日々雑記

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石川達三の公判記録 言論の自由のない時代の恐ろしさ

2013-07-30 12:15:39 | 日記

昨日の朝日新聞夕刊に石川達三のことが載っていました。公判記録を、親族が秋田市の記念室に寄贈するという記事です。

石川達三の作品は最近あまり読まれていないので、若い方はあまり知らないかもしれません。戦前の芥川賞作家であり、戦後も「人間の壁」「金環食」などのベストセラーを書いた社会派の小説家です。

石川の作品に「生きている兵隊」というのがあります。朝日にはこうあります。

 社会派作家として知られた達三は、30歳だった35年、「蒼氓(そうぼう)」で第1回芥川賞を受賞。中央公論社の特派員として、37年12月下旬から翌年1月まで上海や南京に行き、日本兵の話を聞いた。取材を元に、略奪、放火、女性の殺害や、いのちに鈍感になっていく日本兵の様子を小説で描いた。

 〈他の兵も各々(おのおの)……まくった〉などと、編集部によって意味が通らないほど伏せ字にされて「中央公論」38年3月号に掲載されたが、発売前日、発禁に。後にこの小説を削除して雑誌は発売されたが、達三と、編集長・雨宮庸蔵、発行人・牧野武夫の3人が、当時の新聞紙法違反の罪で起訴された。

朝日新聞の記事は裁判の調書を紹介する。

 調書からは、中央公論社側が「寛大なる判決」を求め、達三は無罪を主張したことがわかる。判事に「反戦思想を抱いているのではないか」と問われ、達三は「絶対にありません」と答えた。報道が真実を伝えないため国民がのんきにしていることが不満で、非常時を認識させたかった、と述べ、「国民が出征兵を神の如(ごと)くに考えているのが間違いでもっと本当の人間の姿を見」せた上で信頼を築かねば駄目だと考えた、と意図を説明した。

 しかし、八田卯一郎判事は「皇軍兵士の非戦闘員の殺戮(さつりく)、略奪、軍紀弛緩(しかん)の状況を記述し」「安寧秩序を紊乱(ぶんらん)する」事項を載せたとして、達三と編集長に禁錮4カ月執行猶予3年、発行人に罰金100円の判決を言い渡した。

戦争中の言論弾圧の実態が生々しく出ています。

石川達三は丁度南京占領の時期に南京に行き、南京事件の部隊を目の当たりにしてきているのです。日本兵が中国人に対し、略奪、暴行、殺りくを行った事実をみて、その一部を作品にしたのです。それなのに裁判で「反戦思想のために書いたのではない」、軍に対する「信頼を築く」ために書いたと主張しているのです。ここには裁判の場では、自分の思想さえ偽らなければならない現実があります。

一方出版社は、「意味が通らないほど伏字に」してかろうじて出版しようと努力する態度が見られます。それにもかかわらず有罪になりました。

これが言論の自由がなかった時代の実態です。

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