令和6年(行ウ)第62号 行政文書処分取消等請求事件(第1事件)
令和6年(行ウ)第63号保有個人情報不開示処分取消等請求事件(第2事件)
◎ 甲A87 意見書(早川和宏)骨子
2025年7月29日
東京地方裁判所民事第38部B2係 御中
第1事件及び第2事件原告ら訴訟代理人
弁護士 南 典 男
公文書管理法の研究者として著名な早川和宏教授の作成した意見書(甲A87)を証拠として提出しました。63頁に及ぶ意見書です。その骨子についてご紹介します。
第1に、本意見書は、公文書管理法の立法経緯、その目的、同法の求める行政文書の作成・整理・保存について詳細に述べています。
公文書管理法が制定されたのは、行政機関情報公開法が施行された後も、C型肝炎資料の放置(厚生労働省)、保存期間終了前の文書の誤破棄、所在不明、管理簿への記載漏れ(防衛省)、約5000万件の年金記録が基礎年金番号に未統合(総務省)などの不適正な行政文書管理事案が発生したためです。
そもそもあるべき行政文書がなかったり、その所在が明確でない状態では、情報公開法は機能しません。行政文書の管理が適正に行われることが不可欠であり、情報公開法と公文書管理法は車の両輪です。
また、公文書管理法により管理される行政文書は、行政機関個人情報保護法の定める保有個人情報の開示請求の対象でもあるので、個人情報保護法と公文書管理法も車の両輪です。情報公開法及び個人情報保護法が機能するための根幹が公文書管理法を遵守することです。
とりわけ、公文書管理法4条柱書の定めた文書主義の原則すなわち「当該行政機関における経緯も含めた意思決定に至る過程…を合理的に跡付け、又は検証することができるよう、…文書を作成しなければならない」ことの重要性を、森友学園案件に係る決裁文書の改ざんなどの例に言及し強く訴えています。
第2に、本意見書は、菅内閣総理大臣(当時)が、日本学術会議が会員候補者として推薦した105名の科学者のうち、6名を除外して会員を任命した行為に係る行政文書に関し、6人を任命しないという意思決定に至る過程を検証することのできる行政文書が存在するはずであり、行政文書不存在を理由とした不開示決定は違法だとし、その根拠を詳述しています。
まず、開示された決裁文書(甲A60)には、6人を任命しないという意思決定に至る過程がまったく記されておらず、文書主義の原則に反します。
また、被告国は、
①菅内閣総理大臣が、加藤官房長官及び杉田副長官に、日本学術会議会員の選任方法の在り方に関する懸念を伝え、
②それを受けて、杉田副長官から菅内閣総理大臣に対し、99人を任命することとして第2事件原告ら6名を外す旨相談があり、
③菅内閣総理大臣において、その内容を了承することを直接判断し、
④その内容が、副長官を通じて内閣府に伝えられ、決裁した
と主張していますが、以上の①~④を基礎づける行政文書は何ら開示されておらず、文書が何もないとすれば文書主義の原則に反します。
さらに、杉田氏が内閣官房副長官としての総合調整事務の結果を、内閣総務官や内閣官房副長官補をはじめとする事務方の関与がないまま、独断で、文書化することもなく内閣府に伝える(④)ということが、内閣官房副長官の職務遂行の在り方としてあり得るのかとも指摘しています。
そして、公文書管理法4条の文書主義の原則からみて、本件任命拒否に関しては、甲A60以外にも何らかの行政文書が作成・取得されていたはずであり、そのような行政文書が存在することが「自然かつ合理的」であると論じています。
加えて、本件において作成又は取得した行政文書は、「重要又は異例な事項に関する情報を含む場合」に該当することは明らかですから、「1年以上の保存期間の設定」をしなければならず、文書が保存されていることが「自然かつ合理的」であるとも論じています。
したがって、6名を除外して会員を任命した行為について、その意思決定過程を示す行政文書が不存在であるとすることは、公文書管理法、行政機関情報公開法、行政機関個人情報保護法、国家賠償法との関係において違法であると結論付けています。
また、本件において、公文書管理法上作成すべきと解される行政文書を作成しないこと、内容的に不十分な行政文書しか作成しないこと、保存期間を誤って行政文書を廃棄することは、国家賠償法との関係において違法であると結論付けています。
弁護団としては、本意見書を踏まえた主張を補充する予定です。貴裁判所におかれても本意見書を熟読して頂くことをお願い致します。
以上
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