荻野洋一 映画等覚書ブログ

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モウリーニョの敗戦

2011-12-12 18:30:31 | サッカー
 「絶好調のレアル・マドリーより不調のバルサの方が優れている」という厳然たる現実を目の当たりにしたのが、今回のクラシコだった。マドリーのジョゼ・モウリーニョ監督は「相手のゴールは運がよかった」と記者会見で語ったことがYAHOO! JAPANニュースで見出しとなっていたけれど、「より強い方が勝った」というのがマドリーびいきで知られる現地紙「as」の(やや自虐的な)見出しである。いずれにせよ、モウリーニョのこれまでの不敵な傲慢さは完全に消えてしまった。

 バスク地方ビルバオに来ている。クラシコの流れで、翌日におこなわれる、マルセロ・ビエルサ率いるアスレティック・ビルバオvsラシン・サンタンデールという渋めのカードも現地実況で放送しようというプラン。昼食も夕食もバスク料理をいただいたが、はやりマドリーよりこっちの方が味覚のレベルが上という気がする。

 解説をつとめた岡田武史さんは、「モウリーニョのことが心配だ」とこぼした。バルサが日本でのクラブW杯出場に伴ってリーガ1試合を早く消化していることを考えると、マドリーは次節で勝てば首位に返り咲ける。シーズンの勘定からいえば、今回のクラシコ敗戦は深刻な問題ではない。
 でも、この1敗は大きい。「モウリーニョも48才か。まだいけるよ。まだ出直せる。死んじゃいかん」と岡田さん。私のような凡人よりもはるかにレアル・マドリーの敗戦を、岡田さんは、モウリーニョの人生とからめてシリアスに捉えているようだった。それは《監督》という職業をなりわいとしてきた人間にしかわからない孤高さの中からあぶり出された精神的な「この1敗」の噛みしめ方なのだろうと思う。
 私も、ポルト、チェルシー、インテルと怒濤のような成功を収めてきたモウリーニョの監督人生をざっと思い出してみた。大言壮語で世間を動揺させ、みずからもプレッシャーの中に身を置いてきた彼にとっては、たしかに今回の1敗は、成功神話の終焉、価値観の喪失を引き起こしうる1敗であるようにも思えてきた。