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印刷図書館倶楽部ひろば

“印刷”に対する深い見識と愛着をお持ちの方々による広場です。語らいの輪に、ぜひご参加くださいませ。

月例報告会 (平成27年9月度会合まとめ)

2015-09-25 14:18:22 | 月例会
[印刷]の今とこれからを考える 

        「印刷図書館クラブ」月例会報告(平成27年9月度会合より)

●印刷メディアへの広告量はインターネットにも抜かれた

 各種メディアへの広告出稿量をみると、インターネットに向かってどんどんシフトしていることがわかる。印刷メディアはグーテンベルクが近代的な活字印刷方式を発明して以来、600年間“王様”の地位を保ってきたが、100年前にラジオ、テレビといった放送メディアが入り、さらに20年前にはインターネットが加わってきた。メディア全体は引き続き拡大しているのにもかかわらず、内訳が急激に変化して、印刷メディアはとうとうインターネットにも抜かれてしまった。これはアメリカに次いで日本でも起こった現象で、最下位への転落である。しかし、次は再び印刷メディアに回帰するに違いないとする心強い見方がある。何を意味しているのか。「恐竜が滅びた理由」を当てはめることができるからだというのである。


●価値ある情報を提供できるメディアが生き残れる

 巨大な隕石が落下して恐竜が滅びた後も、小動物や微生物は生き残った。これと同様に、圧倒的に規模の大きいインターネットで情報市場が“食いつぶされた”としても、生き残れるメディア、存在し続けるメディアがあるという。それこそ印刷メディアだという。WebやSNSには役立ちそうもないゴミ情報?が溢れかえっている。情報流通が過多の状態のなかで、読み手の価値(顧客価値)に耐え得る高次元の情報を提供できるのは印刷メディアしかないというのが、生き残っていけるとする理由である。われわれの身辺には数多くの雑文が降りかかってくるが、短歌や俳句のように本物の価値をもった文章も少なからずある。印刷メディアは、こうした本物指向をめざせるメディアであり、そこに存在意義を見出す余地があるとしている。


●視点を「コンテンツ情報」から「コンテクスト情報」へ

 企業を対象としたB to Bのマーケティング分野でも、コンテンツの役割がますます高まっている。その根底にあるのが顧客価値ということになるが、その「顧客」は「個客」に変化している。そこで大切になるのがコンテクスト情報という概念である。コンテンツが記号としての言葉を直接表現したものなのに対し、コンテクストはその背景や意味を文脈としてまとめたものといえる。人びとの心に響かせ、納得してもらえる正確なコミュニケーションは、いまやコンテクスト情報なくして成り立たない時代になっている。電子メールが前者に当たるなら、印刷メディアはまさに後者に相当する。コンテクスト情報は、今後ますます重要度を増していくと考えられる。コンテンツを高度に加工して「個客」に役立つコンテクスト情報に高めることのできる印刷会社の出番なのである。


●役立つ情報をつくれる強みをもっと発揮すべきだ

 記号としての「データ」は役立つ「情報」へ、さらに使える「知識」へ、そして身につく「知恵」へと昇華していく。その過程には、溢れるデータを高度に集約していくという作業がある。例えば、市場に出回る商品の仕様データを販売促進や生活向上に結びつける情報に仕上げる機能を、印刷会社はもっている。印刷技術は素人でも取り組めるようにコモディティー化(日用品化)してしまったが、こうした情報加工をサービスに組み込んで前面に押し出していけば、競争の厳しい情報市場を突破していける。新しい市場ニーズに相応しい情報サービス産業になるべきである。これまで印刷メディア用に使われてきたコンテンツは、すでにインターネットで使われるようになっている。通販情報がカタログ紙上よりインターネット上により多く掲載されている事実をみれば、このことがよくわかる。インターネットを敵ととらえず、むしろ味方と考える必要がある。2階建ての構造にして、印刷メディアは上に登ればよいのである。


●印刷会社こそ高度なサービスを提供できる

 印刷メディアとインターネットとのチャンネル組み合わせに、印刷会社のビジネスチャンスがある。ネットを駆使した双方向のコミュニケーションをデザインすることは、印刷会社の得意分野のはず。印刷設備を有効活用するためにも、サービスをコモディティー化してはいけない。サービスに慣れ過ぎると、必然的に陳腐化してしまう。より高度な複合的な、有益なサービス内容にしなければならない。印刷会社が従来おこなってきた企画・デザインはサービスとはいえない。コンテンツを情報に高めていく高次元のサービスに取り組む必要がある。顧客が負担に感じる時間、距離、場所、エネルギーを軽減してあげることがサービスの基本となるが、消費者や企業が何より求めているのは手間の省略だ。代行業とか支援業があらゆる分野で成り立っている理由もそこにある。印刷業界で指導されていた“お手伝い業”への転換を再び考えてみたい。


●マーケティング3.0の考え方に学ぶ価値がある

マーケティングの世界では、製品主体の「1.0」から消費者志向の「2.0」、人間重視の「3.0」へと、発想のバージョンアップが進んでいる。顧客を基点に、しかも顧客自身もマーケティング活動に参加してもらって、企業の立場では目に見えなかった顧客価値を共に創造していこうというのが「3.0」の考え方である。これまで、印刷メディアは大量に生産して大量に配布するというやり方が常識だった。しかし今後は、個客あるいは特定の顧客グループに対し、区分けしたサービスをワントゥワンで提供しなければならない。顧客は一人ひとり価値観が異なっている。個人ごとのニーズを把握しないで、一律的なダイレクトメールを送り付けても通用しない。そこで、個客向けにコンテンツ加工をしようと試みるのだが、それにはコストがかかり過ぎる。関心を高めてくれる印刷メディアが求められているにも関わらず、「印刷は可能だが、コンテンツは加工できない」という事態に陥る。ここはやはり、顧客企業に消費者との対話を深めてもらい、真のニーズ情報を寄せてもらうしかない。印刷会社はそれを後押ししていくことである。


●正当な対価を得られるようなソフト産業になろう

 印刷会社にとって重要なのはソフト分野への取り組みである。ソフト化してメディアを扱える「頭脳産業」になれといいたい。脱ハードではあるが、印刷設備との連携は欠かせない。しかし、全ての印刷会社が強みと思っていた生産設備に拠りかかり過ぎると、逆に弱みを抱えることになりかねない。加工したコンテンツを有効な情報に仕上げ、顧客に提供するための仕組みづくりと仕掛け方を知る必要がある。投入した努力に対する対価の意味を理解していないと、満足のいく正当な利益は得られない。印刷料金は本来、顧客が認めてくれた価値である。提供するサービスが無料の付随的なものである間は、真の価値を得たことにはならない。ソフト産業では、ホスピタリティーとサービスとの混同は許されない。


●自社のビジネスモデルを明確にして差別化を

 印刷技術は確かに印刷産業をつくり引っ張ってきたが、その間に早々と印刷と出版が分かれた。ビジネスの複合化、業際化のなかで両者を複合的に捉えたらという見方もあるが、この辺をどう考えるか。情報サービス産業、ソフト産業をめざそうという動きは時代の趨勢といえるが、だからといって、全ての印刷会社がそのようなビジネスモデルを構築することは不可能だ。オフ輪印刷、シール印刷、印刷通販など、生産主体の印刷会社の存在は揺るぎない。そこで出てくるのが「ポジショング」というキーワードだろう。例えば、縦軸の指標として情報処理とメディア製作、横軸として生産志向とマーケティング指向を置き、交差した象限のどこに自社を位置づけるか。このほか地域、品目、工程、顧客市場などさまざまな指標が考えられるが、いずれにしても、自社の位置を明確にして特化、差別化をはかる必要がある。いろいろなビジネスモデルの印刷会社を包含する印刷産業が「プラットフォーム産業」となり、そのなかで相互にネットワークを組んで、全体で印刷ビジネスを展開していく姿が望ましい。

ズームコンパクトカメラ時代までの隙間製品・2焦点カメラ

2015-09-03 10:53:58 | 印刷人のフイルム・フイルムカメラ史探訪
ズームコンパクトカメラ時代までの隙間製品・2焦点カメラ
 
印刷図書館クラブ
印刷人のフィルム・フィルムカメラ史探訪 VOL-12
印刷コンサルタント 尾崎 章


小西六写真工業(現:コニカミノルタ)が1968年に発売した35mmフィルム使用のコンパクトカメラ:コニカC35は、優れたコストパフォーマンスに当時の国鉄旅行キャンペーン「ディスカバー・ジャパン」による女性の旅行ブーム拡大と当時の人気グループサウンズ・ボーカル歌手・井上順さんの「じゃ~に~コニカ」のCM効果が加わり短期間に60万台を超える大ヒットとなった。


コニカC35EF「ピッカリ コニカ」


更に、コニカは1975年にストロボ内蔵のコニカC35EF「ピッカリ・コニカ」、1977年にはオートフォーカス対応のコニカC35AF「ジャスピン・コニカ」を連続ヒットさせ、一時期はレンズシャッターカメラの国内シェア40%を超えるカメラ史に残る大きな成果を挙げている。
このコニカC35シリーズはもとより当時の各社35mmコンパクトカメラは焦点距離38~40mmの準広角レンズを搭載しており、ユーザーからは広角・望遠のバリエーションに対する要望が増加していた。しかしながら、ズームレンズのコンパクトカメラ搭載はコストパフォーマンスを含めた問題が多く、1987年に旭光学工業(現:リコーイメージング)が発売したペンタックス ズーム70 DATE迄の時間を要する事になった。
この間の市場ニーズに答えた製品が、広角・望遠レンズを切り替えて使用する2焦点切換えコンパクトカメラで1980年にミノルタカメラ(現:コニカミノルタ)がミノルタAF-TELE QD(クオーツデート)を発売、カメラ各社が競ってこれに追随する展開に至った。


ミノルタAF-TELE QD  


2焦点切換え機能搭載、ミノルタAF-TELE QDカメラ 

ミノルタカメラが1980年に発売したミノルタAF-TELE QD(クオーツデート)は、38mm準広角レンズの光学系にコンバーターレンズを切換え機構によって挿入、焦点距離を60mmに拡大する単純機構であった。
画質面では多少の制約は有るものの手軽に焦点距離を切換えて撮影できるとして人気機能となり、各社がこれに追随した。



ミノルタAF-TELE QD焦点距離切換えレバー



38mmと60mmの画角変化(ミノルタAF-TELE 富士川橋梁)



コンバーターレンズ未挿入時



コンバーターレンズ挿入による焦点距離拡大 



●1985年に小西六写真が発売したコニカ望遠王MR-70は、38mm準広角レンズの焦点距離を70mm迄拡大して他社製品との差別化を行っている。70mmの焦点距離に「望遠王」と名付けた「コニカの大胆さ」が話題になり、初心者向けデジタル一眼レフに付属するズームレンズが100~110mm程度迄対応している今日では想定できないエピソードである。


2光軸切換え機能搭載カメラ

前述のコンバーターレンズ挿入による焦点距離拡大に対して2種類のレンズをターレット式に回転させる2焦点カメラと電動ミラーによって2種類レンズの光軸を切り替えるコンパクトカメラが登場して注目を集めた時期が有る。
前者には、1985年に富士フィルムが発売したフジ・TWING TW-3があり、後者方式には1988年にオリンパス光学が発売したオリンパスAF-1 TWINが有る。


フジ・TWING TW-3



手動ターレットによるレンズ切換え(TWING TW-3)


●フジ・TWING TW-3は、ハーフサイズの画面サイズで23mmと69mmのレンズが回転式ターレットに装着されていた。この2種類のレンズは35mmフルサイズ換算で32mmの広角レンズと96mmの望遠レンズに匹敵していた。
38mmと70mm前後の焦点距離対応を行っていた標準的な2焦点方式と比較して広角側・望遠側のカバー領域が広く、更にポケットに入るコンパクト性も注目を集めた。

●オリンパスAF-1 TWINは、35mm広角レンズと70mmレンズをカメラボディに上下に装着、カメラ内部の電動ミラーによって光学系を切り替えて使用する光軸切換え方式であった。レンズ構成も5群5枚の望遠レンズを搭載した事よりコンバーターレンズを使用する前述2焦点カメラとは異なり高画質の画像を得る事が出来た。



オリンパスAF-1 TWIN 


オリンパスAF-1 TWINの撮影例(35mm,70mm 伊豆下田)


発売価格は43.800円、当時のマニアルフォーカス普及型1眼レフ並みの価格で有ったがマニアックな機能が支持・評価され人気カメラとして注目を集めた。
また、オリンパスAF-1 TWINはJIS4等級の生活防水機能を有しており、使い勝手の良さも評価を高める要因となった。

海外旅行用途をターゲットとした2焦点カメラ

1989年にズームコンパクトカメラが登場した以降、2焦点切換えカメラ及び2光軸切換えカメラ市場は一気に終息へと向かったが当時のズームコンパクトカメラが未対応の28mm広角レンズを搭載した2焦点カメラが海外旅行向けカメラとして新たな需要創生を試みている。
1990年にフジフィルムとキャノンが相次いで28mm広角レンズを搭載した2焦点切換えカメラを相次いで発売している。フジフィルム製品はフジ・カルディア・トラベルミニ、キャノン製品は、キャノン・オートボーイWT28(ワールドトラベラー)である。


キャノン オートボーイ WT28


フジフィルム及びキャノンは、製品名に「トラベル」を明記して旅行向けカメラである事をアピールしている。
両機種共に海外旅行で歴史建物を撮影する場合等で必要度の高い28mm広角レンズを搭載、28mm広角レンズをコンバーターレンズによって人物スナップ撮影に適した45mm標準レンズに焦点距離を拡大する機能を有していた。
特に、キャノン・オートボーイWT28は、世界24都市の日付け・時差・サマータイムに対応したデート写し込み機能を搭載、当該機能は2022年まで対応する為に現在でも便利に使用出来る「現役・旅行用フィルムコンパクトカメラ」である。


キャノン オートボーイ WORLD TIME機能


2焦点切換えカメラ及び2光軸切換えカメラは、フィルムカメラ工業史にも登場する事の少なく忘れられた存在の隙間領域カメラでは有るが、電動ミラーによって光軸を切換える機能等を始めとするユニーク機能を搭載した機種も多く、趣味性の高いフィルムカメラとして今日でも楽しむ事が出来る。