「印刷図書館クラブ」月例会報告(平成28年3月度会合より)
●出版物の減少は果たして図書館のせいなの?
出版業界が「新刊本の売上げが減っているのは、図書館による大量の貸出しが一因だ」と、一定期間の貸出し制限を申し入れた件は、「出版文化の根底に触れる問題だ」との“反発”が巻き起こって、未だに尾を引いているようだ。反発の理由をみてみると、①誰もが自由に書物から情報を得られるようにするのが図書館本来の役割、②部数の出ない専門書などでも購入しているのは図書館であり、出版業界全体を支えてくれている――に集約される。図書館が購入する本の冊数は、予算の削減もあって減少傾向にある。長期の景気低迷、消費性向の変化、さらにはオンライン通販や電子書籍の普及が重なって、図書館の利用者数、貸出本の冊数自体も減っている。しかし、それ以上に出版業界からの発行部数が落ちているのが現状である。 図書館を利用しない圧倒的多数の人たち(そのなかには書物愛好家もいて、必要とする本は自分で書店で購入している)が、出版物に対して高い評価をしていないことに原因があるのではないか?
●出版業界と図書館はこれからも手を携えて……
図書館がもつもう一つの大きな役目は、書物に接する機会を設けることで本好きな人を増やすことにある。読書習慣を付けてもらえれば、そういう人たちは自然と書店に行って本を買うようになる。延いては出版部数が増え、出版社の売上げも高まる――このような視点を、出版業界はもつべきなのではないか? もし貸出し制限を強いるなら、それだけで本好きの人を育てる機会を奪うことになる。将来的に出版市場を縮小させかねない。出版文化を末長く保ちたいなら、出版業界は図書館を責めるのではなく、協力し合って真に本好きな読者市場を育てる努力をしていかなければならない。対立したまま読者を奪い合っている場合ではない。共存できる出版ビジネスの確立が急務だ。その前提として、出版社はベストセラー信仰から目覚めて、少部数であってもいいから多様な読者にとって価値のある本を発行し続けていく必要があるだろう。キメの細かいマーケティング志向が根底になければならないのはいうまでもない。
●印刷会社の「競争優位性」は思っている以上に強い
企業の「競争優位性」は、しっかりした事業領域の確立、製品やサービスの差別化、市場における独自のポジショニング、あるいは経営資源の効果的な展開、組織能力の向上などで発揮される。経営戦略、なかでも競争戦略の中心的な要素とされているが、製造業においては、抜きん出た技術、品質、生産ノウハウが優位性の根拠になることが多い。印刷会社は、果たして何をもって競争優位性としているのだろう? そのヒントとなる「印刷会社に対する顧客の認識」と題する論文が、アメリカの印刷産業団体PIAから発表された。その論文によると「印刷メディアと印刷会社(=プリンター)は、ビジネス・コミュニケーションのきわめて重要な要素として存続し続ける」といたうえで、印刷発注者である顧客企業でビジネスあるいはマーケティングを担当する経営幹部が「印刷会社のサービス提供能力は(自社の)社内印刷部門のそれをはるかに上回る。カラー印刷の製品品質、デジタル画像処理などの技術的能力が印刷会社の競争優位性を維持している」と評価する調査結果を紹介している。
●印刷会社の能力はあらゆる要素で社内印刷を凌ぐ
調査した対象企業のほとんど全てが、この1年間に業務用もしくはマーケティング・コミュニケーションのために印刷メディアを活用したが、その86%は印刷会社に発注し、社内印刷の全面的利用は14%に過ぎなかったという。そして、社内印刷部門をもっている企業であっても、業務用の印刷メディアに関しては相変わらず外部の印刷会社に大きく依存しているのが実情だとしている。その理由は、主なものから順に製品品質、量的対応力、コスト問題、カラー品質の安定性/再現性と、ほとんど差がなく続く。印刷会社が社内印刷部門に比べて複数の優れた能力を合わせもっていると、顧客が認識 (規模の大きい企業ほど重視) していることを物語っている。実際にこれらの項目に関する問題の発生は、印刷会社の方が少ないという。さらに顧客は予算内納品、納期管理、コーディネーション(作業に必要な調整)といった印刷メディア製作のプロセスに関する対応でも、印刷会社の方が優れていると判断している事実がわかった。
●競争優位性を武器に、どのようなビジネスモデルを築くか?
最重要な競争優位性とみなされている技術力に関しては、「(ネット発注が可能な)クラウド印刷対応力」「先進的なカラー印刷技術」「先進的なデジタル画像処理技術」、そして「デジタル資産管理」が上位に並んでいる。製作プロジェクトへの献身的なサポート(取り組み姿勢)を見せてほしいと望んでいることも注視しなければならない。この論文は「印刷メディアはいまだに盤石のポジショニングを築き、社内印刷に対して明確な競争優位性をもっている」と繰り返し言及するとともに、「印刷会社にとって技術的能力はかなり重要な競争力の要素だ」と指摘してくれている。日本の印刷会社は、こうした調査分析をいかに受け止めて、自社の事業戦略=「競争しない競争戦略」に反映させていったらいいのか。紙メディア製作の強みを活かしながら、顧客ニーズに応えるマーケティング機能を組み込むことが肝要だとされるなかで、どのように自社のビジネスモデルを設計していくべきか――まずは土台づくりの再考を迫られる。
※参考資料=「FLASH REPORT」Jan. 2016, PIA; Dr. Ronnie H. Davis(Senior Vice President)
●デジタル資産管理で「コミュニケーションサービス」を
デジタル化とネットワーク化が進展するにつれ、製品の品質は均一化する一方、サービスの内容は多様化の度を強めている。印刷メディアについても、サプライチェーンでの品質-コスト-納期の管理だけでなく、オンデマンド処理やクロスメディア対応も含めたバリューチェーン全体での管理へと、サービスの領域が広がってきている。価値を創造してくれるサービスや管理が、顧客が求める機能、提供してほしいソリューションとなっているのだ。デジタル資産管理により最適なサービス品質を供給することが、主要な課題となってきたことがわかる。顧客からみた有用な(意味づけの伴う)情報の加工/流通サービスにまで、管理の幅を広げる必要がある。印刷業における「情報コミュニケーションサービス」を再定義したところに、自身の存在意義を見出せるのではないだろうか? このコミュニケーションは、印刷会社と顧客との双方向の対話処理がなされて初めて成立する。アナログの特性とデジタルの特性を相互補完させ、新たな価値を提供できて初めて、印刷会社は「コミュニケーションサービスプロバイダー」になれるのだ。
●顧客と連係して価値を協創する「コソーシング」体制を
その価値は、顧客との協働・協創を通して、顧客へのマーケティングと社内のビジネスプロセスを一体化させることで生まれるものでなければいけない。顧客のシステムと印刷会社のシステムが連係し合い、顧客にとってあたかも自社の印刷業務部門であるかのように、印刷サービスを受けられる「コソーシング」の体制を築く必要がある。アウトソーシングで委託された情報加工処理、編集デザインで良しとしている場合ではない。高度なデジタル資産管理によって、顧客に知識と知恵をもたらす情報リテラシー、メディアリテラシーの先導者にならなければいけない。「顧客を起点に顧客の声を聞き、それに応える製品・サービスを創造して提供する」を実践している身近な例として、オフセット印刷とデジタル印刷の両方式を、さまざまな技術的手法によってハイブリッド運用している印刷会社が日本にある。小口分割印刷という新たなサービスを生み出し、1枚のムダもない適正在庫、極少部数の追刷り、掲載製品の仕様変更、特定ページの抜き刷りなどに自在に対応し、顧客から非常に喜ばれている。このような考え方、取り組み方こそ「印刷メディアの価値向上につながる」といってよい。
(以上)
●出版物の減少は果たして図書館のせいなの?
出版業界が「新刊本の売上げが減っているのは、図書館による大量の貸出しが一因だ」と、一定期間の貸出し制限を申し入れた件は、「出版文化の根底に触れる問題だ」との“反発”が巻き起こって、未だに尾を引いているようだ。反発の理由をみてみると、①誰もが自由に書物から情報を得られるようにするのが図書館本来の役割、②部数の出ない専門書などでも購入しているのは図書館であり、出版業界全体を支えてくれている――に集約される。図書館が購入する本の冊数は、予算の削減もあって減少傾向にある。長期の景気低迷、消費性向の変化、さらにはオンライン通販や電子書籍の普及が重なって、図書館の利用者数、貸出本の冊数自体も減っている。しかし、それ以上に出版業界からの発行部数が落ちているのが現状である。 図書館を利用しない圧倒的多数の人たち(そのなかには書物愛好家もいて、必要とする本は自分で書店で購入している)が、出版物に対して高い評価をしていないことに原因があるのではないか?
●出版業界と図書館はこれからも手を携えて……
図書館がもつもう一つの大きな役目は、書物に接する機会を設けることで本好きな人を増やすことにある。読書習慣を付けてもらえれば、そういう人たちは自然と書店に行って本を買うようになる。延いては出版部数が増え、出版社の売上げも高まる――このような視点を、出版業界はもつべきなのではないか? もし貸出し制限を強いるなら、それだけで本好きの人を育てる機会を奪うことになる。将来的に出版市場を縮小させかねない。出版文化を末長く保ちたいなら、出版業界は図書館を責めるのではなく、協力し合って真に本好きな読者市場を育てる努力をしていかなければならない。対立したまま読者を奪い合っている場合ではない。共存できる出版ビジネスの確立が急務だ。その前提として、出版社はベストセラー信仰から目覚めて、少部数であってもいいから多様な読者にとって価値のある本を発行し続けていく必要があるだろう。キメの細かいマーケティング志向が根底になければならないのはいうまでもない。
●印刷会社の「競争優位性」は思っている以上に強い
企業の「競争優位性」は、しっかりした事業領域の確立、製品やサービスの差別化、市場における独自のポジショニング、あるいは経営資源の効果的な展開、組織能力の向上などで発揮される。経営戦略、なかでも競争戦略の中心的な要素とされているが、製造業においては、抜きん出た技術、品質、生産ノウハウが優位性の根拠になることが多い。印刷会社は、果たして何をもって競争優位性としているのだろう? そのヒントとなる「印刷会社に対する顧客の認識」と題する論文が、アメリカの印刷産業団体PIAから発表された。その論文によると「印刷メディアと印刷会社(=プリンター)は、ビジネス・コミュニケーションのきわめて重要な要素として存続し続ける」といたうえで、印刷発注者である顧客企業でビジネスあるいはマーケティングを担当する経営幹部が「印刷会社のサービス提供能力は(自社の)社内印刷部門のそれをはるかに上回る。カラー印刷の製品品質、デジタル画像処理などの技術的能力が印刷会社の競争優位性を維持している」と評価する調査結果を紹介している。
●印刷会社の能力はあらゆる要素で社内印刷を凌ぐ
調査した対象企業のほとんど全てが、この1年間に業務用もしくはマーケティング・コミュニケーションのために印刷メディアを活用したが、その86%は印刷会社に発注し、社内印刷の全面的利用は14%に過ぎなかったという。そして、社内印刷部門をもっている企業であっても、業務用の印刷メディアに関しては相変わらず外部の印刷会社に大きく依存しているのが実情だとしている。その理由は、主なものから順に製品品質、量的対応力、コスト問題、カラー品質の安定性/再現性と、ほとんど差がなく続く。印刷会社が社内印刷部門に比べて複数の優れた能力を合わせもっていると、顧客が認識 (規模の大きい企業ほど重視) していることを物語っている。実際にこれらの項目に関する問題の発生は、印刷会社の方が少ないという。さらに顧客は予算内納品、納期管理、コーディネーション(作業に必要な調整)といった印刷メディア製作のプロセスに関する対応でも、印刷会社の方が優れていると判断している事実がわかった。
●競争優位性を武器に、どのようなビジネスモデルを築くか?
最重要な競争優位性とみなされている技術力に関しては、「(ネット発注が可能な)クラウド印刷対応力」「先進的なカラー印刷技術」「先進的なデジタル画像処理技術」、そして「デジタル資産管理」が上位に並んでいる。製作プロジェクトへの献身的なサポート(取り組み姿勢)を見せてほしいと望んでいることも注視しなければならない。この論文は「印刷メディアはいまだに盤石のポジショニングを築き、社内印刷に対して明確な競争優位性をもっている」と繰り返し言及するとともに、「印刷会社にとって技術的能力はかなり重要な競争力の要素だ」と指摘してくれている。日本の印刷会社は、こうした調査分析をいかに受け止めて、自社の事業戦略=「競争しない競争戦略」に反映させていったらいいのか。紙メディア製作の強みを活かしながら、顧客ニーズに応えるマーケティング機能を組み込むことが肝要だとされるなかで、どのように自社のビジネスモデルを設計していくべきか――まずは土台づくりの再考を迫られる。
※参考資料=「FLASH REPORT」Jan. 2016, PIA; Dr. Ronnie H. Davis(Senior Vice President)
●デジタル資産管理で「コミュニケーションサービス」を
デジタル化とネットワーク化が進展するにつれ、製品の品質は均一化する一方、サービスの内容は多様化の度を強めている。印刷メディアについても、サプライチェーンでの品質-コスト-納期の管理だけでなく、オンデマンド処理やクロスメディア対応も含めたバリューチェーン全体での管理へと、サービスの領域が広がってきている。価値を創造してくれるサービスや管理が、顧客が求める機能、提供してほしいソリューションとなっているのだ。デジタル資産管理により最適なサービス品質を供給することが、主要な課題となってきたことがわかる。顧客からみた有用な(意味づけの伴う)情報の加工/流通サービスにまで、管理の幅を広げる必要がある。印刷業における「情報コミュニケーションサービス」を再定義したところに、自身の存在意義を見出せるのではないだろうか? このコミュニケーションは、印刷会社と顧客との双方向の対話処理がなされて初めて成立する。アナログの特性とデジタルの特性を相互補完させ、新たな価値を提供できて初めて、印刷会社は「コミュニケーションサービスプロバイダー」になれるのだ。
●顧客と連係して価値を協創する「コソーシング」体制を
その価値は、顧客との協働・協創を通して、顧客へのマーケティングと社内のビジネスプロセスを一体化させることで生まれるものでなければいけない。顧客のシステムと印刷会社のシステムが連係し合い、顧客にとってあたかも自社の印刷業務部門であるかのように、印刷サービスを受けられる「コソーシング」の体制を築く必要がある。アウトソーシングで委託された情報加工処理、編集デザインで良しとしている場合ではない。高度なデジタル資産管理によって、顧客に知識と知恵をもたらす情報リテラシー、メディアリテラシーの先導者にならなければいけない。「顧客を起点に顧客の声を聞き、それに応える製品・サービスを創造して提供する」を実践している身近な例として、オフセット印刷とデジタル印刷の両方式を、さまざまな技術的手法によってハイブリッド運用している印刷会社が日本にある。小口分割印刷という新たなサービスを生み出し、1枚のムダもない適正在庫、極少部数の追刷り、掲載製品の仕様変更、特定ページの抜き刷りなどに自在に対応し、顧客から非常に喜ばれている。このような考え方、取り組み方こそ「印刷メディアの価値向上につながる」といってよい。
(以上)