さじかげんだと思うわけッ!

日々思うことあれこれ。
風のようにそよそよと。
雲のようにのんびりと。

三十六

2007-02-21 22:00:53 | 『おなら小説家』
この年の冬は暖冬で、12月とはいっても雪も積もらぬ日が続いていた。
北海道も白と焦げた茶のまだら模様が続いていて、どうにも気味の悪い冬であった。
まるで草田男をこの渦巻くような不調から抜け出させないかのようであった。
しかし、北海道であるから、草田男の住むところよりは寒い。普段、部屋の中にいずっぱりの草田男にとっては、やはりこの寒さは耐え難い。
むくむくと着ぶくれた草田男を見て、恵美は腹を抱えて笑ったものだ。
函館の朝市から始まって、森のイカめしを食べ、登別ではくまを見、温泉に入って、札幌に至り、旭川、名寄と経由して日本最北端の町・稚内へとたどり着いた。
旅行に出て、はや7日。明後日には、またもとのところに戻っていなければならない。

宗谷岬に立ち、恵美が改めて尋ねてきた。どうですか、気分は晴れましたかと。
ふむ…と草田男は唸った。
体調や体内時計といったものは、季節に順応しただろう。しかし、その一つの原因となった懸案事項が、まだ解決していない。
何を悩んでいるのかわたしにはわかりませんが、と前置きをしてから、あなたはまずあなたのやるべきことをやるべきなのだと思います。と恵美はいった。
どんなに暖かくとも、冬が来ます。いうなれば、冬も不調です。しかし、どんなに不調でも冬はめげずに来ますよ。夏に笑われないように、やってくるのです。とまるで、子どもを諭すかのように、たんたんという。
そうだな、と草田男は笑った。
冬はやってくる。どんなに暖かくても。夏に笑われぬように、やってくる。
おれは書かねばならぬ。いずれ文壇にやってくるであろう、立起に再び会うために。と草田男は思った。

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