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東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

第3回の「大学入試のあり方に関する検討会議」の様子

2020年02月23日 | こども危機
 ◆ 大学入試の未来はどうなるのか
   ―第3回検討会議の内容と委員の腹積もり―
(ハーバー・ビジネス・オンライン)
<取材・文/清史弘>

 ◆ 会議の概要
 検討会議 2020年2月13日に第3回の「大学入試のあり方に関する検討会議」が開かれました。第2回が開かれた2月7日から6日後の開催ですが、これはこれまでの文科省の会議では極めて珍しく短期間での開催です。なお、検討会議の参加者については、第1回目の会議に関する記事で紹介しましたが、このうち荒瀬委員、清水委員、牧田委員の3名が欠席しました。
 さて、今回は団体代表からの意見を聞く会であったようです。この検討会議には7名の団体代表が参加していますが、前回発表した牧田和樹委員((一社)全国高等学校PTA連合会)と小林弘祐委員(日本私立大学協会入試委員会委員長・北里研究所理事長)を除く5名の委員が資料を交えながら意見を発表しました。
 会議は次のように進行しました。
・萩原聡委員(全国高等学校長協会会長、都立西高校長):10分
・吉田晋委員(日本私立中学高等学校連合会会長、富士見丘学園理事長):20分

・質疑応答:10分

・岡正朗委員(国立大学協会入試委員会委員長、山口大学長):15分
・柴田洋三郎委員(公立大学協会指名理事、福岡県立大理事長):10分
・芝井敬司委員(日本私立大学連盟常務理事、関西大学長):10分

・質疑応答:40分
 ◆ 会議は民間試験の話が中心、記述式についても討論された
 今回の会議のテーマの中心は英語の4技能(読む・聞く・書く・話す)を測るために導入しようとした民間試験のこれまでの経緯と数学と国語の記述式についてです。
 英語の4技能に関しては、それらをどのようなバランスで扱うかには細かな意見の違いはあるものの、概ね4技能は必要であることについては一致しています。
 それを民間試験で測るかどうかがこの会議の中心的な話題です。
 また、記述式に関する議論も時間をかけて行われました。

 細部の説明の前に特徴的なやりとりを抜き出して説明しておきましょう。まず、20分にわたり意見を述べた吉田委員の話を紹介します。
 これまでの入試改革からのメンバーであった吉田委員のロジックはつぎのようなものです。(吉田委員の気持ちを私が想像で補った部分もあります)
・英語の力を測るためには、4技能の試験が絶対に必要である
・自分(吉田委員)は、高2でも受験可能としたかったが、早期の受験対策を始める懸念などから否定された。これ以外にも途中から自分の考えていた方向が否定され、考えと違う方向に進んでいった。
・その結果、民間試験は延期になった。途中から自分の考えと違う方向に進んでいって頓挫してしまったので、不満が残る。
・数学と国語の記述式についても、大学側が採点を拒否したから、民間に委託する流れになってしまった
 もう一つ注目しておきたい発言は、国大協(国立大学協会)の岡委員からの、「国大協としては一貫して4技能は必要という認識であったが、民間試験で測ることは疑問をもっていた」というものです。
 このことについて、「あれ?」と思う方もいらっしゃると思いますので少し説明を加えます。
 【1】国大協は2017年6月14日の「高大接続改革の進捗状況について」に対する意見を出した段階では民間試験には慎重という姿勢でした。(「現時点での共通テストの英語試験の廃止の可否を判断することは拙速と言わざるを得ない」同意見書より)
 【2】その後の「国立大学協会の方針」(2017年11月10日)を出したときには、急に民間試験を利用すべきという立場に変更されました。(「国立大学としては、新テストの枠組みにおける5教科7科目の位置づけとして認定試験(民間試験のこと)を『一般選抜』の全受験生に課すとともに、2023年度までは、センターの新テストにおいて実施される英語試験を併せて課すこととし、それらの結果を入学者選抜に活用する」同方針書より)
 この決定は、2019年11月1日の萩生田大臣による民間試験利用の延期発表まで効力がありました。したがって、一貫して民間試験に反対していたことは事実と反します
 また、民間試験を利用する立場であった吉田委員からすれば、途中から急に民間試験を使うと言い出したことに対して態度が一貫していないという指摘が出され、これに対して岡委員は、話題を変えて答えていませんでした。
 後半の自由討論では、主に(末富委員、両角委員)vs(団体代表)といったやり取り(必ずしも対立構造ではない)が中心でした。
 両角委員からは、「条件つき記述式(論述ではなく制限された記述式の意味)で能力が測れるのか」という質問があり、これについては否定的な意見が多く出されました。
 末富委員からは、「民間試験と学習指導要領の整合性」について再度の質問がありました。「再度」というのは、これまでにも何度か同じ質問をしているのですが、文科省側が回答を保留しているからです。
 この他に萩生田大臣と渡部委員の発言があり、他の委員の発言はありませんでした。


 ◆ 各委員の発言の要旨はこれだ
 それでは、団体代表の各委員の発言の内容の要点を紹介しましょう。

 ○ 萩原委員:高等学校の立場から
 「大学入学共通テストにおいて、英語民間検定試験を利用することは地域格差・経済格差の問題、公正・公平性など様々な不安を感じており、見直しを要望してきた。4技能の評価が必要ならば、各大学もしくは大学入試センターで実施すべきである」との発言がありました。
 また、検定試験で英語力が上がるのかと疑問を投げかけ、都立西高校での取組を紹介し、さらに、都道府県により取組に温度差がある実情を述べました。
 ○ 吉田委員:私立高等学校の立場から
 これまでの文科省の様々な文書を抜粋し、40ページ以上にわたる資料でこれまでの検討の経緯について確認をしました。
 「2013年の教育再生実行会議第四次提言で1点刻みの入試からの脱却など理念が掲げられ、その後の2017年の生徒の英語力向上推進プランでオリンピックに合わせた2020年にゴールが設定された。記述式に問題が生じるきっかけとなったのは、2017年の実施方針作成にあたって大学で採点を行う案を大学側が拒否し、センターが採点することになったからだ。また、英語民間試験については、早期から検定試験対策に追われるとの懸念に配慮したため、高3の4月から12月の間に2回までという制限をつけたことが問題である。これまで決まったことに合わせて頑張ってきた教師や生徒たちが大変気の毒であり、新学習指導要領実施時に合わせた導入に向けて検討したい」との発言がありました。
 ○ 岡委員:国立大学の立場から
 「入試は本来アドミッションポリシーに基づいて各大学が選抜するものである。これまでにいろいろな課題があることを指摘し、具体的な内容と方法を示すように求めてきた。英語の4技能評価は重要であると考えるものの、スピーキングテストを実施することは非常にハードルが高い。記述式については既に個別試験で課している」といった発言でした。
 ○ 柴田委員:公立大学の立場から
 「同じ公立大学でも様々な意見があり、必ずしも一枚岩ではない。多くの大学では個別試験で記述式を実施している。共通テストで記述式を導入したことは画期的だったと考える。英語の成績提供システムは大きなメリットがあったので、4年後にぜひ導入してほしい」といった発言でした。
 ○ 芝井委員:私立大学の立場から
 「改革の理念に対しては理解を示したい。大学生のうち78%は私立大学に通うが、センターを利用した入学者は定員のごく一部であり、非常に少ない。小論文や調査書など多様な背景を評価しており、各大学の判断でセンターを利用しているので一律ではない。検定試験の活用も私大の方が進んでいる。2年前周知のルールが破られたことは受験生に対する大きな罪である。矛盾のない制度設計をしてほしい」といった発言でした。
 ◆ 定員管理や条件付き記述式について

 この発表に対する質疑応答・意見の主な内容は以下の通りでした。

 1.定員管理の厳格化の中で段階別評価は使えるのか(末冨委員)という質問に対しては、可能であるとの回答(岡委員、柴田委員)や定員管理の厳格化がおかしいという意見(芝井委員)でした。
 2.条件付き記述式で能力が測れると思っていたか(両角委員)という質問に対しては、否定的な意見(芝井委員、柴田委員、岡委員)ばかりでした。
 3.民間試験と学習指導要領との整合性の確認方法への質問(末冨委員)に対しては、事務局より後日説明するための準備をしているとの回答がありました。
 4.萩生田文科大臣は英語民間試験について、4月から12月の間に複数回選べないような試験があるなど、制度上問題があることは否めなかったと述べられました。
 この会議では、英語の民間試験、数学と国語の記述式についてはまだ入り口にたどり着いた段階ですが、確実に前に進めてくださる委員もいるようですので今後の動きにも注目していきましょう。
 次回の会議は2月28日に開かれます。

 ※ 清史弘 せいふみひろ●Twitter ID:@f_sei。
数学教育研究所代表取締役・認定NPO法人数理の翼顧問・予備校講師・作曲家。小学校、中学校、高校、大学、塾、予備校で教壇に立った経験をもつ数学教育の研究者。著書は30冊以上に及ぶ受験参考書と数学小説「数学の幸せ物語(前編・後編)」(現代数学社) 、数学雑誌「数学の翼」(数学教育研究所) 等。 
『ハーバー・ビジネス・オンライン』(2020.02.19)
https://hbol.jp/213287?cx_clicks_art_mdl=6_title
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