荻野洋一 映画等覚書ブログ

http://blog.goo.ne.jp/oginoyoichi

ゴヤ『着衣のマハ』、そしてアンドレ・ドラン『ジャン・ルノワール夫人(カトリーヌ・ヘスリング)』

2011-12-07 00:41:34 | アート
 ところで、いま東京・上野公園の国立西洋美術館で《プラド美術館所蔵 ゴヤ 光と影》が盛況のうちに開催されていて、『着衣のマハ』などの有名作品はおろか、〈ロス・カプリーチョス〉〈妄〉シリーズなどの狂いまくったエッチング作品がマドリーのプラド美術館から大量に来日している。国立西洋美術館がぜひお薦めなのは、このゴヤだけでなく、ウィリアム・ブレイクの挿絵版画展も同時開催されているからであるし、常設展で映画ファンを狂喜させる作品が1点掲げられているからでもある。
 常設展の出口近くにある1枚のフランス絵画。アンドレ・ドラン作『ジャン・ルノワール夫人(カトリーヌ・ヘスリング)』(1923頃)である。『女優ナナ』(1926)でグロテスクなファム・ファタールとなり、『チャールストン』(1927)では原始人と化した未来の女を演じ、黒人宇宙飛行士のコーチングで変てこなチャールストンを踊っていた、あの女優の肖像画である。ヘスリングというより、カトリーヌ・エスランという表記で知られている。
 この絵の前に立っていると、あたかもフリッツ・ラングの『飾窓の女』(1944)でジョーン・ベネットの肖像画に吸い寄せられるエドワード・G・ロビンソンのごとく、私たちもフィルム・ノワールの登場人物に仕立てられていくように感じるだろう。この「仕立てられる」という状況によって作り出された被虐と矮小のメカニズムこそ、まったく衰えていなかったモンテ・ヘルマンの手管だということになる。