荻野洋一 映画等覚書ブログ

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ジャン・ジュネ 著『シャティーラの四時間』

2011-01-01 01:41:41 | 
 2010年が生誕100年だったことで、雑誌の「ユリイカ」が、最新号(1月号)でジャン・ジュネ(1910-1986)の特集を組んでいる。この号はすでに買ったものの、まだあまり目を通していない。その前にまず私としては、夏に単行本という形となって出版された『シャティーラの四時間』(インスクリプト刊)が自室の脚立に積んだままになっているのを、読み遂せるほうが先決であるように思われた。
 1982年9月、西ベイルートのサブラとシャティーラの2つのパレスチナ難民キャンプで3日3晩にわたって続いた大虐殺。ジャン・ジュネは老体に鞭を打ちながら、虐殺終了の翌日にシャティーラ・キャンプに入る。死体、死体、死体。折り重なる死体についての描写。この虐殺の10年前における若きフェダイーンたちとの美しき同行の手記となっている序盤とは、あまりにも対照的な虐殺現場の描写が続く。

 明確にパレスチナ支持を晩年の活動ベースにしたジャン・ジュネには、当然のことながら「反ユダヤ主義者」というレッテルが貼られることになった。しかし、ジュネ自身、もし「パレスチナが制度化され領土の要求が受け入れられたときに、私がそれでも支持できるかどうかは分からない。だがそれは大事なことなのだろうか?」と述べている。「大シオニズム」とも評すべき領土拡張主義に対するノンが、そのまま「反ユダヤ主義者」のレッテルに直結してしまうという愚を、私たちの近代は、回避する術を見いだせないままなのである。
 いま、「反ユダヤ主義者」のレッテルを貼られて困惑しているもうひとりの人物に、同じ強度のスポットを当てて考察を続行していきたい。『ゴダール・ソシアリスム』の作者に対してである。ジュネからゴダールへ、というのが私の2011年の最初の課題となった。