ウィトゲンシュタイン的日々

日常生活での出来事、登山・本などについての雑感。

古峰ヶ原~行者岳~地蔵岳~夕日岳

2011-10-28 23:55:39 | 登山(両毛・常総)

【10月27日(木)】
古峰原バス停→古峰ヶ原峠→行者岳山頂→大岩山山頂→唐梨子山山頂→龍の宿→ハガタテ平
→地蔵岳→三ツ目→夕日岳→三ツ目→地蔵岳→ハガタテ平→古峯神社→古峰原バス停



かねてから歩いてみたいと思っていた日光修験道の入峰修行の道のうち
華供峰と呼ばれる春峰・秋峰の両峰禅頂(りょうぶぜんじょう)の一部にあたる道を歩いてみた。
といっても、なんのこっちゃ?という方もいらっしゃるだろう。
修験道は、ごくごく簡単に言ってしまえば、山の大自然の中に身を投げ出し(まさに山伏)
大きな自然の宇宙(=曼荼羅)に小さな自己の宇宙(=曼荼羅)を同化させ
修行によって天地の陰(女性・胎内)・陽(男性)の和合によって父母が生じ
父母の和合によって行者自身が生ずることを象徴的に体感することによって
擬死再生(いったん死に、再び生まれる)を行う。
その先は長くなりそうなので割愛するが、山に入って修行すること(入峰)によって擬死再生し
日常のちょっとした行動がそのまま仏の行いになること(=即身即身)が目標である(と私は解する)。
というのは、一般的には即身成仏が目標だといわれているが
彦山派の理論書『修験道要秘決集』では、即身成仏には3種(即身成仏・即身即仏・即身即身)あり
一般の仏教では即身成仏・即身即仏を説くが、修験道は即身即身の立場であるというものだ。


どこがごくごく簡単に言っているのかわからなくなってしまったが
天応2(782)年に勝道上人が補陀落山(=二荒山=日光山=男体山)を開くと
以降、日光の山々を修行の場として、季節ごとに峰々を廻る修行が行われるようになった。
古峰ヶ原~行者岳~地蔵岳は「禅頂行者道」と呼ばれる、修行の道の一部なのだ。
5時56分最寄り駅発の宇都宮線に乗り、栗橋駅で6時22分発の東武日光線に乗り換え
新栃木駅で接続列車に乗り継ぎ、途中人が線路内に立ち入ったためにしばらく停車したものの
7時35分新鹿沼駅発のリーバス・古峰原線になんとか間に合った。

バスに揺られること約1時間(なんと400円)。
終点の古峰原バス停に到着。
バス停の標高は約670mで、周辺の紅葉は始まったばかりである。

古峯神社に向かう道には、飲食店兼土産物店が軒を連ねている。

古峯神社には、時間があったら帰りに寄ってみようと思いながら地図を広げていると
「1人?これからハイキング?」
と、土産物店から出てきたおかみさんらしき女性が声を掛けてきた。
この辺りのことならこっちの地図の方が詳しいと
『登山・ハイキングコースまっぷ』をくれて、いろいろと道について教えてくれたばかりか
「何時のバスで帰るの?帰りに寄ってよ。お茶ぐらい御馳走するから
と、言ってもらった。
バスの時刻は微妙ながら、15時50分発に乗れたら良いなという希望的観測もあり
おかみさんには15時50分発に乗る予定だと話した。

古峯神社を右に見ながら、アスファルト舗装の林道を登る。
歩く道すがら、この舗装道路は本当に必要なのだろうかと悩んでしまう

しばらく歩いて高度上げていくにしたがい、木々が色づきを深めていくのが実感できる。
この辺では、標高900m~1000mが見ごろなのではないだろうか。

歩くこと1時間20分で、古峰ヶ原峠に到着。
ここは容易に車で来られるので、ドライブで立ち寄る人や
ここを起点にハイキングに行く人など、3組・7名の人を見掛けた。
そういえば、2006年のことになるが
ここ古峰ヶ原の高原ヒュッテ(無人避難小屋)を宿泊利用していた夫婦が男に襲われ
妻が連れ去られるという事件が起こった。
それもこれも、ここまで御立派な舗装道路が通っており
車さえあれば何の労力もいらずに標高1144mの人気のない山中に来ることができ
さらにそこから歩いて5分とかからない場所に無人避難小屋があること自体が
被害者・加害者双方の観点からしても、事件発生の最大の要因であると感じた。
やはり、この林道は無用の長物だ。
そのまま林道を直進すると、すぐに右手に行者岳に入る未舗装の林道が分かれ、そちらへ進む。

私の足で10分とかからない所に、大天狗之大神の祠がある。
標識の指し示す細尾峠方面へと向かう。

ここからは快適な尾根道で、ほとんどの木の葉が前日の木枯らしで落ちてしまっているものの
なかにはハッとさせられるような、色鮮やかに葉が残っている木もあって、ひときわ目を引く

大天狗之大神から25分で行者平という、少し開けた気持ちの良い場所に出る。

行者平から10分で、行者岳の山頂に到着。
11時前だったが、これからの長丁場を考えると、ここで昼を食べることにして
インスタント味噌汁を作り、おにぎりをほおばり、20分ほど休憩した。

木の間越しに、日光方面を眺めると、男体山が見える。

こちらは足尾方面の眺めで、皇海山が独特の山容を呈している。
ここからしばらくは木の間越しの眺めを楽しみつつ歩くことが出来る。

行者岳から5分ほどの所にある大石の前に、金剛童子の祠があった。
山岳信仰の道なので、もっとこうしたものがあるかと思っていたのだが、意外と少ない。
見落としてしまったのかもしれない。

振り返れば、先ほど昼を食べた行者岳が見える。
このように、小さなピークを越えるアップダウンを繰り返しながら進む。

女峰山から赤薙山の稜線が見えてきた。

行者岳から30分で大岩山山頂に到着。
昭文社発行の『山と高原地図』13日光では、大岩岳と表記されているが、山頂標識は大岩山である。

ところどころに、今が盛りのカエデの紅葉を見ることが出来る。

こちらは見事な黄葉が、真っ青な空に映える。

大岩山から30分で、カラマツに囲まれた唐梨子山(からりこやま)山頂だ。

そのまま進むと、「竜の宿」と呼ばれる大石が現れる。

唐梨子山から20分で、広々としたハガタテ平に到着。
ここが思案のしどころで、夕日岳まで行くかこのまま古峯神社に下りるか、決断しなければならない。
このまま古峯神社に下れば15時50分発のバスに余裕で間に合う。
しかし、この時点で、コースタイムより1時間早く歩いていることと、天候に恵まれたこと
まだ体力的にも余裕があったため、17時15分発のバスに変更しても良いやという気持ちになり
夕日岳まで足を延ばすことに決めた。

ハガタテ平からは、地蔵岳への尾根を登る途中で、右手の山腹にトラバースし
そこからさらに尾根を上り詰めるのだが、この30分が大変長く感じられた。
恐らく、先の台風の影響なのか、1箇所だけ谷に落ちるように崩落箇所があり
トラロープが固定されているものの、そこから先の道も崩れがちで、神経を使ったためだろう。

地蔵岳の山頂手前には、地蔵の祠が安置されている。

地蔵岳を過ぎた頃から、あれだけ燦々と降り注いでいた日光に翳りが見えはじめ
少々冷たい風が吹きだして、これは参ったと思っていると、夕日岳の分岐に当たる三ツ目に着く。
向こうには、これから目指す夕日岳が見えている。
ここからいったん下り、中岩と呼ばれる露岩帯を通過し、一登りすると夕日岳山頂だ。

山頂に着いた時は、すっかり日も翳っていたが、バスも17時15分発で良いと思うと
完全にのんびりモードに突入し、紅茶を入れてパンをほおばり小休止

山頂の北側には、日光方面の大展望が開けているが、残念ながら男体山には雲がかかっている。

こちらは白根山方面の眺め。
既にこれらの標高の高い山は、すっかり木々の葉も落ちて、雪こそないものの冬の顔になっている。

夕日岳からは、地蔵岳を経由して再びハガタテ平に戻り、古峯神社へと下る。

最初はスギの植林帯で、枝払いをして間もないためか、たくさんの枝が落ちている。

5、6回ほど沢といっていいのかわからないほどの水の流れを渡る。
ほとんど問題のないものだが、そのうち1箇所は道が広がっていて、沢か道か不明瞭だ。
沢に突っ込んでいくようで、間違っているのではないかと思う方向の遠くの木の枝に
赤テープがぶら下がっているので、そちらに進む。

沢沿いの道を、水音を聞きながら歩くのは心地良いのだが
恐らく雨が降ったらここも沢になるだろうと思われる道は、洗掘とガレの混合路で
ねちょねちょぬるぬるとゴロゴロガラガラの繰り返しで、悪路といっても過言ではない
しばらくそのような状態が続くが、50分ほどで砂利道の林道になる。

この林道、上の写真は状態が良いのだが、かなりの距離において車の轍の部分がえぐられていて
これでは車などとてもではないが走れないような道だ。
そこに時折ぼろぼろに錆びたカーブミラーや徐行標識などが現れ、なんとも不気味である
夜中に誰が走るかと思われる林道から鳴り響くクラクション…
などと考えながら歩いていたためか、木の枝が肩に触れただけなのに大声を出してしまった

ハガタテ平を出てから1時間20分、16時20分に出発地点に戻ってきた。
気掛かりだったのは、朝声を掛けてくれた土産物店のおかみさんに
15時50分のバスで帰ると話したことで、まずはお店に行き、無事に下山したことを伝えたかった。
栄屋というその店に入ると、おかみさんではない女性が店番をしていて、朝の一件を話すと
おかみさんとその話題が出ていたらしくすぐにわかってくれて、お茶を飲んでいけと言う。
バスの発車時刻まで1時間近くあったため、神社を見てからまた寄りますと言って神社に向かった。

古峯神社は宿坊を兼ね備えたたいそう立派な神社で、奥には古峯園(こほうえん)という庭園がある。
信者のみならず訪れる観光客も多く、最近はバスツアーでも立ち寄るそうだが
実は行きも帰りも林道を歩きながら、フェンス越しに眺められたので、私としては十分である。

境内には、信者から奉納された石碑は数多く、大きな石造の天狗面などもある。

神社の鳥居脇にある、神社名が刻まれた石塔。

おやおや、どういうつながりがあるのかわからないが、吉田茂の字であったか。
ざっと境内を巡り、再び栄屋に戻ったところ、先ほどの店番の女性とおかみさんが迎えてくれて
お茶とお菓子をいただいたばかりか、おいしいこんにゃくの煮物まで御馳走になった。
これが実においしかったので、店に1つだけ残っていた鹿沼こんにゃくの袋を買い求めた。
おかみさんは、私が古峰ヶ原から夕日岳まで行ったことを驚いていて
朝、女性1人の山歩きだと知り、この山域には熊がいるので心配してくれていたそうだ。
丁重にお礼を言い、17時15分発のリーバスに乗ると、辺りは既に真っ暗になっていた。
新鹿沼駅でバスを降り、18時26分発の東武日光線に乗り、途中新栃木駅で接続列車に乗り継ぎ
栗橋駅で宇都宮線に乗り換え、19時35分に最寄り駅に到着。


歩行距離18km、累積標高差1355m(以上、山と渓谷社『新・分県登山ガイド8栃木県の山』による)の
長丁場の山行で、滅多にないことだが、さすがに最後の下りに入ると膝が痛くなったのであった
古峰ヶ原峠から山道に入り下山するまで誰一人として会わず、静かな山歩きが出来た。
ゴミは袋の切れ端が2つしか落ちていなかったし(「禅頂行者道」には一つも落ちていなかった)
「禅頂行者道」と呼ばれる信仰の道の状態が、この上なく良好だったことに驚いた。
鹿沼市の英断でバス路線が維持されており、しかもバス料金が安価なことも嬉しく
次回は、ツツジの花咲く頃に禅頂行者道を歩き、日光に抜けてみようと考えている。



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4 コメント

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いい山ですよね! (芝刈り爺さん)
2011-10-30 20:00:14
毎度楽しみにしています。
 あの悪徳林道には、腹も立ちますが、あの辺は
いい山です。(いいやまと打つと必ず飯山になる。よいやま≪良い山≫と打つのが美しい日本語?)
 そうですか日光に抜けるのもいいですね。修験道は興味があります。お勧めの本があったら、紹介してください。しかし女性の一人歩きは、私はぶっそうと思うこのごろです。
クマより人が怖い。奥秩父で昔、事件もあったし。お気をつけて下さい。
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私も一人は怖いです (ぴすけ)
2011-10-31 18:24:26
芝刈り爺さん、一人で歩きながら言うのもおかしいのですが、私も一人は怖いです
怖いですが、芝刈り爺さんがおっしゃるように人が怖いのだとすれば、街中の方が怖い人に遭う確立は格段に高くなりますが、一方人の目もあって、抑止力は高くなります。山とは種類が違いますが、街中には危険もいっぱいです。山では、人と遭う確立が低いため、怖い人に遭う確立も低い。ただ、遭った人が怖い人だった場合、抑止力が低いため餌食になる確率は格段に高くなります。ということで、どっちもどっちかなと考えています。
それでもやはり怖い。芝刈り爺さんが隠居して、名実共に爺さんになったら(
くっついて歩こうかな

「いいやま」と打つと「飯山」と変換するのは、変換モードが一般モードのためで、話し言葉モードに設定すれば、「いい」「やま」と別々に変換するので、「いい山」となりますよ。
それに、「良い山」はたいていの人は「
いいやま」と読みますから、「いい山」でもいいんじゃないでしょうか

公共交通機関を利用した登山の良い点は、ピストンや周回ルートにしなくても、交通機関さえあればどこにでも抜けられることです。尾根伝いに歩く…、峠を越える…、まだ行ったことのない向こうの集落へ下りる…。わくわくします
鹿沼・足尾・日光のトライアングル地帯は、バス路線がまだ残っているので、ルート選択に柔軟性が出て、なかなか面白いですね。
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参考になります。 (can)
2012-06-01 13:27:48
明日古峰ヶ原を歩きます。”古峰”という言葉の響きが気になったので、探していたらこのブログに遭遇しました。明日古い昔の思いをはせ、歩いてきます。修験道地のトレースを求めて。
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良き山行を! (ぴすけ)
2012-06-01 17:37:08
canさん、ようこそおいでくださいました。
明日の山行が、良きものとなるよう、お祈りしております。
お気をつけて
canさんは、山岳信仰や修験道に御興味がおありですか?
日光修験は、かってあまりにも厳しい山岳修行のため、廃れてしまったと言われているほどですが、往事を偲んで歩く道からは、山々の威力をひしひしと感じられることと思います
もし、修験道に御興味がおありなら、秩父・両神山もお勧めの山ですよ
現在でも丁目石や石仏・石碑が、大変良い保存状態で登山道脇に並んでいますので、もしまだ登っていらっしゃらないなら、面白い登山が出来るかと思います。
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