荻野洋一 映画等覚書ブログ

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『アニー・リーボヴィッツ レンズの向こうの人生』 バーバラ・リーボヴィッツ

2008-03-16 17:45:00 | 映画
 世界で最も商業的に成功した写真家の一人であるアニー・リーボヴィッツの才覚に、疑いの余地はないだろう。彼女の諸作を見れば、素人の我々にも、それらが稀なテクニックの持ち主によって撮られたものであることは明らかである。
 また撮影現場における、被写体として現れるセレブたちとすぐに仲良くなれるコミュニケーション能力と包容力、これもまた彼女に与えられた天賦の才であり、たてがみのようなブロンドヘア、堂々たる大柄な体格もろとも、このドキュメンタリー・フィルムは、リーボヴィッツへのオマージュとして申し分ない。

 だが私は、ジョンとの別れの当日を回顧するヨーコのコメントと、黒眼鏡の奥でわずかに絶句する彼女の両眼の変化以外で心を動かされることはなかった(レノンは、リーボヴィッツのスチール撮影から自宅に帰った際に狙撃された)。
 たくさんの有名人がインタビューに応じて、写真家を褒めそやす。それらの言葉自体は虚心坦懐なものであるだろうが、この映画の監督であり、主人公の実妹であるバーバラ・リーボヴィッツは、有名人たちに姉をベタ褒めさせて悦に入ってしまっている。完全無欠な姉に対していかなる距離と緊張感を保ちながらカメラを回すのか、バーバラは無頓着なままである。有名人との交友録を、豪華なメンツで飾り立てながら、スピーディなカッティングで処理さえすれば、果たして見る者は驚くのだろうか。
 単に映像素材として分節的に見た場合、必見の瞬間が数多くある。だから、ドキュメンタリーというよりこれはむしろ、新興文化エリートとしてのリーボヴィッツ一族のPR映像として見ればよいのだろう。


2月16日(土)よりシネカノン有楽町2丁目他、全国順次公開