毎月第三木曜日の午後に開いている≪月例木曜会≫を、先週18日に開催いたしました。
早速、K氏がまとめてくださいましたのでご報告させていただきます。
[印刷]の今とこれからを考える
「印刷図書館クラブ」月例会報告(平成25年4月度会合より)
●価値観に品性や感性を取り入れよう
ロンドンの大学にはポスター類が整然と展示されていたり、アメリカでは最初にできた印刷会社のモデルが、大切に保存されたりしている。グラフィックアーツに対する価値観が、日本とは根本的に違っている。産業として厳しい状況にないからだろうか、印刷業に関して大きな自負をもっている。日本でもかつては、印刷をたんなる「技術」ではなく「品性」と幅広く捉えて、発展させていこうという理念や気概があったように思う。昨今、「感性」を土台にすべきだと提唱されているが、当時と相通じるものがある。業界の総意として継続的に進めていってほしい。
●工芸がもっている意味を再認識したい
「工芸とはベレー帽を被った芸術家がやるものだ」という固定観念がある。技術と工芸との関係を理解していない人が多過ぎる。最近、活版印刷が一種のブームになっていて、名刺やハガキなどを自分でつくろうとする人が多い。高い印圧をかけて厚紙に凸版印刷する“イミテーション”であっても、そこには温か味が感じられ、工芸品となっている。活版には活版本来の良さがあるのであり、そこをどう評価するかが問われている。木版印刷、石版印刷、コロタイプ印刷はほとんど姿を消してしまったが、版画やリトグラフにみられるような工芸的な感覚を、工業のなかにどれだけ採り入れていくか。印刷工業のサービス化の一つに工芸をからめていく意義は大きい。デジタル加工に関心がいきがちだが、こうした面からの取り組みも重要だろう。
●アドバンテージを生かさない手はない
文字・画像データがマルチメディアに対応できるといっても、何の機能のために出力するのかをよく考えなければいけない。そこに、工芸の感覚も入ってくる。美しさとか親しみやすさとか、たんなる“読みやすさ”以上の何かが求められているが、それを、物理量と心理量の相対が伴った「工芸」というのだと思う。印刷物の機能を考えながら、高度な印刷技術で伝統的な工芸を表現することだ。データが情報、知識、知恵となっていく過程には、人間の学習能力や創造性が介在している。デジタルデータを取り扱う前に、このようなソフトな付加価値をいかに組み合わせて、顧客に還元するかを考える必要がある。紙メディアをもっている印刷業は、一番大きなアドバンテージをもっているはずである。
●現場ならではの感覚を顧客に伝えよう
上流(前工程)から下流(後工程)への仕事の流れを、逆に下流から上流へ情報をフィードバックできるようにすれば、現在、上流とされている前工程よりさらに上(顧客サイド)に立てることになる。印刷現場の中から印刷物がもっている美しさ、心地良さ、メディアによるコミュニケーション力を、上流にフィードバックできると、顧客が抱えている課題の解決に大きな役割を果たせるようになる。現場と営業が共通の言葉で意思疎通できなくなっているのが実状だが、一定のテーマと期間を定めたうえで“社内留学”(人事交流)させることも必要だろう。
●成果に結びつく実務教育が大切だ
江戸時代の寺子屋が教育に果たした貢献度は非常に大きかった。外国でも教会が学校の役割を果たしていた。教会の日曜学校に通って英語を勉強し、組版を職場で習った結果「読み書きなら学者に負けない」と自負する職人(組版工)が大勢育っていった。日本においても、印刷会社で日本語の文章や句読法を勉強したという印刷人は多い。基本的な勉強が仕事そのものに役立つような実務教育に、もう一度目を向ける必要があるのではないか。
●営業マンの努力に正当な評価を
印刷営業マンにいま一番求められているのは、自分の会社の印刷製品だけでなく、関連するさまざまな分野の知識を身に付け、顧客に提供できるサービスの幅を拡げることである。しかし残念なことに、このような個人的な学習の成果を正しく評価するシステムが、現在の印刷会社にはみられない。顧客からどのような課題をもらってきたかを、仕事上の評価基準に加えるべきである。質のよい宿題をもってくる営業マンは必ず伸びる。企画能力を高めることができるよう、仕事の環境を整えると同時に、積極的に取り組んでもらえるためのインセンティブを、どう与えるかを考慮に入れた効果的な評価システムを開発してほしい。
●特化と多様化を視野に入れた印刷経営を
印刷会社は、企画提案から製造工程を経てデリバリーに至るバリューチェーン(バーチカルセグメント)のいずれかに力点を置くとともに、特化した製品領域、市場領域で付加価値を確保するようにすべきだ。ただし、知識(ノウハウ)は入口から出口まで、かつ間口を広くもっていなくてはならない。そうすることによって多様化が可能となり、コミュニケーション支援のためのさまざまな代替サービスや付帯サービスができるようになる。顧客にトータルソリューションを提案する的確なコンサルティングが可能になる。顧客までバリューチェーンに巻き込みながら、付帯サービスの提供によって付加価値がとれるビジネスモデル(仕組み)をつくり、メディアを活かした仕事をプロデュース(仕掛け)すること。特定の顧客に専門特化して受注できるになれば、継続した取引関係を築ける。特化でコストダウン、多様化で価格向上が実現できる。結果的な売上高ではなく、獲得をめざす付加価値を基準に経営していくことが重要である。
●ニーズの首根っこを押さえた方が勝ち
印刷業界が今まで取り組んできた仕事の枠を超えたところで、隣接の異業種と市場の獲得競争が始まっている。どの事業を主力としているかが異なるだけで、めざしているビジネスの方向は印刷業界でもIT業界でもメディア業界でも同じだ。入口と出口の約束事を守りさえすれば、どこでも顧客ニーズに対応できる平等の立場にある。凝り固まったきれいごとの発想では皆つぶされてしまう。印刷業の究極の理想像は、二つに分化している上流と下流をうまく組み合わせたうえで、川上の要の部分をいち早く押さえることにある。そして、他の業界に需要がシフトしていかないよう障壁をつくること。デジタルデータと紙メディアの両方を扱える印刷業は、最大の力を発揮できるだろう。それだけの“蝶つがい”(インターフェイス機能)をたくさん備えていることに自信をもってほしい。
●各社それぞれのポジショニングこそ
演繹的にアタマから考えると、最大公約数的な総合印刷業のかたちしか思い浮かんでこない。しかし見方を変えて、各社それぞれのポジショニングを定めてから帰納的に集約すれば、印刷産業の全体像がみえてくる。印刷会社の経営者は感覚的に製造業でいたい気持をもっているようだが、印刷業としての価値を高めるには何をしたらよいかを考え、自社のポジション(事業基盤)を決めることが望ましい。それには、メディアの機能を分析しながら、情報伝達用、販売促進用、ロジックス用といった具合に、印刷物を機能別に分けて考える必要がある。プロでなければできないもの、アマチュアでもできるものを明確に区分けするのはもちろん、これまでのような品目別な捉え方も止めた方がよい。
(以上)
早速、K氏がまとめてくださいましたのでご報告させていただきます。
[印刷]の今とこれからを考える
「印刷図書館クラブ」月例会報告(平成25年4月度会合より)
●価値観に品性や感性を取り入れよう
ロンドンの大学にはポスター類が整然と展示されていたり、アメリカでは最初にできた印刷会社のモデルが、大切に保存されたりしている。グラフィックアーツに対する価値観が、日本とは根本的に違っている。産業として厳しい状況にないからだろうか、印刷業に関して大きな自負をもっている。日本でもかつては、印刷をたんなる「技術」ではなく「品性」と幅広く捉えて、発展させていこうという理念や気概があったように思う。昨今、「感性」を土台にすべきだと提唱されているが、当時と相通じるものがある。業界の総意として継続的に進めていってほしい。
●工芸がもっている意味を再認識したい
「工芸とはベレー帽を被った芸術家がやるものだ」という固定観念がある。技術と工芸との関係を理解していない人が多過ぎる。最近、活版印刷が一種のブームになっていて、名刺やハガキなどを自分でつくろうとする人が多い。高い印圧をかけて厚紙に凸版印刷する“イミテーション”であっても、そこには温か味が感じられ、工芸品となっている。活版には活版本来の良さがあるのであり、そこをどう評価するかが問われている。木版印刷、石版印刷、コロタイプ印刷はほとんど姿を消してしまったが、版画やリトグラフにみられるような工芸的な感覚を、工業のなかにどれだけ採り入れていくか。印刷工業のサービス化の一つに工芸をからめていく意義は大きい。デジタル加工に関心がいきがちだが、こうした面からの取り組みも重要だろう。
●アドバンテージを生かさない手はない
文字・画像データがマルチメディアに対応できるといっても、何の機能のために出力するのかをよく考えなければいけない。そこに、工芸の感覚も入ってくる。美しさとか親しみやすさとか、たんなる“読みやすさ”以上の何かが求められているが、それを、物理量と心理量の相対が伴った「工芸」というのだと思う。印刷物の機能を考えながら、高度な印刷技術で伝統的な工芸を表現することだ。データが情報、知識、知恵となっていく過程には、人間の学習能力や創造性が介在している。デジタルデータを取り扱う前に、このようなソフトな付加価値をいかに組み合わせて、顧客に還元するかを考える必要がある。紙メディアをもっている印刷業は、一番大きなアドバンテージをもっているはずである。
●現場ならではの感覚を顧客に伝えよう
上流(前工程)から下流(後工程)への仕事の流れを、逆に下流から上流へ情報をフィードバックできるようにすれば、現在、上流とされている前工程よりさらに上(顧客サイド)に立てることになる。印刷現場の中から印刷物がもっている美しさ、心地良さ、メディアによるコミュニケーション力を、上流にフィードバックできると、顧客が抱えている課題の解決に大きな役割を果たせるようになる。現場と営業が共通の言葉で意思疎通できなくなっているのが実状だが、一定のテーマと期間を定めたうえで“社内留学”(人事交流)させることも必要だろう。
●成果に結びつく実務教育が大切だ
江戸時代の寺子屋が教育に果たした貢献度は非常に大きかった。外国でも教会が学校の役割を果たしていた。教会の日曜学校に通って英語を勉強し、組版を職場で習った結果「読み書きなら学者に負けない」と自負する職人(組版工)が大勢育っていった。日本においても、印刷会社で日本語の文章や句読法を勉強したという印刷人は多い。基本的な勉強が仕事そのものに役立つような実務教育に、もう一度目を向ける必要があるのではないか。
●営業マンの努力に正当な評価を
印刷営業マンにいま一番求められているのは、自分の会社の印刷製品だけでなく、関連するさまざまな分野の知識を身に付け、顧客に提供できるサービスの幅を拡げることである。しかし残念なことに、このような個人的な学習の成果を正しく評価するシステムが、現在の印刷会社にはみられない。顧客からどのような課題をもらってきたかを、仕事上の評価基準に加えるべきである。質のよい宿題をもってくる営業マンは必ず伸びる。企画能力を高めることができるよう、仕事の環境を整えると同時に、積極的に取り組んでもらえるためのインセンティブを、どう与えるかを考慮に入れた効果的な評価システムを開発してほしい。
●特化と多様化を視野に入れた印刷経営を
印刷会社は、企画提案から製造工程を経てデリバリーに至るバリューチェーン(バーチカルセグメント)のいずれかに力点を置くとともに、特化した製品領域、市場領域で付加価値を確保するようにすべきだ。ただし、知識(ノウハウ)は入口から出口まで、かつ間口を広くもっていなくてはならない。そうすることによって多様化が可能となり、コミュニケーション支援のためのさまざまな代替サービスや付帯サービスができるようになる。顧客にトータルソリューションを提案する的確なコンサルティングが可能になる。顧客までバリューチェーンに巻き込みながら、付帯サービスの提供によって付加価値がとれるビジネスモデル(仕組み)をつくり、メディアを活かした仕事をプロデュース(仕掛け)すること。特定の顧客に専門特化して受注できるになれば、継続した取引関係を築ける。特化でコストダウン、多様化で価格向上が実現できる。結果的な売上高ではなく、獲得をめざす付加価値を基準に経営していくことが重要である。
●ニーズの首根っこを押さえた方が勝ち
印刷業界が今まで取り組んできた仕事の枠を超えたところで、隣接の異業種と市場の獲得競争が始まっている。どの事業を主力としているかが異なるだけで、めざしているビジネスの方向は印刷業界でもIT業界でもメディア業界でも同じだ。入口と出口の約束事を守りさえすれば、どこでも顧客ニーズに対応できる平等の立場にある。凝り固まったきれいごとの発想では皆つぶされてしまう。印刷業の究極の理想像は、二つに分化している上流と下流をうまく組み合わせたうえで、川上の要の部分をいち早く押さえることにある。そして、他の業界に需要がシフトしていかないよう障壁をつくること。デジタルデータと紙メディアの両方を扱える印刷業は、最大の力を発揮できるだろう。それだけの“蝶つがい”(インターフェイス機能)をたくさん備えていることに自信をもってほしい。
●各社それぞれのポジショニングこそ
演繹的にアタマから考えると、最大公約数的な総合印刷業のかたちしか思い浮かんでこない。しかし見方を変えて、各社それぞれのポジショニングを定めてから帰納的に集約すれば、印刷産業の全体像がみえてくる。印刷会社の経営者は感覚的に製造業でいたい気持をもっているようだが、印刷業としての価値を高めるには何をしたらよいかを考え、自社のポジション(事業基盤)を決めることが望ましい。それには、メディアの機能を分析しながら、情報伝達用、販売促進用、ロジックス用といった具合に、印刷物を機能別に分けて考える必要がある。プロでなければできないもの、アマチュアでもできるものを明確に区分けするのはもちろん、これまでのような品目別な捉え方も止めた方がよい。
(以上)