荻野洋一 映画等覚書ブログ

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『チェンジリング』 クリント・イーストウッド

2009-03-03 01:04:00 | 映画
 『マンマ・ミーア!』『ハイスクール・ミュージカル/ザ・ムービー』『少年メリケンサック』と続けて音楽映画を見てきたのは、これらの諸惑星の中心点にひとつの恒星をおくような形で『チェンジリング』をあらかじめ配置するためであったのか…。とにかく『チェンジリング』を見るということは、他の映画を見ることとかけ離れた素晴らしい別次元の体験だった。

 ヒロインが窓辺に立っていると、彼女の立場を代弁してくれた協力者の口から、思いやりに満ちていても彼女にとっては残酷な一言が発せられるシーンは、忘れがたいものとなった。ひょんなことから重大犯罪の解明を手がけてしまう刑事と少年の息づまるような取り調べのシーンや、終盤のオフィスでラジオに耳を傾けるシーンのなんとも抗しがたい叙情、さらにもちろん、ロサンジェルス市街を走る路面電車の運動感など、全体を通して実に感動的である。

 これがお仕着せ企画だというのだから、クリント・イーストウッドの力量には改めて恐れ入ってしまう。世の中の映画という映画がヘンテコなサービス過剰さで、かえって見る側をひたすら白けさせている現状とは遠く隔てた地点に『チェンジリング』がある、というのが見終えた直後の感想だ。いま、映画そのものの勝利だと馬鹿みたいに吹聴して回りたくなる気分に酔いしれている。


TOHOシネマズ日劇など、全国で上映中
http://www.changeling.jp/