道草あつめ

日常思いついた由無し事を、気ままに拾い集めています。

メンデルスゾーン「オルガン・ソナタ第6番」

2010-11-13 22:46:51 | 音楽
今度の演奏会では、メンデルスゾーンのオルガン・ソナタ第6番を弾くことにした。
普段バッハのフーガばかり弾いている私にしては珍しいのだが、理由は至って簡単で、今回他の出演者の演奏する曲がバッハばかりだからだ(3年前の演奏会で、当時駒場に勤めていた守衛さんに「バッカ(Bach)ばっかり」と言われたのも、今となっては懐かしい。翌々年に、学部が警備業者を換えたため、あの守衛さんと顔を合わせることもなくなった)。
おかげで、慣れない和音と指遣いに苦しんでいるのだが、その上、諸事情があって、これから本番まで駒場のオルガンを触ることができず、専らピアノで練習する他無い。しかも、提出しなければならない論文の締切が迫っているのだから、それもできるかアヤシイ。今から本番を迎えるのがオソロシイ。


プロの演奏


この曲は、大きく分けて3部構成となっており、それぞれ、コラール変奏曲・フーガ・終曲(フィナーレ)である。
第一部は、コラール「Vater unser im Himmelreich(天にまします我らが父よ)」の主題に基づく変奏曲で、更にコラール呈示・第1~4変奏の5つの小部に分かれる。荘厳なコラール呈示、内声部が動き回る第1変奏、足鍵盤が3連符を刻む第2変奏、コラール主題が中低音で渋く単旋律をうならせる第3変奏、激しい分散和音の中で各声部が主題を引き継いでいく第4変奏、と、主題は全く変わらないのに様々な曲調を展開するのだから、実に面白い。
第二部のフーガは、コラール旋律の一部分を取り出し、それに少し加工を加えた旋律を主題とし、それが4声のフーガを織り成す。古典的な旋律・技法にロマン的な和声・展開とが自然に馴染みあい、晩年(というには余りに若過ぎるが)のメンデルスゾーンの円熟を感じさせられる。
第三部は、コラール主題とは関係ない旋律だが、静かな雰囲気を持つ優美な曲で、ソナタ全体を静かに締めくくる。メンデルスゾーンのセンスと性格の良さが伝わってくる作品である(私のように、演奏者のセンスと性格が悪い場合はどうなるのだろうか)。


ところで、「オルガン・ソナタ」と銘打っているが、この曲の構成は、全くソナタらしくない。
そこで、試みに『音楽辞典(楽語)』(堀内敬三・野村良雄等編、音楽之友社、1954年9月)を引いてみると、以下のような内容が示されている。
ソナタとは、17世紀初頭には単に器楽曲の一般名称だったのだが、時代を追うごとに意味を変えて行き、18世紀以降は、第一楽章にソナタ形式を置く多楽章の組曲で、舞踏の観念を排除したもの、というような意味となった。
では、「ソナタ形式」とは何ぞや、と言うと、「基本の形は、第一部(主題呈示部),第二部(主題展開部),第三部(主題再現部)からなる三部形式の発展したものと考えられる」が、これに導入部や終始部を加えて四部構成にしたり、第二部を省いて二部構成にしたりするという。
このメンデルスゾーンの「オルガン・ソナタ」は、どう引っ繰り返して眺めて見ても、そのようなソナタ形式は見られず、従ってソナタとは謂えない代物である。

それでは、何故そんなものを「ソナタ」と銘打ったのだろうか。
理由はよく分からない。少なくとも、無学な私は、定説と呼べる解釈を聞いたことがない。

邪推するに、
メンデルスゾーンのオルガン・ソナタは、当時懇意にしているイギリスの出版社からの委託で作曲されたものだったのだが、
その出版社から当初「オルガンソナタを出版したいのでお願いします」と頼まれていたために、全然ソナタでも何でもないものを作ってしまった後で、題名だけ「ソナタ」にして入稿したのかもしれない。
この推理、如何であろうか。

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