今週は、下記の蔵書をご紹介いたします。
『図解 印刷文化の原点』 ―The Starting Point of Printing Culture―
著者 松浦 広/発行 印刷朝陽会/2012年3月21日/21×15cm 137頁
≪内 容≫
最初に、本書の初め書きより質問。①日本にある世界最古の印刷物の名称と時代、②活字発祥の碑に記されている印刷会社の名称と創設者の名前、③字体と書体、④印刷に関わる国宝と重要文化財の件数――だんだん難しくなるこれらの設問に、印刷人、編集者、グラフィックデザイナーの何人が答えられるだろうか。印刷関係者なら一見常識と思われる事柄だが、昨今のデジタル技術に長け専門用語を駆使できたとしても、このような“教養”を試されと途端に返事に窮するのが一般的だ。
印刷関連団体や印刷会社に勤務した経験のある著者(フリーの印刷研究家)に、ずばり“盲点”を突かれたのが本書である。著者はさらに投げ掛けてくる。⑤この千年で歴史上トップに立つ大きな出来事、⑥日本で初めて発行された日本語による新聞の名称と時代区分、⑦印刷という用語の翻訳者と時代区分――いかがだろうか。「印刷という言葉は、一部の人達の間では、すでに幕末に使われており、それが明治の初期に広まり、次第に定着して使用されるようになった」そうである。
印刷をビジネスとして遂行するうえでは、こうした基本的な教養を身につける必要はないかも知れないが、文化と関わりのあるものと捉えるなら、「印刷」の“本籍”をぜひ知っておく必要があるのではないか。著者が本書をまとめた理由である。
本書は上記の質問事項をフォローするかたちで、①過去千年間で最も大きな出来事、②日本語による新聞の始まりとその時代、③印刷という用語の始まり、④百万塔陀羅尼・国宝の印刷物・その他、⑤日本における印刷教育の源流――の全5章で構成。各章とも、印刷関係者なら知っておいて損のない事柄が、写真や図柄を挿入しながら、手に取るように親しみやすく、物語風に解説されている。