ウィトゲンシュタイン的日々

日常生活での出来事、登山・本などについての雑感。

名優、加藤武さんを偲んで ~池袋・新文芸坐~

2015-10-23 15:04:38 | 映画

去る7月31日、スポーツジムのサウナで倒れ、亡くなった加藤武(以下、敬称略)。
訃報を知った時は少なからずショックだった。
私にとって加藤武は、敬愛するなだいなだのエッセイに
小沢昭一やフランキー堺・仲谷昇らとともに悪童として登場する、麻布中学の同級生であり
石坂浩二の金田一耕助シリーズの映画で、名前を変えて登場する警察官でもあった。
そんな加藤武を偲んで、彼の出演した映画を10月17日から1週間
池袋の新文芸坐で上映すると知った時、まっ先に調べたのは
石坂浩二の金田一耕助シリーズが上映されるかどうかだった。
調べてみると、22日(木)に『獄門島』(1977)・『悪魔の手毬歌』(1977)が上映される。
私は中学生の時に、横溝正史の作品(小説)にかなりはまり込んでいた。
石坂浩二扮する金田一耕助シリーズの角川映画は、私が小学生の時に上映されており
リアルタイムで観たことはないのだが、その後テレビでかなり繰り返し放送されて
原作と映画の違いなどをつつくのがこれまた楽しみであったのだ。
これはなんとしても行かねばなるまいと、昨日、初回上映の9時45分より前
9時過ぎには新文芸坐に着くように、家を出たのだった。


最寄駅を出発して赤羽駅で埼京線に乗り換えたまでは順調だった。
ところが、私が乗っていた列車かほかの列車かは定かではないが
この日埼京線で急病人が出て、救護のために運行が滞ったらしく
池袋駅と新宿駅の間に、予定より多くの列車が停車しており
前の列車から順次発車しないと、乗っている列車は動かないというアナウンスがあった。
しかもそれが池袋駅の本当に目の前という所で停まってしまい、私をやきもきさせた。
もし、新文芸坐に長蛇の列ができていて、入れなかったらどうしよう。
2本立てだから、14時55分の回からしか観られなかったら
それまでどうやって時間を潰そう。
でも、その回から観たら、終演時刻は20時近くになっちゃうぞ。
そんなことが、列車が停まっている間グルグルと頭の中をめぐっていた。
しかし、そんな心配も必要はなかった。
ほどなく列車は動き、池袋駅に9時ちょっとすぎに到着。

新文芸坐の前には、「名優、加藤武さんを偲んで」の看板が出ていた。
3階の映画館フロアに上がると、既に10人ばかりの人が並んでいて
順次入場券を切って入館しているところだった。
その様子では、9時から入館が開始されたのではないかと思う。
まずは座席をキープ。
全体の座席配置と勾配を見て、ほぼど真ん中に着席。
上映時刻まで、館内をうろつく。

『獄門島』と『悪魔の手毬歌』の解説のほか
1996年11月上旬号の『キネマ旬報』での、加藤武のインタビューが貼り出されている。
そこには、「僕の警部はコメディ・リリーフでお客を安心させる役なんだよね」という
加藤武の言葉があった。
横溝正史の作品は、ちょっとおどろおどろしいというか、隠微な感じを醸し出している。
中国地方の山間の村や、瀬戸内海の得体の知れぬ島などが舞台になっていることが多く
閉ざされた村落の人間関係や因習などにがんじがらめにされた人々が
背負った罪業におののき、さらには自ら罪に手を染めていく。
そんななか、金田一耕助は最終的な謎解きはするものの
第2・第3の殺人事件を未然に防ぐことはできないところなどは
「よーし!わかった!」と早合点する、加藤武扮する警察官と大して変わらない。
むしろ、結局は起きてしまう第2・第3の殺人事件と金田一耕助の不甲斐なさに
観客はやるせない気持ちを持つところを、加藤武が『キネマ旬報』で語ったように
「よーし!わかった!」を毎度おなじみに連発し、粉薬を口から吹き出す警察官に
観客は安堵感というか、ちょっと一息つく感じがするのだろう。
この日も、加藤武扮する警察官が、「よーし!わかった!」というたびに
粉薬を口から吹き出して背広が真っ白になるたびに、場内からは笑いが漏れた。



加藤武さんの御冥福を、心よりお祈り申し上げます。



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