印刷図書館倶楽部ひろば

“印刷”に対する深い見識と愛着をお持ちの方々による広場です。語らいの輪に、ぜひご参加くださいませ。

[印刷]の今とこれからを考える ≪月例会報告2016年3月度≫

2016-03-28 13:15:19 | 月例会
「印刷図書館クラブ」月例会報告(平成28年3月度会合より)


●出版物の減少は果たして図書館のせいなの?

 出版業界が「新刊本の売上げが減っているのは、図書館による大量の貸出しが一因だ」と、一定期間の貸出し制限を申し入れた件は、「出版文化の根底に触れる問題だ」との“反発”が巻き起こって、未だに尾を引いているようだ。反発の理由をみてみると、①誰もが自由に書物から情報を得られるようにするのが図書館本来の役割、②部数の出ない専門書などでも購入しているのは図書館であり、出版業界全体を支えてくれている――に集約される。図書館が購入する本の冊数は、予算の削減もあって減少傾向にある。長期の景気低迷、消費性向の変化、さらにはオンライン通販や電子書籍の普及が重なって、図書館の利用者数、貸出本の冊数自体も減っている。しかし、それ以上に出版業界からの発行部数が落ちているのが現状である。 図書館を利用しない圧倒的多数の人たち(そのなかには書物愛好家もいて、必要とする本は自分で書店で購入している)が、出版物に対して高い評価をしていないことに原因があるのではないか?


●出版業界と図書館はこれからも手を携えて……

 図書館がもつもう一つの大きな役目は、書物に接する機会を設けることで本好きな人を増やすことにある。読書習慣を付けてもらえれば、そういう人たちは自然と書店に行って本を買うようになる。延いては出版部数が増え、出版社の売上げも高まる――このような視点を、出版業界はもつべきなのではないか? もし貸出し制限を強いるなら、それだけで本好きの人を育てる機会を奪うことになる。将来的に出版市場を縮小させかねない。出版文化を末長く保ちたいなら、出版業界は図書館を責めるのではなく、協力し合って真に本好きな読者市場を育てる努力をしていかなければならない。対立したまま読者を奪い合っている場合ではない。共存できる出版ビジネスの確立が急務だ。その前提として、出版社はベストセラー信仰から目覚めて、少部数であってもいいから多様な読者にとって価値のある本を発行し続けていく必要があるだろう。キメの細かいマーケティング志向が根底になければならないのはいうまでもない。


●印刷会社の「競争優位性」は思っている以上に強い

企業の「競争優位性」は、しっかりした事業領域の確立、製品やサービスの差別化、市場における独自のポジショニング、あるいは経営資源の効果的な展開、組織能力の向上などで発揮される。経営戦略、なかでも競争戦略の中心的な要素とされているが、製造業においては、抜きん出た技術、品質、生産ノウハウが優位性の根拠になることが多い。印刷会社は、果たして何をもって競争優位性としているのだろう? そのヒントとなる「印刷会社に対する顧客の認識」と題する論文が、アメリカの印刷産業団体PIAから発表された。その論文によると「印刷メディアと印刷会社(=プリンター)は、ビジネス・コミュニケーションのきわめて重要な要素として存続し続ける」といたうえで、印刷発注者である顧客企業でビジネスあるいはマーケティングを担当する経営幹部が「印刷会社のサービス提供能力は(自社の)社内印刷部門のそれをはるかに上回る。カラー印刷の製品品質、デジタル画像処理などの技術的能力が印刷会社の競争優位性を維持している」と評価する調査結果を紹介している。


●印刷会社の能力はあらゆる要素で社内印刷を凌ぐ

 調査した対象企業のほとんど全てが、この1年間に業務用もしくはマーケティング・コミュニケーションのために印刷メディアを活用したが、その86%は印刷会社に発注し、社内印刷の全面的利用は14%に過ぎなかったという。そして、社内印刷部門をもっている企業であっても、業務用の印刷メディアに関しては相変わらず外部の印刷会社に大きく依存しているのが実情だとしている。その理由は、主なものから順に製品品質、量的対応力、コスト問題、カラー品質の安定性/再現性と、ほとんど差がなく続く。印刷会社が社内印刷部門に比べて複数の優れた能力を合わせもっていると、顧客が認識 (規模の大きい企業ほど重視) していることを物語っている。実際にこれらの項目に関する問題の発生は、印刷会社の方が少ないという。さらに顧客は予算内納品、納期管理、コーディネーション(作業に必要な調整)といった印刷メディア製作のプロセスに関する対応でも、印刷会社の方が優れていると判断している事実がわかった。


●競争優位性を武器に、どのようなビジネスモデルを築くか?

最重要な競争優位性とみなされている技術力に関しては、「(ネット発注が可能な)クラウド印刷対応力」「先進的なカラー印刷技術」「先進的なデジタル画像処理技術」、そして「デジタル資産管理」が上位に並んでいる。製作プロジェクトへの献身的なサポート(取り組み姿勢)を見せてほしいと望んでいることも注視しなければならない。この論文は「印刷メディアはいまだに盤石のポジショニングを築き、社内印刷に対して明確な競争優位性をもっている」と繰り返し言及するとともに、「印刷会社にとって技術的能力はかなり重要な競争力の要素だ」と指摘してくれている。日本の印刷会社は、こうした調査分析をいかに受け止めて、自社の事業戦略=「競争しない競争戦略」に反映させていったらいいのか。紙メディア製作の強みを活かしながら、顧客ニーズに応えるマーケティング機能を組み込むことが肝要だとされるなかで、どのように自社のビジネスモデルを設計していくべきか――まずは土台づくりの再考を迫られる。
※参考資料=「FLASH REPORT」Jan. 2016, PIA; Dr. Ronnie H. Davis(Senior Vice President)


●デジタル資産管理で「コミュニケーションサービス」を

 デジタル化とネットワーク化が進展するにつれ、製品の品質は均一化する一方、サービスの内容は多様化の度を強めている。印刷メディアについても、サプライチェーンでの品質-コスト-納期の管理だけでなく、オンデマンド処理やクロスメディア対応も含めたバリューチェーン全体での管理へと、サービスの領域が広がってきている。価値を創造してくれるサービスや管理が、顧客が求める機能、提供してほしいソリューションとなっているのだ。デジタル資産管理により最適なサービス品質を供給することが、主要な課題となってきたことがわかる。顧客からみた有用な(意味づけの伴う)情報の加工/流通サービスにまで、管理の幅を広げる必要がある。印刷業における「情報コミュニケーションサービス」を再定義したところに、自身の存在意義を見出せるのではないだろうか? このコミュニケーションは、印刷会社と顧客との双方向の対話処理がなされて初めて成立する。アナログの特性とデジタルの特性を相互補完させ、新たな価値を提供できて初めて、印刷会社は「コミュニケーションサービスプロバイダー」になれるのだ。


●顧客と連係して価値を協創する「コソーシング」体制を

その価値は、顧客との協働・協創を通して、顧客へのマーケティングと社内のビジネスプロセスを一体化させることで生まれるものでなければいけない。顧客のシステムと印刷会社のシステムが連係し合い、顧客にとってあたかも自社の印刷業務部門であるかのように、印刷サービスを受けられる「コソーシング」の体制を築く必要がある。アウトソーシングで委託された情報加工処理、編集デザインで良しとしている場合ではない。高度なデジタル資産管理によって、顧客に知識と知恵をもたらす情報リテラシー、メディアリテラシーの先導者にならなければいけない。「顧客を起点に顧客の声を聞き、それに応える製品・サービスを創造して提供する」を実践している身近な例として、オフセット印刷とデジタル印刷の両方式を、さまざまな技術的手法によってハイブリッド運用している印刷会社が日本にある。小口分割印刷という新たなサービスを生み出し、1枚のムダもない適正在庫、極少部数の追刷り、掲載製品の仕様変更、特定ページの抜き刷りなどに自在に対応し、顧客から非常に喜ばれている。このような考え方、取り組み方こそ「印刷メディアの価値向上につながる」といってよい。

(以上)

ナショナルカメラから始まったパナソニックのカメラビジネス 

2016-03-23 15:22:47 | 印刷人のフイルム・フイルムカメラ史探訪
ナショナルカメラから始まったパナソニックのカメラビジネス 

印刷図書館クラブ
印刷人のフィルム・フィルムカメラ史探訪 VOL-18
印刷コンサルタント 尾崎 章


我国を代表する電機大手の松下電器産業は、2006年に1926年より使用していた歴史的ブランドである「ナショナル」を廃止、コーポレートブランドとして「パナソニック」への統一と同時に社名の「パナソニック」変更を行っている。
松下電器産業当時は、国内家電ブランド「ナショナル」、家電海外ブランド「パナソニック」、オーディオ製品「テクニクス」の3ブランド運用を長期間実施していたがブランド統一によるビジネス拡大等を目的にブランド統一を図っている。
「ナショナル」ブランド全盛の1978年に松下電器が「ナショナル」ブランドのフィルムカメラを発売してカメラ業界参入を開始、今日の「パナソニック・デジタルカメラ」の基礎を築いた事を知る人は少ない。


AMラジオ付ポケットカメラが最初のナショナルカメラ


1978年に松下電器はAMラジオ付きポケットカメラ「ナショナル・ラジカメCR1」を発売、カメラ業界への参入を開始した。


ナショナル・ラジカメCR1とフジ110ポケットフィルム


「ナショナル・ラジカメCR1」は、コダックが1972年に発売した110カートリッジフィルム(ポケット インスタマチック フィルム)を使用するポケットカメラで、110フィルムは17×13mmの画面サイズにも関わらずキャビネ判程度迄の拡大プリントが可能であった事より市場が拡大、コダックに続いて富士フィルム、アグファ、コニカ、キャノン、ミノルタ、旭光学 等々が様々なタイプの110フィルムカメラを製品化して市場ニーズに応えている。
なかでもAMラジオを搭載して突然に市場参入を開始した松下電器「ナショナル・ラジカメCR1」は、カメラ業界はもとより消費者を驚かせた。
松下電器は山形にレンズ生産工場を有しており、得意とするストロボ生産技術とラジオ生産技術を組み合わせて小型・高性能AMラジオとストロボを内蔵した110フィルムカメラの製品化を行っている。
松下電器は、1980年に改良型「ナショナル・ラジカメCR2」とフィルム自動巻き上げ機能を搭載した「ナショナル・ラジカメCR3」を発売してラインナップ強化を行っている。
カメラへのラジオ搭載は、1959年に興和㈱・電気光学事業部からカメラ付16mmフィルムカメラ「ラメラ」が発売されているが、松下電器「ラジカメ」の約20年前に発売された製品の為にラジオ自体のコンパクト化が難しく、更にサイズが制限される状況下では16mmカートリッジフィルム「ミノルタ16フィルム」を使用する16mmカメラの搭載が限界であった。


ナショナル・ラジカメCR1とフジカポケットカメラ 

「ナショナル・ラジカメCRシリーズ」では、本格的なスピーカーを搭載した事より一般的な110フィルムカメラよりもボディサイズが大きくなったが、ラジオ付という事で市場は受け入れた模様である。
松下電器では、ポケットカメラの主要需要層である若い女性、高校生・大学生をターゲットに設定、1970年にラジオ生産工場として建設された福島工場で月産1万台ベース(販売当初)の生産が行われたと報じられている。


ナショナル・ラジカメのラジオ部  


35mmコンパクトカメラ「ナショナル チャンス」

松下電器は「ラジカメ」に続いて1983年に35mmコンパクトカメラ「ナショナル チャンスC700-AF」を発売して35mmレンズシャッターカメラ市場への参入を開始した。


ナショナル・チャンスC700AF


本体価格44.390円と普及型MF一眼レフに近い価格の当該カメラは、撮影枚数、フィルム感度、電池消耗度をコンパクトカメラとして初の液晶表示を行う等、「電器メーカーらしい」特徴を有し、更にはLSIセンサーによって内臓ストロボが自動的にポップアップされる機能も設けられ、このストロボのアップダウンに超小型モーターによる電動駆動を採用してカメラ他社を驚かせた経緯がある。
レンズは、山形工場(天童市)製のオリジナルブランド「ナショナルレンズ」を搭載、35mmF2.8のテッサーテイブレンズ(3群4枚構成)は「なかなか」の描写性能を有していた。


ナショナル チャンスの液晶表示部 

松下電器は、1985年にデート機能を搭載した「ナショナル チャンス・クオーツデートCD-700AFS」(50.000円)と普及型「ナショナル チャンス・ジュニアC-500AF」(29.700円)を発売してラインナップ拡大を図っている。
松下電器・山形工場は、ガラスモールドの非球面レンズをプレス生産する世界トップレベルのレンズ生産技術を有しており、球面収差・歪曲収差等のレンズ収差を複数レンズで補正する光学設計を不要とする非球面レンズを一貫生産する事が出来る。
現在では、光学各社への非球面レンズ供給ビジネスも活発化しており、このレンズ技術と液晶、LSI,超小型モーター技術を組み合わせたカメラが「ナショナル チャンス」であった。


ミラーレス一眼レフ市場をパナソニックが創生


2008年10月にパナソニックは、世界初ミラーレス一眼レフ「パナソニック・ルミックスDMC-G」を発売して注目を集めた。オリンパスと共にデジタル一眼レフのフォーサーズ規格をミラーレス一眼レフ向けに改良・変更を行いレンズ・フランジの短いレンズによりコンパクト性に優れたミラーレス一眼レフの製品化を実現している。コンパクト性とコストパフォーマンスに優れたマイクロフォーサーズ・ミラーレス一眼レフは、女性需要を中心に短期間に市場創生が行われた事は周知の通りである。


パナソニック・ルミックスGF1 2009年度グッドデザイン金賞受賞

パナソニックとオリンパスよるマイクロフォーサーズ・ミラーレス一眼レフ発売を契機に各社よりミラーレス一眼レフの新製品が次々と市場投入される状況に至った今日、ミラーレス一眼レフの立役者・パナソニックのカメラ事業の原点が数機種の「ナショナルカメラ」にある事はカメラ史からも忘れ去られている状況にある。
ピーク年に年間650万台のデジタルカメラを生産・販売したパナソニックのカメラ事業はスマートフォンカメラ機能の影響によるコンパクトタイプ・デジタルカメラの市場失速の影響を受けて2016年3月決算期で年間180万台への減少を余儀なくされているが、高付加価値のミラーレス一眼レフへのシフトにより「シェアを追わず、採算重視の徹底化」が図られている状況にある。

 
CP+カメラ展のパナソニックブース 
 
 
(終)