荻野洋一 映画等覚書ブログ

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『ターザン:REBORN』 デヴィッド・イェーツ

2016-08-18 11:06:04 | 映画
 無条件にすばらしい映画というものが現存するという事実に私たちは日々驚かされてきたのだから、どんな映画作品にもその功罪を問いたいとは思わないが、しかし日常的に「あそこはともかく、ここはそれほど良くはない」などと偉そうに言いたくなってしまう。
 『ハリー・ポッター』シリーズの後期作品群——『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』(2007)、『ハリー・ポッターと謎のプリンス』(2009)、『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART 1』(2010)、『同 PART 2』(2011)——はまったく見ていないから、それらを手がけたリヴァプール出身のイギリス人監督デヴィッド・イェーツがどういう映画を撮る人なのか見当もつかぬまま、彼の最新作『ターザン:REBORN』を見ることになった。
 この作品の「功」の部分から言うなら、主人公ターザン(アレクサンダー・スカルスガルド)とその妻ジェーン(マーゴット・ロビー)の強烈なアフリカ愛だ。こんな理想郷を共有する夫婦を、羨まぬ人はいまい。ターザンはアフリカで孤児となり、ジャングルでゴリラに育てられたが、もともとはイギリス貴族クレイトン家の跡取りなのであり、本作の冒頭、アフリカでの冒険を終えた夫妻は、ロンドンの邸宅で退屈している。だから、ベルギー王室による西アフリカ・コンゴの支配の実態調査を依頼されてからのターザン夫妻の「命の洗濯」ぶりは微笑ましく映る。特に、百獣の王たる夫と共にコンゴに戻った妻ジェーンの喜びようがいい。灼熱の日光に当たっても、抜けるような白い肌がびくともしないのだから、現地の村人たちが彼女に一目置くのも当然だ。
 しかしながら、この映画の「罪」の部分、と言うべきか、本作を見た人なら誰もが疑問に思ったことだろうが、この映画の善玉をみずから任じるイギリスに、ベルギー王室によるコンゴ圧政を叱責する資格が、あまつさえアフリカの救世主を気取る資格があるのか、という問題である。ターザンの時代、大英帝国ほど大がかりに、アフリカおよび中東、インド、中国などを自分たちの都合のいいように支配した国はない。彼らにベルギーをたしなめる資格はない。その点でこれはプロパガンダ映画以前の作品ということになる。


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