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モッチリ遅いコメの距離感

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杉と鯛

2015-08-02 09:51:09 | 注文住宅全般
従来のブログの趣旨と外れる話題ではあるけれども雑感を一つ。

日本人は昔から、というか昔は特に木材の中で杉を愛し、魚類の中では鯛を愛した。
ゴールドを愛するのはほぼ全世界共通だが、杉と鯛を愛する文化は日本以外には見当たらない。

 杉が日本全国で植林され、屋久島の杉の木は有名な観光地であるし、ご神木として各地の神社で杉が植えられている。杉が入った地名や人名は数知れず。日本人の文化の一部として杉は確固として存在している。
 鯛は縁起の良い魚として祝い事の際に重用されてきた。金目鯛のように遠縁の魚にも、鯛に似た特徴があれば○○鯛という名前をつけて、その有り難みにあやかってきた。鯛と付く魚は通称のものも含めるとものすごい種類がある。

 日本独特の文化、というのも杉は日本固有種のため(シダーをスギと訳したりするが松の仲間だそうだ)、他の国では杉に親しむ文化がないのは当然ではある。
 鯛に関しては、各国でも漁獲され食用される習慣が存在するが、他の魚類と同列で特別な存在ではない。

 杉が親しまれてきたのは、真っ直ぐ伸びること、成長が早いこと、そして何より加工性が良いことが原因であるようだ。かつて工業が発達していなかった頃は、木材を思った通りに切り刻むのにも苦労したはずだ。それが少ない手間で済む木材があるのであれば貴重な存在のはずである。杉を活かす(桧もだが)構造が在来木軸のコンセプトの中に深く入っており、杉の無垢材を使用する文化がなければ在来木軸は存在しなかったのではないかと思えてくる。

 鯛が親しまれたのは、めでたいという言葉遊びからきたこと、赤い色から見栄えが良いこと、姿が格好良いこと(この辺りは伊勢エビにも共通している。)などがあるが、保存性が比較的良いことが重要な一因であったようだ。他の魚類は内部の酵素によって死後に自己融解が起こり、腐敗しやすいのだが、鯛はそうなりにくいらしい。冷蔵技術が未熟だった頃、どんなに美味しくても家庭に届く前に腐る魚は価値がない魚だった。鯛というものが珍重されたのは保存性の良さを抜きには語れないだろう。腐っても鯛ということわざがそれを如実に示している。

 杉と鯛、どちらも日本人に対して特別な存在であったことには、しっかりとした理由があった。だが、各種技術の発達した現代はどうだろう。
 加工技術の発達した今、杉でなくても思い通りの形に削れる。真っ直ぐ伸びなくても合板や集成材で真っ直ぐな材料を作ることができる。加工性の良さは含水量や強度の低さと表裏一体であり、耐久性が低く、強度的問題、寸法安定性の問題の方が欠点として目立つようになってきた。
 冷蔵技術が発達し、足の早い魚介類も生食が手軽にできるようになった今、養殖できるようになったこともあいまって、鯛がそこまで有り難がられることは少なくなった。高級魚としては本マグロに立場を奪われてしまっている。回転寿司ではハマチやサーモンなどと同格の並の魚になってしまっているフシがある。

 やはり杉や鯛が過去に特別だったのには理由があり、その理由が現在では通用しなくなってきているので、鯛は昔ほどの珍重はされなくなってきた。
 だが杉は、今も在来木軸建築にとって主役で有り続けている。ただ、その理由は杉が特別優れているからではない。実際に他の樹種の集成材で作られた在来木軸建築も多数存在し、それが杉材の在来木軸建築に明確に劣っているわけではない。恐らく最大の理由は供給サイドの問題だと思われる。

 戦後に前倣えで一斉に日本中の森林に杉を植えたので、整備が行き届かない杉林が続出するほど、日本は杉資源が過剰に存在している。これが杉材が今も在来建築の主役であることの最大の原因と考えられる。

 世界中で森林資源が逼迫している現在、別に日本の杉資源が無価値であると言いたいわけでは無い。有効に使わねばならないことは間違いない。だが、これからの植林に際して、思考停止して杉だけを植えていく合理的理由があまりないように思える。今の木材加工技術により適した、世界で通用する樹種を育てていかなければ、日本の森林産業は低付加価値で有り続けてしまう。何より花粉症が国民病という状況を100年後まで続けていたら、日本人は愚民だと言われても何も反論できない。
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