ガンジス・河の流れ

インド・ネパール。心の旅・追想

ジャンキーの旅      薬物後遺症と心の傷・・・50

2012-10-17 | 3章 デリー中央精神病院・入院記録
   12月26日(火)(入院して23日)

 前庭の椅子に座り冬の太陽を身体に受けていた。
「トミー、お薬の時間よ」
シスターは水の入ったコップをぼくに渡し薬を手のひらに置いてくれた。
「随分、薬が少なくなったわ」
「あ~、ぼくはもう直ぐ退院するんだ」
彼女の瞳を捕らえてぼくはそう言った。一瞬、彼女の動きが止った。
「そう」
一つ頷いて彼女は病棟の方へ戻って行った。
数日前、ぼくはドクターと年内退院について話し合った。その時、ドクターは
「退院する前に大切な注射を君に打たなければならない」
非常に大切な注射とは、ぼくの体内に残っているすべてのドラッグをプッシュ・アウトするために必要な注射だと彼は言った。
「細心の注意が必要だ、君の健康状態を見て決める」
 退院した例のインド人が今日も診察に来ていた。眠れないし身体が痛い、と言っては何度も生欠伸をしている、同じドラッグをやった人間だから症状はぼくにも良く分かる。彼がスタッフを断つことができたのは家族の愛だろう、妻や子供が身近にいる。薬物へ逃げようとしても彼を引き止める家族の絆がある。もしぼくが日本へ帰る事が出来たら母の住む町で生活をしよう、薬物への欲求があっても母の顔を見ていたら出来ない。これ以上、家族を悲しませたくはない。

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