荻野洋一 映画等覚書ブログ

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『サンブンノイチ』 品川ヒロシ

2014-04-22 23:23:16 | 映画
 世の中には、伊藤俊也の『ロストクライム 閃光』であるとか角川春樹の『笑う警官』のような、なぜこんなものが作られてしまったのか見当もつかない、おそろしく無惨なる愚作というものが厳然と存在してしまうから、一人前の映画ファンの定義のひとつに、少々の駄作、凡作を見たくらいでうろたえたり、金を返せなどとヒステリーを起こしたりしない耐性を身につけた者たち、ということがあるのではないか。そして、その伝で言うなら『サンブンノイチ』は大丈夫なのではないか。
 金庫破り、銀行強盗の映画と聞いて、映画をまともに見てきた人なら、前田陽一の『三億円をつかまえろ』(1975)くらいのレベルのものを期待する権利はある。ところが驚くべきことに、『サンブンノイチ』では金庫破りも銀行強盗も描かれていないのである。いや、申し訳程度に描かれていたような気もするが、正直もう憶えていないというレベルである。
 犯人三人組のアジトであるキャバクラの店内で、三人組──藤原竜也、小杉竜一、田中聖──が札束の分け前をめぐって化かし合いをする。そして、このズッコケトリオ結成のいきさつがフラッシュバックされる。それがどうやらこの映画の本筋らしい。「人生の一発逆転をかけた大バクチ」などというふれ込みで藤原竜也が登場すると、『カイジ』『カイジ2』の続きを見ているかのような既視感がある。
 「窪塚洋介演じるイカれたヤクザが突然シネフィル批判を始めたところでマジでドン引き」とgojoさんが書いているが、まったく異存なしである。作者の感覚はずれてる。
 珍しく川崎の風俗街・堀ノ内がメイン舞台になっていて、猥雑な空間にスポットが当たることがどんどん減っているから興味津々だったが、あまり街の空気が伝わってこなくてもったいない。


角川シネマ新宿(東京・新宿文化ビル)ほか全国公開
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