スウェーデン音楽留学サバイバル日記 ~ニッケルハルパ(nyckelharpa)を学ぶ

スウェーデンの民族楽器ニッケルハルパを学ぶため留学。日々の生活を様々な視点からレポートします。

ポーランド公演の感想

2019-06-25 11:15:05 | ポルスカについて

先日ヤヌシュ・プルシノフスキ・コンパニャのオープニングを務めました。公演後すぐに書いた下書き記事、2-3日はweb上にあって編集していたのに、なぜかきれいに消えてしまいました!もう一度思い出して書いてみます。

一言でいえば、ヤヌシュの音楽は衝撃的でした。足元すくわれて転んで立ち直れない、そんなインパクトです。

スウェーデンの音楽とポーランドの関係は、ブログでも何度か書いていますが、この記事から始めて読むという方のために簡単にまとめておきますね。ご存知の方は読み飛ばしてください。


スウェーデンの伝統音楽(民俗音楽)のほとんどは「ポルスカ」という3拍子のダンス曲です。「ポルスカ」は「ポーランド風(のダンス)」という意味です。15世紀とも16世紀も言われますが、ヨーロッパで男女が組んで踊るペアダンス(カップルダンスともいう)が大流行します。この流行の前にスウェーデンで踊られていたのはロングダンスなど、歩いて移動する、歩いてすれ違う、中央に歩み出て対面して踊るといった歩くスタイルでした。つまり、ペアで組むダンスはありませんでした。スウェーデン王シギスムンドがポーランドの国王でもあった時代1500年代以降に、このペアダンスがスウェーデンに入ってきたと言われています。「ポーランド風」というのはほぼ「外国風、異国風」という意味合いで使われていたのではと思います。ダンス音楽は最初はフランスなどヨーロッパ諸国から入ってきましたが、農村へと広がるうちにスウェーデン独自の音楽とダンスとして発展していき、現在ではポーランド音楽とはあまり似ていません。


 ヤヌシュ来日前にCDを聞いてすごく良い演奏だなと思ったのですが、メロディを聞いているとどこで呼吸したらいいのか分からない、そんな気持ちになる不思議な音楽でもありました。ですが、目の前でみたコンサートは不思議さは消え、全てが腑に落ちました。リズム、呼吸、メロディ、ダンス、全てがパズルのピースのように完璧に合わさって会場を熱気で包みます。そして、数百年前にタイムスリップして当時の音楽を目撃したかのような。彼らの音楽は、息をのむ、眩暈、何と言えば伝わるのか分かりません。「ああ、見てしまった。信じられない。絶句。」と、立ち尽くすのみです。会場にいた知人は、ゾクっとしたと言いました。

スウェーデンの音楽には、時代や変化を感じるものがあるんです。ヨーロッパから伝わった時代、農村の個性の時代、1900年代に入りコード感が出て。さらには、音大で伝統音楽を学んだ若者の演奏は洗練されてしまい、農村の「味」が消え没個性化していっていると言われるようになりました。それも時が過ぎれば、その時代の特徴となるのでしょう。ヤヌシュやメンバーと話していて、私がどうやってニッケルハルパを学んだのか聞かれるたびに、ポーランドにはそんな学校はない、伝統音楽も、ダンスも、先生もワークショップもない。パーティなどその場でやって覚えるだけで「学ぶ」ものではない、と口々に言うのです。おかしい!と声高に主張するのではなく、「ないよねー」「だよねー」という自然体。ポーランドの複雑な歴史の中で自国の伝統音楽が守られてこなかった。この「守られてこなかった」というより半ば見捨てられた伝統が、時を、変化を、止めたのだと思いました。スウェーデンの音楽は、守られ、復興し、普及させた中で感じる変化があります。200年前の農村のミュージシャンとヤヌシュの演奏は、何も変わらない。それがなんのフィルターも通さない力強い衝撃として伝わってくるのです。申し訳ないけれど、CDではこのインパクトは伝わらない。CDで伝わるのは演奏のすばらしさ、メロディとリズムの面白みや味のある歌声、そこまでです。

SNSで知人が薦めていたので最近読んだのですが、間宮芳夫さんの「現代音楽の冒険」の中でこう書いてありました。作曲することを英語ではcompose、作曲はcomposition。この単語には「構成する」という意味があり、西洋音楽はこれでできている、と。なるほどな、と思います。クラシック音楽は専門外なのでよく分かりません。でも、スウェーデンの伝統音楽が専門という立場で、スウェーデンの伝統音楽を取り入れたクラシック音楽を聴くと、どうしてもその素材を支配したいんだな、という強い意図を感じます。生きた伝統音楽を刺身のようにさばいて配置して、理論の世界に置き支配したい、と。構成する音楽だから、ということかもしれませんが、当然、生きた伝統音楽はそこでは死んでます(違う形で生き返ってゾンビっぽい感じはあります)。同じ西洋の音楽でも、民衆の音楽(民俗音楽、伝統音楽)は、この構成する、支配する、という概念から飛び出した、自由さと可笑しさ、悲しさ、逞しさがあり、そこが魅力だなと思います。

ヨーロッパで流行したペアダンスについて数百年前に書かれた資料では、野蛮、粗野、下級の者の踊り、狂ったような…という数々の低俗だという表現が出てきます。書き記す知識があった層の人の見方、ともいえます。何もそこまで言わなくても…と思いますが、ヤヌシュのコンサートと見るとよく分かりました。フィルターなしの、むき出しの音楽の芯と熱狂的なダンス。宮廷音楽の軽やかなステップとメロディに慣れた知識層には、いかに生々しく感じたことでしょう。

ポーランドの伝統音楽に興味のある方はこのブログでも何度か紹介しましたが、Dance pathという動画をおすすめします。ヤヌシュをはじめポーランドのミュージシャンとスウェーデンのミュージシャンの交流のドキュメンタリーです。その中でヤヌシュはギプスをした手に弓をもって、フィドルを弾いているんです。本人に、あれは何で?と聞くと、「前の週に娘とスキーに行って骨折してねー」って。えー!?腕を骨折して弾けんの!?って言ったら、「ぜんぜん問題ないよ。その翌週にはスキーで肩も外れちゃった」と笑顔で言っていました。さわやかなツワモノですね。そのブルーの瞳はどこまでも優しく、家族に音楽に日々の生活に注がれているのでしょう。


さて、感想はここまで。ちょっと雑談です。演奏が続いて疲れるとそのたびに副鼻腔炎(蓄膿症)になり頭も鼻も首も痛くて重くて、年に何度も抗生剤を飲んでいました。以前、知り合いが漢方をくれたのをふと思い出して飲んだら抗生剤飲まずに痛みが引いたんです。病は気からというし、気のせいか?とも思いましたが、気力で治るならそれも効果と思い買ってみて、何度も助けられました。同じものはネットでは買えず、amazonで。板藍根茶100%という数百円のものです。効果は人によりますし激マズですが、興味のある方は試してみては。

次回の演奏は、7月の名古屋、宗次ホールと、7/20大阪淀屋橋にあるケイットルオカラのランチコンサートです。ルオカラではスウェーデンのダンスも♪

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