荻野洋一 映画等覚書ブログ

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『ソーシャル・ネットワーク』 デヴィッド・フィンチャー

2011-01-27 00:44:07 | 映画
 誰ひとりとして共感できるキャラクターが出てこない意表を突いた人物配置ながら、不思議と引き込まれてしまうという、これはかなり珍しい作品ではないだろうか。
 脚本のアーロン・ソーキンの名前は覚えていなかったが、『ア・フュー・グッドメン』『アメリカン・プレジデント』などのロブ・ライナー組と知るとイメージしやすい。もともとは舞台畑らしく、たしかにちょっと『十二人の怒れる男』(1957)のような舞台劇テイストが感じられる。とはいえここは素直に、デヴィッド・フィンチャーの切れ味鋭い演出を賞讃すべきなのだろう。マサチューセッツ州の裁判所でたびたび開かれる聴聞会で、当事者は出席者に対してというより、窓に向かってモノローグ的にまくし立てている。

 さらに、民族間闘争の様相を呈しているのは、やや古風すぎるかもしれないが、おもしろいことはおもしろい。米国の名門大学ハーバードにおける階級ピラミッドの頂点に位置するのは、東部WASP出身のエリート的な「ファイナル・クラブズ」会員たちであり、この尻馬にインド系資産家の子息が加勢している。
 一方、Facebookを立ち上げることになる主人公マーク・ザッカーバーグは、ニューヨーク郊外のユダヤ系家庭の出で、思いを寄せるドイツ系の女子学生についつい悪態をついてしまう冒頭のエピソードは、深層心理としてあまりにも理解しやすい。あたかもジェノサイド(民族純化、対集団抹消行為)が、百万遍の侮辱でも償われ得ないとでも主張しているかのように。また、WASPの兄弟を出し抜いて一山当てるザッカーバーグに加勢するのは、ルームメイトのエドゥアルド・サヴェリンである。彼はユダヤ系ブラジル人で、フロリダに移民してきた一族の出身。本作の登場人物中、最も下層の立場となる。
 ちなみに、インド系の子息役を、早世した英国の映画作家アンソニー・ミンゲラ(1954-2008)の息子マックス・ミンゲラが演じているのは、ハリウッド流の皮肉だと言っていい。ミンゲラ家はイタリア・ナポリの出自らしいが、単に色黒なのでインド人役にキャスティングされたものと思われる。『アレキサンダー』(2004)におけるロザリオ・ドーソンと同様の滑稽さである。

 どう見ても、関わり合わない方が得策だった人間同士が、不意な接点を持ってしまったことから、異常なストレスを抱えて込んでいく展開は、例のないユニークさである。しかもそのストレスと革新的な事業の発展が、セットになっているのである。あえて挙げるなら、大島渚『愛と希望の街』(1959)あたりが最も近似した作品と思える。となると、Facebookは川崎駅前で何度も売られる鳩なのか?


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