パンフルートになった木/巣山ひろみ・文 こがしわ かおり・絵/少年写真新聞社/2020年
国民小学校の校庭に根を張っていたカイヅカイブキ。
ピアノに合わせた歌声が聞こえなくなり、サイレンが鳴り響きます。兵隊の姿が多くなり、校庭は畑になり 三年生以上の子どもの姿が見えなくなりました。
8月6日、講堂は鉄わくだけになって、カイヅカイブキも黒焦げ。
なんにもなくなったと思っていたのに、ある日の夕暮れ、子どもたちの歌声が聞こえてきます。
テントでの授業がはじまり、やがて黒焦げの木に、小さな葉っぱが。
カイヅカイブキには、いつのまにか葉がたくさんつき、それから祈りの夏を何度も見つめます。
月日は流れ、倒木の危険があるからと、切り倒されたカイヅカイブキ。
「なんとかして、この木をこどもにつなぐことはできないだろうか」と、力をつくした人たちがいました。三年をかけ95台ものパンフルートによみがえり、小学校の合唱隊におくられたのです。
ずっと子どもたちの成長を見つめてきたカイヅカイブキが被爆し、何十年も草木が生えないといわれた中で、命を吹き返し、それからも長い年月こどもたちを見つめ続け、さらにパンフルートにうまれかわって子どものそばに 生き続けるという感動的な話です。
パンフルート工房の職人さんが運び込まれた木に、「よくきたね」と話しかけ、出来上がったパンフルートに、「いきぬいたいのちを、これからは、うたうことで、みんなにつたえるんだよ」と 声をかけますが、この職人さんにも 別のドラマが存在していたかもしれません。
パンフルートという楽器は知りませんでしたが、YouTubeで演奏を聞くことができました。カイヅカイブキの目線で書かれたこの本全体に、パンフルートの音色、子どもの笑い声や音楽が、聞こえてきました。
広島出身・在住の作家が取材した実話です。
広島市では、爆心地から概ね2kmで被爆した木を「被爆樹」として登録していますが、この木が約160本。この絵本のほかにも、被爆樹に関する絵本があります。