half moon bay

酒と釣りの友 天国の mさんヘ

夜来香

2009-07-15 11:36:51 | 西海岸
世の中には特別な才能をもった人がたまにいるが彼女はまさにその一人だった。

1980年前半にシスコにいた僕は日本人町にある「人生宿」というピアノ・バーによく通ったものだ。年配のマスターがいてこの人が経営者である。歳若いかわいらしい奥さんがピアノを弾いて客の伴奏をしてくれる。カラオケとは違いキーがはずれても変調自由自在で、速くなろうが遅くなろうが歌い手に合わせてくれるので当時の駐在員のたまり場であった。

ずいぶん昔のことなので100%の自信はないが確か名前は「さなえさん」と呼んでいたと思う。日本のちゃんとした音楽学校で声楽を学んだだけあって、たまにリクエストに応じて本格的な歌曲を披露することもあった。

通っている内にすぐ気づくのだが、新たなお客さんがドアをあけて入ってくると歓迎の歌で迎えてくれる。「よーこそ ここへ クッククックー ○○××さん」とお客さんの名前を歌の中に挿入して歌うのだ。

あるとき隣に座ったので聞いてみた。「どのようにして名前を覚えるの?」

「どうしてかしら。私一度聞いた名前はけっして忘れないの。」

まさかそんなことがあるはずはない。最初は冗談かと思った。
そのうち見慣れない顔のお客さんがカウンターの隣に座ったので何気なく会話をすることになった。

「たまに来られるのですか?」

「一年に一度寄港したときに必ず寄ります。」船乗りさんだ。

「この店がお気に入りなんですね。」

「ええ。いつ来てもドアをあけた瞬間、名前を呼んでくれるんです。めったに来ないのに覚えていてくれるんです。嬉しいですね。」

大変な努力をしているようにも見えない。ただものすごい才能だ。
今ごろどこで何をしているのだろう。その後の彼女を知っている人がいたら教えてほしいものだ。どんな歌も上手だったけれど彼女の歌う「夜来香 イェライシャン」が僕の一番のお気に入りだった。





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