Photo by M.Kasuga-cha
天気:晴れ、気温:25度C(正午)
では、キミたちを駆除しなければならない言い訳を始めよう。
まず第1:それはキミたちのあまりにも旺盛な繁殖力だ。毎年2割の割合で増えていると言われている。もしそれが正
しければ、たったの4年でキミたちの頭数は倍になってしまう。
実際はこれほど単純ではないかもしれない。8月8日付の毎日新聞によれば、2011年度過去最多を記録し た頭数216万頭(北海道を除く)は、2025年度には500万頭に達すると予測されているそうで、14年 で倍。見込み頭数が少なくないかと環境省に問い合わせたら、複雑な計算による結果だと答えてくれた。ただし 「毎日」の過去最多数216万頭、これは261万頭の誤りだということだ。
ともかく、キミたちは20年の間に9倍も増えてしまったのだと。
第2:キミたちのこれまた旺盛な食欲。牛と違い、草の根本まで食べる。ことに秋、栄養を付けて冬を乗り切ろうと放牧 地をゴルフ場と見まがうまでにしてしまう。こんなことを毎年繰り返されると、いくら高価な肥料を撒いても、牧草 が生えてこなくなる。「貴婦人の丘」は、かっては牛のお気に入りの放牧地であったのに、もうあそこには牛を出す ことができなくなった。JA上伊那は、土地の所有者である伊那市にこうした土地も含めて、相当の借地料を支払わな ければならないのだ。
第3:牧柵破り。大体10キロほどの外周の大修理に5年を要した。しかし、たちまちまたズタズタにされてしまっ た。ステンレス製の針金16番を、簡単に切断してあったのを、それがキミたちの仕業とは到底信じられなかった。
支柱もバラ線も、ほとんどが古いものを使いまわさねばならないのが、現下の厳しい経営状況だというのに、これ ではたまらない。
電気牧柵の保守も大変な仕事で、雨の日に8、000ボルトの電流が流れるアルミ線をキミたちに切られた日に
は、言葉を失う。言っておくけれど、牛が牧柵を故意に切るということは、まずない。牛の脱柵は、管理する側にも スキがあるからだ。
とにかくキミたちは牧場のみならず森や里でも、増えすぎ、食べ過ぎ、破壊し過ぎたのだ。神ならぬ身の人間にとっては、その生活を脅かすものは気の毒だが駆逐する以外、他の知恵がない。これがキミたちを屠る人間の側の「言い訳」だ。
もう一言、ハンターの高齢化がいつも鹿の増えた原因として語られる。狩猟期間たった3か月、その狩猟税が30,000円、ハンター同士の縄張りり争い、猟友会のあり方、異常ともいえるほどの銃の取り扱いへの規制や罰則・・・どれもこれも鹿が増え、その一方ハンターが高齢化してしまった原因ではないのだろうか。
鹿は牧場やその周辺で生まれ育った、言わばお隣さんである。もしも牧場が許容できる頭数というものがあるのだとしたら、その数ぐらいまでは生活圏を同じくしてもいい。そう思い、そうなることを願い、そのためには鹿と最も身近な存在である者が今後も、この鹿殺しの役を担っていくしかないのだろうかと、考えている。