荻野洋一 映画等覚書ブログ

http://blog.goo.ne.jp/oginoyoichi

『最後の忠臣蔵』 杉田成道

2011-01-16 02:49:38 | 映画
 杉田成道というと、ドラマ『北の国から』の演出者として有名だけれども、私はこの人の作品をまったく見たことがない。「en-taxi」誌に連載された彼の私小説も初回こそ読んだが、つまらないので、そのうちに読むのをやめてしまった。
 ではなぜこの『最後の忠臣蔵』をわざわざ見たのかというと、田中陽造がシナリオを書いているためであり、やはりさすがと言うべきか、なかなかうまい設定の原作を、じつに情緒たっぷりに脚本化している。私はこの「情緒」という単語に対して、オーソドックスかつ安易な使い方を普段はしているけれども、田中陽造のシナリオを「情緒たっぷり」などと表現した場合、それは一筋縄ではいかない含みをもってしまう。一見、取って付けたかのような文楽(近松『曽根崎心中』)のインサートも、後半ではすっかり、作品の世界観を潜在的に補強していた。もちろんメジャーだから、田中色満開とは行かないが、よく目を凝らしてみると、かなり凶暴なこともやっている。
 ハリウッドも、日本の洋画市場の停滞にほとほと手を焼いていると見え、ついに日本映画の製作にまで手を染めている。この『最後の忠臣蔵』はワーナー・ブラザース作品である。しかし、グローバル市場を見据えた成果物かというと、まったくそんなことはなく、きわめてドメスティックな題材である赤穂浪士の後日譚を、ひたすら日本人観客のみ(とくにシルバー世代)に向けて供給している。もちろんインドでも米国でも、ドメスティックなコンテクストに沿った作品の供給は、それなりの商いなのであり、このこと自体は悪いことではまったくない。


丸の内ピカデリー(東京・有楽町)ほか、全国で公開中
http://wwws.warnerbros.co.jp/chushingura/