荻野洋一 映画等覚書ブログ

http://blog.goo.ne.jp/oginoyoichi

『第三世代』 ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー

2011-12-06 23:58:32 | 映画
 東京日仏学院の特集《鉛の時代 映画のテロリズム》にて、ライナー・ヴェルナー・ファスビンダーの『第三世代』(1979)。

 この映画作家の晩年における奔流のごとき傑作の連打は、いったいどういうことなのか(晩年といっても37年間しか生きていないが)。1978年: 『秋のドイツ』『マリア・ブラウンの結婚』『13回の新月のある年に』。1979年: 『第三世代』。1980年: 連作『ベルリン・アレクサンダー広場』『リリー・マルレーン』。1981年: 『ローラ』。そしてその年の5月に急死した1982年: 『ベロニカ・フォスのあこがれ』『ファスビンダーのケレル』。わずか27才で『ペトラ・フォン・カントの苦い涙』『ブレーメンの自由』(ともに1972)といった成熟しきった作品を生み出したかと思えば、晩年では『第三世代』のように、一見稚拙とも解せるはち切れんばかりの若々しさが湧出するところが、RWFの魅力だ。
 RWF自身は理想主義の第一世代(1968年世代)に属し、第二世代はバーダー・マインホフの非合法的武装闘争世代、そして今作に出てくる若者グループは熟考なき操り人形で、彼らこそタイトルとなった「第三世代」の位置づけとなるらしい。小刻みに区分けされた世代批判としての映画であり、RWF版『日本の夜と霧』とも言える。ただ、ドイツ人は年取って見えるのか、ここに出てくる男女はみな、見た目には第一世代と変わらない容貌だが。
 若造どもがどんな動機でもいいが、とにかくアジトにたむろして、がやがやとやっている。これが人間社会における最高にいい状態だと、私には思える。たとえ理念が曖昧化していても、踊らされているだけであってもである。『第三世代』では、そういう人間の出入りがたっぷりと写っている。ところで本作は、RWFの自作ベストテンで第4位に選出された(1位は『聖なるパン助に注意』)。
 それから、ファスビンダーというと毎度の指摘となって恐縮だが、ペーア・ラーベンの音楽がすばらしい。いつもiTunesでサウンドトラック盤を聴いているので、じっさいにスクリーンでこの音楽と再会すると妙な気分になる。王家衛の『2046』でも『第三世代』の音楽が使用されていた。

 以前にドイツ文化センターで見た時の邦題は『第三世代のテロリスト』だったが、原題はたんに "Die Dritte Generation" なので、今回の邦題のほうがいい。


特集上映《鉛の時代 映画のテロリズム》は東京日仏学院(東京・市谷船河原町)で12月18日(日)まで
http://www.institut.jp/