印刷図書館倶楽部ひろば

“印刷”に対する深い見識と愛着をお持ちの方々による広場です。語らいの輪に、ぜひご参加くださいませ。

月例会報告 2016年12月度

2016-12-20 17:34:19 | 月例会
[印刷]の今とこれからを考える 

        「印刷図書館クラブ」月例会報告(平成28年12月度会合より)


●産業の知識化、知識の産業化に寄与しよう

社会は工業社会→情報社会→知識社会→創造社会というメガトレンドに沿って変化している。情報についても歩調を合わせるかのように、記号(文字や画像、言葉など)の形式知が次第に練り上げられて知識化し、やがて知恵化されるという道筋を辿っている。人びとの知恵は多様な価値観となり、再び共有化されて未来社会の創造に役立っていく。そんな変化が各分野、各地域で波のように、しかもタイミングをずらして次々と起こっている。形式知は一段上の暗黙知になるという繰り返しでスパイラルに発展し、各段階ではつねに産業化が伴っている。そうしたなかで印刷メディアは例えば、理解しやすい→便利→知識となりやすい→有益→応用しやすいといった流れに乗っていく必要がある。
印刷業として担うべきは産業の知識化、知識の産業化に寄与すること、現在の暗黙知をさらに高度な形式知に仕上げるために、情報を的確に編集してメディアとして提供することにある。どう関わっていくのか? 情報編集力をどれだけもっているのか? が問われ続けるだろう。


●「情報加工・情報流通サービス産業」になろう

 印刷とは何かを再認識して狭すぎる概念を未来適応型に再定義し、印刷産業そのものを再構築できたらと思う。そのためにまずやるべきは、印刷の手段、印刷メディアの機能と目的について改めて見つめ直し、それを前提に将来あるべき印刷業の位置づけ(ポジショニング)を明確にする必要がありそうだ。その機能には、主機能として情報伝達・保存など、副次機能には販売促進、ロジスティックス、その他がある。
次に、印刷産業のあり方を深掘りするとしたら、どのような定義が適切なのか? 印刷物+付帯サービス=モノビスを事業領域とすべきだといわれているが、現行の付帯サービスでは顧客の真の不満を解決できないという課題が残る。そこで追求すべき業態は「情報加工・情報流通サービス産業」となる。「現在はこうだけれど、こうあったらもっと良いのに」という課題、顧客の不満、市場ニーズを徹底的に把握したうえで、メディアを核とした問題解決策(ソリューション)を提供することに尽きるだろう。それには、あくまで顧客起点(押し付けがちな顧客視点ではなく)で、しかも顧客の言いなりになることなく、協創・共生の考え方で価値を創造していくという姿勢が欠かせない。


●イノベーションによって新しい事業領域を築こう

これからの印刷イノベーションとは、必要な情報を求められるように編集(コンテンツ処理)し、求められるタイミングに求められるメディアに、さらに求められる品質・コスト・納品条件で提供することにある。決して、印刷技術の革新だけがイノベーションではない。情報の加工・流通サービスについても、情報自体の意味づけ付与と有効活用、創発型の“お役に立てる”管理をイノベーションの対象としなければならない。そのうえで、顧客産業や地域社会との協創、メディア産業やIT産業との協調により、印刷産業独自の価値を提供することである。直感的な顧客視点ではなく“顧客の顧客”視点で、また、単純な顧客視点ではなく顧客満足から顧客感動へという顧客基点の思想で取り組んでいきたい。
仕入れ先、発注顧客から利用者、消費者までをも含めたバリューチェーン(広義のサプライチェーン)のなかで、印刷業ならではの価値を提供できる役割を築かなければならない。印刷産業レベルとしてはもちろん、個々の印刷会社も自らの業態、事業領域、製品・サービスについて、強みを発揮できるようなポジションを固めていく必要がある。


●製造業プラスアルファの業態に改革していこう

 具体的なビジネスモデルではどうあるべきか? 幾つか考えられるが、例えば①製造業でサービス業なら「プリントサービス・プロバイダー」=生産指向、②製造業でコンサルティング業と考えるなら「インフォメーション・プロバイダー」=情報指向、③製造業でメディア業とするなら「ソリューション・プロバイダー」=マーケティング指向――などがある。①には印刷アウトソーシング、フルフィルメントサービス、プリントマネジメントサービスなどがあるだろうし、②にはコンテンツ・マネジメントほか、③には広報・パブリックリレーション、セールスプロモーション、ビジネス・コミュニケーションといった業態が挙げられるだろう。
それぞれの土台には、印刷物を含むメディアがあり、加えて何らかの関連サービスを提供(プロバイド)することに変わりはない。個々の印刷会社としてはいずれかに重きを置いて特化し、差別化した独自のビジネスモデルを構築する必要がある。


●収益性の悪化を招く主な要因はどこにあるか?

(参照・9月度例会報告) 「経営分析をしなければ有効な改善策を見出せない」という問題提起のもと、実際のアクションプランを提言したいとしていたアメリカの印刷産業団体PIAが、その前段階として、収益性の悪化を招く主な要因はどこにあるかを指摘するレポートを送ってきた。印刷会社(製造業としてのプリンター)が改善活動に取り組む際の点検項目にしてほしいとしているのだ。高収益型のプロフィットリーダーの水準と比べて、一般の印刷会社のそれが極端に低すぎる項目は、①印刷価格②工場の稼働率③付加価値④従業員1人当たり売上高⑤工場従業員1人当たり売上高――だという。逆に高すぎるのは①人件費②材料費③製造コスト④営業経費⑤一般管理費――だとしている。PIAがもっとも強調しているのは以下の観点である。


●特化と差別化で印刷価格を引き上げるのが有効

 印刷価格を少しでも上げることができれば付加価値が引っ張り上げられ、その構成要素である利益額は、価格の引き上げ率より高い割合で大幅に利益を増やすことができる。顧客に値上げを認めてもらうには、高い付加価値を生み出してくれる特化と差別化をはからなければならない。プロフィットリーダーは、高価格と並んで低コストによっても高い利益を生み出しているが、あまりにも多くの印刷会社がコスト削減に焦点を当て過ぎている。外部購入価値である材料費や外注費、あるいは付加価値の構成要素となる人件費、販売費、管理費などの削減に努める以上に、何とか価格を引き上げる努力をした方がはるかに効果的なのである。工場の稼働率が低いと生産性が一気に低下してしまうが、肝心の稼働率を高めるためには、特化と差別化に応えてくれる優良顧客向けの高い価格と、そうでない価格に敏感な顧客向けの低い価格とのバランスを上手にとる必要がある。価格に対する感度により顧客を階層化して、ビジネスチャンスを失わないようにしなければならない。
 ※参考資料=PIA Report「Top Ten Reasons for Low Profits」; Dr. R.H.Davis & T.McNaughton


●抱え込むオールマイティ―発想は通用しない

 印刷ビジネスで今後成功を収めていくには、専門領域の視点でソリューション・プロバイダー機能を発揮する必要がある。「何でも引き受けます」のオールマーティーでは独自の事業基盤は築けないだろう。コンテンツ処理のためのデバイスはすでに多様に出揃っており、それらを効率よく使いこなしたとしても戦略的な差別化ははかれない。IT隆盛の時代にあってこそ、人びとが必要とするもの(ニーズ)を“哲学的”に判断して総合的に産業化、つまり自社ならではのビジネスとすることが重要なのだ。そのために不可欠なのはやはり、連携できる企業とのネットワーク、顧客とのフェイス・トゥ・フェイスの手段であるコミュニケーションを確立することである。連携企業あるいは顧客とのWin-Win関係を築き、各自の得意技を持ち寄りながら製品をつくる時代になっている。そのなかで付加価値をどう有利に獲得するか。自社の強みを徹底的に主張しなければならない。一社で抱え込むオールマイティ―発想ではもはや通用しない。

以上

女性名詞にふさわしいフィルムカメラを探る

2016-12-06 09:43:43 | 印刷人のフイルム・フイルムカメラ史探訪
『女性名詞にふさわしいフィルムカメラを探る』

印刷図書館クラブ
印刷人のフィルム・フィルムカメラ史探訪 VOL-26
印刷コンサルタント 尾崎 章


ドイツ語でカメラ(Kamera)は女性名詞である。イタリア語、スペイン語等でもカメラは女性名詞で、男性が好むメカニカルなカメラにはふさわしくない女性名詞適用である。
カメラが女性名詞であることを意識してかの判断は出来ないが、当該各国が製品化した小型カメラには柔らかな曲線を多用したスタイリッシュな製品を多く見ることが出来る。


コダック製品に見る米・独のデザイン差

ドイツ・コダックが製品化した「レチナ」「レチネッテ」等々の小型カメラシリーズは、丸みを帯びたスタイリッシュな製品が多く、「カメラは女性名詞」が当てはまる製品展開が見られた。
筆者が好きな「レチナ」カメラは、1959年発売の「Retinette 1A」。丸みを帯びたボディと逆三角形のエプロンデザインが秀逸で女性需要家を意識したスタイリッシュカメラである。
一方、米国・コダックはメカニカル面を強調したデザインの製品を数多く市場に投入、代表例として1951年発売の「シグネット Signet35」がある。
「Signet35」は、機械堅牢性・メカニカル面を強調した外観で、もともと米国陸軍通信部隊用としてコダックに発注した軍用カメラをベースにした製品の為に当然といえるデザインである。Signalを語源とするダイカスト仕様の重厚カメラは、「男のカメラらしさ」に溢れ、搭載レンズの優秀性もあり国内でも人気商品になった時期がある。
男らしさに溢れた重厚カメラではあったが、正面からのイメージがミッキーマウスに似ていたことより想定外に女性カメラファンの人気を集めた経緯もある。


コダックRetinette 1AとSignet35




国内初の女性向けカメラ、ミノルタ・ミニフレックス


1950年に発売された二眼レフ「リコーフレックス」を契機にブローニーフィルム(J120フィルム)を使用する二眼レフカメラはカメラ構造が簡単であった事も加わり一気に市場が拡大、アルファベットのAからZ迄の製品が販売された経緯がある。
しかしながら、ブローニーフィルムを使用する画面サイズ6×6cmのカメラはカメラ本体の大型化(W10cm D10cm H15cm程度)を余儀なくされ「ゴロゴロ」した大型カメラは携行性に大きな問題を有していた。
1952年に二眼レフのマーケットリーダーであったドイツ・ローライ社がJ127フィルム(ベスト版フィルム)を使用した画面サイズ4×4cmの「ローライフレックス44」(ベビーローライ)を発売すると国産各社もこれに追随して「ベスト版二眼レフ市場」が創生される事になった。
千代田光学・ミノルタカメラ(当時)は、ヤシカ、東京光学、リコーに続いて1959年に「ミノルタ・ミニフレックス」(W8cm D8cm H12.2cm)を発売してベスト判二眼レフ市場参入を行っている。ミノルタカメラは、「ミノルタ・ミニフレックス」を女性市場向け製品に設定、マリンブルーのボディカラー、グリーンアクリル・金文字表記の銘盤、深紅のシンクロ切り替えレバー、レンズ鏡胴部のマリンブルー塗装、ボディ同色の皮ケース等々、マリンブルー・アクアブルーを基調とする女性向けカメラ第一号にふさわしい大変お洒落なカメラであった。

ミノルタ・ミニフレックス 




当時のミノルタカメラは、「オートコード」ブランドで二眼レフ市場をリードしており、この「ミノルタ・ミニフレックス」も新型ガラスを採用したロッコール60nn f2.8レンズを搭載する等、性能面でも他社をリードしていた。しかしながら、女性向けカメラ市場は、午前二時・黎明期前の状況にあり700台余の生産に止まった事が記録されている。



宝石で着飾ったコンパクトカメラ・フジカミニ

1964年に富士写真フィルム(当時)が発売したハーフサイズカメラ「フジカミニ」(価格9600円)は、発売当時世界最小のカメラで東京芸術大学・田中芳郎教授(当時)がデザインを担当した大変お洒落なカメラである。


フジフィルム フジカミニ



スタイリッシュでキュートなデザインはもとより、フィルムASA感度設定に宝石カラー表示(ルビーASA25,サファイヤASA50,トパーズASA100等)を採用、フィルム巻上げも親指と中指でフィルム巻上げダイヤルを挟んで、カメラボディをスウィングさせる「スウィング機能」を採用して注目を集めた。
「着飾った素敵な女性がハンドバッグから取り出して撮影する」というシーンにピッタリ適合するカメラであった。当時、田中芳郎教授は、フジペットシリーズ、フジカラピッドS,フジカ35M、等々の富士フィルムカメラ製品のデザインを多数担当して「田中ワールド」を造り出している。現在でも中古カメラ店で田中デザインの富士フィルムカメラを見る機会が多く、スタイリッシュなデザインは依然として人気が高い。


クレージュを着たミノルタカメラ


ミノルタカメラ(当時)は、1983年から1984年にかけてフランス・ファッションデザイナー:アントレ・クレージュのデザインによる女性向け「お洒落カメラ」をシリーズ展開、「ミノルタ・ミニフレックス」に続き二回目の女性向けカメラ需要拡大を図っている。
最初のクレージュ・カメラは、1984年発売の「ミノルタ・クレージュac101」でDisk Film使用の薄型カメラで、ピンク・グレー・グリーン・ベージュのパステルカラー・クレージュデザインを採用している。
女性ファンの人気に気をよくした?ミノルタカメラは、1984年に35mmフィルム仕様のオートフォーカス・コンパクトカメラ「ミノルタ・クレージュ AF-E クオーツデート」を発売、ピンクとブルーのクレージュデザインボディで女性カメラ市場拡大を図っている。
当然のことながら、男性向けの需要は想定外の商品設計である。


ミノルタ・クレージュ AF-Eクオーツデート




豊かなバストをイメージするロゴマークで注目されたコニカ・アイ


1964年に小西六写真工業(当時)は、同社初のハーフサイズカメラ「コニカ・アイ」を発売してハーフサイズカメラ市場への参入を開始している。
他社よりも当該市場参入が遅れた理由として同社は、感光材料メーカーとしてフルサイズよりも画質・粒状性の問題が生じやすいハーフサイズカメラへの見極めに時間を要した事を挙げている。


小西六写真 コニカ・アイ 




「コニカ・アイ」は同社が画質・粒状性問題を配慮したヘキサノンレンズを搭載した事より性能面で高い評価を得たが、同時にカメラ前面肩部にプリントされた「EYE」をデザインしたシンボルマークが「グラマラスな女性のバスト」をイメージすることより「オッパイマーク」として人気が出た経緯がある。改良型の「コニカ・アイⅡ」では、「残念ながら?」当該シンボルマークは省略されているが、「カメラは女性名詞」にふさわしい懐かしのカメラである。

コニカ・アイ オッパイマーク




カメラの女王、オリンパス・ペンF

オリンパス光学が1963年に発売した世界初のハーフサイズ一眼レフ「オリンパス・ペンF」(24.800円)は、金属ロータリー・フォーカルプレーンシャッター、ポロミラーファインダー搭載 等々のメカニカル面の特長もさることながら、工業デザイナーとしても著名な設計者・米谷美久氏によるコンパクトで美しいボディも世界の注目を集めている。


オリンパス・ペンF  



特にボディ右肩部のドイツ語風の花文字でデザインされた「F」文字が大変美しく、かつ印象的で「ハーフサイズカメラの女王」と称された経緯がある。
オリンパスは、2016年発売のデジタル一眼レフ「PEN-F」でも米谷デザインを継承、「永遠に語り継がれる逸品」としてセールストークを展開している。
フィルム一眼レフ同様に「デジタル一眼レフの女王」としての風格を見ることが出来る。


以上