どんぴんからりん

昔話、絵本、創作は主に短編の内容を紹介しています。やればやるほど森に迷い込む感じです。(2012.10から)

戦争が町にやってくる

2022年08月09日 | 絵本(社会)

   戦争が町にやってくる/ロマナ・ロマニーシン アンドリー・レシヴ 金原瑞人・訳/ブロンズ新社/2022年

 

 戦争は、どこからともなく「やって」きました。

 戦争が手をふれると、なにもかもが闇のなかへきえていきました。戦争は、黒い花をつけた、とげのあるかたい雑草を、道に植えていきます。

 ロンドの町は、すてきな花たちで有名でした。町の広場には、きれいな花が咲いている大きな温室があって、この星のはるか遠くからあつめられた、めずらしい草や木や花がありました。そして、ここの花たちはふしぎなことに、歌をうたうのです。

 ロンドの花は元気をなくし、枯れていき、歌をうたえなくなります。

 勇気のあるダーンカ、ジールカ、ファビヤンは、戦争にでていってくださいとたのみましたが、戦争はまえへまえへとすすむばかり。

 ダーンカは、石で心臓を打たれ、全身にクモの巣のようなひびがはいりました。

 ジールカは、火花がふりかかった翼が燃え上がりました。

 ファビヤンは、黒い花が目の前にのびてきて、足にとげがささりました。

 それでも、三人は戦争を止めるために、相手のやり方にならって、戦争の心臓を狙って、町におとされた石やクギをあつめて、なげかえしたのです。しかし、すべてむだに終わりました。「なぜなら、戦争には心を心臓もないからです」

 町から、ひとり、またひとりと人がきえていき、にぎやかだったとおりが、歩く人もいません。何日も、何日も、こんなことが続き、戦争は休むことなくすすみ、恐怖の花を植えていきます。

 そんなとき、温室にかよっていたダーンカは、すこしでもいいから、花を救おうと思い、自転車のペダルをふみ小さな光をあててやりました。光をうけたとたん、かれた花びらがふるえだし、明るくなりました。ダーンカが力を込めてペダルを踏むと、光はどんどん強くなっていきます。ダーンカは、歌をうたいだしました。1小節目をうたいおえたとき、一本の花が顔をあげて、いっしょにうたいはじめました。次の小節、また次の小節をうたううち、10本の花が、声を合わせて町の歌をうたいだしたのです。自転車の光が戦争の方にのびていくと、信じられないことがこりました。戦争が立ちすくんで、ぴたっと動かなくなったのです。一瞬、爆発や耳をつんざく機械のけたたましい音がやみ、歌声だけがひびいています。ダーンカは、戦争をとめるには、たくさんの光を出す大きな機械をつくればいいことにきがつきます。三人はすぐに光の機械をつくりはじめました。そして・・・・。

 

 ここにでてくる、ロンドの町でしらないひとがいないという三人。

 ダーンカのからだは、うすいガラスみたいにすきとおっていて、電球のように光っています。
 ファビヤンは、宝探しの子孫で、かすかなにおいもかぎつける鼻と、てがかりをみのがさない目がじまんでした。
 ジールカは、折り紙の鳥のようで、空高く飛べて、旅が大好きでした。

 そして町の住民は、小さい切り絵のよう。

 かわいらしいキャラクターと真っ黒であらわされた戦争が対照的です。

 

 武器に武器で対抗するのでなく、光と花そして歌でたちむかったロンドの町には、「かなしい記憶を心にかかえています」。どういう形であれ戦争が終わっても、悲しい記憶が残ります。

 

 この本の初版は2022年6月、作者はウクライナのリヴィウを拠点に活動する二人。外国の絵本を出版する場合、作者との出版交渉、訳者の選定など、出版するまで相当の期間が必要ですが、あまりのタイミングのよさに、びっくり。原著は、ロシアのクリミア併合の翌年2015年の発行です。いま、どうされているのでしょうか。

 表紙に描かれているのは赤いヒナゲシ。これは、第一次世界大戦の戦死者を追悼するためのシンボルとして知られる花といいます。


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