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デジタル写真時代に市場から消えた減力液と補力液、懐かしのファーマー減力液

2016-06-23 14:33:45 | 印刷人のフイルム・フイルムカメラ史探訪
印刷図書館クラブ
印刷人のフィルム・フィルムカメラ史探訪 VOL-21
印刷コンサルタント 尾崎 章


デジタルカメラ用及び印刷プリプレス向けの各種レタッチソフトが充実した今日、フィルム及び印画紙の銀画像濃度低減、そして減力液で印刷用フィルムの網点サイズを修正するハンドレタッチ作業は「半世紀前の語り草」になっている。
当然の事ながら、写真薬品として販売されていた減力液、補力液の市場から姿を消して久しい。「ファーマー減力液って何ですか?」と聴かれる事も皆無となった。


写真減力液の代名詞! ファーマー減力液

水質汚濁防止法及び下水道法の改正によって重金属、健康に有害な物質の排出が大きく規制された1973年以前に銀塩感光材料用として最もポピュラーな減力液がファーマー減力液(Farmer’s Reducer)であった。

 
ファーマー減力液の主剤:赤血塩


考案者の英国写真技術者E. Howard Farmer の名前からファーマー減力液(ファーマー氏減力液)と名付けられた減力液は、赤血塩(フェロシアン化カリウム)とチオ硫酸ナトリウム(ハイポ)の水溶液を混合して使用するもので減力液の代名詞として写真業界・写真製版業界で最も一般的に使用された経緯がある。
このファーマー減力液は、赤血塩水溶液とハイポ水溶液の混合比率によって減力効果を変化させる事が出来、一例として当時のイーストマン・コダックがハイライトからシャドウ部を均一に減力する等減減力液として発表していた「EK R-4A:等減減力液」の処方は下記の通りである。

[Kodak R-4A等減減力液]
A液  赤血塩 37.5g 水を加えて500ml
B液  チオ硫酸ナトリウム480g 水を加えて2000ml
使用液 A液30ml B液 120ml 水 1000ml


写真製版の必需品、ファーマー減力液


プリプレス工程が写真製版に依存していた1980年以前は、製版カメラでの版下台紙・線画撮影ネガフィルムのカブリ除去、コンタクトスクリーンを使用した網点撮影(網撮り)時に発生する網点フリンジ除去を目的とした水洗ライトテーブル上での減力作業は必須の日常作業であった。減力液を含んだ水洗水は、そのまま工場外に排出されるケースが圧倒的で水質汚濁防止法及び下水道法によって赤血塩(フェロシアン化カリウム)等のシアン化合物が規制対象となり、写真・印刷業界は非シアン系の減力液の開発・商品化に迫られる事態に至っている。


EDTA減力液に関する筆者論文、印刷雑誌1973年1月号   


赤血塩に替わってEDTA(エチレンジアミン四酢酸)鉄キレートや硫酸セリウムを使用する減力液が各社より商品化され印刷業界は短期間に非シアン系減力液に切り替わった経緯がある。


非シアン系減力液の主流は硫酸セリウム減力液

非シアン系減力液は、EDTA鉄キレート系減力液→硫酸セリウム系減力液の流れとなり印刷業界向けの代表的製品としては、富士フィルム「FR-1」、印刷薬品大手・光陽化学工業の「R-SUPER」を挙げる事が出来る。


印刷界で多用された非シアン系・硫酸セリウム減力液


写真用途向けとしては、ナニワ写真薬品「ナニワ減力剤」、中外写真薬品が輸入代理店となった英国・イルフォード社の「エルブラウン減力剤」等が発売されており、「ナニワ減力剤」は2012年頃迄の販売が行われ、写真現像所等で印画紙のカブリ除去に使用されていた模様である。
筆者も光陽化学工業の「RD減力液」(EDTA系)「R-SUPER」減力液の製品化にさいして技術サポートを行った経緯が有り「非シアン系減力液」は懐かしの想い出である。
商品としての減力液は市場から無くなったが赤血塩は単品写真薬品として大手カメラ店の写真薬品コーナー等で販売が継続されており、手軽にファーマー減力液を調合する事が出来る。


最後まで販売されたナニワ減力剤 1リットル用 750円   



エルブラウン減力剤 1983年・写真用品カタログNo15より 



写真製版レタッチ作業者は、高額所得者!

写真製版全盛の1960~70年代のカラー印刷は写真製版を前提としており、写真製版の色補正マスキング処理では色再現要求品質に十分対応出来ない状況にあった事は周知の通りである。この当時は人物の肌色やイメージカラー・記憶色等々のカラー原稿と差異が生じる色相に対して熟練作業者による「レタッチ作業」が不可欠で、網点ネガ・ポジの網点サイズを減力液で修正する「ドットエッチング」(略称ドットエッチ)は、経験を要する熟練作業領域であった。

例えば代表的な記憶色の「日本女性の肌色」は、シアン8% マゼンタ40% イエロー60%の網点で構成されており、写真製版では再現できない網点サイズを減力液で記憶色に近づけるドットエッチが不可欠で有った。
この為、製版品質をレタッチ作業者の技量が左右する事になり、当時は週刊誌の裏表紙に「印刷:○○印刷、製版:山田 太郎」とレタッチ作業者名が表記されていた事を記憶されている方も多いと思われる。当時の大卒新入社員・初任給7~8万円程度に対してベテランレタッチ作業者の月収が40万円を超える「写真製版全盛期」の語り草である。
このアナログ写真製版時代のレタッチ作業も、カラースキャナーによる電子製版の普及、ミニコン及びワークステーションを使用した画像処理システム及び画像処理ソフトの普及により2000年を待たずに標準化・省力化され、印刷製版の電子化に相反して減力液市場は一気に終息化を迎える展開に至っている。


レタッチ・イメージ写真 


露光不足、現像不足を救済した補力液

減力とは正反対に写真画像濃度を増加させる措置が補力作業で、水銀補力液、クロム補力液、鉛補力液等、種々の補力特性を持った補力液が発表・発売されていた経緯がある。
最も代表的な補力液としては水銀補力液(昇汞補力液)がある。
銀画像を毒性の強い塩化第二水銀(昇汞)で酸化漂白、亜硫酸ナトリウム水溶液等の黒化液で漂白された銀画像を再度黒化銀に還元するものでコダックが発表した水銀補力液処方は、下記の通りである。
[Kodak In-1水銀補力液]
水         1000ml
塩化第二水銀     22.5g
臭化カリウム     22.5g  
 
補力液の主用途は、露光不足及び現像不足によって銀画像濃度が不足状態にあるフィルムの救済措置である。フィルムカメラの自動露出機能が充実する以前は露光不足によるトラブル発生頻度が高く、当該問題の救済策として補力液の使用頻度は高い状況にあった。
筆者も「歌舞伎十八番」の舞台撮影時に増感現像に失敗、補力液で何とかプリント出来る濃度までの救済を行い撮影依頼者にプリントを納品した苦い経験がある。
TTL測光方式によって露光精度が飛躍的に高まったフィルム一眼レフ、カメラ背面モニターで撮影画像が確認出来るデジタルカメラでは到底あり得ない撮影ミスで、デジタル技術展開に伴って商品化されていた重クロム酸系補力液は減力液よりも早い1985年前に市場から姿を消している。
「補力」「減力」は当然の事ながら「死語」となり、塾年写真愛好家の「懐かし」の記憶となった。    
    
 

露光・現像不足ネガ(左)と補力液で濃度補力を行ったネガ(右)

   
以上



 
 
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