荻野洋一 映画等覚書ブログ

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『ピクセル』 クリス・コロンバス

2015-09-14 02:35:38 | 映画
 日本の観客にとって、なんとも複雑な心境にさせられる作品である。ソニー・ピクチャーズ製作だから自作自演の気味はあるが、20世紀後半に繁栄を謳歌した日本文明への讃歌であり、と同時に挽歌でもある。ロー・ティーンの主人公たちが住むアメリカの地方都市にゲームセンターが開店するところが発端となり、30年あまり経過し、彼らはそれぞれ長じて出世したり、うだつが上がらずにいたりする。
 1980年代という、現代文明が最後に明るかった時代へのノスタルジーが、本作にはたっぷりと盛りこまれる。「ギャラガ」「パックマン」「ドンキーコング」「Qバート」「スペースインベーダー」などの日本発アーケードゲームとの決着が本作の主題となる。アーケードゲームの世界大会が1980年代初頭のアメリカのどこかの街で開催され、NASAは地球外生命体にむけて、その大会の記録映像をSF愛に裏打ちされた友好の証しとして送った。ところが、これが宣戦布告と曲解されて、30年後にゲームキャラによる地球侵略がはじまる、という内容である。宇宙にむけたNASAのメッセージが地球外生命体に曲解されるというストーリーは、『スター・トレック』のロバート・ワイズによる最初の映画化(1979)におけるボイジャーを思い出させる。考えてみれば、ロバート・ワイズが『スター・トレック』をやっているということじたい、ヘンテコなことだった。だって彼は『ウエスト・サイド物語 』『サウンド・オブ・ミュージック』の監督ですよ。浮かれた時代だったのだろう。
 大会のスポンサーは任天堂、コナミ、ナムコといった日本企業ばかりであり、劇中を彩る楽曲は『サレンダー』のチープ・トリックにしろ、『ウィ・ウィル・ロック・ユー』のクイーンにしろ(正確にはこれらは80年代ではなく70年代後半なのだが、細かいことは言うまい)、もともと日本で最初に人気に火が点いて、世界へ逆輸出されていったロックバンドである。アメリカ大統領も、イギリスの女性首相もみな、元はゲーマーである。日本的ポップカルチャーが世界のデファクトスタンダードだった時代が確かにあったということだろう。アダム・サンドラーらが演じる元オタクの中年たち(サンドラーは本作の企画・製作も兼ねている)が本作で侵略者退治に武勲をあげ、復権を遂げれば遂げるほど、ひどくこそばゆいほうへ傾斜していった。ダリル・ホール&ジョン・オーツが地球外生命体によるハッキングのネタに利用され、さらにそれをコチコチ頭の反動的防衛官僚がめずらしくちゃんと言及するという描写があり、これには監督のクリス・コロンバスの悪意がこめられているだろう。
 米大陸の発見者として名高い航海士と同じという、人を食った名前をもつ映画監督だとむかしから思っていたが、大して面白くはなくても、こうして健在をアピールしてくれるのはうれしいことである。本作を見て帰宅後、ウン十年ぶり(それこそロー・ティーン以来だ)にチープ・トリックの、70年代日本ギャルの熱狂渦巻く名盤『at 武道館』(1979)を聴いたのは言うまでもない。♪マミゾーライ、ダディゾーライ…という奴です。


9/12(土)より丸の内ピカデリー(東京・有楽町マリオン)他全国で公開
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