入笠牧場その日その時

入笠牧場の花.星.動物

    ’17年「冬ごもり」 (7)

2017年01月09日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など


 牧場に入る手前のいつもの場所に車を停めた。 高曇りの空だったが、ちょうど槍と穂高の上空にかすかながら薄青色の帯状の空があって、その”救い”のようなほのかな空色は常念岳の辺りで消えていた。乗鞍も御嶽山も、さらに中央アルプスの峰々も、灰色の冬空を区切り、浮かぶように見えていたが、気の晴れるような眺めとは言い難かった。音は消え、色彩の乏しい、うら寂しい風景は、重苦しい曇天がきっと広過ぎたせいだったのだろう。
 北門の手前でいつもの習慣が出た。それは、左手の大沢山西斜面に目をやることだったが、やはり枯れ尽きた草地に、20頭ばかりの鹿の群れがこちらを注視していた。今冬は雪の降るのが遅いため、鹿も山を下りかねていたのだろう。ここ1,2年、辺りの鹿の頭数は急減したと聞いていていたが、温暖化を助けに、繁殖がまた盛んになることも考えられ気が滅入った。これだけ鹿を相手に闘っていると、いつしか敵である鹿に対しても、愛憎こもごもの矛盾した気持が自然と湧いてくるものなのだ。
 ずっと低温の日が続いたようで、暖かさのない殺伐とした周囲の雰囲気に気圧(けお)されつつ初の沢の「大曲」付近まで来ると、湧水や流れの飛沫がいたる所で氷結していた。この奥から引いてきている水に毎年苦労してきたが、昨年は特に色々と試みた。しかし、その甲斐もなく、これでは管内の水の凍結はまぬがれないだろうという気がした。
 管理棟内へ入る前に気温を確認して、問題の取水場へ行ってみた。気温はかろうじて零度を上回っていたが、貯水タンクの底に乾き切った地表を覚悟して蓋を上げた。すると、水量は落ちたかも知れなかったが、凍結もせずに澄んだ水が流れ込んでいた。嬉しかった。それを確認できただけで、牧場へ来た目的の大半は終わっていた。来もしない客を待ちながら長い夜を酒に紛らわす気など、その段階で呆気ないほど失せていった。
 結局、各牧区を見回ってから、本格的な雪が降り出す前に牧場を後にした。
 今ごろ、きょうの写真の風景も雪に化粧され、老いさらばえたような景色が、冬の牧らしい白銀の美しさを一時だけでも取り戻していることだろう。

 Toshyさんの気持を思う、自分の経験とも重ねて。

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