない事柄が、写真や図柄を挿入しながら、手に取るように親しみやすく、物語風に解説されている。


蔵書『紙と印刷の文化録』のご紹介

2012-11-22 09:49:22 | 蔵書より
当印刷図書館には、江戸時代末期から今日までの印刷に関する各種文献を所蔵しています。
その蔵書より、時代を問わず今後週に一冊ペースくらいでご紹介していきたいと思います。
まず一冊目は、

『紙と印刷の文化録』―記憶と書物を担うもの―
 
著者/尾鍋史彦  発行/2012年2月29日  体裁/189×125mm



<内容>

文理融合型の学問として、紙の問題を包括的に考える“紙の文化学”を提唱してきた著者(東京大学名誉教授、日本印刷学会前会長)が、本格的な電子書籍時代の到来を前にして、“紙は果して生き残れるのか?”をテーマに、各種のメディア論、認知科学理論を駆使しつつ、紙がもつ潜在能力を分析し、今後の行く末を温かく見つめた好著。


印刷メディアが社会に与えてきた文化的事象の歴史、情報メディアとしての紙の機能と優位性について、科学・技術、政治・経済を含む実に幅広い観点から記述。さらに、産業としての紙と印刷に触れながら、印刷人が関心を寄せて止まない一大テーマに迫っている。人間は、印刷物の発明によって記憶という作業から解き放されて創造に向かい、情報を積み重ねた書物が文化を創り上げて、後世に継承するという役割を担ってきたという。本書の副題は、そうした解釈で設定された。


印刷物の機能には、文字を載せる実用的な部分と、効果的なレイアウトが感じさせる美的な部分とがあり、“用と美”を兼ね備えることが重要である。人間の知的向上のために印刷物が有効に機能するには、デザイン的側面に対する大きな配慮が必要になる。紙メディアにより人文科学、社会科学が形成され、科学技術が記述される。さらに紙は三次元の空間を構成する芸術の素材ともなり得る。メディアが紙から離れて電子書籍となろうとしている今、こうした分野での新たな展開が不可欠だと、著者は主張する。


本書の後書きには「紙や印刷物が歴史的に果たしてきた役割、その人間との親和性、認知構造への情報の格納能力などを改めて評価すると、人間の創造性の発揮、文化の創造と継承において、製紙技術や印刷技術は今後も優位性をもって重要な役割を果たし続ける」と、著者の確信が綴られている。この一言に本書の哲学が集約される。